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どちらの山根さんですか?
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殴られるっ!
目を閉じて奥歯を食いしばる。
すごい衝撃が来るはずだから。
全身もこわばった。
頭の中はただ怖いだけだった。
怖い、怖い、怖いっ。
けど、私に田所さんの拳がぶつかることはなかった。
恐る恐る目を開くと目の前に背の高い男性が私をかばってくれていた。
誰だろう?
すらっと背が高くて綺麗なシルエット。
田所さんの手を掴み
「無抵抗な女性を殴ろうとしてたよな。
どれだけ最低なんだ、あんた。途中から距離のある所からも話が聞こえていたぞ。」
「お、お、お前誰だよ?部外者は首突っ込むな!これは俺とマコのコミュニケーションだ!」
目の前の男性は私の方を見るために振り返る。
「これがコミュニケーションですか?」
うわ…。顔が整っていてものすごくカッコいい人だ。
「ち、違います。この人に脅されてました。」
「ですよね。これ、立派な犯罪ですよ。やっぱり警察呼びましょうか。」
「うるせえな!ただの痴話げんかだよ!ああ、もういい!
くそっ。あんた、人の痴話げんかにいちいち首突っ込むなよ。どこの会社の奴だ?」
「はあ?あんたと同じ会社だろ。何言ってんの?平井さん、こいつ頭おかしくなったんじゃないですか?」
ものすごくカッコいい男性は何故か私の名前を知っていて同じ会社の人間だと言っている。
こんなカッコいい知り合い居たかな?
「す、すみません。失礼ですが、どなたでしょうか?」
「平井さんまで…。俺ですよ。山根です。」
「やま…ね?さん?どこの部署のやまねさんですか?あれ、聞き間違いかな。やまのさんっておっしゃいましたか?」
「山根です!平井さんと同じデザイン課の山根遥です。」
「え?ええええ?や、山根君?」
「そうですよ。っていうか、おい、あんた。」
山根君と名乗った男性はまだ田所さんの拳を掴んだままだった。
「人様のパーティでなに暴れてんだよ。最低すぎるだろ。今日の事はしっかり上に報告させてもらうからな。」
低い声で田所さんを威嚇する。
「うるさいっ!俺は何もやってない。ただの意見の食い違いだ。マコが俺の事何も分かろうとしなかったからこうなったんだ。俺は何も悪くない。その手どけろ。」
田所さんは睨みながら掴まれた手を払って会場に戻って行ってしまった。
私たちは廊下に残された。
「平井さん、さっきの状況録音録画とってないですよね。」
「う、うん…。突然の事で出来なかった…。」
「…俺も声が聞こえてきたから声のする方に向かったんです。
そしたら平井さんが殴られそうになってたから無我夢中で録画とか出来ませんでした。」
山根君が申し訳なさそうに顔をしかめている。
山根君の顔がよく見える。
今どきのヘアスタイルになって今まで髪と髭で隠されていた色々なパーツが露になっている。
声は山根君なんだけど、本当に山根君なんだろうか?
声だけそっくりさんとか?そんな人がわざわざ今日ここで会わないよね。
今までのよく知っている山根君と今ここにいる山根君と名乗る人の共通点はどこにあるんだろうと注意深く観察してしまっていた。
「…。あの、平井さん。」
「あ、はい。何でしょう?」
「やっぱり、これ変じゃないでしょうか?」
「これと言うのは?」
「髪、切ったんです。里子さんに紹介してもらった美容院のオーナーに。お任せしますって言ったらこんなことになってしまって…。顔がスース―するし全部丸見えで…。やっぱりおかしいですよね。」
「オーナーってあのムキムキしたオーナーさん?」
「はい。顔綺麗なのに全身ムキムキ筋肉でテンション高くて…。髪の毛切った後ここに行こうとしたら服を選ばせてほしいってせがまれて。圧がすごくて断れなくて…。」
「あ、だからちょっと遅刻したの?」
「そうなんです…。着せ替え人形にされて、何度もナイス!とか最高!って店の中で拍手されて恥ずかしかった。
おちょくられているのかなって思ってたけどオーナーさん何故か涙ぐんでてて途中で逃げたらダメな気がして…。」
多分オーナーさんよっぽど山根君の完成度が高くて嬉しかったんだろうな…。
何かその情景ものすごく想像できる。
「里子さんに連絡とってたの?」
「あ、はい…。色々頭が混乱して誰かに相談したくて頼ってしまいました。君に必要なのは自信だからって美容院紹介されたんです。」
「そっか…里子さんが…。」
「あのっ!大吾にも相談したんです。
友達あいつしかいないんで。そしたらめちゃくちゃ怒られました。だから…あの…。」
山根君が一生懸命喋ってくれているけど、見慣れない整いすぎた美青年の顔が近づいてくるとドキドキ鼓動が大きくなり顔が真っ赤になってしまう。
ち、近いっ。カッコよすぎて直視できないっ。
「あ~!平井さんこんなところにいた!お化粧直してたの?あれ?他社の人と喋ってたの?大丈夫?」
三谷さんが私を探しに来てくれた。
「すみません話に割り込んでしまっ…。」
山根君の顔を見て三谷さんが絶句した。
「お取込み中だったかな…。ごめんね…。すみません、鶴丸様の経歴を振り返る映像がそろそろ流れるから平井さん戻った方が良いかなって来たんだけど…。」
「あ、行きます。すみません勝手に場所を離れてしまって。」
「いいの…。ちょっと平井さんいいかな?」
「あ、はい。」
私は三谷さんに耳元でコソコソと話される。
「すごいかっこいい男性ね。いやらしい雰囲気も全然ないし。どこの会社の方か分からないけど、素敵な人だった良いご縁になりそうね。頑張ってね。」
三谷さん、ちょっと酔ってる?こんな話するんだ。いつもクールだからちょっと意外だ。
絶対山根君って分かってないよね。
それに、良いご縁も何も私もう山根君にフラれてるんです。
「あの…。」山根君が心配そうな顔で話しかけてきた。
「あ、ごめんなさい。じゃあ、私先に戻ってるね。ゆっくり来て大丈夫だから。では、失礼します。」
三谷さんはそそくさと去ってしまった。
「あ、じゃあ、私たちも行こうか?」
「あ、はい…。あの…。」
私と山根君は会場に向かいながら歩き始めた。
「なあに?」
「三谷さん俺の事見てヒソヒソ言ってたじゃないですか。
やっぱりこの髪や恰好変だからですよね。すぐ行っちゃたし。」
「…。山根君、それは山根君が。」
カッコいいからだよと言おうとしたら扉が開いていた会場の奥から
「はるちゃん!」
と声がした。
目を閉じて奥歯を食いしばる。
すごい衝撃が来るはずだから。
全身もこわばった。
頭の中はただ怖いだけだった。
怖い、怖い、怖いっ。
けど、私に田所さんの拳がぶつかることはなかった。
恐る恐る目を開くと目の前に背の高い男性が私をかばってくれていた。
誰だろう?
すらっと背が高くて綺麗なシルエット。
田所さんの手を掴み
「無抵抗な女性を殴ろうとしてたよな。
どれだけ最低なんだ、あんた。途中から距離のある所からも話が聞こえていたぞ。」
「お、お、お前誰だよ?部外者は首突っ込むな!これは俺とマコのコミュニケーションだ!」
目の前の男性は私の方を見るために振り返る。
「これがコミュニケーションですか?」
うわ…。顔が整っていてものすごくカッコいい人だ。
「ち、違います。この人に脅されてました。」
「ですよね。これ、立派な犯罪ですよ。やっぱり警察呼びましょうか。」
「うるせえな!ただの痴話げんかだよ!ああ、もういい!
くそっ。あんた、人の痴話げんかにいちいち首突っ込むなよ。どこの会社の奴だ?」
「はあ?あんたと同じ会社だろ。何言ってんの?平井さん、こいつ頭おかしくなったんじゃないですか?」
ものすごくカッコいい男性は何故か私の名前を知っていて同じ会社の人間だと言っている。
こんなカッコいい知り合い居たかな?
