夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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プロローグ

プロローグ4

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「あ~…やっぱり日本茶は美味いな…」

バタン!

持っていくための荷物をまとめ終わり、優子とリビングで寛いでいると、田舎の親戚が訪ねて来る時の様に、無断で家に入ってきたナフタが軽く声をかけてくる。

「やぁやぁ、準備は終わったみたいだね。」

流石に驚いて固まる様なことはなかったが、自分勝手で不快感がある行動に、少しだけ眉根を寄せて思った事をそのまま伝える。

「おい、せめてノックくらいしろよ…」

「ん?僕が君達の決めたルールを?なんで守る必要があるのかな?」

さも当然の事の様に聞き返してきたナフタは、意に介した様子もなく、机の上にあった羊羹に手を伸ばす。
静止したところで聞かないのは分かっているので、せめてもの抵抗として、問いに答えるのではなく、溜息を吐きながら手を振って対応した。

「もういい、で?なんか期間は短かったが準備はしたぞ?これからどうしたらいいんだ?」

「なんか釈然としてないね~。ま、いいや。」

手の汚れを服で拭い、ナフタは俺達を交互に見据え、首を傾げて口を開いた。

「んー、2人だけでいいんだね?」

俺と優子は顔を見合わせ、同時にゆっくり頷く。

「考えた結果だ、これでいい。」

お互いに仲のいい友人や兄弟、親戚もい無いわけじゃない…
だが、彼らにだって俺達の知らない大切な人はいるはずだが、それら全てを救うことが出来るほど、カードの枚数は多くない…
2人で話し合った結果、それなら俺たちだけで行くのが最善だとの結論に至り、今日まで誰にも話すことはなかった。

「そう…ま、これ以上は聞かないよ。荷物は…ちょっと多くない?」

俺の言葉を聞いたナフタは、微妙な顔で笑いながら聞いてきた。
異世界に持っていく荷物として用意したのは、1人分が大きめのキャリーケース2つと山登りで使うみたいなリュックサック1つにまとめたのだが…多いだろうか?

「多いか?これでもかなり少なくしたつもりなんだが?」

ナフタから、転移先は1000年くらい前だと聞かされて、調べてみると中世の初期くらいに当たるらしいことが分かった。
当然、そんな時代の文明で電化製品は使える様な設備はあるはずがないので、持ち運べる小型ソーラーパネルと、それで充電可能なものとして、愛用のスマホと音楽プレーヤー、それぞれを壊れた時の予備を含めて2台づつ。
それ以外の電化製品は、パソコンも冷蔵庫も電動工具も…何もかも重量とサイズで諦めた。
魔物モンスターがいるらしいし、武器が必要だろうと、切れ味と持ちやすさで選んだ大型のナイフ2本、取り回しとメンテナンスの容易さで選んだ中型ナイフ2本、木の伐採用に斧2本、折りたたみスコップ2本、L字型バール1本を用意。
切れ味を保つために中砥石5個、仕上げ砥石5個も忘れていない。
現地人と馴染める保証もないため、キャンプ用品として、火起こし用のメタルマッチ10セット、ペットボトル式の高性能濾過装置5つ、パラコード30mの物を5本、ティ○ァールの鍋2セット、割れない素材の食器を5セット、アルミホイル20m巻きで10本、石鹸20個、食料調達用の釣竿2本、リール4個、ライン(釣り糸)10本、疑似餌20個、テント大小1つづつ、寝袋3個、断熱用のアルミシート10枚。
非常食と調味料として、乾パン20袋、塩5kg、砂糖5kg、胡椒5kg、だしの素5kg、チョコレート5kg、味噌や醤油は諦めた。
それ以外にも、風邪薬等の各種常備薬や、色々な野菜の種、緩衝材の代わりの衣類やタオルを残りのスペースに詰められるだけ。
それを、はぐれた場合でもなんとか出来る様に1人1セット、計2セット用意していた。
結果、重量的にもサイズ的にも持てるギリギリのものになってしまったが…

