極悪皇女が幸せになる方法

春野オカリナ

文字の大きさ
14 / 20
極悪皇女の結婚

贖罪

しおりを挟む
 レイモンドはグラッセ公爵家の唯一の後継者として生まれた。
 母レイチェルが、レイモンドを産んだ時に体を壊して二度と子供は産めなくなったからだ。そんな公爵夫人に不満を持つ者もいたが、妾を持つように薦められてもガーランド・グラッセは首を縦に振らなかった。
 
 「貴族の結婚は契約で成り立っている物だ。私が余所に女を囲ったらそれは立派な契約違反となる」

 と言って、全ての縁談を断り、死ぬまで妻のレイチェル一人を守った。妻を特別愛していたとは思えなかったが、死んだ後では聞くこともできない。
 ただ、そんな父を母は尊敬し、信頼を寄せていた事だけは確かだった。
 
 母には、友人がいてその娘がアリージェンナだった。新興伯爵家に生まれたアリージェンナは家族に恵まれなかった。
 母メアリージュンは、没落寸前のカイゼン侯爵家の令嬢だった。中央に顔を売る為に名家の娘を妻に持ちたかった伯爵が、実家の借金を肩代わりするために金に物を言わせて妻にした。そこには打算的な感情しかない。伯爵は女癖が悪く、多くの愛人がいた。その上、酒癖が悪く酔うと妻に暴力を振っていた。
 そんな崩壊した家庭環境でアリージェンナは育ったのだ。

 夫人は夫の伯爵の機嫌が悪い時は、娘を公爵家に避難させ、夫の目に移らない様にしていた。なぜならアリージェンナは類まれなる魔法の才を持っていて、その証拠に金色の髪と紫の瞳を持っている。昔から魔力の高い者は金色の髪をしていると言われていたからだ。その証拠に、聖女となる者は紫の瞳を多く持っていた。

 夫人は伯爵が娘を商品の様に売り飛ばすのではないかと不安だった。

 幼い頃からレイモンドとアリージェンナは共に過ごす幼馴染。いつしか、大人になっても夫婦になることを望む様になっていた。

 しかし、母が赦しても父は納得しなかった。当時、格下の侯爵家にも釣り合う令嬢が多くいたからだ。その誰もが公爵家や皇族との婚姻を望んでいる。

 その中にエドモンドの母ソニア・ディバイン侯爵令嬢も候補に挙がっていた。彼女はジャネットの取り巻きの一人で、ジャネットから何度もソニアを婚約者に選ぶように薦められた。

 レイモンドはその度にきっぱりと断っていた。

 アリージェンナがデビュタントを迎える年、レイモンドは彼女にドレスを贈った。もちろんお揃いで、その日はエスコートもして入場した。

 今思えばレイモンドにとって、一番幸せな記憶だっただろう。お披露目とダンスが終わればアリージェンナに結婚を申し込むつもりだったレイモンドは、上着の内ポケットに忍ばせた指輪のケースを握って確かめていた。

 既に王族の親衛隊に配属されて、次期公爵の後継者としても順風満帆な人生に落とし穴が存在するなどその時は知らなかった。

 皇宮の侍女から内緒の手紙を受けて、レイモンドは逸る気持ちを抑えながら、約束の場所に行く。

 「アリージェンナ…」

 呼んだのに彼女からは返事がない。回り込んで顔を確認すると、相手はソニアだった。人違いだとレイモンドが立ち去ろうとすると、縋ってソニアは身体を押し付けてきた。

 とても、成人したての令嬢のすることではない。下品極まりないと憤慨して突き放そうとした時ソニアは最後の手段をとった。

 自身の唇をレイモンドのそれに押し当てたのだ。物陰からさっきの侍女が飛び出してきて、密会をしていたと騒ぎ始めた。会場に戻ると青い顔をしたアリージェンナと目が合ったが、彼女はそのまま帰宅した。

 ことの次第を両親に話してもすでに起きたことはなかったことにできなかった。謝罪の手紙もアリージェンナには届かず、彼女はその後すぐに聖女認定をされた。

 この国の法で聖女は王族と婚姻することが決まっており、アリージェンナはヘルメスと婚姻することになったのだ。

 それでも諦めきれなかったレイモンドは、アリージェンナの結婚式当日、彼女の本心を聞くことにした。

 だが、彼女から帰ってきた言葉は、過去の思い出だと言われ、諦めることにした。

 最後にアリージェンナは、

 「もし、わたしの子供に何かあったなら、力を貸してほしい」

 と頼んだ。

 レイモンドは、そのことを胸に刻み、いつの日か約束を果たそうと思っていた。

 彼女の産んだグレーテルを冷遇するヘルメスに対し、何度も諫言してみたが聞き届けられることはなかった。それに皇女を養女になどできない。
 
 そこで、レイモンドは自身の息子の伴侶として迎えることで、愛する人の娘を救おうと考えていた。まさか、二人が破局するとは想像もしていなかったのだ。

 「例え、母上が画策したとしても父上も向き合えばよかったのでは」
 「そうだな。だが、お前の母が犯した罪はそれだけではなかった」
 「もしかして、母上が亡くなる前に言い争いをしていたことと何か関係が」
 「あれを見ていたのか?」
 「はい、夜中に目が覚めて…偶然」
 「そうか…なら仕方がない」
 
 「お前の母、私の妻は罪人なのだよ。皇后を呪い殺した…」

 「ま…まさか。う…嘘ですよね」
 「本当だ。ソニアの部屋から呪術用の魔道具が見つかって、その一つを皇后に贈った」
 「証拠はあるんですか?」
 「ああ、本にの口から聞いた。それで言い争いになって、皇后の死の知らせと共に自身も服毒したんだ」
 「な…なんてこと」
 「だから、余計罪滅ぼしをしたかったんだ。皇女様をあんな境遇に追いやったのは私の所為だからな」

 知らない母の秘密を知って、エドモンドは自室に帰った。

 そして、父から聞かされたもう一つの真実…。母をそそのかしたのはジャネット・マーキュリー公爵夫人ではないかと。

 もしそうなら、フローラとの婚約もいい機会だ。何か決定的な証拠が見つかるかもしれないと考えた。

 もうグレーテルに会えないのなら、せめてもの償いに真実を明らかにしたいと決心した。





 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...