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ローズマリア視点2
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婚約してからも相変わらず殿下の心は、姉のものだった。あの日、私は見てしまった。殿下が離宮に行くところを。
こっそり後を付けると、その離宮はまるで人が住んでいるかの様に整えられている。そこには専用の侍女や侍従が揃っていた。
一体何が隠されているの。
私は殿下の入った部屋を覗くとそこには大きな肖像画が飾られている。描かれているのは姉の姿だった。
見覚えのある衣装を着ている姉の等身大の肖像画。
殿下は姉がそこに存在するように、髪を撫で、顔の輪郭をなぞり、そして愛しそうな眼を向けながら描かれている唇に口付けている。
「サフィニア、愛しているよ。君は私だけのものだ」
殿下は何度も何度も繰り返し、自分に言い聞かせる様に呟いている。
殿下はどこかおかしい。もしかして狂っている?
周りのガラスケースに入っている物にも見覚えがあった。姉が殿下に贈った品物や姉自身が無くした手袋。ありとあらゆる姉に関するものがその部屋のいたるところにあった。
私は怖くなった。これほど姉に執着している殿下に、私が姉にしたことを知られたら、どうなるのだろう。
その後、私はふらつきながら夜の王宮を彷徨っていた。
なんて恐ろしい事をしたのだろう。恍惚とした表情を浮かべながら、姉の肖像画に口付けする殿下。その最愛の人に睡眠薬を盛ってバルコニーから転落させた私。歪な私達の関係が壊れる時、私はどうすればいいのだろう。
答えのない問いを頭に浮かべながら、一人で歩いていると、巡回の騎士に出会った。
彼は配属されたばかりで、まだ私が王太子の婚約者だと気付いていない様子。王宮まで送ってもらって別れたが、その後何度か彼と出くわすことになる。平民上がりの騎士だからか、貴族にはない気さくな性格が尖った私の心や警戒心を解いていった。
段々、親しくなっていくうちに私は彼と飲酒する仲になった。愛されない寂しさから彼といる時間が増えていく。
そんな時、実家である光景を見てしまった。
眠っている姉付きの侍女に混ざって母が甲斐甲斐しく世話をしている。動かない足をさすったり、体の向きを変えたり、時には体を拭いている姿も見ていた。だが、この日は話し声が聞こえてきた。
扉が少し開いていて、何の気もなく覗いたら、母は姉に向かって思い出を語っていた。
「あの時は楽しかった。貴女は降ってくる花弁が面白くて、ドレスを広げて花弁を集めていたのを覚えているかしら。その後私が『はしたない』と叱ったら泣き出して、私を困らせたわね」
その思い出に心当たりがある。その思い出の少女は姉ではなく私なのだ。母は私と姉を混同している。母が私に向けていた愛情は全て姉に対するものだったのだ。
私は母にとっては姉の身代わり。単なるまがい物なのだ。母はずっと私を通し心て姉を見ていた。私を見ていた訳ではない。だから今、関心がないのだ。
王太子妃教育が思う様に進まない私を気遣う様子もなく、眠っている姉に固執する母。
私は誰にも愛されていないし、必要とされてもいない存在。そんなことを気付かされても姉は目覚めていない。
私はやけになって、ついいつもの様にあの騎士と浴びる程お酒を呑んでしまった。気が付けば騎士の自宅に裸で抱き合って眠っている自分に気付いた。
そして、シーツには破瓜の跡が残っていた。私は平民上がりの騎士と一夜を共にしてしまったのだ。その上、騎士は避妊をせずに私の中に精を放った。
不味い。どうしよう。もしかしたら妊娠したかもしれない。今までの男は貴族だったから、際どい所で最後まではしなかった。でもこの男は平民だから知らずに私の中に挿れた。
私は、殿下の寝酒に薬を入れ、殿下の寝室のカギを使ってこっそり彼の寝台に横たわった。そして、下半身の位置に指を刺してシーツに血痕を付けたのだ。
朝、殿下が起きて事情を聞かれ、泣きながら殿下と一夜を共にしたと言った。殿下にはどうやら記憶がないらしい。私の言葉に顔色が青ざめていた。取り敢えず私は自室に戻り、一息ついた。
上手くいったわ。これで妊娠していなかったら大丈夫よ。
後は祈るしか出来なかった。しかし、私の祈りは届かず、3か月後には妊娠と診断され、殿下と結婚することになった。
この秘密は知られてはいけない。知られれば私の命はない。
そして、盛大な結婚式の間も殿下は笑顔を国民に投げかけながら、隣にいる私を見る事はなかった。時々目が合っても彼は冷たく仄暗い眼差しを私に向けている。
つらい。私は何時までこんな思いを抱えなければいけないのだろう。
姉の婚約者を奪った私には平穏な日々は訪れなかった。全ては自分が蒔いた種なのだ。いつか芽が出て刈り取るまで、この地獄の様な日々が続くのだと感じていた。
こっそり後を付けると、その離宮はまるで人が住んでいるかの様に整えられている。そこには専用の侍女や侍従が揃っていた。
一体何が隠されているの。
私は殿下の入った部屋を覗くとそこには大きな肖像画が飾られている。描かれているのは姉の姿だった。
見覚えのある衣装を着ている姉の等身大の肖像画。
殿下は姉がそこに存在するように、髪を撫で、顔の輪郭をなぞり、そして愛しそうな眼を向けながら描かれている唇に口付けている。
「サフィニア、愛しているよ。君は私だけのものだ」
殿下は何度も何度も繰り返し、自分に言い聞かせる様に呟いている。
殿下はどこかおかしい。もしかして狂っている?
