私を必要とする世界

絢ねえ

文字の大きさ
上 下
5 / 7
壊れた心

花の家

しおりを挟む
ヒルダについていった先にあったのはこじんまりとした小さな家。
赤い切妻屋根と小さな窓がかわいらしく、私一人で住むのにちょうどいい感じの家だ。しかし、謎があった。
その家も花、花、花。壁も屋根も花でいっぱいに覆われていたのだ。それでも、いっぱいの花は計算されつくしたかのようなバランスで咲き誇っていてかわいらしいけれど。
これは、私にはちょっとかわいらしすぎる気がする。何より、花がするすると動いていた。
気のせいじゃないよね。
「あれれ、僕いってなかったっけ。僕はお花の妖精フェアリーなんだ。花をつかさどっているんだよ。みんな、こんにちは。新しい友達のアキラだよ」
そういって、ヒルダが意思を持って動く花たちに私を紹介する。
あ、葉っぱがゆさゆさ揺れている。手を振ってかんげいしてくれているらしい。
「ここは、神様の神域の一つなんだ。だから、神様に選ばれた君は、同じく選ばれた僕らの友達であり仲間であり、永遠の味方になる。僕らがこうして出会ったのは、あるべき運命だと神様はおっしゃていた。これからよろしくね。アキラ」
どういう意味だろう。永遠の味方・・・。あるべき運命?。ヒルダの真剣な瞳と私のそれがぶつかってズキンと胸が痛んだ。
なんでだろうと思ったけれど、とりあえず私はこくりとうなずいた。ヒルダのセリフは少し意味深だけどそれは神様の言葉だからだろう。力強いセリフは、この世界で頼る人も記憶もない私にとてもありがたい。こちらこそ土下座でお願いしたいくらいだ。いきなり土下座はびっくりされるだろうから深々とお辞儀するにとどめるが。
これで私の気持ちは伝わるだろう。そういえば、ヒルダは神様と同じように私の気持ちが伝わるんだっけ?いや、でも態度で気持ちを表すのは大事だろう。
これからよろしくお願いします。ヒルダ、そしてお花さんたち。
「うーん、やっぱりわからないか。まぁいいや。・・・よしっ。君にこの家も紹介するからついてきて。神の試練が始まるまでまだ5年ぐらいある。それまでは、君にこの家で暮らしながら準備を進めてもらわないといけないからね。結構快適なんだ」
私が気持ちを込めて挨拶しても、ヒルダはまだなっとくしていないようだった。でもそれはひとまず置いといて家の中を案内してくれるらしい。正直、目覚めた丘からこの家までまだ同じ神域内ということもあって、そんなに距離があったわけではないけれど妙に道のりが長くて疲れてしまった。
それに、動いてみて体に違和感を感じることにも気づいた。なんというか、頭が指示する動きと手足がかみ合っていない。この違和感はなんだ?
「アキラやっと気づいたの?君の体は、この世界に慣れやすくするために肉体年齢を少し戻してあるんだ。もちろん記憶はそのままで。まぁ、ほとんど忘れているからわからないか。君がちきゅうで過ごした記憶がほとんど残ってないから気付かなかっただけで、今、君の体は17歳から12歳になっているんだよ」
だから体に違和感を感じるのか。きっと、ちょうど成長期真っ只中で肉体年齢を戻したから、だいぶ体が縮んで体を動かすことに脳が慣れないのだろう。私は納得して体を一度よく見てみる。でも動かすこと以外に違和感というか、体の大きさに疑問を抱いたりすることはできなかった。なぜ、私は記憶を無くしたのだろう。
考えてみるがわからない。そのうち、私の反応が薄いからか疲れたと思ったのだろう。
「君はもう疲れっちゃったみたいだから簡単に説明するよ」
そういってヒルダが家の扉を押し開いた。
疲れているのは本当なので素直に従うことにする。
まず、扉を開けた先にあったのはこじんまりとしたリビングだった。そのままの期の優しさが生かされたとても温かみの感じる空間だった。
リビングの奥の壁には2つの扉がついていて左がベッドが置いてある部屋、もう一つはこれから倉庫として使う部屋だった。結構広くて、外観から見た大きさよりも大きい気がする。
ヒルダいわく、
「神様が作った家だからね。まだ君にはわからないだろうけれど、この家はたくさんの魔法がかけられているから内部を広くする魔法が使われているんだよ」
だそうだ。
ちなみにトイレとお風呂は右の壁についている扉で。キッチンはリビングの左側に備え付けられている。
冷蔵庫もどきもあった。中は食材が詰まっていて私一人なら十分1週間は過ごせる量があり、なんだか至れりつくせりだと思った。
「どう、気に入った?」
はいとても。
そんな意味を込めて頷く。しかし、ここで体の限界が来た。
「あー。もう寝ちゃいそうだね。さっき教えたベッドでな無理なよ」
ヒルダの言葉に甘えて、奥の左の扉を開く。飛び込むようにベッドに潜り込むと、その柔らかさにびっくりしつつも10秒と立たずに私の意識はブラッグアウトした。
しおりを挟む

処理中です...