「普通に多いね。」

なぜだか呆れ気味に言ってくるナフタは、荷物に向かっておもむろに手を振った。
ナフタが手を振ると、用意していた荷物が全て、霞のように消えてしまう。

「な…!おい、ナフタ!準備したのに消すのは酷くないか!?」

「準備しろとは言ったけど、荷物は抱えられるくらいって言ったんだから、もう少し自重しなよ。」

やれやれといった仕草で肩を竦めたナフタに、俺は苛立ちを隠せずに反論してしまう。

「ちゃんと持てる量に抑えてただろ!本当はさっきのでも少ないくらいだっての!」

ダイニングテーブルに拳を打ち付けて抗議すると、ナフタが口を開いた。

「チッチッチ、これを見てから文句を言えるなら言って欲しいね~。」

ナフタが一瞬、悪い顔をした。ように見えた。
彼は右手に持った腕輪と言うには少し大きいそれを掲げ、どこかの青いロボットと同じようなポーズを決める。

「ストレージリング~」

間延びした声で言ったナフタは、イタズラがうまくいったような満足そうな顔でこちらを見ると、こちらに向かって投げてよこした。
それを受け取った俺は、ナフタの言葉に驚き、手の中のそれをじっと眺める。
質感的には金属、透明でまん丸な石が一つはめられていて、その石の左右に読めないが文字のようなものが、グルリと一周彫り込まれているようだ。

「それを利き腕じゃない方にはめてから、『ストレージ』って言ってみ。」

まさかのストレージリング登場に、正直面食らった俺は、腕輪を見たまま固まっていたようだ。

「…おーい?いらないなら、返してもら…」
「ストレージ!」

ナフタに取り上げられる前に、慌てて左手にそれをはめ、言われた通りに言葉を発する。
すると、少し大きめだった輪が縮み、手首にピタリと収まった。
手を動かして見るが、見た目より少し重いことを除けば違和感を感じることはない。流石は魔道具。なのか?
そしてストレージリングの上に、ホログラムの様に浮かび上がっているRPG風のアイテムリストに視線を移す。
そこには、つい先程まで確認していた物が全部並んでいる…ように見えた。
断言できないのは、表示されている物の種類が多くて、この時点で全てを見切れなかったからだ。

「凄いな…」

「そうだろう?それを作った僕の事をもっと讃えるといいよ。」

誇らしげに胸を張るナフタは放っておくとして、個人的に思っている異世界三種の神器の一つをここで手に入れられたのは良かった。
問題は容量と入れられる物の制限か?

「ふふん、気にしている容量は実質無限だよ。入れたモノの100分の1の重量がリングの重さになるから、それに耐えられる限りだけどね。」

少し重く感じるのはそのせいか?
見た感じ厚みもないのに、付けてみると重量感があると感じていたが…
成る程、入れたもの次第で腕輪の重量が変わるなら、今の腕輪は1kg弱ってところだろうか?
準備していたものの合計は、100kgないくらいだろうからね。
これなら持っていくのを諦めていたものも、結構な数が持ち出せると浮かれかけていた俺に、ナフタが声をかけてくる。

「入れられる物に制限はないけどさ、生きてるものを入れるときは注意してね。」

ナフタがクスリと笑った気がした。
この系統のスキルである無限収納ストレージやアイテムの魔法鞄マジックバックには、生きてるものは入れられないことが大半だ。
相手の意思に関係なく収納出来てしまうなら、実質壊れ性能になるのだが…

「ナフタ、これには生きてる人間や動物を入れる事は出来るのか?…入れたらどうなるんだ?」

リングは2つある、おそらくもう1つは優子に渡すものだろう。
なら使い方をきちんと聞いておく必要がある。
…万が一がないとも言えないものを、優子に渡して良いとは思えない…

「そうだな~」

ソフャに座ったナフタが、少し考えるように目線を上に向け顎に指を添える。
正直こいつの考えは分からん。
…が、ロクなことを考えていないんじゃないかと思えてきた。

「ふふ…気になるなら試してみればいいんじゃないかな?ここには人間が2人いるでしょ?」

笑顔のナフタにゾクっとした…

「や、やるわけないだろ!」

咄嗟に声を上げてしまうが、ニヤニヤしているナフタの顔を見て、からかわれただけだと気がついた。
本当にこいつは神なんだろうか?

「もういいかな?話すにしてもお茶でも飲みながらにしようよ。」

いつのまにかキッチンに移動していた優子が、お茶を入れ直して戻って来ていた、テーブルの減った茶菓子を補充するのも忘れない。

「そうだね~、おやつ~おやつ~」

最後だからと奮発した、知りうる限り最高のお茶と、老舗和菓子屋の高級羊羹だったのだが、ナフタはなんの遠慮もなく食べていく。
その図々しさに、多少イラっとしたが…どうせ思考は読まれていると開き直り、そのまま話を続ける。

「それで?こいつの使い方は?物の入れ方と出し方くらい教えて欲しいんだが?」

羊羹を食べ続けているナフタに問いかけると、一度こちらに目を向けたと思ったが、面倒そうに首を振ると、お茶を啜り新たな羊羹を頬張った。

「おいナフ…『起動シーケンスを開始します。』は?」

何か聞こえた?
すぐ横の優子を見るが、何も聞こえていないようで、美味そうにお茶を啜っている。
ナフタを見ると、わずかに口角が上がっているように見え…これは何かされたな…

『起動完了。マスター登録を開始します。』

「ナフタ、これなん…『登録が完了しました。』おい…『私は認識番号NB- 7653228、情報検索支援を目的に作成された思念体です。』なん…『ナフタ様より、マスターのサポートをするために生み出された思念体です。私は神域全知領域アカシックレコードへの限定的な接続権限を有しております。』」

人口音声に近い少女のような声が、俺の考えを読んだかのように頭の中で響く。
頭の中で自分のものじゃない思考が声と共に割り込んでくる感覚は、経験しないと分からないだろう…違和感しかない。

『思考解読。発言許可を求めます。』

声に出してなくてもこれだ…
思考解読ってナフタかよ…
これを作った本人は、美味うまそうに羊羹を頬張っているし、この声は俺にしか聞こえないらしいから、優子もゆっくりお茶を啜っている。
はぁ…今更発言許可もなにもないよな?喋ればいいよ。

『許諾確認。マスターの負荷を軽減するため、設定の変更を提案します。』

設定?なに?変更可能なのか?

『回答提示。現時点で変更可能な項目を提示します。』

頭の中で聞こえる声は、いくつかの選択肢を提示してきた。

1.自動思考解析許可
2.音量調節
3.固有名称変更

1は、思念体が俺の思考解析を自動で読み取るか、こちらから聞いた時だけにするかを切り替えるもので、頭の中を四六時中見られるのは精神衛生上よろしくない。
なので、即座に任意に切り替えた。
2は、体感音量の調節項目だそうだ、現時点で変更する必要を感じなかったため放置。
3は、思念体の名前をつけられるらしい、NBなんとかってのは覚えられる気もしないし、何か名前をつけようと思う。



よしナビさんにしよう。

え?ありきたり?
はっはっは、名前のセンスが無いのは理解しているぞ?
昔飼ってた犬はポチだし、猫はタマだったからね。
シンプルなのが一番だよ。

『変更内容を確認。思考解析方式を変更、今後はナビとお呼び下さい。』

思念体改めナビは、それだけ言うと黙ってしまう。頭の中が幾分かスッキリした気がして、机の上に目を向ける。

「な、おい!ナフタ!お前、俺の分も食いやがったな!?」

楽しみにしていた老舗和菓子屋の羊羹は、もう一切れも残っていなかった。
個人的にチートスキルの一角だと考えていたナビ系スキルを手に入れ、収納量が条件付きだが無限のストレージリングも手に入れることが出来た…
楽しみにしていた羊羹が無くなったのは必要経費なのだろうか…

ま、これで転移先でも快適に過ごすことが出来…

(ナビさん、ストレージリングの重量軽減の効果は、重複して発生するのか?)

