かのやばら園の魔法使い ~弊社の魔女見習いは契約社員採用となります~

ぼんた

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第7話 寮に住む

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 ヒカリとシホは事務所に戻ってきた。ベルがシホの代わりに受付員をしていたようなので、シホはお礼を言ってから受付の席に座る。シホの隣にはもう一つ椅子が用意されていた。

「ヒカリちゃんの席も用意されてるみたいだから、ここに座って」

 シホは隣の席を指差してそう言った。ヒカリは受付の席に座った。

「えーっと……何をしたら……いいんですか?」

 ヒカリは受付の席に座った途端、働いたことが今まで一度も無かったので、緊張してしまった。

「まぁ、今日の仕事はもうすぐ終わるし、明日から教えていくよ。だから、申し訳ないけどちょっとゆっくり休んでてね」

 シホは書類をまとめながら言った。

「はい!」

 ヒカリは緊張のあまり少し大きい声が出てしまった。ちょっと恥ずかしい気持ちになったが、誰も気にしていないようなので安心した。

 それから、シホは黙々と仕事をしていた。よく考えれば、こうやって間近で働いている人を見るのは初めてだったので、すごく新鮮だった。



 しばらくすると、シホが机の上にあった書類を片付け始め、フーと軽く息を吐き出した。

「そういえば、寮に入るんだっけ?」

 シホがヒカリに視線を送り話しかけた。

「えっと。そもそもここで働くとか知らなかったんで、何も考えてないんですけど……。家から通う感じですかね?」

 たしかに、これから毎日この会社に通うわけで、社員寮なるものがあれば、そこに入るという選択肢もあるかもしれない。ただ、マリーから送られてきた書類に目を通していなかったヒカリは、恥ずかしい話になるが、そういったことについて全く計画が無かったのだ。故に、社員寮に入るための手続きや準備はしていないので、家から通うしかないと思った。

「あんた何言ってんの? 魔女見習いなんだから寮に入ってもらうわよ」

 マリーが後ろから現れて言った。

「そうなんですか!」

 ヒカリは寮に入ることも初耳だったので驚いたが、魔女見習いなのだからそういうものなのかと、すぐに割り切った。

「大丈夫? 急な話で家族は心配しない?」

 シホは心配そうな表情でヒカリに言った。

「えっと、私、家族いないんで大丈夫です! 婆ちゃんがいたんですけど、去年亡くなったんで」

 ヒカリは落ち着いて話した。

「……そうなんだ。ごめんね、嫌なこと聞いちゃって」

 シホは申し訳なさそうな表情で言った。

「大丈夫です! むしろ、気を遣わせてしまってごめんなさい!」

 ヒカリはシホを申し訳ない気持ちにしてしまい、かえって申し訳なく思った。

「でも、寮かー。……どんな寮なんだろう」

 ヒカリは寮を想像しながらつぶやいた。

「私はいい寮だと思うよ」

 シホはニッコリ笑いながら言った。

「はい。これが寮の鍵。エドの隣の部屋にしといたから」

 マリーがヒカリに寮のカギを手渡した。

「そういや、ずっとエドの姿が見あたらないんですけど……」

 ヒカリはエドを会社で見かけないことに気づいて、マリーに問いかける。

「今日は外で仕事してるからね。帰ってくるのも遅くなるはず」

 マリーがヒカリの顔を見て言った。

「そうなんですね」

 ヒカリはエドが任務実行員だということを思い出し、外での仕事もあって大変だろうなと思った。

「寮にはシホが案内してあげて」

 マリーがシホに依頼してシホがうなずいた。

「でも、ヒカリちゃん。よく考えたら生活用品が何もないけどどうする?」

 シホは肝心なことに気づいた様子で言った。

「あっ! そうですね! 困ったなー、家から持ってくるとしても、どうしようかな……」

 ヒカリは生活用品を家から寮に持って行くにしても、車があるわけでもないので困ってしまった。それに、お金もあまり持っていないので、引っ越し業者に頼むのもできれば避けたくて悩んでしまう。

