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家庭教師
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私の家庭教師はアドラー伯爵夫人だった。
彼女はとても厳しい事で有名な家庭教師。でもとても優秀な女性で、現国王陛下の婚約者候補の三人の一人に残る程教養や淑女として完成された女性だった。
最終的には家の事情で辞退する事になり、その後、伯爵家に嫁いだ。
でも、彼女と公爵家には深い溝がある。母は私と同じ教師をローズマリアに付けた。当然、ローズマリアは勉強が嫌いで、厳しい彼女の指導には付いて行けなかった。
「ローズはまだ幼いのでもう少し簡単な事からお願いします」
「ですが、他の令嬢方も同じ事をされています。ですのでローズマリア様も出来る様に努力して下さい」
「まあ、ローズが無能だと仰りたいの」
「そうではありません。もう少し努力をして欲しいと申し上げているのです。このままでは先には進めません」
「そこを何とかするのが貴女の役目でしょう」
「公爵夫人、こう言っては何ですが、サフィニア様は大変な努力の末、身に付けていらっしゃるのです。ローズ様もほんの少し努力なされれば今よりずっと成長出来るのです」
「サフィニアを引き合いに出さないで、あの子とローズは同じではないのだから」
「分かっております。ですのでもう少し意欲的になられて下さい」
夫人はよく母と毎日の様に言い争っていた。それがローズの耳に入り、
「先生は意地悪です。私がお姉様の様に出来ないと知っていながら、出来ない事をしろと言うんですね」
「違います。ローズ様の今後の為です。今は辛いかも知れませんが、いずれ社交界では必要なマナーなのです。さあ、頑張ってもう一度やって見ましょう」
根気よく教えている夫人にローズは反抗して、わざと倒れ込んだ。その様子を見たローズ付きの侍女が母を呼びに行き、夫人の言い分を聞くことなく解雇した。
その後、暫く夫人は社交界で『公爵令嬢に体罰を与えた』と不名誉な偽りの噂せいで家庭教師を断られ続ける事になった。
私が王太子妃教育のマナー指導を彼女に頼みたいと王妃陛下にお願いするまで貴族社会から閉め出されていたのだ。
信頼を回復するまでどれだけの苦渋を夫婦で味わった事だろう。私はローズの姉として伯爵家まで謝りに行った。
どうか私の先生でいて欲しい。
そう頼んだが、彼女は頑なにそれを拒んだ。結局、王妃陛下の仲裁で最後は折れてくれた。結果、未来の王太子妃の教育係りという肩書きで社交界の信頼を取り戻す形となり、貴族令嬢の家庭教師を今も務めている。でも、ローズの指導だけは断り続けている。それは自業自得なのだ。
「お久しぶりです。アドラー伯爵夫人」
「お久しぶりですね。貴女が妃殿下になられるのを心待ちにしていたのに、残念です」
「申し訳なく思っております。折角ご指導頂いたのに、この様な事になって…」
「ですが、以前の様な張り詰めた空気を纏っていないので安心しましたわ。良き殿方にも巡り合った様ですし」
その言葉に私の体が熱くなるのを感じた。
「まだその様な関係では無いのですが、伯爵夫妻の様な関係を築けたらと思っております」
「光栄ですわ、良い知らせを待っております。あら、主人が呼んでおりますので、お先に失礼しますわ」
「では、また次にお会い出来ることを楽しみに待っております」
夫人は夫の元に歩いて行った。
後に残された私は、ワルツを踊る人々を壁の花と化しながら見ている。
すると曲が変わり、私の前にある人物が立っていた。
「サフィニア嬢、一曲踊ってはくれないだろうか?」
そう言って手を差し出したのは、王太子ジークレスト殿下だった。
私は、複雑な気持ちを隠しながら
「では、一曲だけ」
彼の手をとってしまったのだった。この選択が大きな誤りとなることを知らずに…
彼女はとても厳しい事で有名な家庭教師。でもとても優秀な女性で、現国王陛下の婚約者候補の三人の一人に残る程教養や淑女として完成された女性だった。
最終的には家の事情で辞退する事になり、その後、伯爵家に嫁いだ。
でも、彼女と公爵家には深い溝がある。母は私と同じ教師をローズマリアに付けた。当然、ローズマリアは勉強が嫌いで、厳しい彼女の指導には付いて行けなかった。
「ローズはまだ幼いのでもう少し簡単な事からお願いします」
「ですが、他の令嬢方も同じ事をされています。ですのでローズマリア様も出来る様に努力して下さい」
「まあ、ローズが無能だと仰りたいの」
「そうではありません。もう少し努力をして欲しいと申し上げているのです。このままでは先には進めません」
「そこを何とかするのが貴女の役目でしょう」
「公爵夫人、こう言っては何ですが、サフィニア様は大変な努力の末、身に付けていらっしゃるのです。ローズ様もほんの少し努力なされれば今よりずっと成長出来るのです」
「サフィニアを引き合いに出さないで、あの子とローズは同じではないのだから」
「分かっております。ですのでもう少し意欲的になられて下さい」
夫人はよく母と毎日の様に言い争っていた。それがローズの耳に入り、
「先生は意地悪です。私がお姉様の様に出来ないと知っていながら、出来ない事をしろと言うんですね」
「違います。ローズ様の今後の為です。今は辛いかも知れませんが、いずれ社交界では必要なマナーなのです。さあ、頑張ってもう一度やって見ましょう」
根気よく教えている夫人にローズは反抗して、わざと倒れ込んだ。その様子を見たローズ付きの侍女が母を呼びに行き、夫人の言い分を聞くことなく解雇した。
その後、暫く夫人は社交界で『公爵令嬢に体罰を与えた』と不名誉な偽りの噂せいで家庭教師を断られ続ける事になった。
私が王太子妃教育のマナー指導を彼女に頼みたいと王妃陛下にお願いするまで貴族社会から閉め出されていたのだ。
信頼を回復するまでどれだけの苦渋を夫婦で味わった事だろう。私はローズの姉として伯爵家まで謝りに行った。
どうか私の先生でいて欲しい。
そう頼んだが、彼女は頑なにそれを拒んだ。結局、王妃陛下の仲裁で最後は折れてくれた。結果、未来の王太子妃の教育係りという肩書きで社交界の信頼を取り戻す形となり、貴族令嬢の家庭教師を今も務めている。でも、ローズの指導だけは断り続けている。それは自業自得なのだ。
「お久しぶりです。アドラー伯爵夫人」
「お久しぶりですね。貴女が妃殿下になられるのを心待ちにしていたのに、残念です」
「申し訳なく思っております。折角ご指導頂いたのに、この様な事になって…」
「ですが、以前の様な張り詰めた空気を纏っていないので安心しましたわ。良き殿方にも巡り合った様ですし」
その言葉に私の体が熱くなるのを感じた。
「まだその様な関係では無いのですが、伯爵夫妻の様な関係を築けたらと思っております」
「光栄ですわ、良い知らせを待っております。あら、主人が呼んでおりますので、お先に失礼しますわ」
「では、また次にお会い出来ることを楽しみに待っております」
夫人は夫の元に歩いて行った。
後に残された私は、ワルツを踊る人々を壁の花と化しながら見ている。
すると曲が変わり、私の前にある人物が立っていた。
「サフィニア嬢、一曲踊ってはくれないだろうか?」
そう言って手を差し出したのは、王太子ジークレスト殿下だった。
私は、複雑な気持ちを隠しながら
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