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第1章
第32話 口の軽い男
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「はい、いいよ。」
優子の手が退けられ、俺は目を開く。
「なんだよいったい…ノノーキル!おま…あれ?どうしたんだその顔…」
目を開けると、ノノーキルがカウンター越しに立っていた。
その顔には、くっきりと手の跡が残っている。
「あー…これは…あれだ…」
ノノーキルが言い淀んでいると、横から優子が話し出す。
「私が殴ったの。ぼんの代わりにね。」
「は?なんで優子が…?」
「なんで?ぼんを利用しようとしたのがムカついたから。そう言う人嫌いなの。」
「すまんボン…俺が悪かった…」
そう言って頭を下げるノノーキル。
優子に話したからなのか、ノノーキルが謝ってくれたからなのか、理由は分からないけど、ノノーキルを見ても、今はそこまで怒りが沸くことはなくなっていた。
「とりあえず、頭を上げてもらえますか…?他の人に注目されるのは嫌なので…」
「あ、そうだな…分かった…」
ノノーキルは頭をあげるが、俺と目を合わせることはなかった。
後で聞いたが、豚男の件は、危険な獣人である豚男を倒すのに、少しでも人手を集めたかったノノーキルが、追跡狼を倒せるなら、それなりに実力はあるはずだと、俺に声をかけたらしい。
彼にとっては、長年の友人であるグレイと、その娘であるシーホを助けたい一心だったんだろう…
噂話の方は、俺の功績を領主の手柄みたいに吹聴されたのが気に入らなかったかららしい。
自分から大きく言うつもりはなかったが、俺のことが良く言われるのは少し嬉しかったんだと…
ノノーキルの思考は分からないけど、俺に悪感情があったわけじゃないのは分かった。
だけど、だからといって、俺の心がそれで晴れることはない。
「理由を聞いたところで、俺はあんたを理解できないし、あんたも俺の気持ちは理解できない…だろ…?」
「すまない…」
閉店し、他に誰も居なくなった酒場で、俺たちはテーブルに向かい合って座っていた。
「ボン、その辺で許してやってくれないか?」
キャナタさんが、カウンターの椅子に座りながら声をかけてきた。
「マメから聞いたよ。ボン達は人の生き死にとは遠い生活をしていたんだってな。」
キャナタさんに言われて、横の優子を見ると微笑まれた…
どこまで話したのか後で聞こう…
「この辺りは魔物も多いし、俺たちは他に移動することも出来ないからな…もう慣れちまったが、死ってのは身近なものなんだよ。」
キャナタさんは、少しだけ悲しそうな顔をしながら話を続ける。
「今回は、ボンが倒してくれたおかげで、大した被害も村には出なかった。
ボンが居なかったら、グレイだけじゃなく他にも大勢の人間が犠牲になっていたかもしれない…
だからな、みんなボンに感謝してるよ。
そうじゃなきゃ、言い方は悪いかもしれないが、余所者のボンに、村の住民があんなに寄って来るわけないんだよ。」
何かを思い出したように、ロールさんは泣き出してしまっている。
どう反応していいか分からずにいると、ノノーキルが教えてくれた。
「キャナタの息子は、魔物に殺されたのか、人攫いにあったのかは分からないが、去年突然居なくなったんだ。
その時は村人全員で色々探したが、未だに手掛かりすら見つかってない…多分もう…」
「そうでしたか…」
キャナタさんの事情を聞き、なんとも言えない気分になる。
と、キャナタさんがこちらに近寄って来て、ノノーキルの頭に拳を落とす。
「いって!何す…」
ノノーキルは、キャナタさんに文句を言おうとするが、キャナタさんは、強い口調でそれを遮る。
「俺達はまだ諦めてないし、ケントは生きてる!勝手なことを吐かすな!」
キャナタさんの剣幕に、ノノーキルだけじゃなく、俺たちも声を出すことができなかった。
