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19.仮面を付けた王太子妃②
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先に学院を卒業した私にはレスティーナがどのような目に遭わされていたのか知らなかった。いや知ろうとも思わなかったのだ。
知ろうとすれば知る手段はいくらでもあった。だが私はそれを敢えてしなかった。その結果、マリアンヌを崇拝する一部の学生から酷い嫌がらせを受けていた。
彼女を庇って助けていたのは、弟のアーロンとその婚約者リーゼロッタや姉のユーミリアだった。
従妹であるエルリアーナ、クロード達からも連日の様に非難の声が上がっていた。それもそうだろう、婚約者でこの国の王太子が率先して恋人を優遇し、婚約者を蔑にし続けている様子を毎日見てきたのだ。
その王太子がいなくなれば歯止めが利くはずがない。
アーロンが最後に王妃グレイシスに頼み、ゲイル・サトラー公爵に学院と話し合う様に伝えてもらったのだ。
その結果、レスティーナは異例の飛び級で学院を卒業という形になったのだ。王妃と国王は事態を重く見て、マリアンヌの崇拝者らを処罰した。未来ある王太子妃を害したという名目でだ。
しかし、肝心のマリアンヌに処罰がなされないと反発する声も上がってきた。マリアンヌは自宅謹慎の停学処分となり、この事でアマンダのレスティーナへの風当たりに拍車がかかったのは言うまでもない。
公爵家での生活を知らされた国王夫妻は、アマンダ母娘から逃れさせる為、王城にレスティーナを保護した。
神殿はこの騒ぎを聞きつけ、最早婚約を解消して、残りの生涯を神殿の祭祀として過ごす方がレスティーナの為になると再三に渡り、王家に圧をかけてきた。
国王もそうした方が良いと判断しているが、肝心の私はレスティーナを手離そうとはしなかった。それどころか、彼女の心を苦しめるような行いを続けていた。
謹慎処分のマリアンヌを王城に呼び寄せ、私室で勉強を教えると籠ったり、お茶を楽しむ姿を見せつけ始めたのだ。
何処までも愚かな行為をする私を周囲の者達から、王太子の廃嫡を望む声が次第に高くなっていく。
そんな事も気に掛けない私の所業は悪化する一方だった。
ある日、私はマリアンヌに強請られ、王太子妃が使う部屋や夫婦の寝室を見せたのだ。その寝室から出てくる姿をレスティーナに見られ、気まずさのあまり彼女を詰ってしまった。
彼女の悲しみが籠った瞳が頭に焼き付いて離れなかった。
母である王妃にそのことを咎められたが、私の心にはマリアンヌが棲みついて、レスティーナの事などどうでも良いとさえ思ってしまっていた。だが、冷えた頭の中には打算的な考えも浮かんでくる。
──レスティーナとの結婚が無くなれば、王太子から降ろされるのではないか?婚儀さえすればもうあの女には用がない。マリアンヌを寵妃にすればいいのだ。
そんな事を考える自分がいる。いつからこんな卑怯な事が出来る様になったのか。信じられない程、悪辣な変わり果てた自分を嘆いているもう一人の自分……。
その一年後に婚儀を挙げたのだが、当然、初夜に通うことも無く夫婦の寝室は閉ざされたままになっていた。
暫くして、私はとうとうレスティーナの心を完全に壊してしまう。
──王太子の私室から朝早くにマリアンヌが出てきた。
その噂は城中にあっという間に広まり、当然レスティーナの耳にも届いた。
彼女を最後に見たのは青白い顔をして何か物言いたげな表情を浮かべた姿だけだった。
王妃やアーロン達が私に詰め寄り、叱責をしている時にその知らせが入ったのだ。
朝の朝食は王族皆で摂る習慣になっているのだが、一向に現れないレスティーナを私はつい、
『少々の事で臍を曲げるとは、王太子妃のすることではないな。早くあの女を連れてこい!!』
乱暴な物言いで侍女に命令を下す私…。
『ならば兄上の行いは王太子どころか平民にも劣えりますね』
『うるさい!!黙れ!!』
痛いところを付かれた私は逆上して、アーロンに掴みかかろうとした時、
廊下をバタバタと複数の足音が近付いてくる。
『一体何事か…』
