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アウトゥーラ編
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アウトゥーラの母サブリーナは、ある事情でウィスラー侯爵に嫁ぐことになった。
サブリーナはジュラール公爵令嬢で、母親のマルガリーナはゼネラル侯爵家から嫁いできた。
その為、従兄妹であるゼネラル侯爵兄妹とも仲が良かった。特にゼネラル侯爵の嫡男ロメストとは学園を卒業したら婚約する予定であった。王家も王族と第二の王都とまで呼ばれるほどの財力を持つゼネラル侯爵家との縁を望んでいた。
しかし、17才の夏。
その年も長雨の影響で街道が封鎖され、いつもの年の様にサブリーナはゼネラル侯爵領を訪れる事が叶わなかった。
あの日、兄アステッドは王宮に呼ばれ、サブリーナは学園からの帰り道、一人の平民の少女に出くわした。賊に襲われ、職も無く明日食べる物にも事欠く有様だと訴えられた。
少女に同情したサブリーナは、彼女を自分の下働きとして公爵家に雇い入れた。元々、善良な性質の公爵夫妻も兄もサブリーナの考えに賛同した。
だが、少女は彼らの親切を仇で返したのだ。
夏祭りの日、少女はサブリーナを上手く誘導して、護衛や侍女たちから引き離すと待ち構えていた馬車に無理矢理乗せて、薬を嗅がせて意識を奪った。
彼女が再び目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。隣にはオーマン・ウィスラーの姿がある。
青褪めて震えるサブリーナにオーマンは、「一夜を共にした」と告げたのだ。
そして、瞬く間に社交界に二人の醜聞は広まってしまい、結局サブリーナはオーマンと結婚してアウトゥーラが生まれた。
しかし、初恋の相手を忘れられなかったサブリーナの元にロメストが行方不明という悲報が入った。当時サブリーナは二人目の子供を身籠っており、心労を患った挙句難産だった事もあり、そのままお産でサブリーナは帰らぬ人となった。
不運な事にサブリーナが亡くなった後にロメストは、記憶を無くした状態で、隣領地で発見された。その後、彼は生涯独身を貫いた。
彼の妹カテリーナは、側妃となって王子を産んだ。
それが第三王子セスタクトだった。
アウトゥーラは伯父の公爵に連れられ王城に付いて行っていた。そしてセスタクトと幼馴染の関係になった。
セスタクトは出会った頃からアウトゥーラにだけは優しい。
しかし、淡い金色の髪と王家特有の青い瞳の所為で「氷の王子」と呼ばれることが多かった。誰にも心を開かない冷めた視線で相手を凍り付かせるという意味で…。
アウトゥーラは知らない。
父親オーマンが愛人であるバーバラと結託して、サブリーナを貶めたことを…。
ジュラール公爵とゼネラル侯爵そして王家ではすでに調べがついていた。アウトゥーラが全てを忘れて新たな人生を歩むことを皆は望んでいた。
ただ一人、納得できない物が居るとすればエディウスの兄シューマンだった。
彼は、アウトゥーラの大きな後ろ盾を得る為に、弟をウィスラー侯爵家の婿にする様に父親を唆した。だが、結果は愚かな弟が自分の計画を台無しにしたとエディウスをことあるごとに詰った。
「この!!愚か者め!!」
「兄上…」
「アウトゥーラと結婚できなければ、ウィスラー侯爵家との繋がりなど何の役にも立たない。全くお前は昔から役に立たない」
兄シューマンに怒鳴られて、エディウスはきょとんとしていた。バーバナも同じウィスラー侯爵の娘だ。何が違うのか分からなかった。
「本気で聞いているのか?」
顔を片手で覆いながら呆れた声を出す兄の意図するところが全く見えないエディウスは首を傾げるばかりだった。
「アウトゥーラは正真正銘の純潔の貴族令嬢だ。しかし、異母妹は平民の血が混ざっている混血児だ。それにアウトゥーラの血筋はジュラール公爵、ゼネラル侯爵そして王家の血も入っている。これだけ言えばお前にも分かるだろう。名前だけのウィスラー侯爵家にはアウトゥーラ以外に価値のある者はない。彼女が居るだけで少なくても二つの名家が支援してくれる。しかし、そのアウトゥーラが侯爵家から出た以上、今までの様な支援は受けられないだろう。必然的にウィスラー侯爵家は間違いなく落ちぶれていく。お前はその泥船に乗ってしまったんだ。後悔しても遅い。これからは自力で侯爵家を立て直すんだな。うちも他家に支援できるほど余力はない」
兄に真実を突きつけられて、初めてエディウスは自分の足元の危うさを痛感した。
──どうして、僕はあの時バーバナを選んだんだろう。アウトゥーラの何が……。
