【完結】この愛に囚われて

春野オカリナ

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番外編~ユリウス~

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 春の日差しが強くなり、夏の暑さを感じ始めた若葉の頃。私は懐かしい友人に会いにきたのだ。

 それは王家の墓。

 「久しぶりですね。陛下」

 「もう陛下ではない。昔の様に呼んでくれないか。アンソニー」

 「では、ユリウス。これからどうするんだ。まだ40前だろう。一生結婚しないつもりなのか?」

 「いや、もう陛下も即位された。なんの憂いもないから、そろそろ彼女の求婚に答えたいと思っている」

 「ああ、本気だったんだ…最初、子供のおままごとかと思っていたんだが…」

 「仕方がない。親子ほど齢が離れているからと断り続けていたのだが、あんな行動にでるとは…」

 そう、私はジークレスト殿下とサフィニア嬢との間に生まれた王女と一月後に結婚する。

 王女の名前もサフィニアなのだ。名前を付けたのはジークレスト殿下だった。彼は自分が死ぬ事を悟っていた。だから男の名前と女の名前を残していた。先月、私は王太子ジェラルド殿下に王位を譲位した。

 ジェラルド殿下の妻はアンソニーとアモネアとの長女でマリーベルといい、聡明で美しい少女だ。顔立ちはアモネアに良く似ている。融通の利かない所は父親に似ている。

 ジェラルド陛下とマリーベルは幼馴染で二人の新婚生活は上手くいっている。

 その妹王女サフィニア殿下に長年、求婚を受け続けた私はとうとう、先月王命で婚姻を命じられた。

 父親譲りの銀髪と母親譲りの青い瞳の少女は、物心ついた時から私の妻になると言って訊かない。

 齢のことを言っても先の短い私とまだ年若い王女との結婚に貴族達もあまりいい顔をしていない。

 美しい王女の降嫁を望む声は王家に多く寄せられていたが、俄然本人が私に拘り、寝所に忍び込むほどの執着を見せていた為、泣く泣く諦めた者も少なくない。

 これが王家の執着心なのかもしれない。

 あの立太子の式典後、国王陛下が私に言った言葉が忘れられない。

 「お前には苦労をかける。ジークレストはかつてこの国を滅ぼしかけた国王と同じ様に一人の女性に執着した。彼女の名前もサフィニアといって伯爵家の未亡人だった女性。未婚時代から密かに想っていた恋心が夫を亡くした彼女を監禁し、束縛する程になる頃に、王妃との子供が出来たのだ。それが私の祖父。しかし、またもや祖父も隣国の王女に恋をして自我を忘れてしまう程溺れたのだ。その子孫がミシェルウィー公爵家。その両方の血を受け継いだサフィニアに執着し続ける息子に私は一抹の不安を抱いた。だから、サフィニアに頼んで、我が子をあの世に送ったのだ。一人の女を手に入れる為に、隣国との交渉まで利用し、その妹の死さえも偽造した。その執着心は何れ後継ぎの子供の命を脅かすかもしれぬと判断したのだ。何代か毎にこの執着を持つ王族が現れる。今後も出てくるだろう。ジークレストとサフィニアが何の障害も無く結ばれていたなら、結末は残酷な物にはならなかった。もっと早くに気付くべきだった。二人の子供の逝く末に幸多かれと願う事しかできぬ」

 私にも執着はあったが、ジークレスト殿下の様に全てを犠牲にしてまで、求めた事はない。所詮その程度の想いだったのだろう。

 だから、王女に好かれていると気付いた時には遅かった。彼女を拒めば拒むほど、執着心を煽り、遂には寝所に夜這いに訪れ、拒絶すれば自殺未遂をしたのだ。

 遂には私もそこまで想って下さるのならと折れた。

 彼女に不満がある訳ではないが、いつか彼女より先に逝かなくてはならなくなった時、私もまたサフィニアと同じ選択をするのではないかと考えてしまう。

 王女と共に死ぬ事を……。


 「ユリウス様ーっ」

 「噂をすればだな。私はこの辺で失礼するよ。お邪魔虫にはなりたくないからね」

 手をひらひらとさせながらアンソニーは去って行った。

 「ユリウス様。お父様とお母様とのお話は済んだのですか?」

 「ああ、終わったよ。もう日が高くなってきた。そろそろ帰ろうか。大公家に」

 「はい、旦那様」

 彼女に何の不満があるだろう。ただ恐れているだけ、昔の想い人に生き写しの彼女に囚われる事を。

 だが、もう遅いのだろう。死が別つことを望まない私の心には既に王女が棲み付いている。

 

 私は掴まってしまった。


 この王女サフィニアに。
 
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