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アリスティア編
父の記憶
二日後、学院でいつものようにクラスメイトのエミリーナ様やアイリーン様と昼食を摂っていると、突然レイラン様が教室に入ってきた。
「今すぐ、私と一緒に来るんだ。学院には早退の手続きを済ませてあるから大丈夫、心配ない」
「何事ですか?」
「今は急いでいるから、説明は馬車の中でする」
そう言われれば何も言えない。
馬車に乗り込むと
「落ち着いて聞くんだ。オーウェン卿が自殺しようとした。あの別邸で」
その言葉に息が出来なくなる。過呼吸の様に口をパクパクさせている私にレイラン様は
「落ち着いてアリスティア。大丈夫だから、幸い発見が早くて命は助かった。しかし、まだ意識が戻っていないらしい」
命が助かった事にホッとしたものの。私の心に影を落とした。
やはり、父に本当の事を告げなければよかったのだろうか?そうすれば父はこんな事をしなかったのでは……
考えても仕方がないかもしれないがどうしても悪いように考えてしまう。
「いいかい、これは父上の問題だ。君の責任ではない。どんな結果になっても受け入れる覚悟はいるだろう。私がついている」
レイラン様は私の肩を抱き寄せて、手を強く握りしめてくれた。
馬車が病院に着くまで私は祈り続けた。折角新しい人生を歩もうとお互いに決めた途端の出来事。
無事に目が覚めてくれることを願わずにはいられなかった。
母の言っていた父は、さびしがり屋で弱い人だという意味がようやく私にもわかった気がする。
きっと父は兄を裏切った自責の念で、母との関係が上手くいかなかった。もし、兄が生きていたなら状況は変わったのかもしれないが。その上、愛されていると信じていたマリエルに裏切られ続けた。しかも血の繋がりの無い子供を実の娘だと信じていた。絶望した父に残されたのは母への思いだったのかもしれない。
別邸の母の部屋は閉ざされていて、鍵が掛かっていた。その鍵は母があの父宛てに送った離縁状の中に入っていた。父はきっとあれが母の部屋の鍵だと知っていたに違いない。
一度はあの部屋で床を共にしたのだから、その部屋に入って首を吊って死のうとしたらしい。開かずの間となっている部屋が開いている事に疑問を持った使用人が発見しようだ。
発見が早くて、命は助かったがまだ目覚めていない危険な状態だった。
病院に着くとマリエルとエリーゼがいた。
「お前の所為よ。お前が余計なことをあの人に吹き込んだりしなければこんなことにはならなかった」
「そうよ。貴女の所為よ。さぞいい気分だったでしょうね。愛されている私を貶めて、でも残念ね。お父様は私を選んだわ。貴女は選ばれていない。愛されていないのは貴女の方よ」
かつて天使のような笑顔を振りまいていたエリーゼは、その母親の様になんでも人の所為にするただの醜い女になっていた。明るく無邪気な少女はいない。ほんの数日までとは打って変わったその姿に憐みしか湧かなかった。
「やめなさい。見当違いな事でアリスティアを責めるのは許さない。君たちはここがどこだか解っているのか。静かに待たないか」
レイラン様が静止した時に医師から、父が目を開けたと知らせられ、いの一番にマリエル達が父の元に駆け寄った。
だが、直ぐに悲鳴に似た声で
「そ…そんな、こんなバカなことがあるもんですか」
「う…嘘よね。お父様」
何かが違っている。私の姿を見た父は
「ああ、ティアここにおいで、私の娘」
虚ろな瞳で、一度も呼ばれたことのない愛称を向けられた事のない微笑みで私を見ている。
おずおずと父のベッドまで近づくと手を握られ、頭を撫でられた。今まで経験もしたことのない不思議な感覚で父を見ている。
「これは一体どういう事なんですか?」
私が医師に訊ねると
「詳しい話は別室で」
私が傍を離れようとすると、父は嫌がった。仕方なく
「私が代わりに聞いてこよう。君は父上についているといいよ」
「分かりました。お願いします」
私は父の傍にいる事にした。その間もマリエルとエリーゼは私の方を睨んでいる。二人とも美しい顔を歪ませながら。
こんな顔のエリーゼを見たら信者達も100年の恋も冷めそうね。
そんなことを考えながらレイラン様を待っていると、父は私の額にキスを落とした。
恥ずかしい、こんなことはされたことがない。どんな心境の変化なのだろう。
その後、レイラン様が医師から聞いた話を聞かされて、私達は驚いた。
