38 / 60
第三部
38
しおりを挟む扉が開き、入ってきたのは明るい茶髪の男子生徒だった。小柄で、ネクタイの色は緑。2年生だろう。まだ幼さは残る可愛らしい顔をしている。さらさらの茶髪に整った顔立ちはテレビで見るアイドル達に見劣りしないレベルだ。
「えっ!?」
入ってきた少年は大きく声を上げて俺と夏をじっと眺めている。夏は上着を取ると俺の身体にかけてくれた。
カチャンと何かが落ちる音がして床を見ると、彼の足元に黒いカードが落ちている。この部屋を開ける時、夏が持っていたものは白いカードだったが、これも部室の鍵なのだろうか。
少年はカードを拾い上げ、眉間に皺を寄せた。
「……。出直す?」
「別に良い。有、服を着ろ」
「いいのか? 夏の下半身は臨戦態勢だが」
「それはお前だって……っておい、戻ってんのかよ」
「ふふん。特技だぞ」
血の巡りの問題なので治癒でどうにでもなるのだ。夏は自分だけ元気いっぱいなのが恥ずかしいのか顔を赤らめている。ギャップ萌えだな。すごく可愛いぞ。勃起を抑えた甲斐があったというものだ。
ちなみに俺は見られて恥ずかしいものなんて何一つ持っていないから全裸でもへっちゃらである。
「夏、俺の服は?」
「あぁ、自分一人で着られねぇんだもんな……」
夏は仕方ないと俺の服をかき集めて着せてくれた。靴下まで履かせてもらっている間も、少年は壁に凭れ掛かり、偉そうに腕を組んで俺達を眺めている。目があって俺が笑うと、少年はフンと鼻を鳴らした。これはこれは。ここに来てからはなかなかされたことのないリアクションだ。
「有、こいつは要梅雨。二年。生徒会の副会長兼俺のファンクラブの会長をやってる。ついでにバスケ部にも所属してるが、マネージャーだ。ほぼお飾りだけどな」
夏はシャツを着ながら、顎をクイと動かして少年、梅雨に向けた。
梅雨、という名前には聞き覚えがある。確か秋名と夏が口にしていた名前だ。
「例の組長か?」
「ッ!」
問えば梅雨はギロリと俺を睨んだ。俺は悪意はないと肩を竦めたが、梅雨の視線はきつくなるばかりで元に戻らない。出会ったばかりだというのに、すっかり彼に嫌われてしまった。
(しかし想像と違うな……)
組長というからにはよっぽど強面の男だろうと想像していた。しかし実際は真逆だ。顔は中性的で、女の子のようにも見える。手首は折れそうなほど華奢だ。
「その渾名やめてよね。暴力団の人間みたいじゃん」
「お前の我儘や癇癪で迷惑かけられることを考えれば相応だろ。昔は目つきも悪かったし、お似合いの渾名だったんだけどな」
「うるさい! 僕にそんな下品な渾名がついたのは夏義に群がる奴らの品性が足りないせいだからね! 組長なんて可愛い僕にぜんっっぜんふさわしくない!」
「俺達の家系は皆でけぇし、目つきも悪い。お前がそんな形になるなんて思わなかったんだから仕方ねぇだろ」
どうやら『組長』は夏の友人達が面白がってつけた渾名らしい。
梅雨はその渾名が大嫌いらしく、顔を真っ赤にして怒っている。
「梅雨は目立つ外見なのに、学校で見た覚えがないな」
「あぁ、こいつ最近までアメリカに行ってたからな。有が転入する少し前だったから入れ違ったんだろ」
「僕と会ってるなら忘れるわけないでしょ。僕、超可愛いもん」
梅雨は自信満々と言いたげに髪を払った。にやけた口元が歪んでいる。不思議な微笑み方だ。
梅雨は可愛いのだが、不思議と三下臭がするな。残念な子である。
しかし今の会話のおかげで色々なことが腑に落ちた。俺はずっと汐や春樹が受験生にも関わらず生徒会の業務追われているのは変だと思っていたのだ。
春樹は俺を生徒会に誘う際、メイン業務は後輩達が行うと言っていたが、春樹と汐は忙しそうに仕事をこなしていた。多分これは本来業務を統括するはずの副会長(梅雨)が留学でいないので、春樹と汐がサポートしていたのだろう。