周りのガラスケースに入っている物にも見覚えがあった。姉が殿下に贈った品物や姉自身が無くした手袋。ありとあらゆる姉に関するものがその部屋のいたるところにあった。
私は怖くなった。これほど姉に執着している殿下に、私が姉にしたことを知られたら、どうなるのだろう。
その後、私はふらつきながら夜の王宮を彷徨っていた。
なんて恐ろしい事をしたのだろう。恍惚とした表情を浮かべながら、姉の肖像画に口付けする殿下。その最愛の人に睡眠薬を盛ってバルコニーから転落させた私。歪な私達の関係が壊れる時、私はどうすればいいのだろう。
答えのない問いを頭に浮かべながら、一人で歩いていると、巡回の騎士に出会った。
彼は配属されたばかりで、まだ私が王太子の婚約者だと気付いていない様子。王宮まで送ってもらって別れたが、その後何度か彼と出くわすことになる。平民上がりの騎士だからか、貴族にはない気さくな性格が尖った私の心や警戒心を解いていった。
段々、親しくなっていくうちに私は彼と飲酒する仲になった。愛されない寂しさから彼といる時間が増えていく。
そんな時、実家である光景を見てしまった。
眠っている姉付きの侍女に混ざって母が甲斐甲斐しく世話をしている。動かない足をさすったり、体の向きを変えたり、時には体を拭いている姿も見ていた。だが、この日は話し声が聞こえてきた。
扉が少し開いていて、何の気もなく覗いたら、母は姉に向かって思い出を語っていた。
「あの時は楽しかった。貴女は降ってくる花弁が面白くて、ドレスを広げて花弁を集めていたのを覚えているかしら。その後私が『はしたない』と叱ったら泣き出して、私を困らせたわね」
その思い出に心当たりがある。その思い出の少女は姉ではなく私なのだ。母は私と姉を混同している。母が私に向けていた愛情は全て姉に対するものだったのだ。
私は母にとっては姉の身代わり。単なるまがい物なのだ。母はずっと私を通し心て姉を見ていた。私を見ていた訳ではない。だから今、関心がないのだ。
王太子妃教育が思う様に進まない私を気遣う様子もなく、眠っている姉に固執する母。
私は誰にも愛されていないし、必要とされてもいない存在。そんなことを気付かされても姉は目覚めていない。
私はやけになって、ついいつもの様にあの騎士と浴びる程お酒を呑んでしまった。気が付けば騎士の自宅に裸で抱き合って眠っている自分に気付いた。
そして、シーツには破瓜の跡が残っていた。私は平民上がりの騎士と一夜を共にしてしまったのだ。その上、騎士は避妊をせずに私の中に精を放った。
不味い。どうしよう。もしかしたら妊娠したかもしれない。今までの男は貴族だったから、際どい所で最後まではしなかった。でもこの男は平民だから知らずに私の中に挿れた。
私は、殿下の寝酒に薬を入れ、殿下の寝室のカギを使ってこっそり彼の寝台に横たわった。そして、下半身の位置に指を刺してシーツに血痕を付けたのだ。
朝、殿下が起きて事情を聞かれ、泣きながら殿下と一夜を共にしたと言った。殿下にはどうやら記憶がないらしい。私の言葉に顔色が青ざめていた。取り敢えず私は自室に戻り、一息ついた。
上手くいったわ。これで妊娠していなかったら大丈夫よ。
後は祈るしか出来なかった。しかし、私の祈りは届かず、3か月後には妊娠と診断され、殿下と結婚することになった。
この秘密は知られてはいけない。知られれば私の命はない。
そして、盛大な結婚式の間も殿下は笑顔を国民に投げかけながら、隣にいる私を見る事はなかった。時々目が合っても彼は冷たく仄暗い眼差しを私に向けている。
つらい。私は何時までこんな思いを抱えなければいけないのだろう。
姉の婚約者を奪った私には平穏な日々は訪れなかった。全ては自分が蒔いた種なのだ。いつか芽が出て刈り取るまで、この地獄の様な日々が続くのだと感じていた。
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