【完結】この愛に囚われて

春野オカリナ

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妹の最期

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 私は手紙の内容に驚きながら、父の言っていた『王族の執着心』について考えていた。

 もし仮に私が殿下を拒んでいたら、きっと伯爵夫人のようにこの離宮に閉じ込められていてかもしれない。いや、隣国の王女が急死しなければ、きっと何か理由を付けて私を公妾にしただろう。

 ユリウス様との婚約はその為のものだったのかもしれない。だとしたら父は分かっていて了承したのだろうか?もしそうなら、私は妹が言ったように王家に売り渡されたことになる。

 殿下とユリウス様への疑惑が頭を過ぎりながら、私は自分の気持ちに整理をつけて行った。

 私は後戻りの出来ない所まで進んでいる。これから先、殿下の隣に立つならば甘い考えは捨てなければならない。それは王太子妃教育で散々教えられたこと。

 罪を犯した者を実の妹だから、情けをかけるのは間違っている。道理では分かっていても気持ちはついて行けない。ならば、私にできる事はせめて、血の繋がった姉として家族として彼女の最期を見届ける事が務めなのではないだろうか。

 私は決意したことを殿下に夕食時に伝えたのだ。

 「殿下、明日のローズマリアの賜薬の儀に立ち会う事をお許し下さい」

 「サフィ、無理に付き合う事はない。私とユリウスだけで十分だ」

 「いいえ、ローズマリアは私の実の妹です。今後、殿下の妻となる者の務めなのです。それにローズも家族に見守られて逝きたいと思っているはずです」

 殿下は渋っていたが、これも何れ通らなければならない道だと許して貰えた。




 その日の朝は、何だかいつもより静かで穏やかだった。懐かしい夢を見た所為なのかもしれない。

 子供の頃に、自分の家族が笑い合って、皆で仲良く中庭の円卓を囲み、私と妹が手を繋いでいる。それを母と父は優しく微笑みながら見守っている。

 憧れていた家族の情景が夢に出てきた。現実ではない。ただの夢に過ぎない。幼い頃の私が縋っていた夢。

 いつの日かこんな家族になれるのではと、思い描いていたあの頃。

 だが現実は違った。今日、私は夫になる殿下に妹を殺される。賜薬の儀で毒酒を煽って死ぬのだ。

 分かっている。妹の犯した罪は死罪を免れない事も。

 何故、もっと私は妹に歩み寄らなかったのだろう。先に生きていく私が歩みを止めて、妹の手を引いてやればこんな事にならなかった。どこで間違えたのだろう。

 どんなに考えてもあの頃には戻れない。

 私は、今日妹を見送るのだ。殿下と共に歩むために。

 これからの血塗られた人生の幕開けとして、今後このような事が無い様に胸に刻む為に。





 正午の鐘が鳴り響く頃。殿下と私は黒い頭巾を被り、黒い衣装を纏っている。それは黒魔術でも行うような出で立ちで北の塔に向かった。

 この国の死神を象った衣装を着けて死刑執行を行う。見届け人らも誰か分からぬように全員が黒い頭巾を被っている。

 執行人が王家の紋章の入ったゴブレットに、純度の高い酒に致死量の王家に伝わる毒薬を混ぜた液体を運ぶ。

 まるで血の様に赤い色。

 それをローズマリアの前に持って行った。

 ローズは白いワンピース姿で、薄い化粧を施し、髪を降ろしていた。

 普段、目立つようにしていた彼女。今は清楚で美しい。その瞳には何の迷いも曇りもなかった。狂気すら見えない。

 きっと今の姿が本当のローズマリアなのだ。

 彼女を後世の人は姉の婚約者を奪った稀代の悪女と書き記すかも知れないが、まだ17才の少女なのだ。花の命を散らす瞬間まで彼女は美しかった。

 「殿下、願いをお聞き入れ下さりありがとうございます」

 淑女の礼をとった彼女は今までで一番の所作をした。

 毒酒の入ったゴブレットを受け取り、少しずつ口に運んで飲み込んだ。

 手から器が落ちる音が響いて、もがきながら私の方に手を伸ばす。
 
 「お…お…ねえ……さま…お…ね…がい……こ…こ……にき…て」

 息絶え絶えに、発する言葉は憐憫を誘った。

 「ローズ、何?何が言いたいの?」

 妹は最後の言葉を私の耳元で告げた。

 「これで私はお姉様になれる」

 「ローズ、ローズ、ローズ!!」

 そう言い残して、ぐったりと倒れ込んだ。妹の憐れな変わり果てた姿を見ながら、泣け叫んでいる私を殿下が抱き寄せた。

 両手にはまだ温かいローズマリアの吐血した血で真っ赤に染まっている。


 ローズが死んだ途端、王族の訃報を知らせる鐘が王都中に響き渡る。


 それは『王太子妃ローズマリア』を悼む弔いの鐘だった。



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