生徒会は大企業の子息達で構成されていると聞いたので梅雨もそうなのか。改めて梅雨を見てみると、確かに身なりが良い。制服も皺一つ無いし、腕時計もピカピカと煌めいている。
「それで? こいつ誰?」
「こいつは静海有。電話で話しただろ?」
「あぁ、例の布団?」
「布団?」
「誰とでも寝るっていう意味」
「おぉ、なるほど」
それはすごく上手い例えだ。『一休さんだな』と俺が褒めると、梅雨は俺を睨みつけた。純粋に褒めたというのに冷たい対応だ。まぁ、それが気に食わないのだろう。わかりやすい子だ。
「おい梅雨、いい加減にしろ。そんなんだから秋名にフラれたんだろうが」
「はぁ? 何それ。別れてないし」
「お前はそうでも秋名は終わってんだよ。もう秋名は有のだぞ」
「え……」
俺がベンチに座って足を組んでいると梅雨の目が俺に釘付けになった。ジロジロと足先から頭まで何回も視線が往復する。俺が微笑めば梅雨は可愛らしい顔を歪めた。
「フン、余裕ぶってるのも今のうちだよ。僕が帰ってきたんだから」
梅雨が俺を嘲るように笑っている。その笑みには俺への哀れみと自分への絶対的な自信が感じられた。素晴らしい自尊心だ。パキっと折って、あへ顔ダブルピースコースに誘いたくなる。ペロリと唇を舐めた。
「ふふ、愛らしい子だな。夏」
「やめろ。これ以上競争率あげんじゃねぇ……梅雨、それで何だ? 俺に用事か?」
「僕のいない一ヶ月の間にファンクラブの人数が60人になってるんだけど、どういうこと? しかも辞めたやつら皆『AMBER』っていう変なファンクラブに入ってる」
「あぁ、有んとこのファンクラブか」
「そんなに減ったのか?」
「ハルんとこよりはまだいるけどな。あっちはもう50人きってんだろ」
俺のファンクラブは俺が知らぬうちに様々な生徒を吸収し巨大化しているようだ。俺自身の魅力もあるだろうが、秋名の執念を感じずにはいられない。
夏は自分のファンクラブに頓着していないらしく、100人ほど減ったというのにケロリとしていた。
「あんたさ、本当に何なの?」
「さて、何だろう? ミステリアスな転校生、とかはどうだ?」
「話にならない」
梅雨は反吐が出る、と言いたげに言葉を吐き捨てた。素直な対応に股間が疼く。俺にこういう対応してくれる子はなかなかいないから貴重だ。俺への罵声を叫んでいるところを押し倒し、熱り立ったペニスを咥えこんでやりたくなる。
「梅雨、話はそれだけか? どこに行くんだよ?」
「生徒会室。いなかった分きちんと仕事をしろって言われてるの。本当に面倒くさい」
じゃーね、と梅雨が部室を出ていく。俺がドアを眺めていると、夏が俺を抱きしめながらベンチに腰を下ろした。
「悪いな、有。あいつ甘やかされて育ったせいか、誰にでもあぁなんだ」
「なぜ夏が謝る?」
「……従兄弟なんだよ」
「あぁ、だから『俺達の家系』と言っていたのか」
夏の父親の弟が梅雨の父親なのだという。見た目が整っているところは似ているのかもしれないが、夏は男らしく、梅雨は可憐、イメージが真逆だ。言われなければ親類だとは思わないだろう。まぁ、従兄弟なんてそれぐらいのものかもしれないが……。
「あいつは自分の気に入らないことがあるといつも生理中の女みたいにイライラしてんだよ。今回も酷かったな……」
「夏のファンクラブの会員が減ったのだ。仕方あるまい」
「原因の半分は秋名で、もう半分はそうだろうな。あいつは親に言われて俺のファンクラブ作ったから、ファンクラブに何かあれば梅雨が文句を言われちまうんだ。やりたくてやってるわけじゃねぇってのに……」
家の繋がりというものは面倒くさい、と言う夏に俺は同意する。そういえば俺はこちらにきて一回もホームシックになっていないな。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる