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第一部
16※ 有×夏義 夏義視点
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「夏、お尻は気持ち良いか?」
「あ、あぁっ! い、やっ……いやだっ……!」
有に与えられる快楽は凄まじすぎて今までのセックスが何だったのかと思える。まるで毒や麻薬。そんな劇物の名前がよく似合う。
機嫌が悪いと有が言っていた通り、有は俺がどんなに嫌がったり睨んだりしても、妖艶に笑うだけでひたすら指を動かしている。
俺は尻を有の指で弄られながら、こんなはずじゃなかったと頭を振る。気持ちよすぎて頭がどうにかなりそうだ。有の指が俺の中を擦るたび、ピリピリと静電気のような衝撃を背筋や性器に感じる。それが終わるとすぐに快楽の波が押し寄せ、俺の頭は馬鹿になって、有にもっと、と強請ってしまう。
「夏、可愛いぞ」
可愛い、と言われて柄にもなく嬉しくなった。でも俺は可愛くなんかないと知っている。俺の評価を可愛いなんて言うのは今まで家族以外では一人しかいなかった。あぁ、そうだった。海月さん。俺とハルが取り合ったあの人は俺をそう言って優しく撫でてくれた。あの手の温かさが、未だに忘れられない……。
俺は昔から何でもできる、優秀な子供だった。生意気なガキではあったけれど、勉強もスポーツも同世代のクラスメイトに遅れをとったことはなく、下手すれば大人よりも優秀だった。
「春樹くんよ。身体が弱いから、優しくしてあげてね」
「……こんにちは」
ある夏の日だった。俺は母親に連れてこられた小さな少年と出会った。肌は真っ白で、手には分厚い本をぎゅっと抱きしめている。紹介された少年の名前は早良春樹。俺の親父の友人の息子だった。
ハルは今は綺麗に分類されるが、昔は誰よりも可愛くて、腹が立つことに俺も一瞬ときめいた。クラスメイトの女子の誰よりも目が大きく、まつげが長いのだから仕方ない。でも当時から身体の弱かったハルはか細くて、少し触ったら骨が折れそうで怖かった。
「俺は夏義! ナツでいいよ!」
「わかった。じゃあ僕はハルってよんでね」
「おう! ハル!」
俺は当時のハルのことは別に嫌いじゃなかった。それこそナツやハルとあだ名で呼び合うくらいには仲が良かった。頼りなくて、後をついてくる小さな子ウサギのような少年を嫌いになれる人間はそう多くない。俺もその一人だった。
ハルは博識で、俺の知らないことをよく知っているし、大人達からは生意気にしか見えない俺をよくフォローしてくれていた。賢いハルは俺に人の顔色を読む方法や人心掌握術を教えてくれることもあり、その説明は子供の俺を納得させるほど上手いのだ。ハルは大人すら見下す俺が、同世代で唯一同じステージに立っていると思える子供でもあった。
ハルのおかげで面倒くさい大人とのやり取りもスムーズにできるようになり、俺は『クソ生意気』から『そこそこ生意気』な子供になった。ちょっとした変化だったが、両親はとても大喜びした。
俺も喜んでくれる分には悪い気はしない。でも俺をハルとずっと一緒にいさせようとするようになったのだけは嫌だった。ハルのことは嫌いじゃないけれど、常に一緒となると話は別だ。ハルは俺が好きなスポーツや遊びが殆どできない虚弱体質で、ハルと遊ぶとなれば強制的にインドア、運動は無しになる。そればかりはとても疎ましかった。
「春樹くんに貸してあげなさい」
「春樹くんと仲良くしてあげて」
常に一緒にいるようになると、母親の小言はいつもハルに何かをしてあげろと俺に強要していた。ハルがしょんぼりするたび俺は母親に呼び出され、注意される。『春樹くんは心臓が弱くて可哀想だから』それが枕詞だった。
俺はハルを可哀想だと思いつつも、そんなハルに嫌な思いをさせられる俺はもっと可哀想なものなんじゃないかと思えた。でも、それは口に出すと、すごく惨めになりそうだから絶対に認めたくなかった。俺はスポーツも勉強もできて、友達も多い。ハルとは真逆だ。ハルは絶対俺には勝てないのだ。
俺は小学校低学年の頃から大好きなバスケのスポーツチームに所属していて、中学校でもバスケ部に所属した。ポジションはパワーフォワードで、このポジション以外はついたことがない。俺が全国大会でMVPを取ると、俺に甘い親父は『NBAで活躍してから会社を継げ!』とすっかり上機嫌で、母親に冷たい目を向けられていた。
バスケ馬鹿になっていた俺は休み時間にも友人達とバスケをして遊んでいた。俺が遊んでいると、ハルはわざわざバスケットコートまでやって来る。ハルはいつも一人だった。
「ナツ、少し話さない?」
「あ? 今からバスケしに行……」
「わー! 早良くん是非!」
「俺も! 俺も話したい!」
「……話し終わったら帰れよ」
「うん。ありがとうナツ」
ハルは中学に入ってから可愛いではなく、美人に近くなった。成長すればするほど、蛹が蝶になるようにより美しいものになる。俺はハルがこうやって俺に構う度、友人達を奪っていくのが気に食わなかった。
本人に悪気はない。ハルは早良総合病院という大病院の子息というだけでまわりから高嶺の花扱いされ、ほぼ隔離されているような状態だった。まともな友達もいない。俺はハルとは逆に友達が多かったし、ハルは幼馴染の俺を頼りにしていたのだろう。そう頭でわかっていても、小さい頃の記憶が素直に物事を考えさせてくれなかった。
「今日から二週間、皆さんと授業をします。よろしくお願いしますね」
中学校最終学年になったある日、突然現れたのが海月さんだった。海月さんは教育実習生で、大学三年生だった。俺はその頃、付き合っていた女子とセックスしようとして腕の骨を折ってしまうという事件を内々に処理したばかりの傷心状態だった。彼女とはお互い好きではあったけれど、何となく金のやり取りがあったこともあり、気まずくなって彼女から別れを切り出されて別れてしまった。
俺は女子というものが、こんな弱くて繊細だとは思いもせず、すっかり恋愛嗜好は男子に切り替わってしまっていて、その丁度いいタイミングで現れた綺麗な海月さんに飛びついてしまったのだ。
「海月さん。会いたかった」
「昨日も会ったのに?」
「俺が卒業するまでいろよ」
「俺が卒業できなくなっちゃうよ」
海月さんは優しくて、当たり前だが俺を子供扱いしていた。いつも笑顔の穏やかな人で、一緒にいるこっちまで心が落ち着く。そんな人だった。
ある日俺が好きだと言ったら、海月さんは少し黙って、頬を染めて、内緒だよと言って俺にキスをしてくれた。その日から俺は海月さんと付き合い始め、平日は大学まで海月さんを迎えに行き、休日には海月さんの部屋で過ごした。彼とするセックスは俺を夢中にさせ、毎回身体がグッタリするまで抱き合った。
「ごめん夏義、俺は春樹の傍にいてやりたい」
彼が現れた時のように、俺達の別れは突然訪れた。言われた台詞を、俺は理解できずに固まった。放課後呼び出され時から、いや、最近少し様子がおかしいとは感じていたので変だと思っていたのだけれど、まさかこんなにあっけなく別れ話をされるなんて思いもしなかった。
「何で……ハルなんだよ……」
「ごめん夏義……あの子は、俺がいないと駄目なんだ」
「俺はッ!! だったら、俺は……ッ!!!!」
縋るような言葉はプライドが邪魔して言えなかった。
海月さんは俺からあっさり離れ、ハルの元へいった。俺はハルよりもずっと沢山のものを持っているから、ハルが俺から奪うのを許さなければいけないのだろうか? そんなこと、納得できるわけがない。
それから俺は何度かハルに声をかけられた。ハルは謝りたかったのだと思うけれど、そんな自己満足に付き合いたくなかった。話しかけられるのも嫌で、呼び止められても舌打ちしか返さない俺を、ハルは早々に見切りをつけた。どんどん距離ができ、ハルは俺をナツではなく、葛山くんと呼ぶようになり、俺もハルとは呼ばなくなった。
それで良い。遠くに行ってくれれば、俺の大事なものを取られない。そう思った。
「それじゃ行こうか」
昨日、裏門でハル達を見かけたのは友人でも知り合いでもない。俺自身だった。有は車に乗り込むのが見え、止めようと思ったが、こちらに寿々木が歩いてくるのが見えて咄嗟に反対側に歩きだしてしまった。
この俺のくだらないプライドが有とハルを近付けてしまった。朝、有の首についた赤い痕を見て、歯を痛いほど噛みしめる。先をこされた。有を奪われた。自分でも驚くほど、俺は静海有に執着している。ハルにはやりたくない。もう二度と、奪われたくない。強く、そう思った。
「っ! ひ、ぁっ、ぁああっ!」
「良い頃合いかな」
俺の尻は有の指にぐちゃぐちゃにされていた。唾液を垂らされただけなのに、俺のそこは女みたいに濡れて、物欲しそうに有の指に吸い付いている。
「夏、挿入るぞ」
「あ、いやだっ、いやだ! おれは、こんなんじゃ、ない! こんなんじゃ! あ、ぁ、あああっ!!」
有が俺の太腿を左右に開き、俺の尻に腰を押し付ける。初めて男を受け入れる恐怖、そして期待が一瞬頭に浮かび、顔がひきつった。熱い塊が俺の入り口をこじ開ける。肉を掻き分け、奥へ奥へと侵入し始め、堪えきれない快感に足をばたつかせた。馬鹿になった性器はそれだけで吐精する。
「夏」
「あ、る、あるぅ、有っ……!!」
「夏、俺はとても気持ちが良い」
「嫌だ、有、俺はっ! 俺はこんなん、じゃ」
「可愛い、夏」
嬉しかったと同時に、可愛いと言われると海月さんのことを思い出して悲しくなった。有は俺を捨てないよな、そんな腑抜けた言葉が喉から出そうだった。
もっと余裕が欲しい。このままじゃ残り少ないプライドなんてすぐに捨てて有を求めてしまう気がする。嫌だ。俺は翻弄されたくない。誰にも傷つけられたくない。
「夏、可愛いっ、可愛くて好きだっ」
「んぁ、っはぁ、有、本気かよ……?」
「あぁ、夏が……可愛くて、愛おしいぞ……」
ハルよりも好きだろうか。離れないでくれるだろうか。有は俺よりもずっと美しく、俺にないものを沢山持っていた。そんな有が、ハルよりも俺を選んでくれるだろうか。
「すきだ、おれもア、ルが、好きだから、っ、だか、らっ」
いや、選んで欲しい。有に傍にいて欲しい。欲しい、とにかく有が欲しかった。大事なものを誰かに、またハルに取られるのは嫌だ。俺は情けなく泣きながら有の身体に腕をまわして抱きしめた。有の細い身体は俺の力にびくともしない。安心して体重を預けることができた。
「は、るじゃなくて、俺を、選べっ!」
有は俺を選んでくれと泣く俺に微笑むと優しく口付けてくれた。そんなものより言葉が欲しい。俺を選ぶと言ってくれないと少しも安心できなかった。有は俺の舌を吸った後、再び腰を動かし始める。深く押し込められては引き抜かれ、俺は何度も射精した。
「あ、あぁ、いい、夏、いいぃ……夏……好きだ、あぁ良い……堪らないっ」
「っはぁ、ぁ、ああ、んっ、有、俺を選べっ、なぁ、有っ……!!」
「ふふ、本当にっ……可愛いらしいっ」
有の腰の動きはどんどん早くなる。肉のぶつかる音や粘り気のある水音がうるさい。俺は何度達したかもわからなくなっていた。射精したばかりの敏感な身体を有は嬲り続ける。苦痛になりそうなほどの強烈な快楽が、俺を支配していた。
「夏、俺のものになりたいか?」
見上げた有の顔から汗が垂れている。あぁ、なんて綺麗な男だろう。俺は茹だる頭のまま、頷く。なりたい、お前のものに。
有はそれを聞き届けると、眩暈がしそうなほどの色気を纏い、自らの赤い唇を舐めて見せた。
「あ、あぁっ! い、やっ……いやだっ……!」
有に与えられる快楽は凄まじすぎて今までのセックスが何だったのかと思える。まるで毒や麻薬。そんな劇物の名前がよく似合う。
機嫌が悪いと有が言っていた通り、有は俺がどんなに嫌がったり睨んだりしても、妖艶に笑うだけでひたすら指を動かしている。
俺は尻を有の指で弄られながら、こんなはずじゃなかったと頭を振る。気持ちよすぎて頭がどうにかなりそうだ。有の指が俺の中を擦るたび、ピリピリと静電気のような衝撃を背筋や性器に感じる。それが終わるとすぐに快楽の波が押し寄せ、俺の頭は馬鹿になって、有にもっと、と強請ってしまう。
「夏、可愛いぞ」
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俺は昔から何でもできる、優秀な子供だった。生意気なガキではあったけれど、勉強もスポーツも同世代のクラスメイトに遅れをとったことはなく、下手すれば大人よりも優秀だった。
