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私は今、曾祖母が残した別邸に住んでいる。
そこは遠い異国の地から輿入れした曾祖母の為に、曾祖父が彼女の故郷を模した建物になっている。
平屋の建物の中は生活する為の施設が揃っているので、リハビリ中の私は快適に過ごせた。
何より両親に会わないことが嬉しい。会えば次の結婚相手の事ばかり言われる。まだ気持ちの整理のついていない私の心を置き去りに次々と縁談を持ち掛ける両親と顔を会わせるのは億劫で、丁度良い機会だった。
「今日は何を作ろうかな?」
「まあ、お嬢様いけません。貴族のご令嬢が厨房に立つなんて…」
「でも、この方が安心よ。貴方もそう思うでしょうレイド」
「左様ですね。お嬢様」
「もう、レイドはお嬢様の味方ばかりして」
レイドは私専属の執事。彼は元は傭兵で路頭に迷っていたところを私が貧民街で拾ったのだ。公爵家で教育を受けて晴れて私の専属執事となった。
先程から小言を言っているのは、侍女のラナ。彼女は亡くなった乳母の娘で私とは乳姉妹。当時流行り病で夫を亡くした乳母を家族ぐるみで公爵家に住まわした。だから、今は結婚して公爵家を出て行った姉のリナは私にとっても実の姉の様な存在だった。
他にも庭師のトニーやメイドのアナ、アナの弟のポール等が私にとっての本当の意味での家族なのだ。
さて、何故、公爵令嬢の私が自炊をしようとしているかと言うと、それはまだ本邸に私が住んでいた頃、一月前に王宮から調査官が派遣されて来た。
「ミシェルウィー公爵令嬢、体調が優れない中、この様な訪問をお許し下さい」
「いえ、本日は一体どの様なご用件なのでしょうか?」
「はい、実は少々お伺いしたい事があるのです。それはあの建国記念日のバルコニーから落下した時の事を詳しくお聞きしたいからなのです」
調査官の一人ノエル・アドラー伯爵が問う。
「どういった内容の事でしょうか?私に答えられる事であればお答え致します」
「では、あの日令嬢の飲んだ飲み物の中から睡眠薬が見つかりました。慌てて入れたのかまだ溶けきっていない薬がグラスに残っていたのです。後で令嬢の侍女らから事情を聞いた所、数日前から睡眠不足で医師から処方された物だと確認しました。ですが、薬を飲まれていなかったとも聞いたのですが、間違い無いでしょうか?」
「はい、確かに医師から処方された薬は受け取っていましたが、ハーブティー等で気持ちを落ち着かせてから眠るようにしていましたから、頂いていた薬はそのままの筈です。それが何か?」
「その薬と同じ物が令嬢のグラスから発見された事で、令嬢が狙われた可能性が高いのです。しかも大勢があの日、式典の始まりで飲んでいたにも関わらず直接貴女に飲ましたとなれば、自ずと入れた者は限られてきます。当時、王宮の使用人らから事情を聞き取った結果、貴女が自らそのグラスを選んだと聞いてわれわれは自殺しようとしたのではと思っていましたが、令嬢の侍女からの話でどうも腑に落ちない点があるのです。それはもし仮に自殺を図ろうとしたのなら、もっと早く大量に飲んでいた筈です。しかし、量は通常の半分にも満たなかった。しかも直前に飲む等、明らかに行動がおかしい。そこで我々はあのグラスを飲んだ貴族達に令嬢に薬を飲ませた者がいると思っています」
「その様子では特定していらっしゃるのですね」
「概ねは、しかし証拠がありません。ですので再度令嬢が狙われる恐れもありますので、くれぐれも口にするものにはご注意下さい」
「はい、気を付ける様にしますわ」
「では、我々はこれで失礼します」
「あ、あの、アドラー伯爵。夫人はお元気でしょうか?一度ご挨拶に伺いたいのですが…」
「妻は今は王都にはいません。領地にいますので」
「そうですか。またお会いできれば宜しいのですが」
「ええ、妻もそう思っていると思いますよ」
アドラー伯爵等は王宮に帰って行った。
私はその後、リハビリの為にこの別邸で過ごす事になったのだが、彼の忠告通り、口にするものは自ら作る方が安全だと考え今に至っている訳なのだが…
まあ、最初に作った物は食べれるような物ではなかったが、今では何とか口に出来る物を作れるようになっている。やはり人間何事もやれば出来るものだ。努力が大切。
彼の推測では、私に薬を飲ませた人物はあの時、私の近くにいた人間の誰かという事になる。
その誰かが父なのか母なのかそれとも…
段々、夕陽と共に私の気分も沈んでいくのを感じていた。