「荷物は、ある程度あなたの家から移しておいたから大丈夫よ」

 マリーが困っているヒカリにさらっと伝えた。

「あ、ありがとうございます。……って、えー! そんなことできるんですか?」

 ヒカリは反射的に感謝の気持ちを述べたのだが、よく考えてみたらすごいことだと気づいて驚いた。

「マリーさんは、最強の魔女って言われてるんだから、そんなの余裕よ」

 シホはヒカリに冷静に伝えた。

「えっ。そうなんですか。……最強の魔女なんだ」

 ヒカリはマリーが最強の魔女と呼ばれるくらい、すごい魔女だとは知らなかったので、またしても驚いてしまった。

「しっかり仕事をこなして、仕事が終わったら魔法の修行をみっちり行いなさい。時間は限られているんだから」

 マリーはヒカリとシホに少しだけ喝を入れた。

「はい!」

 ヒカリとシホはマリーに元気よく返事をした。二人の返事を聞くとマリーは去っていった。そこにリンが現れて、シホに話しかけた。

「シホ、今日の修行はどうする?」
「リンさん、今日はヒカリちゃんに寮の案内をした後、お願いします」
「わかった。いつもの場所で待ってる」

 シホとリンは淡々と会話をして、それが終わるとリンは去っていった。

「リンさんが魔法指導員なんですか?」

 ヒカリはシホに質問した。

「そう! いつも熱心に教えてくれる、私にとって最高の指導員だよ!」

 シホはすごく嬉しそうにそう言った。

「……なんかいいですね! 師弟関係って!」

 ヒカリはうらやましそうにシホを見た。

「うん! ヒカリちゃんとエドもいいペアだと思うよ! ……まぁ、エドは初日から仕事で不在だけど」

 シホは少しだけ残念そうに言った。

「……そうですね」

 ヒカリは仕事だから仕方ないと思いながらも、なんとなく相手してもらえない寂しさを少しだけ感じた。





 退勤時間になり、ヒカリとシホは会社を出て駐輪場に向かっていた。

「ヒカリちゃんも原付なんだね」

 シホはヒカリに話しかける。

「さすがに車を買うほどお金も無くて。でも、バイクも楽しくて好きです!」

 ヒカリはニコニコ笑いながら言った。

「バイク楽しいよね! 鹿児島は自然が豊かだからバイクで走ると、すっごく気持ちがいいんだよね! 特に海沿い!」

 シホは少し興奮した様子で言う。おそらくバイクが好きなのだろう。

「私、県外には修学旅行でしか行ったことないんで、他の県がどんなところなのか、よくわからないんですよね。鹿児島ってやっぱり田舎なんですかね?」

 ヒカリは苦笑いしながら言った。

「鹿児島市内は田舎って感じでもないけど……この辺はちょっと田舎かもね! ただ、それなりに買い物できるお店もあるし、大きな病院やスポーツ施設もあるから、田舎の中では都会かもしれないね!」

 シホは考えているような仕草をしながら話した。

「田舎の中では都会ですか……。てことは、のんびり暮らすには、ちょうどいいってことですね!」

 ヒカリは鹿屋の良さを改めて理解し、笑顔でそう言った。

「そう! ちょうどいい! ふふ」

 シホも笑顔でそう言った。

「ちなみに、ヒカリちゃん! 鹿児島市内に行く時のフェリーに乗ったら、最初は何する?」

 シホはニヤニヤしながら聞いてきたが、この辺に住んでいる人の答えは一つしかないと、すぐにわかった。

「ふふ。じゃ、一緒に言いましょう! せーの――」

 ヒカリはニヤニヤしながらこの会話を楽しんでいた。

「うどんを食べる!」

 二人とも同じ答えだった。なぜだかわからないが、この辺の人達は、フェリーに乗ったらうどんを食べるという風習があるのだ。むしろ、フェリーに乗るならうどんを食べなきゃいけない、くらいの気持ちになっている人も少なくない。

