前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな?

ミミリン

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多忙すぎる

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次の日の朝から俺はエレノアが行く場所全てに付いて行った。

俺が父上の息子だと知られていたが、特に何かを言われることもなく、現地の人間は皆エレノアを歓迎していた。


「エレノア様、もっと早く来てくださいよ。相談したいことが山積みですよ。」


「エレノア様、手続きの件で書類を送ったもの目を通されましたか?
エレノア様の決定がないと次に進めないんです。」


など、この土地はエレノア中心に回っているようだった。



分刻みのスケジュールで会議に出向き、決議をとり、現場に向かい、また別の会議に出て…

と休む暇もなく駆け回った。



現場では時々エレノアは他国の言語も話していた。

移動時間、何故通訳を雇わないか聞くと

「お金がかかるじゃないですか。
それに、相手が何を言っているか把握した方が仕事が早く進められるんです。
コスパとタイパ考えたら私がしゃべるほうが早いんですよ。」

と真顔で言われた。



勢いのある商人にも冷静に対処し、
自分のペースに流れを作り、交渉を有利に進める姿は貴族婦人ではなく立派な商人そのものと言える。



そして、本日最後の現場に向かう。

「ああ、この分野…。こっちはお手上げかもしれないな…。」

とぶつぶつ呟いている。


エレノアの顔が険しい。


目の前には最新の魔力装置が置いてある。



「この装置でこの部品を溶接しようとして購入したのよね。
帳簿を確認したらまあまあ高い物だったわよ。」


「そうなんです。けど、どれだけマニュアルに忠実に動かしても、思ったほど生産性が上がらなくて…。
売り上げが思うように伸びませんでした。」

領地経営の職員も険しい顔でエレノアに説明している。


「…そうねえ…。魔力工学の分野になるわよね。
さっぱり分からないわ。
業者も倒産して技術者が呼べないでしょう?」


「はい…。かなり最新の装置なので職人たちもお手上げで。
新しいものの購入を検討しているのですが…。」


「いや、もったいないわ。
何か、生産性の上がる方法を考えないと…。」


「この新しい部品に隣接している部分だけ年式が古いパーツが使われている。
容量も少ないから無駄に魔力を消費しているじゃないか?」



思いついたことを言ってみた。

全員の視線が俺に向かった。何か場違いな事を言ってしまったのか?




「ディラン様、詳しいのですか?」



「いや~アカデミーで魔法工学を専攻していたんだ。
基礎しか分からないが素人より知識はある。」


「このパーツ、変える事って出来ますか?」


「ま、まあ。工具があればここにあるパーツで代用は可能だと思うが。」



「ぜひ、お願いいたします。
お礼はさせていただきます。」


「い、いや、そんなものはいらない。
ここの工具を借りるぞ。」


「は、はい!何でも使ってくださいまし!」



俺は職人の工具を使い、パーツを変更させた。

久しぶりの魔法装具いじりで懐かしく楽しくも感じられる。


「坊ちゃんはアカデミーで魔法工学を専攻され、良い成績を収められていました。
また、剣術も見事でございました。」

執事が修理を待っているエレノアにいらぬことを聞かせていた。


「昔の話はやめてくれ。もう、関係ないだろう。」


「はっ!申し訳ありませんでした。」

執事はぺこりと腰を折った。



「まったく…。」

視線は魔法装置だが話はよく聞こえているんだからな。



「よしっ、これで当分は何とかなるはずだ。
出来れば今日取り換えたパーツも最新の方が良いから、時期を見て取り替えて見てくれ。」



「あ、ありがとうございます。ちょっと、実際稼働してもらえる?」


「は、はい!」


従業員とエレノアが見守る中装置を稼働させてみる。


「あ!エレノア様ディラン様!動きます!
それにスピードが格段に上がりました!
すごいです!」


皆がわあっと歓声を上げた。



「ディラン様、ありがとうございます!素晴らしい技術ですわ。」



エレノアが俺に礼を言ってきた。
目をキラキラ輝かせて。

その顔にクラっとめまいがしそうだったが何とか踏ん張った。


ダメだぞ、俺。

エレノアの策略にはまってはいけない。

あの可愛らしい笑顔は罠なんだ。

ああやって男どもを骨抜きにしてきた可能性もあるんだから。



長い濃密な一日を終えて屋敷に戻った。



つ、疲れた…。

明日もこんなことするのか?

いや、俺はただ後ろで見ていただけだ。

エレノアと領民たちの話の半分も理解できていなかった。


喉が渇き、水を飲みに廊下を歩くと、別棟にまだ明かりがついている部屋があった。



どうしても気になり、別棟に足を運ぶ。



別棟はところどころ女性らしい内装がなされている。内装はまだ新しいようだ。
あの女の仕様か?


明かりが部屋の隙間から漏れている。
エレノアが仕事をしている気配が感じられた。


「まだ、起きてるのか?
入浴もせず何をしているんだ?」

部屋のドアの隙間から声をかける。


「ああ、ディラン様ですか。もう終わります。
よかったら入ってもらって良いですよ。」


「…分かった。」


エレノアは昼と同様濃い化粧のままだったが、眼鏡をかけていた。

片手にはそろばんという道具、机の上には書類が山のように積まれていて仕事に追われているのが目に見えて分かる。



「目が、悪いのか?」


「ああ、この眼鏡ですか?
夜に小さい文字をずっと読み続けるとかすんできちゃって。
お見苦しくてすみません。」



「別に、見苦しくはない。」

普段派手な身なりの女が眼鏡をかけて書類に目を通している姿はむしろ情緒があって…。


いや、なにを考えているんだ。



「しかし、何でこんな別棟で仕事をしているんだ?」


「ああ、ここですか?
まあ、本宅だと色々気を遣う事もあったので、仕事するにはこっちの方が環境的に良かったんです。
ここ、居心地良いですよ。」



「…よく分らないな。」

何で自分の寝室は夫と別で、仕事部屋は離れなんだ?

夫婦関係は良好だったんじゃなかったのか?



「明日はレイズ君がこちらに来る予定です。
出来る限り資料を確認しておこうと思って。
時間は有限ですからね。」



「…早く…。」


「え?何ですか?」


「早く寝た方が良い。
こんな生活していたらお前こそ早死にするぞ。
…何も分かっていない俺が言うのはおかしいが、レイズの為にも健康でいろ。」



「ああ、はい。そうですね。
キリが良いところまで終わったので、そろそろ寝る用意します。
では、ディラン様もおやすみなさい。」


「あ、ああ。おや、すみ。」


偉そうなこと言って、エレノアの手を止めて邪魔してしまった。

何と言うか、これが男狂いの悪女がする仕事なのか?

やっぱり何か違和感がありすぎる。

誰かをかばう、隠すためにわざと噂を肯定しているのか?


いや、しかしそれなら先日の蛇顔の男は何だったんだ?

あの男がただ一人の本命なのか?



この屋敷は一体どうなっている…。

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