天才はやっぱり人生も普通じゃない!!

出会い

第0話 エルヴィン・フェルスター

「殿下、ベルク国に使いを送っておきました。」

エルヴィンの側近、マルクスが息切れして入ってきた。

「ご苦労だった。」

エルヴィンはわくわくしていた。ずっと片思いしていたベルク国の天才、マヌエラ・ヘルフェリッヒが自分の国に来るからだ。

口実は自分が病気にかかったから治しに来てくれということにしたが、嘘である。縁談をもちかけたこともあるが断られた。これしか道が無いのである。

一度縁談の関係で、お見合いのような形で会ってきたが、とても自分好みの美しい人になっていた。彼女のような人が妻になれば、妾なども要らない。王位継承権も要らない。

実はお見合いをするずっと前にマヌエラを見てはいるのだ。

幼い頃に父に連れていかれて、ベルク国に泊まったことがある。その挨拶の時に立派なカーテシーをしていた美しい王女に一目惚れをし、王女の部屋の近くまで行った。

運の良いことに、たまたま近くを通りかかった王女の顔を見れた。とても美しくもあり、可愛くもあった。

性格は分からなかったが、きっと性格も可愛いに違いない。いや、どんな性格でも愛せる自信がある。

「殿下、……殿下??」

マヌエラが好きすぎて、最近は頭が働かない。

「あ？なんだ？」

「マヌエラ様のご到着は二週間後になるそうです。」

マヌエラのことだから、移動魔法陣を使ってくるだろう。なのになんでそんなに遅くなるのだろうか…。マヌエラにとって、自分の病気はどうでもいい事なのか…そうだよな…。

エルヴィンの執務室は空気が重い。

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「マヌエラ…」

エルヴィンは自分の寝室に戻り、1人でそう呟いた。もし嘘だと分かって、マヌエラのことがずっと好きだった変態野郎だとバレたらどうしよう。

「マヌエラ…」

どうやったら自分のことを好きになってくれるか分からない。やはり女性は、強い男性が好きなんだろうか。しかしマヌエラは世界一の天才魔術師だ。自分の助けなんて借りずに敵を仕留めるだろう。

それはそれで可愛い。そして「あっ、申し訳ありません。少し魔力を使って疲れてしまいまして」などと言って抱きついてきたり…

「マヌエラ…!!」

「そんな妄想しちゃって、暇ですねご主人様は。」

「おぅ!?あ、ルーファス、ありがとう。マヌエラはどうだった？」

自分に仕えている影だ。幼馴染である。
この幼馴染は毒舌すぎてたまに本当に心を抉ってくる。

「マヌエラ様はちゃーんと明日に備えてお休みしてましたよ！やはりベルク国の薔薇と言われるだけの美貌をお持ちですね！寝ている顔も可愛らしかった…！」

「お前ごときがマヌエラを名前で呼ぶんじゃない。それに俺は寝ている顔を見てこいと言ったわけじゃないぞ。マヌエラは俺のものだ。」

「うわ、怖ーい！嫌われますよ。」

本当にイライラする。寝顔…寝顔も見てみたい…！

ついに明日だ。マヌエラが来る前に、病弱な王子の演技を練習しておこう。

「病弱なエルヴィン様なんて、見るの初めてですね。楽しみだなぁぁ!!」

「マヌエラが俺のところに住み始めたら、お前の仕事無くなるんだぞ？今にうちに媚び売っとかなくていいのか？」

「……すみませんでした。っていうか俺の仕事ってマヌエラ様の観察じゃないんですけど。」

「あぁそうだな。じゃあ給料を半分にするしかないな。」

この時のエルヴィンは、ルーファスが本気でマヌエラに恋をしていることに気づかなかった。