【完結】色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

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第一部

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 放課後、俺は裏門で春樹を待っていた。
 『少し帰るのが遅くなる』と事前にイウディネにメールをしておく。イウディネは過保護なので、連絡もせず遊んでいると沢山連絡を寄越すのだ。それこそ、漫画の教育熱心な母親のように……。

(しかし、これはどうにかならないか……)

 俺はスマートフォンを弄りながら苦い顔をする。ボタンが三つならんだシンプルなデザイン。色は安っぽいローターのようなピンク色をしていた。俺のスマートフォンはGPSがついた子供用のものだ。連絡先は10件しか登録できず、写真の画質もさほどよくない。スペックはチャットアプリぐらいならなんとか入れることができる程度だ。俺はこれを秋名にも夏にも笑われ、クラスメイトには生暖かい目で見られて大変傷ついた。皆一様に俺を機械音痴と言っていたが別に機械音痴ではない。アニメの録画予約もゲームもパソコンを使うことだってできる。しかし課金を山ほどするに決まっていると断言したイウディネが持たせてくれないのだ……。(そして全く否定できないのであった)

「静海くん」

 名前を呼ばれ、俺はスマートフォンを鞄に突っ込む。歩いてくる春樹に笑顔を見せるが、その少し後ろに見知らぬ男子生徒がいて首を傾げる。てっきり春樹の家でセックスするのかと思っていたが違うのだろうか。あ、3Pか?

「お待たせ」
「いや、そうでもない。彼は?」
「うちの副会長の寿々木汐すずきしおだよ。ちょっと残りの業務の打ち合わせをお見送りがてらね」
「寿々木だ」
「静海有という。最近転入してきた。有で結構だ」
「知っている」

 差し出された手を俺が握ると数度振ってすぐ離された。目の前にいる汐という青年は上背は夏ほどではないが高く、黒縁眼鏡をかけ、真ん中分けの黒髪は優等生の模範解答のようだった。切れ長の目は涼しげで、瞳は金にも見えそうな薄茶色だ。何処かで見たことのある顔に思えるが、出てこない。まぁ生徒ならどこぞですれ違ったことがあるだろうか。

「……何か?」
「いや、どこかで会ったことが……あるに決まっているか、生徒だからな」
「そうだな」

 汐は俺に冷たく言い放つ。どうやら彼はあまり俺に興味がない、もしくはよく思っていなさそうだ。ふむ。それはそれで燃えるな。
 隣りにいた春樹は『静海くんが汐をナンパしている……』となぜかショックを受けていたのだが、まだナンパじゃないぞ。さすがの俺も空気を読むから、口説くなら別の機会にする。

「あ、そういえば静海くん、大変だったんだって?」
「何がだ?」
「部活の勧誘。追い回されているって聞いたよ?」
「何だと? そうなのか静海。困っているならちゃんと言え。主張がなければ生徒会こちらも助けられない」

 春樹の言葉に汐が眉間に皺を寄せて俺に詰め寄る。語調は冷たいが、俺を本気で助けようとしているのはわかった。硬質で冷たい印象を受ける男だったが、それだけではなさそうだ。俺は二人に笑顔を向けるとふるふると頭を左右に振った。実はそれはもう解決している。

「大丈夫だぞ。夏が手をまわしてくれたらしくて、午後は穏やかに過ごした」
「夏? 葛山か?」
「あぁ」

 授業の後、夏に呼び止められた。部活の部長達に無理強いするなとお触れを出してくれたらしい。先程助けを求めるならどちらかにしろと言っていたくせに、と指で突いてやったら、夏はこの世の終わりを見たような青い顔で『気にすんな。昼間の埋め合わせだ。嫌なこと思い出させちまったからな……』と意味のわからないことを言っていた。俺はわけがわからなかったが、面倒がなくなるようならそれで良いので追及はしなかった。