「…でかい声を出してすまん…ノノーキル、お前はもう勝手に人のことを話すな。」
キャナタさんはそう言うと、ロールさんの元に行き、その手を握る。
「ノノーキル、あんたの口が軽いのは分かったよ…だからこれ以上変なことを広めないようにしてくれるなら、もう責めない…」
「な、本当か!」
「ただし、次に俺を利用しようとしたり、優子を利用しようとしたら、本当に容赦はしない。」
ノノーキルは、一瞬表情を崩して喜ぶが、ほんの一瞬だけだった。
もうこれ以上喋っているのも面倒だしね。
「分かった…約束する。すまなかった…」
ノノーキルはそう言って帰っていった。
これで、少しは静かになってくれるだろう…
「そうだ、キャナタさん、これ…遅くなりましたが部屋代です。」
大銀貨を5枚出し、キャナタさんに渡す。
「ん?あぁ、しかしこんなに…ボン達なら、ここを出るときで構わんぞ?」
「いえ、先に払っておきます。足りなければ出るときに言ってください。」
「そうか?なら預かっておく。余ったら返すからな。」
「それで構いませんよ。それじゃ、そろそろ寝ます…優子も眠そうですし…」
既に、夜もいい時間になっている。
優子は疲れたからなのか、ぬいぐるみを抱いて船を漕いでいた。
「そうだな、そうだ、明日の朝飯は部屋に持って行ってやる。下だと、落ち着かないだろ?」
「いいんですか?」
「起きたらこれをドアに引っ掛けておいてくれ。」
そう言って、キャナタさんは、赤い紐を俺に渡してきた。
「分かりました。色々すみません。おやすみなさい。」
「気にするな。」
キャナタさん達は、片付けと仕込みがあるらしく、まだ少しだけ起きているようだ。
「優子、布団に行こう。」
「ん…あい…」
今にも眠りそうな優子に声を掛けて、2階の部屋へと連れて行く。
あぁ…まだあまり眠く無いけど、なんだか今日も疲れたな…
ーーーー
作者です。
やっと落ち着け…るんでしょうか?
のんびり暮らさせてあげたいです。
感想その他、お時間あれば是非。
優子の手が退けられ、俺は目を開く。
「なんだよいったい…ノノーキル!おま…あれ?どうしたんだその顔…」
目を開けると、ノノーキルがカウンター越しに立っていた。
その顔には、くっきりと手の跡が残っている。
「あー…これは…あれだ…」
ノノーキルが言い淀んでいると、横から優子が話し出す。
「私が殴ったの。ぼんの代わりにね。」
「は?なんで優子が…?」
「なんで?ぼんを利用しようとしたのがムカついたから。そう言う人嫌いなの。」
「すまんボン…俺が悪かった…」
そう言って頭を下げるノノーキル。
優子に話したからなのか、ノノーキルが謝ってくれたからなのか、理由は分からないけど、ノノーキルを見ても、今はそこまで怒りが沸くことはなくなっていた。
「とりあえず、頭を上げてもらえますか…?他の人に注目されるのは嫌なので…」
「あ、そうだな…分かった…」
ノノーキルは頭をあげるが、俺と目を合わせることはなかった。
後で聞いたが、豚男の件は、危険な獣人である豚男を倒すのに、少しでも人手を集めたかったノノーキルが、追跡狼を倒せるなら、それなりに実力はあるはずだと、俺に声をかけたらしい。
彼にとっては、長年の友人であるグレイと、その娘であるシーホを助けたい一心だったんだろう…
噂話の方は、俺の功績を領主の手柄みたいに吹聴されたのが気に入らなかったかららしい。
自分から大きく言うつもりはなかったが、俺のことが良く言われるのは少し嬉しかったんだと…
ノノーキルの思考は分からないけど、俺に悪感情があったわけじゃないのは分かった。
だけど、だからといって、俺の心がそれで晴れることはない。
「理由を聞いたところで、俺はあんたを理解できないし、あんたも俺の気持ちは理解できない…だろ…?」
「すまない…」
閉店し、他に誰も居なくなった酒場で、俺たちはテーブルに向かい合って座っていた。
「ボン、その辺で許してやってくれないか?」
