【本編完結済】この想いに終止符を…

春野オカリナ

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予期せぬ訪問客

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 セレニィーの裁判から数日経ったある日、伯父であるマリウスから、一度侯爵家に帰る様にと伝言を受けて、シェリーネはジュリアスと共に侯爵家に帰って来た。

 「わざわざ呼び立ててすまないな。屋敷の部屋を片付けていたんだが、シェリーネにも一応確認してほしくてな」

 「いいえ、わたしこそ。伯父様に何もかも任せてしまって申し訳ないです」
 
 「いいんだ。これも俺の役目だと思っている」

 「ありがとうございます」

 「取り敢えず、見てくれないか」

 「はい…」

 マリウスに連れられて、広間の方に移動した。

 そこにはアレンやセレニィー、ロゼリナの私物が並べられている。

 セレニィーの贅沢なドレスやロゼリナのお気に入りのアクセサリー、アレンが競売で競り落とした絵画など。どれもこれもシェリーネには関係のないものばかりだった。

 「あら、これは…」

 シェリーネは、宝石箱からルビーのブレスレットを見つけて懐かしむ。それは母エリーロマネが大切そうに身に付けていたものだった。

 それがどうしてここに…。

 「これは母のものです。大切そうにしていたのに…なぜ、ここにあるんでしょうか?」

 「他にはないか」

 マリウスがシェリーネからブレスレットを受け取ると、眉を顰めて訝しんだ。だが、懐かしそうに見つめている瞳には深い哀しみの色も見えていた。

 「探してみます」

 シェリーネとマリウスは他にないかと探すと、山の様なドレスの中から代々引き継がれているウェディングドレスや宝石がセレニィーの私物の中に埋もれていた。全てのものにシェリーネは見覚えがあった。

 「あの女、本当に手癖が悪かったんだな」

 ため息交じりにマリウスは呟いた。

 ロゼリナの宝石箱の中にあるものを見つけて、思わずシェリーネは手に取った。

 ──ああ…自分はなんて愚かだったのかしら。こんな頃からすでに二人はそういう関係だったのね。

 シェリーネは ロゼリナの髪飾りを手に取って眺めていると、手伝ってくれていたジュリアスに声を掛けられた。

 「それに何かあるの?」

 「いいえ、なんでもないです」

 終わった事だとシェリーネは気を取り直して、又探し出す。

 そのロゼリナの髪飾りには見覚えがあった。同じデザインの色違いをシェリーネも持っている。

 セザールが8才の誕生日にシェリーネに贈ってくれたもので、『特別に職人に作ってもらったものなんだ。同じもの・・・・は無い。シェリーネだけのものだよ』そう言ってプレゼントしてくれたものだった。

 なのに、同じものをロゼリナは持っていた。年数の経っている髪飾りはシェリーネと同じ時期に作られた物なのだろう。所々、欠けている。
 
 大切に特別な時にしか付けないシェリーネと違って、ロゼリナは壊れるまで付けていた。宝石箱の隅に押し込まれる様に入っていた髪飾りは、今のロゼリナとセザールの関係を表しているようだった。

 興味がある内は大切にされ、壊れれば隅に追いやられる。

 セザールは今、辺境伯家に行く用意をしていると人伝えに聞いている。もう二度と会えないかもしれないが、シェリーネは、彼の幸せを心の中で願った。

 例え、セザールが婚約者で無くなっても、幼い頃からシェリーネの傍にいてくれたのは彼なのだから。

 セザールとの思い出の品を見てもシェリーネの心がざわつくことはなかった。

 もう過去の事として、シェリーネの中で整理がついていたのだろう。それに、ジュリアスの存在も大きい。常にシェリーネを気遣ってくれる彼の優しさがシェリーネの心の傷を徐々に癒してくれている事だけは間違いなかった。

 シェリーネ達は、その後も次々と捨てるものと残しておくものを分けて行った。

 あらかた片付いて「お茶にしようか」とマリウスが声を掛けてきた時、エントランスホールの呼び鈴が鳴る。

 家令が出迎えに行ったが、戻ってくる時に困った表情を見せていた。

 「どうしたんだ?」

 「そ…それが…デミオン侯爵夫人が突然いらして…」

 その言葉に思わず「なぜ?今更…」という疑問がシェリーネの頭の中に浮かんだ。

 「何の用なんだ?先触れも出さずに…」

 「シェリーネお嬢様に用があるとおっしゃられて…」

 「わかった。俺が対応するから、君達はここにいてくれ」

 マリウスは、シェリーネとジュリアスを部屋に残して、ホールの方に足早に向かった。

 その後、ホールの方から言い争うような声が聞こえてきて、

 「いい加減にしろ!!ここを何処だと思っているんだ。さっさと帰ってくれ!」

 「どうして、会わせてくれないの?少し話がしたいだけなのに…」

 「くだらない話ならしなくていい。これ以上シェリーネを困らせる事をしないでくれ」

 「くだらない事ではないわ。セザールと婚約を結び直しましょうという事がそんなにおかしなことなの?あの女の娘はいないわ。何も障害がなくなったのだから、元の鞘に納まった方が自然でしょう」

 「話にならんな。そもそも、貴女の息子が仕出かした不始末だ。シェリーネには何も落ち度はない」

 「分かっているわ。だからこそよ。だってシェリーネはあの方に認められていないのでしょう。反対されていると聞いたわ。なら、婚約は解消されるのではなくて」

 「どこから聞いたのか知らないが、既に国王の許可は得ている。他の者がそれに異を唱える事など出来ない」

 「あら、でもあの方…イフェリナ王太后様は別よね。その王太后様が反対しているとなれば、マクドルー公爵家に嫁入りするのは難しいでしょう。どんなに名門のシンドラー侯爵家の跡取りでも、二度も婚約を解消されれば、次の婚約は難しくなるわ。それならばセザールと縁を結び直せば…」

 「黙れ!!聞き苦しい事をいつまでも」

 食い下がって引かないデミオン侯爵夫人。マリウスは何とか宥めてその日は無理矢理帰らせた。

 会話の一部が聞こえてきたシェリーネは、ジュリアスに訊ねた。

 「さっき聞こえた話は本当なの?王太后様が反対しているって」

 「ああ、事実だ」

 そう言ってジュリアスは苦渋を飲む様な表情を浮かべて目線を逸らした。

 その様子にシェリーネは、一抹の不安を抱いたのだった。
 

























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