「……そう。念のため生徒会からも注意させるよ、汐、頼んで良い?」
「わかった」

 汐は春樹の側近のような立場なのだろうか。キビキビ動く様子が物凄く慣れているように思える。

 丁度そのタイミングで春樹の家の車がやって来た。去り際、汐は律儀に俺に向かって軽く会釈をするので、俺も同じように頭を下げて笑みを浮かべる。しかし汐は俺の笑みをみても表情一つ変えず、まるで俺を見定めるような視線で俺を眺め、そのまま背中を向けて去っていった。

 うーむ手強い。春樹の前だから遠慮したが、セクハラの一つでもぶちかましてやればよかったか……。

「それじゃ行こうか」

 俺は春樹に促されて車に乗り込む。
 俺達が乗り込んだ車はすぐに発進し、学校から住宅街へと移動し始めた。見たことのある景色にブルリと身体を震わす。そう、俺が迷ったあの場所である。何となく縁起の悪さを感じる……。
 そのままくねくねと細い道を行き、10分ほどで車は静かに止まった。着いた場所は一本道の突き当りにある大きな一軒家だ。

「ここが春樹の家か?」
「そう。正確には父親の愛人が住んでた家。今住んでいるのは僕一人だよ。たまにお手伝いさんがくるけど」
「愛人は?」
「別の方とご結婚したから」

 元々春樹の父親名義の家で、彼女は遠い親戚のお嬢さんということになっていたらしい。結婚が決まるとすぐに父親に返されたものだと春樹は笑顔のまま口にしていた。俺が倫理観を問うなど、物凄くおかしなことだとわかった上で言うが、実の息子に愛人の持ち物を下げ渡し、一人暮らしさせる父親はどういう神経をしているのだろうか?

 何となくだが、よほどの女好きでなければ実の息子の友人であっても平気でセックスしてくれるタイプのぶっ飛んだクソ親父だと予想する。大変セックスしてみたい相手である。

 春樹の家の玄関はオートロック式の指紋認証だった。うちのマンションはカード式の鍵である。昨今の鍵は皆こんな感じなんだなぁと見ていると、春樹が『静海くんの指も登録しようか?』と俺に合鍵ならぬ合指紋認証を勧めてきた。俺は指紋だったら良いと頭を横に振る。俺は鍵の上になんか可愛いキャラクターのキャップみたいなのをつけたかったのだ。だからそうじゃないなら鍵は要らない。

 春樹は俺の返事に肩を落としていた。もしかして独り暮らしが不安だったのだろうかと思い、何かあった時は窓を壊して入るから大丈夫だと告げるが、それも春樹を喜ばすには至らず、下がり気味のテンションは変わらなかった。

「どうぞ。いらっしゃいませ」
「邪魔するぞ」

 玄関は広く、俺達が二人並んでも問題ない。吹き抜けになった玄関の上には天窓があり、夕日のオレンジの光が白い壁を照らしていた。
 俺は靴を脱ぐと春樹に案内されるままリビングに入った。こちらも広々としている。ダイニングとリビングをあわせた敷地は俺とイウディネが住むマンションの部屋よりも広い。カーテンが閉めっぱなしの部屋は暗く、春樹は壁についていたスイッチで部屋の灯りをつけ、俺を後ろから抱きしめた。

「静海くん……」
「着いて早々熱烈だな」

 春樹は俺の項に何度も口付け、後ろから器用に俺の制服の上着のボタンを外していく。シャツをズボンから引き出し、服の中に手を入れられると、春樹の手が冷たくて背筋がゾクゾクした。

「ベッドに行くのも億劫なんだ……ん、っふ、っちゅ」
「あぁ、春、きっ……」

 春樹が俺の首筋に噛みつき、ちゅっちゅ、と音を慣らしてキスをする。きつく吸われればチリと肌が痛む。いっぱいつけていいぞ、と俺が言えば春樹は嬉しそうに俺を掻き抱いた。




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