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カーネリアンの夢
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「カーネリアン、ふふ、私とお庭を散歩しましょうよ」
あれからこの女は当然の様に俺に纏わり付いてくる。
ナターシャ・ゲイル伯爵令嬢の癖に淑女としてのマナーがなっていない。
まるで娼婦の様な出で立ちで、女王様気取りで学園を我が物顔で牛耳っていた。
何故なら彼女の取り巻きにアトラス殿下がいたからだ。
殿下からすればただの友人に過ぎないかも知れないが、この女は違っていた。
ダンスが下手くそなエルを壁の花にさせておいて、別の令嬢の手を取る殿下に反吐が出る。
学生時代の若い過ち等と言える訳がない。
学園その物が将来歩むべき道の訓練の場なのだから、誰と誰が繋がっていて、誰をどう使えば国を有益に導けるのか。王族に課せられた課題の一つなのだから…
でも、殿下は全く気にしていなかった。
普通、自分の側近達から婚約者のふざけた渾名を言われたら注意して叱るべきだと言うのに、野放しにしていた。
旧校舎の裏庭でよくひっそりと泣くエルの姿を見て、声をかけた。
それからエルは俺には本音を少しずつ警戒しながら言葉を選んで話してくれるようになった。
俺は内心喜んだ。このまま婚約者を取り替えられたらいいのに
そうすれば、彼女を俺の手で幸せにするのに
自分勝手な欲が俺を支配していく。
それは、甘美な夢だった。
夢は現実になり、この手の中にあった。
でも、すれ違い傷つけあった結果、俺の手からすり抜けていった。
幻を見ていたような気がする。
まだ実感が湧かない、一月も経たずに婚約を解消するなんて
こんなことなら「愛している」と呪いの言葉で彼女をがんじがらめに縛ればよかった。
そうすれば彼女はまだ隣で微笑んでいただろう。
例えそれが偽りの思いだとしても、二人で過ごせばいつかは本物に変わったかもしれないのに
俺は彼女の心の全てを望んでしまった。
本当に愛して欲しいと願ってしまった。
そんな資格は俺には最初からなかったのに
それは、俺が魔女の息子だから
彼女や周りの人間に魅力と言う名の呪いをかけた女の息子だから
それでも願ってしまう。
もう一度、彼女の隣に立ちたい。
恋人でなくても構わない。
友人としてでも、ただ側にいたい。
誰かの物になった彼女をこっそり思う事は許されるはずだ。
それが叶わないならいっそ、死んでしまいたい。
だから、出兵を志願したのに王家から謹慎を言い渡された。
エルから完全に引き離された俺の価値は、この大嫌いな女と子供を作れと言われ
そうすれば自由にしてやると
嫌だ、こんな女に初めてを捧げたくない。
俺はエルの為だけに女を近づけなかったんだ。
いつまで拒めるか分からないが、最悪の覚悟は出来ている。
俺は、王家の意向には従わない。死んでも俺の思いは貫いて見せる。
媚薬の香が焚かれた部屋でこの女との生活を強いられている。
俺は死を覚悟して懐に小刀を持っている。
この刃の餌食になるのは俺かこの女かそれとも…
朦朧とした俺は何度も自問自答を繰り返しながら必死に足掻いていた。
あれからこの女は当然の様に俺に纏わり付いてくる。
ナターシャ・ゲイル伯爵令嬢の癖に淑女としてのマナーがなっていない。
まるで娼婦の様な出で立ちで、女王様気取りで学園を我が物顔で牛耳っていた。
何故なら彼女の取り巻きにアトラス殿下がいたからだ。
殿下からすればただの友人に過ぎないかも知れないが、この女は違っていた。
ダンスが下手くそなエルを壁の花にさせておいて、別の令嬢の手を取る殿下に反吐が出る。
学生時代の若い過ち等と言える訳がない。
学園その物が将来歩むべき道の訓練の場なのだから、誰と誰が繋がっていて、誰をどう使えば国を有益に導けるのか。王族に課せられた課題の一つなのだから…
でも、殿下は全く気にしていなかった。
普通、自分の側近達から婚約者のふざけた渾名を言われたら注意して叱るべきだと言うのに、野放しにしていた。
旧校舎の裏庭でよくひっそりと泣くエルの姿を見て、声をかけた。
それからエルは俺には本音を少しずつ警戒しながら言葉を選んで話してくれるようになった。
俺は内心喜んだ。このまま婚約者を取り替えられたらいいのに
そうすれば、彼女を俺の手で幸せにするのに
自分勝手な欲が俺を支配していく。
それは、甘美な夢だった。
夢は現実になり、この手の中にあった。
でも、すれ違い傷つけあった結果、俺の手からすり抜けていった。
幻を見ていたような気がする。
まだ実感が湧かない、一月も経たずに婚約を解消するなんて
こんなことなら「愛している」と呪いの言葉で彼女をがんじがらめに縛ればよかった。
そうすれば彼女はまだ隣で微笑んでいただろう。
例えそれが偽りの思いだとしても、二人で過ごせばいつかは本物に変わったかもしれないのに
俺は彼女の心の全てを望んでしまった。
本当に愛して欲しいと願ってしまった。
そんな資格は俺には最初からなかったのに
それは、俺が魔女の息子だから
彼女や周りの人間に魅力と言う名の呪いをかけた女の息子だから
それでも願ってしまう。
もう一度、彼女の隣に立ちたい。
恋人でなくても構わない。
友人としてでも、ただ側にいたい。
誰かの物になった彼女をこっそり思う事は許されるはずだ。
それが叶わないならいっそ、死んでしまいたい。
だから、出兵を志願したのに王家から謹慎を言い渡された。
エルから完全に引き離された俺の価値は、この大嫌いな女と子供を作れと言われ
そうすれば自由にしてやると
嫌だ、こんな女に初めてを捧げたくない。
俺はエルの為だけに女を近づけなかったんだ。
いつまで拒めるか分からないが、最悪の覚悟は出来ている。
俺は、王家の意向には従わない。死んでも俺の思いは貫いて見せる。
媚薬の香が焚かれた部屋でこの女との生活を強いられている。
俺は死を覚悟して懐に小刀を持っている。
この刃の餌食になるのは俺かこの女かそれとも…
朦朧とした俺は何度も自問自答を繰り返しながら必死に足掻いていた。
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