キャナタさんが、カウンターの椅子に座りながら声をかけてきた。
「マメから聞いたよ。ボン達は人の生き死にとは遠い生活をしていたんだってな。」
キャナタさんに言われて、横の優子を見ると微笑まれた…
どこまで話したのか後で聞こう…
「この辺りは魔物も多いし、俺たちは他に移動することも出来ないからな…もう慣れちまったが、死ってのは身近なものなんだよ。」
キャナタさんは、少しだけ悲しそうな顔をしながら話を続ける。
「今回は、ボンが倒してくれたおかげで、大した被害も村には出なかった。
ボンが居なかったら、グレイだけじゃなく他にも大勢の人間が犠牲になっていたかもしれない…
だからな、みんなボンに感謝してるよ。
そうじゃなきゃ、言い方は悪いかもしれないが、余所者のボンに、村の住民があんなに寄って来るわけないんだよ。」
何かを思い出したように、ロールさんは泣き出してしまっている。
どう反応していいか分からずにいると、ノノーキルが教えてくれた。
「キャナタの息子は、魔物に殺されたのか、人攫いにあったのかは分からないが、去年突然居なくなったんだ。
その時は村人全員で色々探したが、未だに手掛かりすら見つかってない…多分もう…」
「そうでしたか…」
キャナタさんの事情を聞き、なんとも言えない気分になる。
と、キャナタさんがこちらに近寄って来て、ノノーキルの頭に拳を落とす。
「いって!何す…」
ノノーキルは、キャナタさんに文句を言おうとするが、キャナタさんは、強い口調でそれを遮る。
「俺達はまだ諦めてないし、ケントは生きてる!勝手なことを吐かすな!」
キャナタさんの剣幕に、ノノーキルだけじゃなく、俺たちも声を出すことができなかった。
「…でかい声を出してすまん…ノノーキル、お前はもう勝手に人のことを話すな。」
キャナタさんはそう言うと、ロールさんの元に行き、その手を握る。
「ノノーキル、あんたの口が軽いのは分かったよ…だからこれ以上変なことを広めないようにしてくれるなら、もう責めない…」
「な、本当か!」
「ただし、次に俺を利用しようとしたり、優子を利用しようとしたら、本当に容赦はしない。」
ノノーキルは、一瞬表情を崩して喜ぶが、ほんの一瞬だけだった。
もうこれ以上喋っているのも面倒だしね。
「分かった…約束する。すまなかった…」
ノノーキルはそう言って帰っていった。
これで、少しは静かになってくれるだろう…
「そうだ、キャナタさん、これ…遅くなりましたが部屋代です。」
大銀貨を5枚出し、キャナタさんに渡す。
「ん?あぁ、しかしこんなに…ボン達なら、ここを出るときで構わんぞ?」
「いえ、先に払っておきます。足りなければ出るときに言ってください。」
「そうか?なら預かっておく。余ったら返すからな。」
「それで構いませんよ。それじゃ、そろそろ寝ます…優子も眠そうですし…」
既に、夜もいい時間になっている。
優子は疲れたからなのか、ぬいぐるみを抱いて船を漕いでいた。
「そうだな、そうだ、明日の朝飯は部屋に持って行ってやる。下だと、落ち着かないだろ?」
「いいんですか?」
「起きたらこれをドアに引っ掛けておいてくれ。」
そう言って、キャナタさんは、赤い紐を俺に渡してきた。
「分かりました。色々すみません。おやすみなさい。」
「気にするな。」
キャナタさん達は、片付けと仕込みがあるらしく、まだ少しだけ起きているようだ。
「優子、布団に行こう。」
「ん…あい…」
今にも眠りそうな優子に声を掛けて、2階の部屋へと連れて行く。
あぁ…まだあまり眠く無いけど、なんだか今日も疲れたな…
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作者です。
やっと落ち着け…るんでしょうか?
のんびり暮らさせてあげたいです。
感想その他、お時間あれば是非。
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