20 / 20
極悪皇女の結婚
夜会のイザコザ
しおりを挟む
大昔、世界は異界の歪によって生まれたモンスターによって、人々はおびえて暮らす日々を送っていた。神は聖女と呼ばれる神聖力を持つ少女と7人の使徒に混沌とした世界を救うべく世界中を旅するように命じた。
彼らは長い旅の末、異界の歪を塞ぎ、世界に結界を張って異界との境界線を作ったのだ。そして、大聖女と使徒の一人だった若者が一つの国を興した。
それがブルーネオ帝国の始まり。
皇族の男子は聖女が見つかると婚姻するという掟に従い、ヘルメスは聖女アリージェンナと婚姻した。いつの日かその血筋から大聖女が甦るというお告げを信じて…。
「あら、グレーテル皇女殿下。今日はお祝い申し上げますわ」
「ありがとう。マーキュリー公爵令嬢」
「まあ、他人行儀な呼び方ですこと…以前の様にフローラと呼んで下さい」
「いいえ。わたくしはもうすぐ、皇女ではなくなるから公爵令嬢よりも下の身分になるでしょう」
「ふふふ、ごめんなさいね。グレーテル様。貴女の大切な方をとってしまったみたいで…大変もうしわけないですわ」
扇で顔を隠しながら、フローラは微笑んだ。いつもなら、グレーテルの奇行に興味がある貴族達までも今日の夜会は皇女に好意的なのだ。彼女の愚行によってフローラは被害者面をしていられるのに、グレーテルの表情は穏やかで、新しい婚約者ヴィランとの仲を見せつけてくる。
こんなはずではなかった。
今日の主役は自分で、貴族から祝福を受けるのもフローラのはず。
今までの立ち位置とは逆転して、貴族の注目を浴びているグレーテルに対して怒りと焦りがフローラを支配した。
『君と婚約する事になったが、私の愛情は期待しないでほしい。君だって、本当は私の事を何とも想っていないのだろう。ただ単にグレーテルに対する優越感を味わいたいだけなのだろうからね』
エドモンドと婚約書を交わす時に放たれた言葉を思い出す。
(まさか、見抜かれているとはね…)
それでも、夜会に出れば貴族達から羨望の視線を受けるだろうと考えていたのに、現実はどうだ。話題はグレーテルとヴィランの仲の良さや、貴婦人たちは彼女のドレスの事。どれもこれもグレーテルに関するものばかり。
今まで社交界の中心にいたのはフローラのはずなのに、グレーテルがまともになったという噂だけで、これまでの事は帳消しになった。
グレーテルには、今まで同様フローラの影でいて貰わなくてはならないのに…。
フローラの心は穏やかではいられない。
ふいに目に留まった赤いワイン。
これを皇女にかけたらどうなるだろう。
そんな愚かな考えが頭を擡げた瞬間、誰かがワインを持つ手首を掴んだ。
「……飲み過ぎだ。マーキュリー公女」
「え…エドモンド様」
止めたのはエドモンドだった。
フローラは、エドモンドをキッと睨んだ。
今まで、フローラがグレーテルに陰で嫌がらせをしても何もせず傍観を決め込んでいたくせに、ここに至って止めるのか。そのエドモンドの行動にフローラは腹を立てた。
「い…痛いわ。放して」
「じゃあ、そのグラスを渡すんだ」
「いやよ。まだ飲み足りないわ」
「もう十分だ。それ以上飲んだら、酔うだろう。それとももう酔っているのか?」
「分かったわ。もう止めるわよ」
「へえー、随分と物わかりが良いのね」
話に割って入ったのは、レーチェだった。
「変なことを言わないでくれる。わたしは何時だって、エドモンド様のいう事は聞いていたわ。それにわたしたちが仲がいい事は誰でも知っているじゃない」
「そうね。未婚の令嬢が独身男性を多く従えている事はね」
「お…おかしな事ばかり云わないでよ。ご…誤解されるでしょう」
「誤解された方がいいんじゃないの?」
「な…何よ。違うって言っているでしょう」
フローラが暴れた瞬間、グラスのワインが零れて、フローラの白いドレスは赤く染まっていく。
「あーあ…。仕方がないね」
チッと舌打ちしたヴィランはフローラのドレスに向かって人差し指をさっと振ると、シミのあった箇所は一瞬で無くなり、元の白いドレスに戻った。
見ていた貴族から歓声が上がると、居た堪れなくなったのかフローラの顔は真っ赤になって肩を震わせてドレスの裾を握りしめた。
「気分が台無しだわ。もう帰る」
「分かった。馬車のまで送ろう」
プリプリと怒った顔を隠そうともせずに、フローラは会場を後にした。後を追いかける様にエドモンドも付いて行ったが、一度だけグレーテルの方を見たが、彼の視線に皇女は気付くことはなかった。
気付いたのは傍にいるヴィランだけ。
「あの野郎。馬鹿じゃないのか」
いつもとは違う言葉遣いで誰にも聞こえない様にぼそりと呟いた。
小さな嵐が去った後、別の来客の登場に周囲がざわめき始めた。
「師匠…」
嬉しそうに駆け寄るヴィランの姿があった。
彼らは長い旅の末、異界の歪を塞ぎ、世界に結界を張って異界との境界線を作ったのだ。そして、大聖女と使徒の一人だった若者が一つの国を興した。
それがブルーネオ帝国の始まり。
皇族の男子は聖女が見つかると婚姻するという掟に従い、ヘルメスは聖女アリージェンナと婚姻した。いつの日かその血筋から大聖女が甦るというお告げを信じて…。
「あら、グレーテル皇女殿下。今日はお祝い申し上げますわ」
「ありがとう。マーキュリー公爵令嬢」
「まあ、他人行儀な呼び方ですこと…以前の様にフローラと呼んで下さい」
「いいえ。わたくしはもうすぐ、皇女ではなくなるから公爵令嬢よりも下の身分になるでしょう」
「ふふふ、ごめんなさいね。グレーテル様。貴女の大切な方をとってしまったみたいで…大変もうしわけないですわ」
