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初めての社交

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 隣国からきた王女として3ヶ月過ぎた。昼間は客室を。夜は離宮で殿下と過ごしている。

 段々、この二重生活にも慣れて来た頃、月の障りも始まった。一年眠っていたからずっと止まっていたが、医師からこれなら、懐妊できると判断され、正式に私は殿下の婚約者になる。

 王都でも大きく新聞に取り上げられた。今度こそ幸せになれると誰もが信じていた。


 婚約者として出席した舞踏会で、私は自分を取り巻く環境に大きな変化があることに気付いた。

 「本当にそっくりね。瓜二つだわ。サフィニア様に、だから殿下のお心を射止められたのかしら」

 「殿下はまだサフィニア様を想っておいでなのね」
 
 「あれほどそっくりなら、呼び方を間違えるのでは」

 クスクスと嘲笑うかの様に囁き合っている大勢の貴族達。異国の王女が珍しいのかジロジロと不躾に見てくる者もいた。

 好奇な目に晒されながら、私は殿下と息の合ったダンスを披露した。体力も回復してきたので何とか熟せたが、そこでも比べられるのだ。

 彼らの意識の中で『サフィニア・ミシェルウィー』は存在していた。それぞれの思い描いた至高の存在として、並ぶもの無き完璧な淑女。

 この時、悟ったのだ。ああ、ローズマリアはずっとこんな悪意を向けられながら、この王宮で一人で戦っていたのだと。

 一人の伯爵令嬢が私のドレスの裾を踏んだ。彼女は悪びれもなくその足をどけようとはしなかった。

 「貴女は誰のドレスを踏んでいるの?」

 「ふふ。王女様のものですか」

 笑っている令嬢の頬を扇で叩き、

 「誰に向かっているの。私は隣国の王女でこの国の王太子殿下の婚約者よ。それがこの国の礼儀なの。もしそうなら、その足はいらないわよね。切り落としましょうか」

 私はわざとその場にいる全員に聞こえる様に言ったのだ。

 慌てて令嬢の親が謝ったが

 「残念ながら処罰の決定権は陛下にあります。後は陛下のご裁断にまかせます」

 会場は静まり返った。誰も私に歯向かおうとはしなかった。自分たちの行いを恥じている。

 その令嬢は二月の修道院送りが決まった。

 私は自分で「クロア・ティエリティー王女」を創り上げたのだ。

 もう誰も私とサフィニアを混同する者はいなくなった。

 社交界を掌握するようになった頃、私は春に殿下と挙式を挙げる事になる。そして、その頃にある事が解るのだ。

 殿下の子供を懐妊している事を知らされたのだ。

 同時に不安が押し寄せてきた。最近、眩暈が良くするのは何故なのか。

 医師から

 「王女様、大変申し上げにくいのですが、お子様をお産みになられますと、お命に関わります」

 やっと、全てが幸せに向かっていると思っていた冬の終わりの朝の出来事だった。

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