婚約者は妹をご所望のようです…

春野オカリナ

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17.愛を与えられる者と愛を乞う者⑥

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 レスティーナは、カインデルの予定より早い帰国に疑問を抱いた。そして、ここに突然現れた理由についてもだ…。

 「お兄様?お戻りなるのは明後日では…」

 「ああ、面倒だったから、飛び級をして春には卒業すればいいだけになっている。課題や卒業論文も夏に終わらせてある。だから夏季休暇にも帰らなかっただろう」

 「ええ、そうですね」

 二人の遣り取りに痺れを切らしたマリアンヌが、カインデルに向かって甘える声を出してきた。

 「カインお兄さま。おかえりなさい。おみやげもあるんでしょう…」

 「ああ、隣国で売っている珍しい蔵書を山ほど買って帰って来た。読みたいのか?勉強嫌いのお前が!」

 カインデルの左のエメラルドの目が冷たく光り、マリアンヌとクロイツェルを射抜く様に見ている。

 「お兄さまの意地悪。いつもいつもレスティーナお姉さまにだけ優しいのは不公平です!」

 「なーんだ。ちゃんと勉強しているんだな?お前から不公平・・・なんて言葉を聞く日がこようとは、だがその言葉の意味を知っているなら、ティーナに向かって言うべきではない言葉だ!」

 強い口調で叱責され始めて、マリアンヌはお得意の目に大粒の滴を溜めている。きっと次に発する言葉は「酷い!狡い!お姉さまだけ特別なんておかしい」そう言うに決まっているとレスティーナは思っていた。

 まだ、さっきまでの余韻が残っているのか、クロイツェルはマリアンナの肩を抱き寄せている。

 二人の姿が視界に入る度にレスティーナの心が凄いスピードで冷めていくのを感じていた。

 マリアンヌが何かを言う前にカインデルの言葉の刃がマリアンヌとクロイツェルを切り裂いた。

 「先ほどのティーナの質問だが、実は少し驚かそうと思って予定を敢えて伝えていなかったんだよ。先程、ティーナが籠っている神殿に寄ったんだが、入れ違いになったみたいでね。仕方なく公爵家に帰宅したんだ。だが、帰宅した途端、テレンスからある事を聞かされて、もしやと思って広場に来たんだ。俺はね。マリアンヌを探しに来たんだ」

 「マリアンヌをですか…」

 その言葉にレスティーナがあからさまにがっかりしているのを見て、カインデルはレスティーナの頭をポンポンと軽く叩いて慰めた。

 「そういえば、今日の課題が終わってもいないのに、屋敷をこっそり抜け出したそうだな!マリアンヌ!!その所為で屋敷ではお前が誘拐でもされたのかと大騒ぎになっていた。専属メイドや護衛を巻いてここに来ている理由を聞かせて貰おうか?まさかお前他人宛の手紙を勝手に盗み見たのか?」

 「て…手紙?」

 「ああ、テレンスが言うには、王家からレスティーナ宛の手紙が来ていて、クロイツェル殿下が今年の納税額を手伝う事になったから、打ち合わせの為に少し遅れると連絡があったらしい。その際、殿下からお前宛の手紙を預かったが、王城から神殿までの道は今、祭りでごった返しになっている。なので公爵家経由で届けて欲しいと言われたそうだ。しかし、手紙はマリアンヌと一緒に公爵家から無くなった。テレンスが慌てている所に俺が帰宅したんだ」

 「そうだったんですね。なら、マリアンヌは勉強を投げ出して、屋敷を勝手に抜け出したという事ですか?しかも私宛の手紙も一緒に持ち出したと」

 「そういう事だ!兎に角、マリアンヌが無事見つかって良かった。早く連れて行け!屋敷に帰ったら部屋から一歩も出すなよ!」

 未だクロイツェルにしがみ付いているマリアンヌを公爵家の護衛達が無理矢理引き離して、馬車に押し込んだ。そのまま喚くマリアンヌを乗せて馬車は、公爵家に向かって走り出した。

 マリアンヌが強制送還された後、レスティーナは力が抜けてその場にへたり込んだ。

 「大丈夫か?」

 「はい、なんだか足に力が入らなくて……」

 「うん、分かった」

 そう言うとカインデルはレスティーナをひょいと抱き上げて、そのまま馬車に乗せたのだ。

 レスティーナを馬車に乗せたまま、カインデルはエルリアーナ達にの方に向かい、何か話している。「キャーッ」と甲高い声が聞こえたかと思ったら、今度はクロイツェルの方に歩いて行って、一礼をして何やら耳元で囁いているようだった。

 カインデルが馬車の方に向かって歩いている後ろでクロイツェルは真っ青な顔色になっていた。

 そのまま、カインデルと神殿に向かう馬車の中で、レスティーナは自分でも気付かずに唇を噛んでいた。

 「ティーナ…そんなに噛みしめると可愛い唇が切れてしまう。我慢しないで泣きなさい」

 そう言って、カインデルはレスティーナを抱きしめた。

 「あの娘マリアンヌは黙っていても愛されるけれど、私は好かれたいと努力しないといけないのね。それが返される事のない想いだとしても…好きになって下さいと言い続けなくてはならないのね」

 「違うよ。ティーナは愛されている俺や義父上からもそれに今日は大勢の友人らもいたじゃないか。大丈夫だ。お前は愛されているよ」

 レスティーナはカインデルの膝に頭を乗せた。

 レスティーナの髪を優しく撫でている手は男らしく立派に成長した17才のものだった。

 「カインデルお兄様が、お兄様でなければいいのに、そうすれば私は……」

 そう言いかけて、レスティーナは疲れていたのか眠りに落ちてしまった。

 カインデルが「お前とは血が繋がっていないから安心して、好きになればいい」と話しかけた事をレスティーナは知らない。

 何故なら彼女には記憶が無いから、一度目からカインデルの様に記憶を持っていない。

 カインデルの右の銀色の眼帯から怪しく光る瞳の揺らぎに気付くこともなく。

 レスティーナはすやすやと安らかな寝息を立てていた。

 カインデルがそっとレスティーナの頬に口付けを落とした事にも気付かない。

 カインデルは、心のなかで、

 ──お前がクロイツェルの愛を乞う者なら、俺もお前の愛を乞う者なのだから…。

 そう呟いていたことも…。
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