46 / 57
妹の最期
しおりを挟む
私は手紙の内容に驚きながら、父の言っていた『王族の執着心』について考えていた。
もし仮に私が殿下を拒んでいたら、きっと伯爵夫人のようにこの離宮に閉じ込められていてかもしれない。いや、隣国の王女が急死しなければ、きっと何か理由を付けて私を公妾にしただろう。
ユリウス様との婚約はその為のものだったのかもしれない。だとしたら父は分かっていて了承したのだろうか?もしそうなら、私は妹が言ったように王家に売り渡されたことになる。
殿下とユリウス様への疑惑が頭を過ぎりながら、私は自分の気持ちに整理をつけて行った。
私は後戻りの出来ない所まで進んでいる。これから先、殿下の隣に立つならば甘い考えは捨てなければならない。それは王太子妃教育で散々教えられたこと。
罪を犯した者を実の妹だから、情けをかけるのは間違っている。道理では分かっていても気持ちはついて行けない。ならば、私にできる事はせめて、血の繋がった姉として家族として彼女の最期を見届ける事が務めなのではないだろうか。
私は決意したことを殿下に夕食時に伝えたのだ。
「殿下、明日のローズマリアの賜薬の儀に立ち会う事をお許し下さい」
「サフィ、無理に付き合う事はない。私とユリウスだけで十分だ」
「いいえ、ローズマリアは私の実の妹です。今後、殿下の妻となる者の務めなのです。それにローズも家族に見守られて逝きたいと思っているはずです」
殿下は渋っていたが、これも何れ通らなければならない道だと許して貰えた。
その日の朝は、何だかいつもより静かで穏やかだった。懐かしい夢を見た所為なのかもしれない。
子供の頃に、自分の家族が笑い合って、皆で仲良く中庭の円卓を囲み、私と妹が手を繋いでいる。それを母と父は優しく微笑みながら見守っている。
憧れていた家族の情景が夢に出てきた。現実ではない。ただの夢に過ぎない。幼い頃の私が縋っていた夢。
いつの日かこんな家族になれるのではと、思い描いていたあの頃。
だが現実は違った。今日、私は夫になる殿下に妹を殺される。賜薬の儀で毒酒を煽って死ぬのだ。
分かっている。妹の犯した罪は死罪を免れない事も。
何故、もっと私は妹に歩み寄らなかったのだろう。先に生きていく私が歩みを止めて、妹の手を引いてやればこんな事にならなかった。どこで間違えたのだろう。
どんなに考えてもあの頃には戻れない。
私は、今日妹を見送るのだ。殿下と共に歩むために。
これからの血塗られた人生の幕開けとして、今後このような事が無い様に胸に刻む為に。
正午の鐘が鳴り響く頃。殿下と私は黒い頭巾を被り、黒い衣装を纏っている。それは黒魔術でも行うような出で立ちで北の塔に向かった。
この国の死神を象った衣装を着けて死刑執行を行う。見届け人らも誰か分からぬように全員が黒い頭巾を被っている。
執行人が王家の紋章の入ったゴブレットに、純度の高い酒に致死量の王家に伝わる毒薬を混ぜた液体を運ぶ。
まるで血の様に赤い色。
それをローズマリアの前に持って行った。
ローズは白いワンピース姿で、薄い化粧を施し、髪を降ろしていた。
普段、目立つようにしていた彼女。今は清楚で美しい。その瞳には何の迷いも曇りもなかった。狂気すら見えない。
きっと今の姿が本当のローズマリアなのだ。
彼女を後世の人は姉の婚約者を奪った稀代の悪女と書き記すかも知れないが、まだ17才の少女なのだ。花の命を散らす瞬間まで彼女は美しかった。
「殿下、願いをお聞き入れ下さりありがとうございます」
淑女の礼をとった彼女は今までで一番の所作をした。
毒酒の入ったゴブレットを受け取り、少しずつ口に運んで飲み込んだ。
手から器が落ちる音が響いて、もがきながら私の方に手を伸ばす。
「お…お…ねえ……さま…お…ね…がい……こ…こ……にき…て」
息絶え絶えに、発する言葉は憐憫を誘った。
「ローズ、何?何が言いたいの?」
妹は最後の言葉を私の耳元で告げた。
「これで私はお姉様になれる」
「ローズ、ローズ、ローズ!!」
そう言い残して、ぐったりと倒れ込んだ。妹の憐れな変わり果てた姿を見ながら、泣け叫んでいる私を殿下が抱き寄せた。
両手にはまだ温かいローズマリアの吐血した血で真っ赤に染まっている。
ローズが死んだ途端、王族の訃報を知らせる鐘が王都中に響き渡る。
それは『王太子妃ローズマリア』を悼む弔いの鐘だった。
もし仮に私が殿下を拒んでいたら、きっと伯爵夫人のようにこの離宮に閉じ込められていてかもしれない。いや、隣国の王女が急死しなければ、きっと何か理由を付けて私を公妾にしただろう。