国王が訝しむと、侍従の一人が耳打ちした。
『な…なんだと…王太子妃が息をしていないだと…』
その知らせは、瞬く間に使用人らに伝わり、私達が部屋に入った時は、レスティーナの遺体には無数の棘が囲っていて、誰もその傍には寄せ付けなかった。
ただ一人、知らせを聞いて急いで駆け付けたカインデルだけが、レスティーナの元に近寄れたのだ。
彼女は眠る様に死んでおり、傍には小瓶が落ちていた。侍女の話しでは一年前から眠れなくなったレスティーナは睡眠薬を服用していた。
医師の診断では、睡眠薬を多量に摂取した為、昏睡状態で亡くなったのではと説明した。
誰もが覚悟の死ではないのかと疑ったが、自殺したら墓地に埋葬できない。レスティーナの死は不幸な事故として片づけられたのだ。
レスティーナの遺体は神殿が引き取り、丁重に埋葬されることになった。
葬儀が終わるとカインデルが現れて、私に掴みかかってきた。
『お前の所為でティーナが死んだ!お前の所為で…何故、彼女を縛り付けた!そんなにあの木偶人形がいいのなら婚約を解消して自由にしてやれば良かったではないか!!』
『うるさい!!黙れ!!不貞の子供が何を言う!!』
私の言葉にいち早く反応したのは、母親グレイシスだった。
『そのような世迷いごとを誰から聞いたのです!カインデルは陛下と前王妃殿下とのお子に間違いない!!お前の実の兄なのです』
母の恐ろしい形相に、私は一瞬怯んだ。そして父国王が一言、
『愚かな息子よ。お前がここまで愚かだとは思わなかった。これから身に起こることをその身で思い知るがよい』
『父上…どういう意味ですか?』
『お前の廃嫡が決まった。次の王太子にはアーロンが着く。お前は離宮にて生涯幽閉される。だが安心するがよい。お前が愛したあの娘も連れて行くがいい』
父はそう言うと、母たちを連れてその場を去った。
私は翌日から離宮に行くことになり、レスティーナが死んで一年後の喪が明けて、晴れてマリアンヌと結ばれることになった。
元々、マリアンヌは王太子妃などにはなれない。そんな器ではない。そのことは私がよく理解している。
私はレスティーナが死んで自由になったと錯覚をしていたのだ。
その後、自分の身に起こる事を何も知らなかったのだ。
──女神の怒りに触れ、呪われることを──。
知ろうとすれば知る手段はいくらでもあった。だが私はそれを敢えてしなかった。その結果、マリアンヌを崇拝する一部の学生から酷い嫌がらせを受けていた。
彼女を庇って助けていたのは、弟のアーロンとその婚約者リーゼロッタや姉のユーミリアだった。
従妹であるエルリアーナ、クロード達からも連日の様に非難の声が上がっていた。それもそうだろう、婚約者でこの国の王太子が率先して恋人を優遇し、婚約者を蔑にし続けている様子を毎日見てきたのだ。
その王太子がいなくなれば歯止めが利くはずがない。
アーロンが最後に王妃グレイシスに頼み、ゲイル・サトラー公爵に学院と話し合う様に伝えてもらったのだ。
その結果、レスティーナは異例の飛び級で学院を卒業という形になったのだ。王妃と国王は事態を重く見て、マリアンヌの崇拝者らを処罰した。未来ある王太子妃を害したという名目でだ。
しかし、肝心のマリアンヌに処罰がなされないと反発する声も上がってきた。マリアンヌは自宅謹慎の停学処分となり、この事でアマンダのレスティーナへの風当たりに拍車がかかったのは言うまでもない。
公爵家での生活を知らされた国王夫妻は、アマンダ母娘から逃れさせる為、王城にレスティーナを保護した。
神殿はこの騒ぎを聞きつけ、最早婚約を解消して、残りの生涯を神殿の祭祀として過ごす方がレスティーナの為になると再三に渡り、王家に圧をかけてきた。
国王もそうした方が良いと判断しているが、肝心の私はレスティーナを手離そうとはしなかった。それどころか、彼女の心を苦しめるような行いを続けていた。
謹慎処分のマリアンヌを王城に呼び寄せ、私室で勉強を教えると籠ったり、お茶を楽しむ姿を見せつけ始めたのだ。
何処までも愚かな行為をする私を周囲の者達から、王太子の廃嫡を望む声が次第に高くなっていく。
そんな事も気に掛けない私の所業は悪化する一方だった。
