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極悪皇女の結婚
私の居場所は…
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先ほどプリンストンに追い払われ不機嫌な表情を隠そうともしないフローラは、つかつかとグレーテルに歩みよって、彼女の耳元に囁くように呟いた。
『誰からも愛されない可哀想な皇女様。今度は嘘でエドモンドの気を引こうとしているの?』
小声で、グレーテルだけに聞こえる様に言うと身構えた。
……?んっ…どうして何も起こらないの…。
いつもならフローラが挑発すると掴みかかって来るのに今日は何もしない。平然と冷たく蔑み見下す視線に腹がたった。
──何よ!何よ!捨てられた皇女の癖に!!
今度はグレーテルに押された様に、エドモンドの前に倒れ込んだ。
「な…何するの。ひ…酷いわ。グレーテル」
か弱そうな仕草と薄ら涙を浮かべれば大抵の男はころりと騙される。しかも相手が極悪皇女なら尚更だ。
「大丈夫?」
いつもの様に手を差し出したエドモンド。だが、今までならグレーテルを責め立てるように言葉を荒げていたのに、エドモンドはフローラの思惑とは違った様子に戸惑った。
助け起こされ、皇女を置き去りにエスコートもしようとしないエドモンドにフローラの心に疑念が湧き出ていた。
おかしい…今までなら皆わたしの味方になって、グレーテルの仕返しから擁護してくれたのに。どうして…プリンストンお兄様もエドモンドもおかしいわ。あんなにグレーテルの事を嫌っていたのに、記憶がない?それがどうしたのよ。今までもこれからだって、私の方が大切にされる存在なのよ。
フローラを立たせると、傍に居る騎士に彼女を馬車まで送る様に指示した。
「どうして、エドモンド様が送ってはくれないんですか?」
「すまないが、皇女殿下と話すことが残っているから、今日は一人で帰ってくれ」
「そ…そんな」
不服そうなフローラを騎士に託して、エドモンドは再びグレーテルの方を向いた。
「どうして、あんなことを…」
その言葉にグレーテルは呆れた溜め息をついていた。
昔の記憶はないが、ここ数日でグレーテルが言った言葉や行動に周りが過剰に反応する。まさに今エドモンドが言ったように…。
まるで初めからグレーテルが『悪者』だと言わんばかりだ。
確かに今まで聞いた話の中のグレーテルは、凶暴で傲慢な皇女のようだった。でもそれはエドモンドが絡んだ時に限っている。皇帝や皇太子の前では猫を被ったように大人しかったようだ。
エリサから聞いた幼い頃のグレーテルの境遇を考えれば、単に家族の愛を求めていた幼子の行動にしか思えない。父や兄に関心を向けられない彼女の行き場のない想いは、きっと今目の前にいる青年に全て注がれていたに違いない。
でも、その想いもあの日の雨に全て流されたのだろう。
グレーテルは目覚めた時、晴れた日のような清々しい解放感を思い出していた。
自分のいるべき所はこの男の隣ではなかったという事を……。
──わたくしの本当の居場所は、暗闇を照らす月明かりの様なあの男性──。
「どうして…?貴方の目にはわたくしはどんな悪人に映っているのかしら」
「そんなつもりで言ったのでは…」
「ならどんなつもり?今の発言は誰が聞いてもわたくしが一方的に悪い様にしか取れないわ。それもわたくしのこれまでの行いの所為なのでしょうね」
「それ……は…」
そこでエドモンドは言葉を詰まらせた。
「あ…あの日、私が君との約束を守らなかったから怒っているのか?そうだろう。だから私の事を避けているんだ。そのことについては謝るから…」
「で…?謝罪は受け入れますわ。でも、これきりですわ。さっきも言った様にわたくし、別の方に嫁ぎますのよ。だから、こうして呼び止められると迷惑だわ。これからは距離を置いて下さいな」
「距離を置く…だと」
「ええそうです。他人でいましょうということよ」
「た…他人…」