父オーウェンは【記憶欠乏症】と診断された。
「今すぐ、私と一緒に来るんだ。学院には早退の手続きを済ませてあるから大丈夫、心配ない」
「何事ですか?」
「今は急いでいるから、説明は馬車の中でする」
そう言われれば何も言えない。
馬車に乗り込むと
「落ち着いて聞くんだ。オーウェン卿が自殺しようとした。あの別邸で」
その言葉に息が出来なくなる。過呼吸の様に口をパクパクさせている私にレイラン様は
「落ち着いてアリスティア。大丈夫だから、幸い発見が早くて命は助かった。しかし、まだ意識が戻っていないらしい」
命が助かった事にホッとしたものの。私の心に影を落とした。
やはり、父に本当の事を告げなければよかったのだろうか?そうすれば父はこんな事をしなかったのでは……
考えても仕方がないかもしれないがどうしても悪いように考えてしまう。
「いいかい、これは父上の問題だ。君の責任ではない。どんな結果になっても受け入れる覚悟はいるだろう。私がついている」
レイラン様は私の肩を抱き寄せて、手を強く握りしめてくれた。
馬車が病院に着くまで私は祈り続けた。折角新しい人生を歩もうとお互いに決めた途端の出来事。
無事に目が覚めてくれることを願わずにはいられなかった。
母の言っていた父は、さびしがり屋で弱い人だという意味がようやく私にもわかった気がする。
きっと父は兄を裏切った自責の念で、母との関係が上手くいかなかった。もし、兄が生きていたなら状況は変わったのかもしれないが。その上、愛されていると信じていたマリエルに裏切られ続けた。しかも血の繋がりの無い子供を実の娘だと信じていた。絶望した父に残されたのは母への思いだったのかもしれない。
別邸の母の部屋は閉ざされていて、鍵が掛かっていた。その鍵は母があの父宛てに送った離縁状の中に入っていた。父はきっとあれが母の部屋の鍵だと知っていたに違いない。
一度はあの部屋で床を共にしたのだから、その部屋に入って首を吊って死のうとしたらしい。開かずの間となっている部屋が開いている事に疑問を持った使用人が発見しようだ。
発見が早くて、命は助かったがまだ目覚めていない危険な状態だった。
病院に着くとマリエルとエリーゼがいた。
「お前の所為よ。お前が余計なことをあの人に吹き込んだりしなければこんなことにはならなかった」
「そうよ。貴女の所為よ。さぞいい気分だったでしょうね。愛されている私を貶めて、でも残念ね。お父様は私を選んだわ。貴女は選ばれていない。愛されていないのは貴女の方よ」
かつて天使のような笑顔を振りまいていたエリーゼは、その母親の様になんでも人の所為にするただの醜い女になっていた。明るく無邪気な少女はいない。ほんの数日までとは打って変わったその姿に憐みしか湧かなかった。
「やめなさい。見当違いな事でアリスティアを責めるのは許さない。君たちはここがどこだか解っているのか。静かに待たないか」
レイラン様が静止した時に医師から、父が目を開けたと知らせられ、いの一番にマリエル達が父の元に駆け寄った。
だが、直ぐに悲鳴に似た声で
「そ…そんな、こんなバカなことがあるもんですか」
「う…嘘よね。お父様」
何かが違っている。私の姿を見た父は
「ああ、ティアここにおいで、私の娘」
虚ろな瞳で、一度も呼ばれたことのない愛称を向けられた事のない微笑みで私を見ている。
おずおずと父のベッドまで近づくと手を握られ、頭を撫でられた。今まで経験もしたことのない不思議な感覚で父を見ている。
「これは一体どういう事なんですか?」
私が医師に訊ねると
「詳しい話は別室で」
私が傍を離れようとすると、父は嫌がった。仕方なく
「私が代わりに聞いてこよう。君は父上についているといいよ」
「分かりました。お願いします」
私は父の傍にいる事にした。その間もマリエルとエリーゼは私の方を睨んでいる。二人とも美しい顔を歪ませながら。
こんな顔のエリーゼを見たら信者達も100年の恋も冷めそうね。
そんなことを考えながらレイラン様を待っていると、父は私の額にキスを落とした。
恥ずかしい、こんなことはされたことがない。どんな心境の変化なのだろう。
その後、レイラン様が医師から聞いた話を聞かされて、私達は驚いた。
父オーウェンは【記憶欠乏症】と診断された。
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