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お祭り
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私はユリウス様と祭りの準備の進行状況を確認しに来ている。
町の中心街には行灯が提げられていて、其々の家や店の趣向が凝らされていた。色とりどりの行灯がこの祭りを幻想的に仕上げてくれる要素の一つでもあるからだ。
「サフィニア嬢、あれは何?」
ユリウス様の指差す方を見ると、大きな山車に灯篭を積んでいる所だった。
「あれは女神様を象った灯篭で、祭りの最後に湖に浮かべて豊穣を祈るのです」
そう、この湖に棲む女神様は【愛と豊穣】の神様。だから、美しく彩った灯篭は女神を喜ばせるもの。そして国の安寧と豊穣を願うものなのだ。
「ちなみに女神の泉に行ったことはあるのですか?」
「はい、小さい頃に妹と二人で」
私は妹のローズと【女神の泉】いった事を思い出した。
「では、言い伝え通りに未来の相手が見えたのですか?」
「……い、いいえ。何も」
私は咄嗟に嘘をついてしまった。泉には王太子ジークレスト殿下が映ったのだ。それから間もなく王太子殿下の婚約者選びが始まり、私が選ばれた。でもそれは昔の事、もし今あの泉にいったとしても彼の姿は映らないだろう。妹と結婚している相手が映ることはないはず……
愚かな私は、まだ昔を引き摺っている。何故こうも後ろ髪を惹かれるのか自分でも分からない。一体いつまで引き摺れば前に進めるのだろう。やはりあの時ラストダンスを踊るのではなかった。
ラストダンスを踊った相手と恋に落ちるというのは本当ね。馬鹿ね、もう妹の夫なのに……
「サフィニア嬢?どうしましたか」
「いえ、何でもありません」
「しかし、顔色がよくありません。少し休みませんか?」
「そうですね。あちらの人気のカフェで休憩を取りましょう。護衛の方々も喉が渇いていらっしゃるでしょうし」
「相変わらず、他人への配慮がおありなのですね」
「そんな大げさなものではありませんわ」
「いえ、意図してできる事ではありませんよ」
「そうでしょうか」
「はい」
ユリウス様に頷かれて私は恥ずかしなった。そんなつもりではなかったのだが、他の人にはそう見えるようだ。
カフェは最近王都で流行しているテイクアウトもできる店構えで、お祭り用の為、店の表に屋台を設置していた。どうやら屋台ではサンドウィッチやホットドッグ等の軽食を提供するらしい。
「ごめんなさい。忙しいかしら?冷たい飲み物をお願いしたいのだけど」
「いらっしゃいませ。あ、お嬢様、少々お待ちください。こちらへどうぞ」
店の人は私の顔を見て、奥の角に案内してくれた。注文する間、接客してくれた女性は終始ユリウス様を熱い眼差しで見つめているが、彼は気付いているが素知らぬ顔を崩すことはなかった。
さすが、完璧な貴公子ね。こんな場所でもその姿勢を崩さないなんて立派な貴族ね。
彼の態度に感心しつつも私はこんな彼と仮に結婚して、上手くやっていけるのだろうかと少し不安な気持ちにさせられた。
王太子殿下の方がまだ融通が利く方で、こんな場所では砕けた仕種をしていた事を思い出した。
私ときたら、又。比べるなんて…
どこまでも付いて回る殿下との過去に自分の踏ん切りの悪さを呪っていくのだった。
町の中心街には行灯が提げられていて、其々の家や店の趣向が凝らされていた。色とりどりの行灯がこの祭りを幻想的に仕上げてくれる要素の一つでもあるからだ。
「サフィニア嬢、あれは何?」
ユリウス様の指差す方を見ると、大きな山車に灯篭を積んでいる所だった。
「あれは女神様を象った灯篭で、祭りの最後に湖に浮かべて豊穣を祈るのです」
そう、この湖に棲む女神様は【愛と豊穣】の神様。だから、美しく彩った灯篭は女神を喜ばせるもの。そして国の安寧と豊穣を願うものなのだ。
「ちなみに女神の泉に行ったことはあるのですか?」
「はい、小さい頃に妹と二人で」
私は妹のローズと【女神の泉】いった事を思い出した。
「では、言い伝え通りに未来の相手が見えたのですか?」
「……い、いいえ。何も」
私は咄嗟に嘘をついてしまった。泉には王太子ジークレスト殿下が映ったのだ。それから間もなく王太子殿下の婚約者選びが始まり、私が選ばれた。でもそれは昔の事、もし今あの泉にいったとしても彼の姿は映らないだろう。妹と結婚している相手が映ることはないはず……
愚かな私は、まだ昔を引き摺っている。何故こうも後ろ髪を惹かれるのか自分でも分からない。一体いつまで引き摺れば前に進めるのだろう。やはりあの時ラストダンスを踊るのではなかった。
ラストダンスを踊った相手と恋に落ちるというのは本当ね。馬鹿ね、もう妹の夫なのに……
「サフィニア嬢?どうしましたか」
「いえ、何でもありません」
「しかし、顔色がよくありません。少し休みませんか?」
「そうですね。あちらの人気のカフェで休憩を取りましょう。護衛の方々も喉が渇いていらっしゃるでしょうし」
「相変わらず、他人への配慮がおありなのですね」
「そんな大げさなものではありませんわ」
「いえ、意図してできる事ではありませんよ」
「そうでしょうか」
「はい」
ユリウス様に頷かれて私は恥ずかしなった。そんなつもりではなかったのだが、他の人にはそう見えるようだ。
カフェは最近王都で流行しているテイクアウトもできる店構えで、お祭り用の為、店の表に屋台を設置していた。どうやら屋台ではサンドウィッチやホットドッグ等の軽食を提供するらしい。
「ごめんなさい。忙しいかしら?冷たい飲み物をお願いしたいのだけど」
「いらっしゃいませ。あ、お嬢様、少々お待ちください。こちらへどうぞ」
店の人は私の顔を見て、奥の角に案内してくれた。注文する間、接客してくれた女性は終始ユリウス様を熱い眼差しで見つめているが、彼は気付いているが素知らぬ顔を崩すことはなかった。
さすが、完璧な貴公子ね。こんな場所でもその姿勢を崩さないなんて立派な貴族ね。
彼の態度に感心しつつも私はこんな彼と仮に結婚して、上手くやっていけるのだろうかと少し不安な気持ちにさせられた。
王太子殿下の方がまだ融通が利く方で、こんな場所では砕けた仕種をしていた事を思い出した。
私ときたら、又。比べるなんて…
どこまでも付いて回る殿下との過去に自分の踏ん切りの悪さを呪っていくのだった。
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