ユリウス様との婚約はその為のものだったのかもしれない。だとしたら父は分かっていて了承したのだろうか?もしそうなら、私は妹が言ったように王家に売り渡されたことになる。
殿下とユリウス様への疑惑が頭を過ぎりながら、私は自分の気持ちに整理をつけて行った。
私は後戻りの出来ない所まで進んでいる。これから先、殿下の隣に立つならば甘い考えは捨てなければならない。それは王太子妃教育で散々教えられたこと。
罪を犯した者を実の妹だから、情けをかけるのは間違っている。道理では分かっていても気持ちはついて行けない。ならば、私にできる事はせめて、血の繋がった姉として家族として彼女の最期を見届ける事が務めなのではないだろうか。
私は決意したことを殿下に夕食時に伝えたのだ。
「殿下、明日のローズマリアの賜薬の儀に立ち会う事をお許し下さい」
「サフィ、無理に付き合う事はない。私とユリウスだけで十分だ」
「いいえ、ローズマリアは私の実の妹です。今後、殿下の妻となる者の務めなのです。それにローズも家族に見守られて逝きたいと思っているはずです」
殿下は渋っていたが、これも何れ通らなければならない道だと許して貰えた。
その日の朝は、何だかいつもより静かで穏やかだった。懐かしい夢を見た所為なのかもしれない。
子供の頃に、自分の家族が笑い合って、皆で仲良く中庭の円卓を囲み、私と妹が手を繋いでいる。それを母と父は優しく微笑みながら見守っている。
憧れていた家族の情景が夢に出てきた。現実ではない。ただの夢に過ぎない。幼い頃の私が縋っていた夢。
いつの日かこんな家族になれるのではと、思い描いていたあの頃。
だが現実は違った。今日、私は夫になる殿下に妹を殺される。賜薬の儀で毒酒を煽って死ぬのだ。
分かっている。妹の犯した罪は死罪を免れない事も。
何故、もっと私は妹に歩み寄らなかったのだろう。先に生きていく私が歩みを止めて、妹の手を引いてやればこんな事にならなかった。どこで間違えたのだろう。
どんなに考えてもあの頃には戻れない。
私は、今日妹を見送るのだ。殿下と共に歩むために。
これからの血塗られた人生の幕開けとして、今後このような事が無い様に胸に刻む為に。
正午の鐘が鳴り響く頃。殿下と私は黒い頭巾を被り、黒い衣装を纏っている。それは黒魔術でも行うような出で立ちで北の塔に向かった。
この国の死神を象った衣装を着けて死刑執行を行う。見届け人らも誰か分からぬように全員が黒い頭巾を被っている。
執行人が王家の紋章の入ったゴブレットに、純度の高い酒に致死量の王家に伝わる毒薬を混ぜた液体を運ぶ。
まるで血の様に赤い色。
それをローズマリアの前に持って行った。
ローズは白いワンピース姿で、薄い化粧を施し、髪を降ろしていた。
普段、目立つようにしていた彼女。今は清楚で美しい。その瞳には何の迷いも曇りもなかった。狂気すら見えない。
きっと今の姿が本当のローズマリアなのだ。
彼女を後世の人は姉の婚約者を奪った稀代の悪女と書き記すかも知れないが、まだ17才の少女なのだ。花の命を散らす瞬間まで彼女は美しかった。
「殿下、願いをお聞き入れ下さりありがとうございます」
淑女の礼をとった彼女は今までで一番の所作をした。
毒酒の入ったゴブレットを受け取り、少しずつ口に運んで飲み込んだ。
手から器が落ちる音が響いて、もがきながら私の方に手を伸ばす。
「お…お…ねえ……さま…お…ね…がい……こ…こ……にき…て」
息絶え絶えに、発する言葉は憐憫を誘った。
「ローズ、何?何が言いたいの?」
妹は最後の言葉を私の耳元で告げた。
「これで私はお姉様になれる」
「ローズ、ローズ、ローズ!!」
そう言い残して、ぐったりと倒れ込んだ。妹の憐れな変わり果てた姿を見ながら、泣け叫んでいる私を殿下が抱き寄せた。
両手にはまだ温かいローズマリアの吐血した血で真っ赤に染まっている。
ローズが死んだ途端、王族の訃報を知らせる鐘が王都中に響き渡る。
それは『王太子妃ローズマリア』を悼む弔いの鐘だった。
23
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
『紅茶の香りが消えた午後に』
柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。
けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。
誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる