夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第1話 グランファミリア

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どのくらい歩いたのだろう…

真っ白な空間を優子の手を握ったまま歩いていくが、前を歩くナフタの背中以外は、どこまでも白い空間が広がっている…

不安なのか、優子は俺の腕に抱きつくようにくっついている。
歩きづらくてやめてもらいたいのだが、不安になるのもわかるので、今はそのままにしておこう…

そんなことを考えていると、前を歩くナフタが立ち止まり、何もない空間に手をかざした。

バチッ!と、何かが爆ぜるような音が響き渡り、音と共に目を開けていられない程の光が目の前に溢れた。
咄嗟に目を閉じたが、一瞬見た光のせいで目の奥が痛い…

目を閉じていると、風が体に当たる感触がし始める。

(外?着いたのか?)

まだ目は開けられなそうだが、目を閉じたままでも、今までいた空間とは別の場所だと分かる。
いつのまにか感じ始めていた足の裏から伝わる草や土の感触、草の葉が揺れるサワサワという音や、虫の鳴き声のようなもの…様々な自然の音が聞こえ始めた。

数秒で痛みは治り、ゆっくり目を開ける…

「これは…」

目の前には緑の草原と、抜けるような青空が広がっていて、思わず声が出てしまった。

「さ、ここがグランファミリア、君達がこれから暮らす星だよ。」

グランファミリアの景色は、地球によく似ている。
空を見上げれば太陽が3つあったりするので地球じゃないと分かるが、ぱっと見では区別がつかないほどだ。
サワサワと風に揺れる、少し長い下生えの葉ずれの音が耳に心地いい。
気候も日本の初春くらいで快適だし、ゴミゴミした東京に比べたら、ここは天国だと言えるだろう。

「うわ~!ぼん!凄いね!凄いね!」

浮かれた優子が、はしゃぐ様に俺の腕を引っ張る。
いい歳なんだから落ち着きを持て…と…
ん?

「そうそう、2人共ちゃんと15歳の身体に若返らせて置いたからね。」

クスクスと笑うナフタは、俺たちをいつのまにか若返らせたと告げる。
確かに、最近気になって来ていた肩凝りも腰痛も一切無くなっているし、視力まで良くなってるらしく遠くの木々も普通に見える…

「やる前に言ってくれよ…」

俺は、ずり下がってしまうズボンのベルトを締め直しながら文句を言う。
が、それより何より…少女と言っていい程に若返った優子が問題だ、これで本当に15歳なのか?

「ははは、さ、ここからは君達に任せるよ。新しい人生を大いに楽しんで、僕を楽しませてね。」

若返った優子に驚いていると、ナフタはそう言い残して消えてしまっ…

「そうだ、これはオマケだよ。じゃ、まーたねー」

フッと空中に顔だけ出したナフタに驚かされるが、またすぐに消えてしまう。
消えてすぐ、ポトリと見覚えのあるものが落ちてきた。
拾い上げると、それは紛れも無くストレージリングだった。優子の分も俺が着けているから、もう一つ欲しいと思っていたが…

「マジでくれたよ…」

欲しいと思っていたからありがたい。
これは優子に渡して、使い方を説明しておこう。

「優子、こっち来て。」

「何~?」

何が楽しいのか、無駄に蝶々みたいな虫を追いかけていた優子を呼ぶと、トテトテと小走りにやって来る。
危ないから落ち着きを持って欲しい…

「転ぶぞ?何やってんだ?」

「ん~?変な虫が飛んでたから見てただけ~」

「…まあいいや、これ、左手にはめてからストレージって言ってみ。で、収納したいものに触れて[ストア]、出したいものは念じれば腕の上に浮かぶリストから選んで[リリース]、その内声に出さなくても、心の中で唱えれば出来るようになるから、練習して。」

手に持った新しいストレージリングを、実際に出し入れしてみせ、優子にストレージリングを渡す。

「おぉー、楽しそうだね!」

「人とか動物は入れちゃダメらしいからな、うっかりじゃ済まないから気をつけてくれよ?」

「ん?分かった~」

若返りの影響なのか、優子の精神年齢までも若くなっているように感じた。
手首にぴたりと収まったストレージリングを眺めていた優子だったが、突然しゃがみこむと、何を思ったのか地面に生えている草を収納し始めた。
収納して出す、収納して出す…何がしたいのか分からないが、楽しそうに笑っているので放っておこう…
てか、若返った事への違和感ってこの程度なんだろうか?もっと色々とあると思っていたんだが…まぁいいか…
周囲に何もない草原にいつまでもいるわけにもいかない、とりあえずテンプレ通り人の住んでいる街や集落を探す事にしよう。

(ナビさん、近くの人の住んでいる場所はあるかな?)

『回答提示。ここから東南方向に徒歩で2日程の距離に、人口256人の集落があります。』

この目の前に広がる草原を突っ切れば、人の住む集落に着くらしい。
なんで分かるかというと、目の前に透明度の高い矢印みたいなものが浮かんでいるからだが…なんで違和感がないんだ?

まぁ、これなら道に迷うことがないし、便利だからいいんだけど…

『補足情報。最短ルートですと、途中に見晴らしの悪い森林地帯を通ることになります。敵生体との遭遇するリスクが高くなることが予想されるため、迂回ルートを進む事を提案します。』

敵性体ってのは魔物モンスター魔獣ビーストのことだろうか?
迂回ルートを進んでも、1日多くかかる程度の距離だと、ナビさんからの情報が頭の中に入ってくる。
迂回した方が安全そうだと判断すると、目の前の矢印がスーッと向きを変えた。
本当に便利な機能だと思う。

「おーい、そろそろ出発するぞ~」

「んー?どこ行くの?」

「ここにいても仕方ないし危ないかもしれないからな、とりあえず人のいる方、村とかを目指して歩こうと思うよ。」

相変わらず草を収納したり出したりして遊んでいた優子を呼び、ナビさんの誘導に従い東へと歩き出した。



「フーンフフーン♪フフンーフフーン♪」

鼻歌を歌いながら拾った枝を振り回す優子を先頭に、眠気を誘う麗らかな陽気の中、サワサワと揺れる草を踏みながら、人や動物の姿が無い草原を、歩き続けてそろそろ1時間。
若返った体は思った以上に快適で、まるで疲れを感じることはなかった。
軽く跳んだりしてみるが、特段身体能力が高くなったわけではなかったようで、何mも跳びあがったり出来るわけもなく、体力以外は普通の地球人と変わらない体なのが分かっただけだった。

「あ!」

急に優子が立ち止まると、棒を手放してこちらに向かって戻ってくる。

「ぼん!しろま達出してあげないと!」

「しろ…ま?」

戻ってきた優子に腕を掴まれたが、すぐには何のことか分からなかった。

「もう!中に入れてるリング出して!早く!」

「分かった、分かったから。出すから少し落ち着いてくれよ。」

優子に言われるまま、ストレージリングをリリースする。
取り出したリングは無駄に重く、手に出すと同時に取りこぼしてしまった。
ズンッと重々しい音を立てて地面に突き立ったリングを、優子は自分のリングに収納し中身を確認し始める。
ストレージリングを収納すると、その中に入っているものも確認したり取り出すことが出来るのだが…あれ?俺、そこまで教えてない筈なんだが…

「んーと…いたいた。えっと、リリース!」

優子は暫くリストを眺めて、目的のものを見つけたらしく、手の上に取り出した。
それを見てやっと思い出した。

「あー…しろまとでっかちゃんか、色々なことが起きてたから忘れてたよ。」

それは年月が立って、少し煤けた感じになっている白熊のぬいぐるみ達だった。

「ふふーん♪久しぶりだねー♪」

ぬいぐるみに頬ずりする優子の頬を、ぬいぐるみが押し返す。
…押し返す?

「苦しいでしょー!」

「「へ?」」

ぬいぐるみが…動いた…?

「しろま?…え?」

優子も驚いたようで、伸びをするぬいぐるみを抱いたまま固まっていた。

「やっと出れたよ~」

優子の腕の中で伸びをする15cm程の大きさのぬいぐるみ「しろま」と、もぞもぞと黙って位置を直すしろまの倍はある「でっかちゃん」。
どちらも、優子のお気に入りだったぬいぐるみだが、ここに来てまさかの…

「生きて…いや…」

「マメ、お腹減ったからお菓子食べよう。」

「肉は?肉食べよう。」

「ん~、チョコならあるよ?食べる?」

「食べる!」

「え~肉は~?」

思い思いに喋るぬいぐるみと、普通に接している優子に少しだけ驚くが、ここは異世界…なんでもあり…なのか?


ーーーーー
やっと異世界突入です。
これから頑張らせていこうと思います。
ご意見ご感想、お待ちしています。
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