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アリスティア編
父と対峙する
私達が応接室に入ると父の表情は暗かった。この数日間で面窶れしていた。いつもの様な威圧的な態度はない。これなら冷静に話が出来るかもしれない。
「お義父様、お呼びたてして申し訳ありません。本日は母の遺品を整理したら、お義父様宛の手紙などが見つかったのでお渡ししたいのです」
私は母の残した父宛ての手紙と母に送られてきた夥しい嫌がらせの怪文書を父に渡し、マリエルの調査報告書も一緒に渡した。
まだマリエルの顔を見るのは怖い。私の震える手を隣に座っているレイラン様がそっと握ってくれている。
父は母の最期の手紙を見て驚いた。その日付は私の6才の誕生日のものだった。それ以降は書いていない様だった。
「これは、どういうつもりなんだ。今更こんな事を知ってどうなると…」
「その手紙はお義父様に送られていましたが、先日トーマスから聞いた話では、貴方は封も開けずに送り返したとか。処分せずに母が持っていたのは母にとって大切なものだったからです」
「大切なものだと、これは離縁状だぞ!それも日付は10年前だ。今更こんなものを見せられてどうしろというんだ」
「貴方が勝手に見なかっただけです。私に言うのは止めてください!私だって辛いのです。貴方に愛されたかったし、愛したかった。全てを捨ててその愛人とその娘を選んだのは他ならぬお義父様、貴方自身です。母は貴方を公爵家に縛り付けなかった。執務は母が行なっていた。一体そんな母の何が不満だったのです」
「私は、ただ昔のあの頃に戻りたかっただけなのだ」
「そんな事は不可能です。貴方は母に愛人と娘を引き取りたいと言った。そして、貴方との思い出のあの別邸で過ごすことを許した。その意味を貴方には解るのではないですか?母はあの時に心の準備をしていたのでしょう。貴方が昔を思い出して、再び愛してくれるのを待っていた。ただそれだけです。でも、5才の誕生日に貴方は選んだ。その愛人と娘をその後一年間、母の元には匿名の怪文書が送られてきました。その字が誰の物か分かりますよね。お義父様」
父は一緒に渡した手紙の内容を見て、顔を青くして持っている手は小刻みの震えている。も片方の手は口元を覆っている。
その内容は悍ましいものだった。父との日常をありありと書き記し、その中には閨の睦言にまで記してあった。こんなものを一年も毎月送られて来れば気が触れても当たり前だ。
そうだから耐えられなくなった母は離縁状を書いて、父の元に送ったのだ。もう夫の心は自分にないと知ったから、解放するために……。
ただ、私に言い聞かせたのは、父が公爵家を出ていかなかったことに不安を覚えていたのだろう。私が母が亡くなった後、事実を知って父を断罪するのではないかと恐れていた。
だから、トーマスとベラに私が訪ねてきて、昔の自分たちの事を聞いてきたら事実を話すように伝えていた。
母はもう何年も自分が死んだ後の事を考えて用意していたのだ。父が愛人に貢いでいたお金は母が父の為に用意した母個人のもの。公爵家のものではなかった。母は帳簿を残していて、父に罪を着せない様に配慮していた。
それに祖父宛ての手紙にも死んだ後、父に母の財産がいくように書いてあった。例え、公爵家を出てもどうにか生きていけるように住まいも用意してあった。きっと離縁の際の慰謝料のつもりなのだろう。
それが父に対する母なりの贖罪なのかもしれない。
「最後に母は私の父はオーウェンだと言い聞かせられました。母が亡くなった時、貴方の写真を握りしめて逝きました。写真はモノクロですが、左目の下に泣き黒子がありました。ローフェルにはありませんよね」
私の言葉を聞いて、父は、手紙に入っていた鍵を手に握っていた。その鍵を握りしめながら、壊れた玩具のようにただ母の愛称を呼んでいた。
ーーーアディーーー
ローフェルにも呼ばせなかった母の愛称。特別という意味で父にだけ許していたのだろうその名を呟いていた。
マリエルの調査報告書を見ている父の様子がおかしいと思ったのか、横からエリーゼが覗き込んで表情が暗くなっていく。
それもそうだろう。今まで自分は貴族である父の子供だと信じていたのに、別の人間の種で出来た子供で、赤の他人の家で贅沢に暮らしていたのだ。私を姉だと言って譲らなかったあの笑顔はもう彼女にはない。絶望を映した表情で私の方を見ている。
マリエルは言い訳を考えながら、目を泳がせていた。