「だよねー! フェリーに乗ったらうどん! それがこの辺に住んでる人達の最高の楽しみなんだよ! でも、他の地方の人には、よくわからないかもしれないけどね! ふふふ」

 シホはすごく興奮しているようだ。ヒカリもその気持ちが分かるので興奮する。

「なるほど! やっぱりいいところですね! 鹿児島は!」

 ヒカリが笑顔でそう言うと、シホもニッコリ笑っていた。



 ヒカリとシホは駐輪場に到着し、原付バイクにまたがった。シホは水色の原付バイクに水色のハーフキャップタイプのヘルメットで、可愛いらしいシホにはすごくお似合いだった。

「じゃ、私の後についてきてね」
「はい!」

 ヒカリはシホの後を追って原付バイクを走らせる。山道を下っていくと、夕陽に照らされた美しい錦江湾きんこうわんが見えてきた。気持ちの良い風景に心が洗われるようだ。それから、海岸線を走って浜田海水浴場付近までくると、山側の建物の駐車場に入っていった。シホが原付バイクを駐輪場に停車したので、ヒカリも隣に停車する。

「はい。寮に着いたよ」

 シホはヒカリにそう言った。ヒカリは駐輪場から寮の建物全体が見えるところまで走っていき、寮を見渡した。

「なんか……結構地味ですね」

 ヒカリが想像していた寮は、おしゃれなコテージのような雰囲気だったが、実際の寮は、鉄筋コンクリートで作られている、築四十年くらいの二階建ての古い建物だった。

「まぁ、そうだね」

 シホも地味だと思っていそうな雰囲気で答えた。

 それからヒカリはシホに連れられて寮に入り、二階の一番奥にある部屋の扉の前に着いた。

「ここがヒカリちゃんの部屋だね」

 シホは落ち着いた口調で言った。

「ここが私の部屋……。……よし! さっそく開けてみます!」

 ヒカリはだんだんワクワクしてきた。マリーから受け取った部屋の鍵を取り出して、鍵を開けドアノブに手をかけた。

「オープン!」

 ヒカリは元気よく扉を開けた。八畳ほどの部屋の中央には、家から移された生活用品がちらほらあり、木枠のシングルベッドとシンプルな机と椅子が置いてあった。

「やっぱり、地味な部屋ですよねー」

 おしゃれな部屋だったらいいなと少しだけ期待していたヒカリだが、予想どおり地味な部屋だったので、気分もそんなに上がらなかった。

「でも、ヒカリちゃん。カーテンを開けてみて」

 シホはニコっと笑いながら言った。ヒカリはなんでカーテンを開けて欲しいのかわからなかったが、言われるがままカーテンを開けた。

 すると、窓から見えた景色は美しく、夕日に照らされた穏やかな錦江湾と綺麗な砂浜、遮るものがない空に一瞬で心が奪われた。

「綺麗…………。本当にすっごくいい眺め! 海も浜も見渡せて気持ちがいい! こんなに美しい景色が部屋から見えるなんて! ……何もなくてすごく地味な部屋だけど、いい部屋ですね!」

 ヒカリはさっきまでのガッカリ感が嘘のように、はしゃいでいた。

「ふふ。気に入ってもらえてよかった」

 シホも嬉しそうだった。

「あとは、食堂で朝と夜のご飯が出るのと、お風呂は大浴場があるから、好きな時に入っていいよ。……あ、でも今日の夜ご飯は少なめかもしれないけど」

 シホは寮の説明について、伝え漏れが無いように考えながら言っているようだ。

「はい! わかりました! 何から何までありがとうございます!」

 ヒカリは元気よく感謝の気持ちを伝えた。

「いえいえ、会社と魔女見習いの先輩ですから……当・然・です!」

 シホは最後の『当然です』を腰に手を当て胸を張り、わざとらしく言った。ヒカリはそんなシホの行動が面白くて笑いだし、シホも笑いだした。
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