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第二部
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しおりを挟む月曜の朝の朝礼というものはどうしてこうも眠たいのか。壇上に立つ校長先生は大層立派な話をしてくれているようだが、俺は枕詞のようにつけられる『あ~』という間延びした声が気になって何も頭に入ってこない。かろうじて、夏休みという単語だけは理解できた。
「有」
「ん?」
「あれ、見て」
秋名に背中をつつかれて前を向くと、春樹と夏が俺達の斜め前で何か喋っているのが見える。春樹は生徒会長の癖に私語をしていていいのだろうか。教師は気付いてるようだが、二人を注意する気がないらしく、こちらには来ない。権力の前にルールが形骸化している。
春樹が復帰してから、学園では穏やかな時間が流れていた。
皆元気になった会長に喜び、夏は変わらず憎まれ口を叩いた。顔を合わせる度、まわりが一切突っ込めない毒舌のやり取りを繰り返している。二人一緒になると小学生くらいまで精神年齢が下がるらしい。驚くほど成長していない。しかし、春樹と夏は休憩時間にバスケのミニゲームをしているらしいので、二人の関係自体もまた、幼い頃に近付きつつあるようだった。
「昼休み入ったらすぐ来いよ。俺が勝ったら、明日の有は俺のだ」
「じゃあ僕が勝ったら、明日は僕の有くんね。ハンデとしてバスケ部のエース二人もらうから」
「ナチュラルに俺をエースからハブってんじゃねぇよ。あと、いつの間に有を名前呼びしてやがんだ? 油断も隙もねぇな。腹黒病気詐欺野郎」
「それはね、名前で呼んでくれってお強請りされるからだよ。人科ゴリラ属のバスケゴリラ」
……。こじらせてはいるが、仲良くなったのは間違いなさそうだ。
しかし、その口喧嘩をするには、全校朝礼中の今は不適切だ。皆、校長の話など無視して二人の話に耳を傾けている気がする。そして勝手に俺を景品にしないで欲しい。
「寿々木は連れてくんなよ。てめぇの身体を心配しすぎて胃に穴空けられたって面倒みきれねぇ」
「そうだね。汐には生徒会の仕事振っておくよ」
汐は春樹の全快に未だ納得がいっていないらしく、春樹が運動しているのを見る度に胃を押さえている。確かに話が急すぎるので疑うのは当然と言えよう。しかし診断書を見せても、春樹が元気そうでいても、汐は胃を押さえている。相当な疑り深さだ。
しかしそんな汐の不安をよそに、春樹は元気に活動し、夏相手にいい勝負をしているらしい。今ではギャラリーが増え、ファンクラブの乗り換え対策をしないと、と秋名が嘆いていた。
(運動神経抜群の夏と渡り合えるほどの運動能力か……)
夏といい勝負ができるなら、春樹は元々の運動センスがかなり高かったに違いない。
ここにきて間違いなく、春樹は元々のスペックがかなり高かったことを俺は再認識した。初めて会った時自分をポンコツと言っていたが、何がポンコツなのか。おかげで俺のステータスは人間の中でも最高のものになってしまったではないか。
「有、そういえば中間テストってどうだった?」
「ん? どうした急に」
「いや、期末テスト来月じゃん? 中間テストと違って結果が張り出されちゃうシステムだから勉強しておかないと」
そういえばそういうものもあるのか。
俺は勉強が嫌いなのでテストもあまり好きじゃない。
まぁどんなに成績が悪くとも俺は大学にいきたいわけでも、いい会社に勤めたいわけでもないので気にすることはないだろう。適当で良いのだ。
「あー、では今日から赴任する先生を紹介します。壇上までどうぞ」
校長先生の言葉が急に頭の中に割り込んでくる。
それはまわりも同じらしく、時期はずれの赴任に生徒達はざわめき出した。節目でもないのに急に全校朝礼に集められたから何事かと思ったが、教師が新しく増えるからその赴任の挨拶のためだったようだ。(そのわりにはやたら校長の話が長かったが……)
扉から壇上へと歩いてくる男は黒いスーツに青いネクタイを締めたスマートな男だった。髪はミルクティーのようなベージュで、緩くパーマがかかっている。垂れ目のせいか、甘い顔立ちだ。遠方からでも整っているとわかる。
「え、あれって……」
秋名が言葉を無くし、声を引きつらせる。
「!」
「……」
前にいた夏と春樹の肩が、壇上に立つ男を見て僅かに跳ねたのを、俺は見逃さなかった。
「皆さん、おはようございます」
マイクの音が優しい声色を拡張する。
壇上に立つ男に、生徒達だけでなく教師すら目が釘付けになっていた。類まれな美貌というわけではないはずなのに、彼はなぜか目を引く。
「海月冬夜といいます。担当は情報です。まだ他の先生達と比べると若輩者ですが、皆さんが興味を持ってくれるような素敵な授業を目指して頑張ります。これから、宜しくお願いします」
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