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妹の残した物
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北の塔に着くとついこの間ローズマリアが暮らしていたとは思えない程、閑散としていた。ベッドのシーツも外され、床にはまだ色鮮やかに彼女の吐血した痕がくっきりと残っていた。
人は大切な物を失ってから気付く。私も妹を亡くしてから何処か寂しく、虚しい気持ちだった。
部屋の隅々まで見たがローズが何かを残しているのではという予想はどうやら外れた様だ。ふとそう言えば、ローズはベッドマットの下によく物を隠す習慣があると、メイドが言っていたような気がする。
私がマットの下に手をやると、ガサガサと何か薄い紙が当たった。引っ張り出してみると、それはローズが書いた走り書き。
飾りも何もない白い紙にある言葉が書かれていた。
入れ替わる。
他にも何かないかと思ったが、何も出て来なかった。結局、これだけが彼女の残した物だった。
その意味が分かったのは、殿下に離宮から出る事を禁じられ、閉じ込められてから1週間後の事だった。
侍女達がいつもより動揺している。
一体何が遭ったのかと訊ねると
「殿下から直接お聞きして下さい。勝手にお伝えした事が解ると罰を受ける事になるので…」
侍女の言い分は最も至極当たり前の事。
夕食時に殿下が私の所に来て、
「食事の後に何があったのか話そう」
そう言われ、食べ終わった後、殿下は淡々と事の次第を私に教えてくれた。
その内容はあまりにも残酷で、殿下の中に眠る恐ろし獣を見たような気がした。
サフィニア・ミシェルウィーは死んだ。
殿下は、表向きで起きた事を話してくれた。
ローズマリアの葬儀が終わって、サフィニアは公爵家の領地に向かう途中、馬車が雨上がりの泥濘に足を取られて崖下に転落する。
そして、乗っていたサフィニアは捜索した結果、馬車の下敷きになって死亡していた。私の代わりにローズマリアの遺体を使ったのだ。だから、毒酒での死が必要だった。顔の判別がつかない様に潰して、髪を染めて……。
殿下にこんな事ができるなんて、信じられない。
たった一人の人間に対する執着の凄まじさに恐怖を覚えてしまう。このことを殿下とユリウス様のどちらが計画したにせよ。陛下はご存じなのだろうか。
ローズは聞かされていたのだ。自分の遺体がどのように使われるのかを、あの走り書きはその事を示唆していた。
だから入れ替わるのだ。私の墓にローズが眠ることになる。
ローズマリアの遺体はサフィニアとなって公爵家に還る。きっと母は正気を失うだろう。そんな母を父は見放すことなく献身的に尽くすはず。
確かにローズマリアは大罪を犯したかもしれないが、二度も殺される程の罪を犯しただろうか。
以前は殿下の金色の透き通った瞳が好きだった。でも今は仄暗い濁った眼に見える。その瞳に宿す狂気の色で私を映している。
怖い。殿下が恐ろしい。
私は背筋が凍りつくのを感じながら、後数日で隣国からの使者が来ることを告げられたのだ。
人は大切な物を失ってから気付く。私も妹を亡くしてから何処か寂しく、虚しい気持ちだった。
部屋の隅々まで見たがローズが何かを残しているのではという予想はどうやら外れた様だ。ふとそう言えば、ローズはベッドマットの下によく物を隠す習慣があると、メイドが言っていたような気がする。
私がマットの下に手をやると、ガサガサと何か薄い紙が当たった。引っ張り出してみると、それはローズが書いた走り書き。
飾りも何もない白い紙にある言葉が書かれていた。
入れ替わる。
他にも何かないかと思ったが、何も出て来なかった。結局、これだけが彼女の残した物だった。
その意味が分かったのは、殿下に離宮から出る事を禁じられ、閉じ込められてから1週間後の事だった。
侍女達がいつもより動揺している。
一体何が遭ったのかと訊ねると
「殿下から直接お聞きして下さい。勝手にお伝えした事が解ると罰を受ける事になるので…」
侍女の言い分は最も至極当たり前の事。
夕食時に殿下が私の所に来て、
「食事の後に何があったのか話そう」
そう言われ、食べ終わった後、殿下は淡々と事の次第を私に教えてくれた。
その内容はあまりにも残酷で、殿下の中に眠る恐ろし獣を見たような気がした。
サフィニア・ミシェルウィーは死んだ。
殿下は、表向きで起きた事を話してくれた。
ローズマリアの葬儀が終わって、サフィニアは公爵家の領地に向かう途中、馬車が雨上がりの泥濘に足を取られて崖下に転落する。
そして、乗っていたサフィニアは捜索した結果、馬車の下敷きになって死亡していた。私の代わりにローズマリアの遺体を使ったのだ。だから、毒酒での死が必要だった。顔の判別がつかない様に潰して、髪を染めて……。
殿下にこんな事ができるなんて、信じられない。
たった一人の人間に対する執着の凄まじさに恐怖を覚えてしまう。このことを殿下とユリウス様のどちらが計画したにせよ。陛下はご存じなのだろうか。
ローズは聞かされていたのだ。自分の遺体がどのように使われるのかを、あの走り書きはその事を示唆していた。
だから入れ替わるのだ。私の墓にローズが眠ることになる。
ローズマリアの遺体はサフィニアとなって公爵家に還る。きっと母は正気を失うだろう。そんな母を父は見放すことなく献身的に尽くすはず。
確かにローズマリアは大罪を犯したかもしれないが、二度も殺される程の罪を犯しただろうか。
以前は殿下の金色の透き通った瞳が好きだった。でも今は仄暗い濁った眼に見える。その瞳に宿す狂気の色で私を映している。
怖い。殿下が恐ろしい。
私は背筋が凍りつくのを感じながら、後数日で隣国からの使者が来ることを告げられたのだ。
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