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「……こんにちは」
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ハルは今は綺麗に分類されるが、昔は誰よりも可愛くて、腹が立つことに俺も一瞬ときめいた。クラスメイトの女子の誰よりも目が大きく、まつげが長いのだから仕方ない。でも当時から身体の弱かったハルはか細くて、少し触ったら骨が折れそうで怖かった。
「俺は夏義! ナツでいいよ!」
「わかった。じゃあ僕はハルってよんでね」
「おう! ハル!」
俺は当時のハルのことは別に嫌いじゃなかった。それこそナツやハルとあだ名で呼び合うくらいには仲が良かった。頼りなくて、後をついてくる小さな子ウサギのような少年を嫌いになれる人間はそう多くない。俺もその一人だった。
ハルは博識で、俺の知らないことをよく知っているし、大人達からは生意気にしか見えない俺をよくフォローしてくれていた。賢いハルは俺に人の顔色を読む方法や人心掌握術を教えてくれることもあり、その説明は子供の俺を納得させるほど上手いのだ。ハルは大人すら見下す俺が、同世代で唯一同じステージに立っていると思える子供でもあった。
ハルのおかげで面倒くさい大人とのやり取りもスムーズにできるようになり、俺は『クソ生意気』から『そこそこ生意気』な子供になった。ちょっとした変化だったが、両親はとても大喜びした。
俺も喜んでくれる分には悪い気はしない。でも俺をハルとずっと一緒にいさせようとするようになったのだけは嫌だった。ハルのことは嫌いじゃないけれど、常に一緒となると話は別だ。ハルは俺が好きなスポーツや遊びが殆どできない虚弱体質で、ハルと遊ぶとなれば強制的にインドア、運動は無しになる。そればかりはとても疎ましかった。
「春樹くんに貸してあげなさい」
「春樹くんと仲良くしてあげて」
常に一緒にいるようになると、母親の小言はいつもハルに何かをしてあげろと俺に強要していた。ハルがしょんぼりするたび俺は母親に呼び出され、注意される。『春樹くんは心臓が弱くて可哀想だから』それが枕詞だった。
俺はハルを可哀想だと思いつつも、そんなハルに嫌な思いをさせられる俺はもっと可哀想なものなんじゃないかと思えた。でも、それは口に出すと、すごく惨めになりそうだから絶対に認めたくなかった。俺はスポーツも勉強もできて、友達も多い。ハルとは真逆だ。ハルは絶対俺には勝てないのだ。
俺は小学校低学年の頃から大好きなバスケのスポーツチームに所属していて、中学校でもバスケ部に所属した。ポジションはパワーフォワードで、このポジション以外はついたことがない。俺が全国大会でMVPを取ると、俺に甘い親父は『NBAで活躍してから会社を継げ!』とすっかり上機嫌で、母親に冷たい目を向けられていた。
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「ナツ、少し話さない?」
「あ? 今からバスケしに行……」
「わー! 早良くん是非!」
「俺も! 俺も話したい!」
「……話し終わったら帰れよ」
「うん。ありがとうナツ」
ハルは中学に入ってから可愛いではなく、美人に近くなった。成長すればするほど、蛹が蝶になるようにより美しいものになる。俺はハルがこうやって俺に構う度、友人達を奪っていくのが気に食わなかった。
本人に悪気はない。ハルは早良総合病院という大病院の子息というだけでまわりから高嶺の花扱いされ、ほぼ隔離されているような状態だった。まともな友達もいない。俺はハルとは逆に友達が多かったし、ハルは幼馴染の俺を頼りにしていたのだろう。そう頭でわかっていても、小さい頃の記憶が素直に物事を考えさせてくれなかった。
「今日から二週間、皆さんと授業をします。よろしくお願いしますね」
