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過去からの手紙
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殿下と一緒に離宮に帰ってきても心は沈んでいた。妹に与えられた時間が一日もないのだ。早すぎる展開になす術もない。
殿下が昼食を共にすると運ばれてきた食事は豪勢な物ばかりだが、全く喉を通らなかった。
「サフィニア、君が昔から食が細い事は知っているが、これでは体に悪い。一日でも早く回復して私の妻になるのだ」
殿下の声が遠くで響いている。今の私の心を支配しているのはローズマリアだった。あれほど殿下に執着していたはずの妹が急に冷静に死を受け入れようとしている。
その変化について行けないのは私だけの様で、殿下は何事もない様に事を着々と事を進めている。
「殿下、お聞かせ下さい。一体妹とどんな取引をしたのですか?」
「ふふ、君には隠し事はでいないようだね。その事は後で説明するから、今は食事をきちんと摂りなさい」
殿下に食事を勧められても何の味もしなかった。作っている宮廷料理人には申し訳ないが、サラダとデザートを摘む程度で食事を終えたのだ。
食後、離宮にあるサロンで殿下は
「君が聞きたい話を教えるよ。君と最初に対面した後、私はローズマリアに処罰を言い渡しに行ったのだ。戒律の厳しい修道院なら彼女を更生できるのでは、そう思ってね。しかし、ローズマリアは拒否した。彼女が死んだと言う訃報はまだ正式に発表されていないから、隣国にでも追放できるのだが、それも断った。結局、死ぬと言う選択しか選ばなかった。しかも毒でだ。そんな事を言ってきた彼女に驚かされたよ。こういっては何だが、妃教育も思う様に進まない彼女がそんな事を思いついたのは誰かの入れ知恵だと思った」
「私も今までの妹の言動から、とても妹の考えとは思えません」
「誰かは直ぐに判ったがな。ユリウスだったよ。私と会う前にユリウスがローズマリアに告げたのだ。『産んだ子供の行く末が心配ではないのか』とね」
「ユリウス様が…」
まさかユリウス様が絡んでいるとは思わなかった。しかも子供の事を言われればいくらローズマリアでも考えるだろう。
ローズマリアも経緯はどうあれ、子供を愛しいという気持ちはあるはずだ。そこにつけ入るなんて、『卑怯』だ。その言葉が思い浮かんだが、でも能々考えたら、ローズの言っていた事は正しい。私が殿下に救命を頼んだとしても二度と会えないのだ。私の自己満足に過ぎない。もっと辛い苦しい立場に追いやることになる。
「これはある意味、彼女にとっては幸せな事かもしれない。王太子妃として死ねるのだから」
殿下が言い終わっても私達の間には何処か微妙な雰囲気が漂っていた。
殿下が午後からの政務に取り組むため、離宮を離れた後も私は自室で庭を眺めていた。そして不意に本を徐に本棚から取り出すと一通の手紙が落ちてきた。
それは以前のこの部屋の持ち主、クラッケ伯爵夫人つまり曾祖父の母親の書置きのようなものだった。興味本位でその手紙を読むと内容に驚きを隠せなかった。
手紙には当時の国王の伯爵夫人への執着の程がつらつらと書かれており、政略結婚をした国王は王妃よりも他の男の妻となった夫人に恋焦がれていたのだ。
彼女の夫が流行り病で他界した時、長年子供の出来なかった国王に臣下が夫人を公妾に選んだのではなく。実は国王がごり押ししたのだと書いてある。伯爵家に残してきた幼い子供を思い出して泣いた事や媚薬を盛られて無理矢理、王に身体を開かされた事。生まれた王子を盾にとり、離宮に監禁されている事。嫉妬に狂った王妃が何度も王子を殺そうとした事。ついには国王と王妃に媚薬を持って子供を儲けさせた事。
王子を守る為、狂言自殺をし、狂ったふりを一生続けて、王子を守り続けた事が綴られていた。それは夫人が残された息子に伝える為に残したものだった。
そして、私は伯爵夫人の名前を見て驚く。
サフィニア・クラッケ
そう書かれていたのだ。私の名前を付けたのは祖父だと聞いている。父は知っているのだろうか?母は聞かされていたのだろうか?祖父は義理の父である曾祖父から真実を聞かされたのではないか?