グレーテルの表情からは、以前の熱を帯びたような眼差しはなかった。ただ、じっとエドモンドを見る瞳の先には別の者を映しているように見えた。
「それではごきげんよう」
「えっ…待ってくれ。グレーテル」
エドモンドは去ろうとしたグレーテルの腕を咄嗟に掴んだ。同時にその手を別の誰かの手が払いのけた。
「おい、彼女は僕の婚約者だぞ。勝手に触るな」
男の言葉が聞こえると同時にエドモンドは強い風魔法で吹き飛ばされた。
グレーテルの腕をパンパンとまるでゴミでも付いているかの如く手で払いのけているのはヴィラン・クレイモア。
その整った顔でグレーテルに微笑むと、
「怪我はない?何か嫌な事をされた。あいつ皇宮から吹き飛ばしてやろうか?」
「だ…だいじょうぶです。何もされていませんから」
「そう…残念」
本当にエドモンドを追い出しそうなヴィランをグレーテルは他の話題で気を逸らそうとした。
「そ…そう言えば、今日は四阿でお茶をする約束でしたよね。今から行きましょう」
ヴィランの腕をぐいぐい引っ張って、エドモンドから引き離すグレーテルをエドモンドは身を起こしながら黙って見ていた。
皇太子宮の外に待機していた馬車にグレーテルを乗せるとヴィランは、
「ちょっとやり残したことがあるから、先にお戻りください」
と言って、その場でスッと消えた。
その場に立ちすくんでいたエドモンドの前に姿を現したヴィランは、
「やあ、偽物さん。いい加減。僕のお姫様の周りをうろつくのは止めてくれない?」
「ど…どうして、私がお前のいう事を聞かないといけないんだ。この黒持ちが!」
「へえ─っ、やっぱりそれがお前の本性なんだ。他の令嬢が見れば幻滅するだろうな」
「貴様には関係ないだろう」
「ああ、関係ないね。長年誰をだましていようが、僕には関係ないがグレーテルにしたことを赦すつもりはないよ」
そう言って、ヴィランはついと指を横に振ると、エドモンドの体は宙に浮いて吹き飛ばされた。
「ぐああああ──っ」
地面に叩きつけられたエドモンドは悲痛な唸り声をあげた。
「ねえ、もし今度僕のお姫様に近付いたらこんなものでは済まないからな」
エドモンドの耳元で低く怒気を孕むようにヴィランが囁いて消えた。
切れた唇の端を拭いながら、エドモンドはヴィランの消えた場所を睨んでいた。
『誰からも愛されない可哀想な皇女様。今度は嘘でエドモンドの気を引こうとしているの?』
小声で、グレーテルだけに聞こえる様に言うと身構えた。
……?んっ…どうして何も起こらないの…。
いつもならフローラが挑発すると掴みかかって来るのに今日は何もしない。平然と冷たく蔑み見下す視線に腹がたった。
──何よ!何よ!捨てられた皇女の癖に!!
今度はグレーテルに押された様に、エドモンドの前に倒れ込んだ。
「な…何するの。ひ…酷いわ。グレーテル」
か弱そうな仕草と薄ら涙を浮かべれば大抵の男はころりと騙される。しかも相手が極悪皇女なら尚更だ。
「大丈夫?」
いつもの様に手を差し出したエドモンド。だが、今までならグレーテルを責め立てるように言葉を荒げていたのに、エドモンドはフローラの思惑とは違った様子に戸惑った。
助け起こされ、皇女を置き去りにエスコートもしようとしないエドモンドにフローラの心に疑念が湧き出ていた。
おかしい…今までなら皆わたしの味方になって、グレーテルの仕返しから擁護してくれたのに。どうして…プリンストンお兄様もエドモンドもおかしいわ。あんなにグレーテルの事を嫌っていたのに、記憶がない?それがどうしたのよ。今までもこれからだって、私の方が大切にされる存在なのよ。
フローラを立たせると、傍に居る騎士に彼女を馬車まで送る様に指示した。
「どうして、エドモンド様が送ってはくれないんですか?」
「すまないが、皇女殿下と話すことが残っているから、今日は一人で帰ってくれ」
「そ…そんな」
不服そうなフローラを騎士に託して、エドモンドは再びグレーテルの方を向いた。
「どうして、あんなことを…」
その言葉にグレーテルは呆れた溜め息をついていた。
昔の記憶はないが、ここ数日でグレーテルが言った言葉や行動に周りが過剰に反応する。まさに今エドモンドが言ったように…。