そこは遠い異国の地から輿入れした曾祖母の為に、曾祖父が彼女の故郷を模した建物になっている。
平屋の建物の中は生活する為の施設が揃っているので、リハビリ中の私は快適に過ごせた。
何より両親に会わないことが嬉しい。会えば次の結婚相手の事ばかり言われる。まだ気持ちの整理のついていない私の心を置き去りに次々と縁談を持ち掛ける両親と顔を会わせるのは億劫で、丁度良い機会だった。
「今日は何を作ろうかな?」
「まあ、お嬢様いけません。貴族のご令嬢が厨房に立つなんて…」
「でも、この方が安心よ。貴方もそう思うでしょうレイド」
「左様ですね。お嬢様」
「もう、レイドはお嬢様の味方ばかりして」
レイドは私専属の執事。彼は元は傭兵で路頭に迷っていたところを私が貧民街で拾ったのだ。公爵家で教育を受けて晴れて私の専属執事となった。
先程から小言を言っているのは、侍女のラナ。彼女は亡くなった乳母の娘で私とは乳姉妹。当時流行り病で夫を亡くした乳母を家族ぐるみで公爵家に住まわした。だから、今は結婚して公爵家を出て行った姉のリナは私にとっても実の姉の様な存在だった。
他にも庭師のトニーやメイドのアナ、アナの弟のポール等が私にとっての本当の意味での家族なのだ。
さて、何故、公爵令嬢の私が自炊をしようとしているかと言うと、それはまだ本邸に私が住んでいた頃、一月前に王宮から調査官が派遣されて来た。
「ミシェルウィー公爵令嬢、体調が優れない中、この様な訪問をお許し下さい」
「いえ、本日は一体どの様なご用件なのでしょうか?」
「はい、実は少々お伺いしたい事があるのです。それはあの建国記念日のバルコニーから落下した時の事を詳しくお聞きしたいからなのです」
調査官の一人ノエル・アドラー伯爵が問う。
「どういった内容の事でしょうか?私に答えられる事であればお答え致します」
「では、あの日令嬢の飲んだ飲み物の中から睡眠薬が見つかりました。慌てて入れたのかまだ溶けきっていない薬がグラスに残っていたのです。後で令嬢の侍女らから事情を聞いた所、数日前から睡眠不足で医師から処方された物だと確認しました。ですが、薬を飲まれていなかったとも聞いたのですが、間違い無いでしょうか?」
「はい、確かに医師から処方された薬は受け取っていましたが、ハーブティー等で気持ちを落ち着かせてから眠るようにしていましたから、頂いていた薬はそのままの筈です。それが何か?」
「その薬と同じ物が令嬢のグラスから発見された事で、令嬢が狙われた可能性が高いのです。しかも大勢があの日、式典の始まりで飲んでいたにも関わらず直接貴女に飲ましたとなれば、自ずと入れた者は限られてきます。当時、王宮の使用人らから事情を聞き取った結果、貴女が自らそのグラスを選んだと聞いてわれわれは自殺しようとしたのではと思っていましたが、令嬢の侍女からの話でどうも腑に落ちない点があるのです。それはもし仮に自殺を図ろうとしたのなら、もっと早く大量に飲んでいた筈です。しかし、量は通常の半分にも満たなかった。しかも直前に飲む等、明らかに行動がおかしい。そこで我々はあのグラスを飲んだ貴族達に令嬢に薬を飲ませた者がいると思っています」
「その様子では特定していらっしゃるのですね」
「概ねは、しかし証拠がありません。ですので再度令嬢が狙われる恐れもありますので、くれぐれも口にするものにはご注意下さい」
「はい、気を付ける様にしますわ」
「では、我々はこれで失礼します」
「あ、あの、アドラー伯爵。夫人はお元気でしょうか?一度ご挨拶に伺いたいのですが…」
「妻は今は王都にはいません。領地にいますので」
「そうですか。またお会いできれば宜しいのですが」
「ええ、妻もそう思っていると思いますよ」
アドラー伯爵等は王宮に帰って行った。
私はその後、リハビリの為にこの別邸で過ごす事になったのだが、彼の忠告通り、口にするものは自ら作る方が安全だと考え今に至っている訳なのだが…
まあ、最初に作った物は食べれるような物ではなかったが、今では何とか口に出来る物を作れるようになっている。やはり人間何事もやれば出来るものだ。努力が大切。
彼の推測では、私に薬を飲ませた人物はあの時、私の近くにいた人間の誰かという事になる。
その誰かが父なのか母なのかそれとも…
段々、夕陽と共に私の気分も沈んでいくのを感じていた。
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