ある日、私はマリアンヌに強請られ、王太子妃が使う部屋や夫婦の寝室を見せたのだ。その寝室から出てくる姿をレスティーナに見られ、気まずさのあまり彼女を詰ってしまった。
彼女の悲しみが籠った瞳が頭に焼き付いて離れなかった。
母である王妃にそのことを咎められたが、私の心にはマリアンヌが棲みついて、レスティーナの事などどうでも良いとさえ思ってしまっていた。だが、冷えた頭の中には打算的な考えも浮かんでくる。
──レスティーナとの結婚が無くなれば、王太子から降ろされるのではないか?婚儀さえすればもうあの女には用がない。マリアンヌを寵妃にすればいいのだ。
そんな事を考える自分がいる。いつからこんな卑怯な事が出来る様になったのか。信じられない程、悪辣な変わり果てた自分を嘆いているもう一人の自分……。
その一年後に婚儀を挙げたのだが、当然、初夜に通うことも無く夫婦の寝室は閉ざされたままになっていた。
暫くして、私はとうとうレスティーナの心を完全に壊してしまう。
──王太子の私室から朝早くにマリアンヌが出てきた。
その噂は城中にあっという間に広まり、当然レスティーナの耳にも届いた。
彼女を最後に見たのは青白い顔をして何か物言いたげな表情を浮かべた姿だけだった。
王妃やアーロン達が私に詰め寄り、叱責をしている時にその知らせが入ったのだ。
朝の朝食は王族皆で摂る習慣になっているのだが、一向に現れないレスティーナを私はつい、
『少々の事で臍を曲げるとは、王太子妃のすることではないな。早くあの女を連れてこい!!』
乱暴な物言いで侍女に命令を下す私…。
『ならば兄上の行いは王太子どころか平民にも劣えりますね』
『うるさい!!黙れ!!』
痛いところを付かれた私は逆上して、アーロンに掴みかかろうとした時、
廊下をバタバタと複数の足音が近付いてくる。
『一体何事か…』
国王が訝しむと、侍従の一人が耳打ちした。
『な…なんだと…王太子妃が息をしていないだと…』
その知らせは、瞬く間に使用人らに伝わり、私達が部屋に入った時は、レスティーナの遺体には無数の棘が囲っていて、誰もその傍には寄せ付けなかった。
ただ一人、知らせを聞いて急いで駆け付けたカインデルだけが、レスティーナの元に近寄れたのだ。
彼女は眠る様に死んでおり、傍には小瓶が落ちていた。侍女の話しでは一年前から眠れなくなったレスティーナは睡眠薬を服用していた。
医師の診断では、睡眠薬を多量に摂取した為、昏睡状態で亡くなったのではと説明した。
誰もが覚悟の死ではないのかと疑ったが、自殺したら墓地に埋葬できない。レスティーナの死は不幸な事故として片づけられたのだ。
レスティーナの遺体は神殿が引き取り、丁重に埋葬されることになった。
葬儀が終わるとカインデルが現れて、私に掴みかかってきた。
『お前の所為でティーナが死んだ!お前の所為で…何故、彼女を縛り付けた!そんなにあの木偶人形がいいのなら婚約を解消して自由にしてやれば良かったではないか!!』
『うるさい!!黙れ!!不貞の子供が何を言う!!』
私の言葉にいち早く反応したのは、母親グレイシスだった。
『そのような世迷いごとを誰から聞いたのです!カインデルは陛下と前王妃殿下とのお子に間違いない!!お前の実の兄なのです』
母の恐ろしい形相に、私は一瞬怯んだ。そして父国王が一言、
『愚かな息子よ。お前がここまで愚かだとは思わなかった。これから身に起こることをその身で思い知るがよい』
『父上…どういう意味ですか?』
『お前の廃嫡が決まった。次の王太子にはアーロンが着く。お前は離宮にて生涯幽閉される。だが安心するがよい。お前が愛したあの娘も連れて行くがいい』
父はそう言うと、母たちを連れてその場を去った。
私は翌日から離宮に行くことになり、レスティーナが死んで一年後の喪が明けて、晴れてマリアンヌと結ばれることになった。
元々、マリアンヌは王太子妃などにはなれない。そんな器ではない。そのことは私がよく理解している。
私はレスティーナが死んで自由になったと錯覚をしていたのだ。
その後、自分の身に起こる事を何も知らなかったのだ。
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