様々な疑問が頭の中を支配してく中、今頃になって手紙が私の元に来た意味は……
これが神の意志ならば、私に神は何を望んでいるのだろう。
迫りくる妹の死を前に新たな事実を突きつけられ、今、私がやるべきことを考えていた。
殿下が昼食を共にすると運ばれてきた食事は豪勢な物ばかりだが、全く喉を通らなかった。
「サフィニア、君が昔から食が細い事は知っているが、これでは体に悪い。一日でも早く回復して私の妻になるのだ」
殿下の声が遠くで響いている。今の私の心を支配しているのはローズマリアだった。あれほど殿下に執着していたはずの妹が急に冷静に死を受け入れようとしている。
その変化について行けないのは私だけの様で、殿下は何事もない様に事を着々と事を進めている。
「殿下、お聞かせ下さい。一体妹とどんな取引をしたのですか?」
「ふふ、君には隠し事はでいないようだね。その事は後で説明するから、今は食事をきちんと摂りなさい」
殿下に食事を勧められても何の味もしなかった。作っている宮廷料理人には申し訳ないが、サラダとデザートを摘む程度で食事を終えたのだ。
食後、離宮にあるサロンで殿下は
「君が聞きたい話を教えるよ。君と最初に対面した後、私はローズマリアに処罰を言い渡しに行ったのだ。戒律の厳しい修道院なら彼女を更生できるのでは、そう思ってね。しかし、ローズマリアは拒否した。彼女が死んだと言う訃報はまだ正式に発表されていないから、隣国にでも追放できるのだが、それも断った。結局、死ぬと言う選択しか選ばなかった。しかも毒でだ。そんな事を言ってきた彼女に驚かされたよ。こういっては何だが、妃教育も思う様に進まない彼女がそんな事を思いついたのは誰かの入れ知恵だと思った」
「私も今までの妹の言動から、とても妹の考えとは思えません」
「誰かは直ぐに判ったがな。ユリウスだったよ。私と会う前にユリウスがローズマリアに告げたのだ。『産んだ子供の行く末が心配ではないのか』とね」
「ユリウス様が…」
まさかユリウス様が絡んでいるとは思わなかった。しかも子供の事を言われればいくらローズマリアでも考えるだろう。
ローズマリアも経緯はどうあれ、子供を愛しいという気持ちはあるはずだ。そこにつけ入るなんて、『卑怯』だ。その言葉が思い浮かんだが、でも能々考えたら、ローズの言っていた事は正しい。私が殿下に救命を頼んだとしても二度と会えないのだ。私の自己満足に過ぎない。もっと辛い苦しい立場に追いやることになる。
「これはある意味、彼女にとっては幸せな事かもしれない。王太子妃として死ねるのだから」
殿下が言い終わっても私達の間には何処か微妙な雰囲気が漂っていた。
殿下が午後からの政務に取り組むため、離宮を離れた後も私は自室で庭を眺めていた。そして不意に本を徐に本棚から取り出すと一通の手紙が落ちてきた。
それは以前のこの部屋の持ち主、クラッケ伯爵夫人つまり曾祖父の母親の書置きのようなものだった。興味本位でその手紙を読むと内容に驚きを隠せなかった。
手紙には当時の国王の伯爵夫人への執着の程がつらつらと書かれており、政略結婚をした国王は王妃よりも他の男の妻となった夫人に恋焦がれていたのだ。
彼女の夫が流行り病で他界した時、長年子供の出来なかった国王に臣下が夫人を公妾に選んだのではなく。実は国王がごり押ししたのだと書いてある。伯爵家に残してきた幼い子供を思い出して泣いた事や媚薬を盛られて無理矢理、王に身体を開かされた事。生まれた王子を盾にとり、離宮に監禁されている事。嫉妬に狂った王妃が何度も王子を殺そうとした事。ついには国王と王妃に媚薬を持って子供を儲けさせた事。
王子を守る為、狂言自殺をし、狂ったふりを一生続けて、王子を守り続けた事が綴られていた。それは夫人が残された息子に伝える為に残したものだった。
そして、私は伯爵夫人の名前を見て驚く。
サフィニア・クラッケ
そう書かれていたのだ。私の名前を付けたのは祖父だと聞いている。父は知っているのだろうか?母は聞かされていたのだろうか?祖父は義理の父である曾祖父から真実を聞かされたのではないか?
様々な疑問が頭の中を支配してく中、今頃になって手紙が私の元に来た意味は……
これが神の意志ならば、私に神は何を望んでいるのだろう。
迫りくる妹の死を前に新たな事実を突きつけられ、今、私がやるべきことを考えていた。
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