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極悪皇女の結婚
確かめたい想い
しおりを挟む「お…お待ちください」
振り向けば、青白い顔をしたエドモンドが立っている。
何度、面会の申し入れをしても無下にされたので、今しか話す機会がないと考え声を掛けたようだ。
皇女の婚姻の話しを耳にした当主の父親から叱責されたのだろう。
既にグレーテルが記憶を失って、エドモンドと破局したという話は社交界中を賑わせていた。
──人の不幸は蜜の味…。
ゴシップ好きの貴族がこれほど面白い話に興味を示さないはずがない。
「何か、ご用かしら。わたくしこれから来客の予定があるの。話があるのなら手短にお願いしますわ」
「皇女様、一体どうしたんだ。今までそんな風に…」
「今まで?以前はどうか記憶にないけれど、わたくしはもうじき嫁ぐ身。おかしな噂が広まっても困るのよ。常識でしょう」
「常識…」
今まで、こちらの立場や気持ち等考えた事もないような非常識な行動をとって振り回していたくせに、記憶が無くなったからといって掌を返す様な冷たい態度にエドモンドは怒りが込み上げてきた。
「貴女にそんなものがあるとは知りませんでした。さんざん私をうっとしいほど追い掛け回して振り回していたのに…」
「そうね。その辺りの事情も侍女たちから詳しく聞かされたわ。でも、ご安心くださいな。もう二度とそのような愚かな真似は致しませんわ」
冷めた口調で、淡々と今までの事をない様にするグレーテルに対して、エドモンドは更に苛立ちを覚えた。
「皇女様は、本当に私のことを覚えていらっしゃらないのですか。それともまた気を引こうとしてお芝居をしているのですか…」
「どうして、わたくしが記憶にない貴方の気を引かなければならないのです?理解に苦しみますわ」
「な…ぜなんだ!どうして今になって私を解放しようとするんです。もっと早くそうしてくれたなら…」
もっと早くにグレーテルが離れていったなら、果たして自分は平穏な日々を送れた…?
エドモンドは果たして本当に平穏だったのだろうか?と考えた。しかし、頭の中に浮かんできたのは光の無い暗闇の中にいる自分の姿しか思い描けなかった。
友人や同僚に囲まれても常に一線を引いていたエドモンド。話題はいつもグレーテルの愚行について聞かされていた日々。
令嬢からも家柄や容姿を見ているだけで、誰もエドモンドの真実の姿を知っている者はいないのだ。その上辺だけを見て、告白してきた令嬢をグレーテルは悉く排除してきた。
しかし、感情の無い皇女という仮面を付けたグレーテルの表情からは今は何も読み取れない。
別に皇女が自分から離れれば、これからは彼女の後始末をしなくて済むし、何度も呼び出されなくなる。自由になれるのだ。
だが、その平穏と引き換えに何かを失うような予感がして、胸がざわめく…。
エドモンドは自分の中にある理解しがたい感情に支配され、言葉が上手く出てこない。
「あら、お二人ともこんな所で何をしているのかしら?」
エドモンドの後ろから声を掛けてきたのは、少し不機嫌そうなフローラだった。
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