「で、貴方はどうしたいのですか?オーウェン卿」
話を切り出したのは、レイラン様だった。
「お義父様、お呼びたてして申し訳ありません。本日は母の遺品を整理したら、お義父様宛の手紙などが見つかったのでお渡ししたいのです」
私は母の残した父宛ての手紙と母に送られてきた夥しい嫌がらせの怪文書を父に渡し、マリエルの調査報告書も一緒に渡した。
まだマリエルの顔を見るのは怖い。私の震える手を隣に座っているレイラン様がそっと握ってくれている。
父は母の最期の手紙を見て驚いた。その日付は私の6才の誕生日のものだった。それ以降は書いていない様だった。
「これは、どういうつもりなんだ。今更こんな事を知ってどうなると…」
「その手紙はお義父様に送られていましたが、先日トーマスから聞いた話では、貴方は封も開けずに送り返したとか。処分せずに母が持っていたのは母にとって大切なものだったからです」
「大切なものだと、これは離縁状だぞ!それも日付は10年前だ。今更こんなものを見せられてどうしろというんだ」
「貴方が勝手に見なかっただけです。私に言うのは止めてください!私だって辛いのです。貴方に愛されたかったし、愛したかった。全てを捨ててその愛人とその娘を選んだのは他ならぬお義父様、貴方自身です。母は貴方を公爵家に縛り付けなかった。執務は母が行なっていた。一体そんな母の何が不満だったのです」
「私は、ただ昔のあの頃に戻りたかっただけなのだ」
「そんな事は不可能です。貴方は母に愛人と娘を引き取りたいと言った。そして、貴方との思い出のあの別邸で過ごすことを許した。その意味を貴方には解るのではないですか?母はあの時に心の準備をしていたのでしょう。貴方が昔を思い出して、再び愛してくれるのを待っていた。ただそれだけです。でも、5才の誕生日に貴方は選んだ。その愛人と娘をその後一年間、母の元には匿名の怪文書が送られてきました。その字が誰の物か分かりますよね。お義父様」
父は一緒に渡した手紙の内容を見て、顔を青くして持っている手は小刻みの震えている。も片方の手は口元を覆っている。
その内容は悍ましいものだった。父との日常をありありと書き記し、その中には閨の睦言にまで記してあった。こんなものを一年も毎月送られて来れば気が触れても当たり前だ。
そうだから耐えられなくなった母は離縁状を書いて、父の元に送ったのだ。もう夫の心は自分にないと知ったから、解放するために……。
ただ、私に言い聞かせたのは、父が公爵家を出ていかなかったことに不安を覚えていたのだろう。私が母が亡くなった後、事実を知って父を断罪するのではないかと恐れていた。
だから、トーマスとベラに私が訪ねてきて、昔の自分たちの事を聞いてきたら事実を話すように伝えていた。
母はもう何年も自分が死んだ後の事を考えて用意していたのだ。父が愛人に貢いでいたお金は母が父の為に用意した母個人のもの。公爵家のものではなかった。母は帳簿を残していて、父に罪を着せない様に配慮していた。
それに祖父宛ての手紙にも死んだ後、父に母の財産がいくように書いてあった。例え、公爵家を出てもどうにか生きていけるように住まいも用意してあった。きっと離縁の際の慰謝料のつもりなのだろう。
それが父に対する母なりの贖罪なのかもしれない。
「最後に母は私の父はオーウェンだと言い聞かせられました。母が亡くなった時、貴方の写真を握りしめて逝きました。写真はモノクロですが、左目の下に泣き黒子がありました。ローフェルにはありませんよね」
私の言葉を聞いて、父は、手紙に入っていた鍵を手に握っていた。その鍵を握りしめながら、壊れた玩具のようにただ母の愛称を呼んでいた。
ーーーアディーーー
ローフェルにも呼ばせなかった母の愛称。特別という意味で父にだけ許していたのだろうその名を呟いていた。
マリエルの調査報告書を見ている父の様子がおかしいと思ったのか、横からエリーゼが覗き込んで表情が暗くなっていく。
それもそうだろう。今まで自分は貴族である父の子供だと信じていたのに、別の人間の種で出来た子供で、赤の他人の家で贅沢に暮らしていたのだ。私を姉だと言って譲らなかったあの笑顔はもう彼女にはない。絶望を映した表情で私の方を見ている。
マリエルは言い訳を考えながら、目を泳がせていた。
「で、貴方はどうしたいのですか?オーウェン卿」
話を切り出したのは、レイラン様だった。
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