扇で顔を隠しながら、フローラは微笑んだ。いつもなら、グレーテルの奇行に興味がある貴族達までも今日の夜会は皇女に好意的なのだ。彼女の愚行によってフローラは被害者面をしていられるのに、グレーテルの表情は穏やかで、新しい婚約者ヴィランとの仲を見せつけてくる。
こんなはずではなかった。
今日の主役は自分で、貴族から祝福を受けるのもフローラのはず。
今までの立ち位置とは逆転して、貴族の注目を浴びているグレーテルに対して怒りと焦りがフローラを支配した。
『君と婚約する事になったが、私の愛情は期待しないでほしい。君だって、本当は私の事を何とも想っていないのだろう。ただ単にグレーテルに対する優越感を味わいたいだけなのだろうからね』
エドモンドと婚約書を交わす時に放たれた言葉を思い出す。
(まさか、見抜かれているとはね…)
それでも、夜会に出れば貴族達から羨望の視線を受けるだろうと考えていたのに、現実はどうだ。話題はグレーテルとヴィランの仲の良さや、貴婦人たちは彼女のドレスの事。どれもこれもグレーテルに関するものばかり。
今まで社交界の中心にいたのはフローラのはずなのに、グレーテルがまともになったという噂だけで、これまでの事は帳消しになった。
グレーテルには、今まで同様フローラの影でいて貰わなくてはならないのに…。
フローラの心は穏やかではいられない。
ふいに目に留まった赤いワイン。
これを皇女にかけたらどうなるだろう。
そんな愚かな考えが頭を擡げた瞬間、誰かがワインを持つ手首を掴んだ。
「……飲み過ぎだ。マーキュリー公女」
「え…エドモンド様」
止めたのはエドモンドだった。
フローラは、エドモンドをキッと睨んだ。
今まで、フローラがグレーテルに陰で嫌がらせをしても何もせず傍観を決め込んでいたくせに、ここに至って止めるのか。そのエドモンドの行動にフローラは腹を立てた。
「い…痛いわ。放して」
「じゃあ、そのグラスを渡すんだ」
「いやよ。まだ飲み足りないわ」
「もう十分だ。それ以上飲んだら、酔うだろう。それとももう酔っているのか?」
「分かったわ。もう止めるわよ」
「へえー、随分と物わかりが良いのね」
話に割って入ったのは、レーチェだった。
「変なことを言わないでくれる。わたしは何時だって、エドモンド様のいう事は聞いていたわ。それにわたしたちが仲がいい事は誰でも知っているじゃない」
「そうね。未婚の令嬢が独身男性を多く従えている事はね」
「お…おかしな事ばかり云わないでよ。ご…誤解されるでしょう」
「誤解された方がいいんじゃないの?」
「な…何よ。違うって言っているでしょう」
フローラが暴れた瞬間、グラスのワインが零れて、フローラの白いドレスは赤く染まっていく。
「あーあ…。仕方がないね」
チッと舌打ちしたヴィランはフローラのドレスに向かって人差し指をさっと振ると、シミのあった箇所は一瞬で無くなり、元の白いドレスに戻った。
見ていた貴族から歓声が上がると、居た堪れなくなったのかフローラの顔は真っ赤になって肩を震わせてドレスの裾を握りしめた。
「気分が台無しだわ。もう帰る」
「分かった。馬車のまで送ろう」
プリプリと怒った顔を隠そうともせずに、フローラは会場を後にした。後を追いかける様にエドモンドも付いて行ったが、一度だけグレーテルの方を見たが、彼の視線に皇女は気付くことはなかった。
気付いたのは傍にいるヴィランだけ。
「あの野郎。馬鹿じゃないのか」
いつもとは違う言葉遣いで誰にも聞こえない様にぼそりと呟いた。
小さな嵐が去った後、別の来客の登場に周囲がざわめき始めた。
「師匠…」
嬉しそうに駆け寄るヴィランの姿があった。
206
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます
ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。
理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。
……正直、めんどくさい。
政略、責任、義務、期待。
それらすべてから解放された彼女は、
聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。
毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。
何もしない、何も背負わない、静かな日常。
ところが――
彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、
一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが
異様なほど平和になっていく。
祈らない。
詠唱しない。
癒やさない。
それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。
「何もしない」ことを選んだ元聖女と、
彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。
これは、
誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、
いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
馬鹿な女。1番娘を不幸にしていることに気付かないのね。
こんな極悪な性質の女が愛されるわけないじゃん。特にグレーテルが落ち着いた今は。本性がジワジワと滲み出ているからね。
毎日胸がきゅーーとなって切ないけど、面白くて
更新を心待ちにしています
グレーテルにいっぱいの幸せが降り注ぎますように