『回答提示。問題なく発動出来ます。』

よし、これはお茶を飲んでる場合じゃないな。今すぐ街に向かわなければ。

「ナフタ、転移をもう少し待ってもらえるか?少し街に出て来たいんだ。」

「ん?あ~…どうしようかな~」

ナフタは少しだけ考えるそぶりを見せたが、頭の中が読めるんだ、俺が何をするつもりなのかなんてお見通しだろう。

「ダメだね。」

思った以上にアッサリと却下されてしまった。
流石に東○ハ○ズやイ○ンをまるっと収納する計画はやり過ぎらしい。
重量軽減を重複させれば、10000分の1の重さになるから、持ち運ぶだけなら体感20kg、総重量200tまで持っていける…いい案だと思ったんだけどな…

「発想は面白いけどね。それで向こうの生活を楽にするのは、僕的に面白くないわけ。」

「そうか…ならせめて家のものは持って行ってもいいか?」

家の中にも、持って行くのを断念したものは沢山ある。それらを持って行けるだけでも嬉しいんだが…

「そうだね、それくらいならいいよ。」

「まじか!それじゃ直ぐに収納してくるよ。」

俺はそこから家中の家具やものを、ひたすらストレージリングに収納していった。



時間にして1時間もかからず、家の中はナフタの座るソファとローテーブルを残して何も無くなっていた。
家の中から物が無くなるのに比例して、左手の腕輪は重くなっていき、最終的には結構な重さになっていた。

「おも…リングアウト」

俺が声をあげると、腕輪が元の大きさに戻り、ズンッ!と音を立てて床にめり込んだ。
直ぐに使っていない腕輪を装着し、落ちた腕輪を収納する。1つになった腕輪は、殆ど重さを感じない。
重量軽減の能力は、無事に重複してくれたようだ。

「待たせたな、ナフタが座ってるソファで最後だ。」

ナフタが渋々といった感じで立ち上がってくれたので、ソファとテーブルを収納する。
何気なく部屋を見回すと、何も物がなくなった家の中は、思った以上に寂しく感じた…

「しんみりするのはいいけどさ、他にもやり残したことがあるんじゃないの?」

「…少しぐらい感傷に浸らせろって…」

地球で過ごす最後の時間になるかもしれないんだ、思い出に浸る時間くらい欲しいもの…

「ないならもう行…」

「待て待て!無粋な奴だな!分かったよ、優子。」

ナフタに急かされるように言われて、俺は優子を呼ぶ。
優子の手を握り、スマホのメール機能を立ち上げると、2人で準備した文章を知り合い全員に一斉送信した。

向こうで使えるとは思えないが、昔読んだラノベだとチートアイテム化したりするのもあったし、電源を落としたスマホは、ストレージリングに収納しておく。

流石に空気を読んでくれたのか、送信完了まで黙っていてくれたナフタは、俺がスマホを収納し終えると、そのまま何も言わず窓に向かって手をかざした。
…すると、窓の外の景色がジワリと歪み、真っ白く変わっていった。

窓からの景色が白く塗り潰された謎の空間に変わり、ナフタはその白い空間に入って行く。
閉めていたはずの窓を通り抜け、白い謎の空間に立ったナフタが振り返り、こちらに手を差し伸べる。

「さ、行こうか。」

俺達は、ナフタの後に続いて、その白い空間に足を踏み入れた。


ーーーーーーー
次回、やっと新天地
プロローグなのに長すぎですね…
感想お待ちしています。
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