夫婦で異世界放浪記

片桐 零

文字の大きさ
62 / 100
第2章

第1話 快適な旅

しおりを挟む

「トゥットゥットゥー♫フフフフフーン♫」

ご機嫌で鼻歌を歌うしろまに起こされ、俺はゆっくり目を覚ます…

「…おはようしろま…お前は元気だね…」

「おはよー。これ食べたいから剥いてー。」

体を起こすと、しろまは俺の方に歩いて来て、魔樹の実を渡して来た。
ぬいぐるみの手は、物を持つことはできても、皮を剥いたりする細かい作業は出来ないのも、この数日で分かったことだ。

膝の上に乗っかるしろまに、桃のような魔樹の実を剥いて渡してやる。
魔樹の実は、口に入れると果汁がたっぷり出てくるのに、皮を剥いただけだと、手がベタついたりしない不思議な実なので、ぬいぐるみに渡しても汚れないから安心だ。


俺たちは、村を出てから今日で3日目になるが、旅する魔樹大老トラベルトレンダーに乗り、夕闇の迫るだだっ広い草原を当てもなく進んでいた。

巨大な旅する魔樹大老トラベルトレンダーに乗っているおかげなのか、この数日魔物モンスターに襲われることも無く、こっちに連れてこられた時とは段違いに快適な移動が出来ている。

ただ、歩かなくても勝手に進んでくれるのは楽なんだけど、枝の上から降りることもできないため、昼間は枝の上でノンビリするくらいしか出来ない。
だから、活動は夜に限定されてしまっていて、この数日ですっかり夜型になってしまった。

「…お、今日はここで止まるみたいだな。」

この数日で、この木の特性も少し分かって来た。
止まる直前に、ほんの少しだけ振動が強くなるみたいで、その後ゆっくりと減速して止まるのだが…

「おい、そろそろ起きろ。もうすぐ夜になるぞ。」

「…にゅ…?ふぁ~…おはよう?」

「…うぅ~…」

なんだろうね。
夜だから起きろってのは、まだ違和感が抜けないが、暗くなって魔樹が完全に止まる前に準備しないと…酷いことになっちゃうからね。

「ほら、もうすぐ止まるから準備しておかないと怪我するよ?」

まだ寝ぼけているみたいで、優子マメもシーホもポヤポヤしているが、俺は靴を履きぬいぐるみ達を抱き抱えて準備していく。

ゴゴ…ズズン…ザワザワ…

陽が沈むのとほぼ同時、魔樹が止まり、ワサワサと下から根っこが伸びてきて、体の周りに纏わりついてくる。
最初は拘束されてしまうのかと体を硬くしたり、抵抗しようとしていたのだが、単純に地上に降ろされるだけだったから、今は準備だけしておくだけだ。

ただ、その降ろされ方が少し怖いんだ…

「ひう!……っと!」

体に纏わりついていた根っこは、体を包み込むように筒状に固まると、腰の辺りを支えられる感触がしたと思ったら、いきなり立っていた枝が消えて、垂直落下式の脱出用のシューターのように、地上まで真っ逆さまに落とされる。

起きてちゃんと覚悟していれば、怖いことは怖いが、遊園地のアトラクションみたいに、地面の手前で減速してくれるし、怪我をすることはない。
だけど、これが寝ている状態や、準備不足で変な体勢で落とされると…

「みゃーーーーへぶ!!ぺっぺっ!!」

「ふあーーーーきゃ!!いたーい!!」

優子マメは顔から地面に落とされ、シーホは変な体勢で落とされたためうまく着地できず、無様に尻餅をついている。

こうならないように、前もって起こしたし、準備しろって言ったんだけどね…
初日は、俺もうまく着地できずに尻餅をついてしまったけど、あれ、減速してても結構痛いんだよね…

「ぺっぺっ…もー!口の中で草入ったー!」

「ほら、口流し。」

優子マメにペットボトルの水を渡し、口をゆすいでもらう。
まだまだ食料も飲み物もストレージリングの中には残っているから、なくなる心配はしなくてもいいんだけど、いつまでも地球の物を食べ続けることもできないから、そろそろこっちのものを補充したいとは思っているんだけど…

街も村も全然ないんだよね…

「これ楽しいねー。もっかいやりたい!」

「やらないよ。明日まで待ってね。」

「えー。じゃおかし食べる。出してー」

適当にお菓子を出してやると、しろまは優子マメの横に行って食べ始めた。
しろまは、早々にこの状況に慣れたようで、昼も夜も結構楽しんでいるみたいだ。
…逆にでっかちゃんは、ほとんど起きることなくゴロゴロしているため、地面に降ろされても起きることはない。
肝が座っているというか何というか…

(ナビさん、いつも通り範囲指定よろしくね。)

『要請受諾。毒液の檻ベノムケージの範囲指定、完了しました。』

「よし…おーい、いつものやるから移動するよ。」

「ん?はーい。行こうしろま。」

「あ、私も行きます。」

起きないでっかちゃんを抱き抱え、全員で少し歩いて魔樹から離れる。

十分な距離を置いて、夜を過ごすための毒液の檻ベノムケージを展開すると、薄黄色の毒液は月の光を反射して淡く輝き、内側にいると普通に本が読める程度の明るさになる。

「さ、今日も始めようか。」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...