まるで初めからグレーテルが『悪者』だと言わんばかりだ。
確かに今まで聞いた話の中のグレーテルは、凶暴で傲慢な皇女のようだった。でもそれはエドモンドが絡んだ時に限っている。皇帝や皇太子の前では猫を被ったように大人しかったようだ。
エリサから聞いた幼い頃のグレーテルの境遇を考えれば、単に家族の愛を求めていた幼子の行動にしか思えない。父や兄に関心を向けられない彼女の行き場のない想いは、きっと今目の前にいる青年に全て注がれていたに違いない。
でも、その想いもあの日の雨に全て流されたのだろう。
グレーテルは目覚めた時、晴れた日のような清々しい解放感を思い出していた。
自分のいるべき所はこの男の隣ではなかったという事を……。
──わたくしの本当の居場所は、暗闇を照らす月明かりの様なあの男性──。
「どうして…?貴方の目にはわたくしはどんな悪人に映っているのかしら」
「そんなつもりで言ったのでは…」
「ならどんなつもり?今の発言は誰が聞いてもわたくしが一方的に悪い様にしか取れないわ。それもわたくしのこれまでの行いの所為なのでしょうね」
「それ……は…」
そこでエドモンドは言葉を詰まらせた。
「あ…あの日、私が君との約束を守らなかったから怒っているのか?そうだろう。だから私の事を避けているんだ。そのことについては謝るから…」
「で…?謝罪は受け入れますわ。でも、これきりですわ。さっきも言った様にわたくし、別の方に嫁ぎますのよ。だから、こうして呼び止められると迷惑だわ。これからは距離を置いて下さいな」
「距離を置く…だと」
「ええそうです。他人でいましょうということよ」
「た…他人…」
グレーテルの表情からは、以前の熱を帯びたような眼差しはなかった。ただ、じっとエドモンドを見る瞳の先には別の者を映しているように見えた。
「それではごきげんよう」
「えっ…待ってくれ。グレーテル」
エドモンドは去ろうとしたグレーテルの腕を咄嗟に掴んだ。同時にその手を別の誰かの手が払いのけた。
「おい、彼女は僕の婚約者だぞ。勝手に触るな」
男の言葉が聞こえると同時にエドモンドは強い風魔法で吹き飛ばされた。
グレーテルの腕をパンパンとまるでゴミでも付いているかの如く手で払いのけているのはヴィラン・クレイモア。
その整った顔でグレーテルに微笑むと、
「怪我はない?何か嫌な事をされた。あいつ皇宮から吹き飛ばしてやろうか?」
「だ…だいじょうぶです。何もされていませんから」
「そう…残念」
本当にエドモンドを追い出しそうなヴィランをグレーテルは他の話題で気を逸らそうとした。
「そ…そう言えば、今日は四阿でお茶をする約束でしたよね。今から行きましょう」
ヴィランの腕をぐいぐい引っ張って、エドモンドから引き離すグレーテルをエドモンドは身を起こしながら黙って見ていた。
皇太子宮の外に待機していた馬車にグレーテルを乗せるとヴィランは、
「ちょっとやり残したことがあるから、先にお戻りください」
と言って、その場でスッと消えた。
その場に立ちすくんでいたエドモンドの前に姿を現したヴィランは、
「やあ、偽物さん。いい加減。僕のお姫様の周りをうろつくのは止めてくれない?」
「ど…どうして、私がお前のいう事を聞かないといけないんだ。この黒持ちが!」
「へえ─っ、やっぱりそれがお前の本性なんだ。他の令嬢が見れば幻滅するだろうな」
「貴様には関係ないだろう」
「ああ、関係ないね。長年誰をだましていようが、僕には関係ないがグレーテルにしたことを赦すつもりはないよ」
そう言って、ヴィランはついと指を横に振ると、エドモンドの体は宙に浮いて吹き飛ばされた。
「ぐああああ──っ」
地面に叩きつけられたエドモンドは悲痛な唸り声をあげた。
「ねえ、もし今度僕のお姫様に近付いたらこんなものでは済まないからな」
エドモンドの耳元で低く怒気を孕むようにヴィランが囁いて消えた。
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