エディウスは心の底から後悔したが、自分たちがした愚行は既に多くの貴族の知るところとなり、学園を卒業してエディウスはバーバナと結婚してウィスラー侯爵家を継ぐことになったのだ。
サブリーナはジュラール公爵令嬢で、母親のマルガリーナはゼネラル侯爵家から嫁いできた。
その為、従兄妹であるゼネラル侯爵兄妹とも仲が良かった。特にゼネラル侯爵の嫡男ロメストとは学園を卒業したら婚約する予定であった。王家も王族と第二の王都とまで呼ばれるほどの財力を持つゼネラル侯爵家との縁を望んでいた。
しかし、17才の夏。
その年も長雨の影響で街道が封鎖され、いつもの年の様にサブリーナはゼネラル侯爵領を訪れる事が叶わなかった。
あの日、兄アステッドは王宮に呼ばれ、サブリーナは学園からの帰り道、一人の平民の少女に出くわした。賊に襲われ、職も無く明日食べる物にも事欠く有様だと訴えられた。
少女に同情したサブリーナは、彼女を自分の下働きとして公爵家に雇い入れた。元々、善良な性質の公爵夫妻も兄もサブリーナの考えに賛同した。
だが、少女は彼らの親切を仇で返したのだ。
夏祭りの日、少女はサブリーナを上手く誘導して、護衛や侍女たちから引き離すと待ち構えていた馬車に無理矢理乗せて、薬を嗅がせて意識を奪った。
彼女が再び目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。隣にはオーマン・ウィスラーの姿がある。
青褪めて震えるサブリーナにオーマンは、「一夜を共にした」と告げたのだ。
そして、瞬く間に社交界に二人の醜聞は広まってしまい、結局サブリーナはオーマンと結婚してアウトゥーラが生まれた。
しかし、初恋の相手を忘れられなかったサブリーナの元にロメストが行方不明という悲報が入った。当時サブリーナは二人目の子供を身籠っており、心労を患った挙句難産だった事もあり、そのままお産でサブリーナは帰らぬ人となった。
不運な事にサブリーナが亡くなった後にロメストは、記憶を無くした状態で、隣領地で発見された。その後、彼は生涯独身を貫いた。
彼の妹カテリーナは、側妃となって王子を産んだ。
それが第三王子セスタクトだった。
アウトゥーラは伯父の公爵に連れられ王城に付いて行っていた。そしてセスタクトと幼馴染の関係になった。
セスタクトは出会った頃からアウトゥーラにだけは優しい。
しかし、淡い金色の髪と王家特有の青い瞳の所為で「氷の王子」と呼ばれることが多かった。誰にも心を開かない冷めた視線で相手を凍り付かせるという意味で…。
アウトゥーラは知らない。
父親オーマンが愛人であるバーバラと結託して、サブリーナを貶めたことを…。
ジュラール公爵とゼネラル侯爵そして王家ではすでに調べがついていた。アウトゥーラが全てを忘れて新たな人生を歩むことを皆は望んでいた。
ただ一人、納得できない物が居るとすればエディウスの兄シューマンだった。
彼は、アウトゥーラの大きな後ろ盾を得る為に、弟をウィスラー侯爵家の婿にする様に父親を唆した。だが、結果は愚かな弟が自分の計画を台無しにしたとエディウスをことあるごとに詰った。
「この!!愚か者め!!」
「兄上…」
「アウトゥーラと結婚できなければ、ウィスラー侯爵家との繋がりなど何の役にも立たない。全くお前は昔から役に立たない」
兄シューマンに怒鳴られて、エディウスはきょとんとしていた。バーバナも同じウィスラー侯爵の娘だ。何が違うのか分からなかった。
「本気で聞いているのか?」
顔を片手で覆いながら呆れた声を出す兄の意図するところが全く見えないエディウスは首を傾げるばかりだった。
「アウトゥーラは正真正銘の純潔の貴族令嬢だ。しかし、異母妹は平民の血が混ざっている混血児だ。それにアウトゥーラの血筋はジュラール公爵、ゼネラル侯爵そして王家の血も入っている。これだけ言えばお前にも分かるだろう。名前だけのウィスラー侯爵家にはアウトゥーラ以外に価値のある者はない。彼女が居るだけで少なくても二つの名家が支援してくれる。しかし、そのアウトゥーラが侯爵家から出た以上、今までの様な支援は受けられないだろう。必然的にウィスラー侯爵家は間違いなく落ちぶれていく。お前はその泥船に乗ってしまったんだ。後悔しても遅い。これからは自力で侯爵家を立て直すんだな。うちも他家に支援できるほど余力はない」
兄に真実を突きつけられて、初めてエディウスは自分の足元の危うさを痛感した。
──どうして、僕はあの時バーバナを選んだんだろう。アウトゥーラの何が……。
エディウスは心の底から後悔したが、自分たちがした愚行は既に多くの貴族の知るところとなり、学園を卒業してエディウスはバーバナと結婚してウィスラー侯爵家を継ぐことになったのだ。
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