中学校最終学年になったある日、突然現れたのが海月さんだった。海月さんは教育実習生で、大学三年生だった。俺はその頃、付き合っていた女子とセックスしようとして腕の骨を折ってしまうという事件を内々に処理したばかりの傷心状態だった。彼女とはお互い好きではあったけれど、何となく金のやり取りがあったこともあり、気まずくなって彼女から別れを切り出されて別れてしまった。
俺は女子というものが、こんな弱くて繊細だとは思いもせず、すっかり恋愛嗜好は男子に切り替わってしまっていて、その丁度いいタイミングで現れた綺麗な海月さんに飛びついてしまったのだ。
「海月さん。会いたかった」
「昨日も会ったのに?」
「俺が卒業するまでいろよ」
「俺が卒業できなくなっちゃうよ」
海月さんは優しくて、当たり前だが俺を子供扱いしていた。いつも笑顔の穏やかな人で、一緒にいるこっちまで心が落ち着く。そんな人だった。
ある日俺が好きだと言ったら、海月さんは少し黙って、頬を染めて、内緒だよと言って俺にキスをしてくれた。その日から俺は海月さんと付き合い始め、平日は大学まで海月さんを迎えに行き、休日には海月さんの部屋で過ごした。彼とするセックスは俺を夢中にさせ、毎回身体がグッタリするまで抱き合った。
「ごめん夏義、俺は春樹の傍にいてやりたい」
彼が現れた時のように、俺達の別れは突然訪れた。言われた台詞を、俺は理解できずに固まった。放課後呼び出され時から、いや、最近少し様子がおかしいとは感じていたので変だと思っていたのだけれど、まさかこんなにあっけなく別れ話をされるなんて思いもしなかった。
「何で……ハルなんだよ……」
「ごめん夏義……あの子は、俺がいないと駄目なんだ」
「俺はッ!! だったら、俺は……ッ!!!!」
縋るような言葉はプライドが邪魔して言えなかった。
海月さんは俺からあっさり離れ、ハルの元へいった。俺はハルよりもずっと沢山のものを持っているから、ハルが俺から奪うのを許さなければいけないのだろうか? そんなこと、納得できるわけがない。
それから俺は何度かハルに声をかけられた。ハルは謝りたかったのだと思うけれど、そんな自己満足に付き合いたくなかった。話しかけられるのも嫌で、呼び止められても舌打ちしか返さない俺を、ハルは早々に見切りをつけた。どんどん距離ができ、ハルは俺をナツではなく、葛山くんと呼ぶようになり、俺もハルとは呼ばなくなった。
それで良い。遠くに行ってくれれば、俺の大事なものを取られない。そう思った。
「それじゃ行こうか」
昨日、裏門でハル達を見かけたのは友人でも知り合いでもない。俺自身だった。有は車に乗り込むのが見え、止めようと思ったが、こちらに寿々木が歩いてくるのが見えて咄嗟に反対側に歩きだしてしまった。
この俺のくだらないプライドが有とハルを近付けてしまった。朝、有の首についた赤い痕を見て、歯を痛いほど噛みしめる。先をこされた。有を奪われた。自分でも驚くほど、俺は静海有に執着している。ハルにはやりたくない。もう二度と、奪われたくない。強く、そう思った。
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「あ、いやだっ、いやだ! おれは、こんなんじゃ、ない! こんなんじゃ! あ、ぁ、あああっ!!」
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有は俺を選んでくれと泣く俺に微笑むと優しく口付けてくれた。そんなものより言葉が欲しい。俺を選ぶと言ってくれないと少しも安心できなかった。有は俺の舌を吸った後、再び腰を動かし始める。深く押し込められては引き抜かれ、俺は何度も射精した。
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有の腰の動きはどんどん早くなる。肉のぶつかる音や粘り気のある水音がうるさい。俺は何度達したかもわからなくなっていた。射精したばかりの敏感な身体を有は嬲り続ける。苦痛になりそうなほどの強烈な快楽が、俺を支配していた。
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