「す、すみません。失礼ですが、どなたでしょうか?」
「平井さんまで…。俺ですよ。山根です。」
「やま…ね?さん?どこの部署のやまねさんですか?あれ、聞き間違いかな。やまのさんっておっしゃいましたか?」
「山根です!平井さんと同じデザイン課の山根遥です。」
「え?ええええ?や、山根君?」
「そうですよ。っていうか、おい、あんた。」
山根君と名乗った男性はまだ田所さんの拳を掴んだままだった。
「人様のパーティでなに暴れてんだよ。最低すぎるだろ。今日の事はしっかり上に報告させてもらうからな。」
低い声で田所さんを威嚇する。
「うるさいっ!俺は何もやってない。ただの意見の食い違いだ。マコが俺の事何も分かろうとしなかったからこうなったんだ。俺は何も悪くない。その手どけろ。」
田所さんは睨みながら掴まれた手を払って会場に戻って行ってしまった。
私たちは廊下に残された。
「平井さん、さっきの状況録音録画とってないですよね。」
「う、うん…。突然の事で出来なかった…。」
「…俺も声が聞こえてきたから声のする方に向かったんです。
そしたら平井さんが殴られそうになってたから無我夢中で録画とか出来ませんでした。」
山根君が申し訳なさそうに顔をしかめている。
山根君の顔がよく見える。
今どきのヘアスタイルになって今まで髪と髭で隠されていた色々なパーツが露になっている。
声は山根君なんだけど、本当に山根君なんだろうか?
声だけそっくりさんとか?そんな人がわざわざ今日ここで会わないよね。
今までのよく知っている山根君と今ここにいる山根君と名乗る人の共通点はどこにあるんだろうと注意深く観察してしまっていた。
「…。あの、平井さん。」
「あ、はい。何でしょう?」
「やっぱり、これ変じゃないでしょうか?」
「これと言うのは?」
「髪、切ったんです。里子さんに紹介してもらった美容院のオーナーに。お任せしますって言ったらこんなことになってしまって…。顔がスース―するし全部丸見えで…。やっぱりおかしいですよね。」
「オーナーってあのムキムキしたオーナーさん?」
「はい。顔綺麗なのに全身ムキムキ筋肉でテンション高くて…。髪の毛切った後ここに行こうとしたら服を選ばせてほしいってせがまれて。圧がすごくて断れなくて…。」
「あ、だからちょっと遅刻したの?」
「そうなんです…。着せ替え人形にされて、何度もナイス!とか最高!って店の中で拍手されて恥ずかしかった。
おちょくられているのかなって思ってたけどオーナーさん何故か涙ぐんでてて途中で逃げたらダメな気がして…。」
多分オーナーさんよっぽど山根君の完成度が高くて嬉しかったんだろうな…。
何かその情景ものすごく想像できる。
「里子さんに連絡とってたの?」
「あ、はい…。色々頭が混乱して誰かに相談したくて頼ってしまいました。君に必要なのは自信だからって美容院紹介されたんです。」
「そっか…里子さんが…。」
「あのっ!大吾にも相談したんです。
友達あいつしかいないんで。そしたらめちゃくちゃ怒られました。だから…あの…。」
山根君が一生懸命喋ってくれているけど、見慣れない整いすぎた美青年の顔が近づいてくるとドキドキ鼓動が大きくなり顔が真っ赤になってしまう。
ち、近いっ。カッコよすぎて直視できないっ。
「あ~!平井さんこんなところにいた!お化粧直してたの?あれ?他社の人と喋ってたの?大丈夫?」
三谷さんが私を探しに来てくれた。
「すみません話に割り込んでしまっ…。」
山根君の顔を見て三谷さんが絶句した。
「お取込み中だったかな…。ごめんね…。すみません、鶴丸様の経歴を振り返る映像がそろそろ流れるから平井さん戻った方が良いかなって来たんだけど…。」
「あ、行きます。すみません勝手に場所を離れてしまって。」
「いいの…。ちょっと平井さんいいかな?」
「あ、はい。」
私は三谷さんに耳元でコソコソと話される。
「すごいかっこいい男性ね。いやらしい雰囲気も全然ないし。どこの会社の方か分からないけど、素敵な人だった良いご縁になりそうね。頑張ってね。」
三谷さん、ちょっと酔ってる?こんな話するんだ。いつもクールだからちょっと意外だ。
絶対山根君って分かってないよね。
それに、良いご縁も何も私もう山根君にフラれてるんです。
「あの…。」山根君が心配そうな顔で話しかけてきた。
「あ、ごめんなさい。じゃあ、私先に戻ってるね。ゆっくり来て大丈夫だから。では、失礼します。」
三谷さんはそそくさと去ってしまった。
「あ、じゃあ、私たちも行こうか?」
「あ、はい…。あの…。」
私と山根君は会場に向かいながら歩き始めた。
「なあに?」
「三谷さん俺の事見てヒソヒソ言ってたじゃないですか。
やっぱりこの髪や恰好変だからですよね。すぐ行っちゃたし。」
「…。山根君、それは山根君が。」
カッコいいからだよと言おうとしたら扉が開いていた会場の奥から
「はるちゃん!」
と声がした。
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