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それからしばらくは、モンスターにも出くわさずに粛々と進んでいった。奥へ進むにつれて道は下り坂になり、少し開けた場所に小さな池が広がっている所で行き止まりになっている。池はかなり深く、底が全く見えなかった。
『どうする? おそらく、この池を潜らないと、先へ進めないと思うけど……』
ザスーリッチが尋ねる。確認したところ、クラーシンの部隊も、同様の地形に行き当たっていた。
『いきなり全員で潜るのは危険だわ。どんな罠が仕掛けられているか、わからないし。まずは、あたしが潜って様子を見てくる』
風音は先陣をきって池に潜る。ちなみに、ゲーム内のルールでは、水中に潜って一定時間を過ぎると、体力がだんだんと削られていくので、あまり長時間は潜れない。風音はできるだけ深くまで潜り、一定時間を過ぎると浮上するつもりだった。ところが、ここでも違和感に気づく。まるでプールに入っているみたいに、周囲の水の感覚がリアルなのだ。
(どうなってんの? まるで、『ソードアート・オンライン』みたいに、オンラインゲームの世界に閉じ込められたみたい……)
もっとも、そんな感慨にふける暇も無く、水中でモンスターが襲ってきた。
『ちょっと……水中で襲ってくるモンスターなんて、このゲームにいたの? だいたい、水中では攻撃魔法が使えないから、あたしが絶対的に不利じゃないの』
ピラニアのような姿をしたモンスターが、鋭い牙で風音にかみつこうとする。風音は杖を振り回して防御しながら、ひたすら水面を目指すしかなかった。防御しながらだと、浮上の速度が鈍るから、その間に時間ばかりが過ぎていき、体力が減らない一定時間を過ぎてしまったので、体力が徐々に削られていく。風音は気ばかりあせっていた。
『ヤバい。このままじゃ、やられる……』
風音が観念したとき、ふいにどこかでNPCが叫んだ。
『アイスメイク!』
同時に、風音の周囲のモンスターのいた水域が、全て凍ってしまう。幸い、風音の周囲と、水面に出るための水域は凍ってなかったので、風音はようやく浮上して陸に上がることができた。半分凍った池の向こうには、ボロボロの貫頭衣を着て、羽虫のような羽根を生やした妖精のようなNPCがいた。NPCは、ずっと目をつむったままだ。
『危ないところでしたね。たまたま、ボクが気づいたから、良かったものの……』
『助けてくれて、ありがとう。本当に命が助かったわ。ところで、あなたは誰?』
『ボクは、この洞窟に封じられた水の妖精、ヘイロンです。この洞窟は、もともとボクを祀るための場所でしたが、しばらく前から住み着いたモンスターどもは、ボクを封じて魔力を使えなくして、この洞窟に魔王を祀りました。封じられたボクにできるのは、先ほどのように一度だけ、水を凍らせることだけです。凍った水は、火属性魔法で蒸発させられますから、どうか洞窟の奥へ進み、モンスターどもを一掃してください』
一方、クラーシンのほうは、風音が火属性魔法を発令するまで行動を起こさなかったため、風音の発令と同時に火属性魔法で順調に水を蒸発させ始める。こうなると、水中でしか活動できないピラニアどもは、なす術もない。徐々に水と氷は蒸発していき、水中に潜んでいたモンスターは、次々と空気中に放り出されて攻撃魔法で倒されていく。最終的には、奥へと続く、急な下り坂の通路ができた。
『よし、進むわよ』
風音の号令のもと、部隊はさらに奥へと進んでいく。そのうち、開けた円形の広間に出た。同時に、風音は目の前がグニャリと歪む。
「……あ……あれ……?」
まるで、目まいに似た感覚だった。頭がクラクラしたかと思うと、ふいに意識が遠のいたのだ。
『どうする? おそらく、この池を潜らないと、先へ進めないと思うけど……』
ザスーリッチが尋ねる。確認したところ、クラーシンの部隊も、同様の地形に行き当たっていた。
『いきなり全員で潜るのは危険だわ。どんな罠が仕掛けられているか、わからないし。まずは、あたしが潜って様子を見てくる』
風音は先陣をきって池に潜る。ちなみに、ゲーム内のルールでは、水中に潜って一定時間を過ぎると、体力がだんだんと削られていくので、あまり長時間は潜れない。風音はできるだけ深くまで潜り、一定時間を過ぎると浮上するつもりだった。ところが、ここでも違和感に気づく。まるでプールに入っているみたいに、周囲の水の感覚がリアルなのだ。
(どうなってんの? まるで、『ソードアート・オンライン』みたいに、オンラインゲームの世界に閉じ込められたみたい……)
もっとも、そんな感慨にふける暇も無く、水中でモンスターが襲ってきた。
『ちょっと……水中で襲ってくるモンスターなんて、このゲームにいたの? だいたい、水中では攻撃魔法が使えないから、あたしが絶対的に不利じゃないの』
ピラニアのような姿をしたモンスターが、鋭い牙で風音にかみつこうとする。風音は杖を振り回して防御しながら、ひたすら水面を目指すしかなかった。防御しながらだと、浮上の速度が鈍るから、その間に時間ばかりが過ぎていき、体力が減らない一定時間を過ぎてしまったので、体力が徐々に削られていく。風音は気ばかりあせっていた。
『ヤバい。このままじゃ、やられる……』
風音が観念したとき、ふいにどこかでNPCが叫んだ。
『アイスメイク!』
同時に、風音の周囲のモンスターのいた水域が、全て凍ってしまう。幸い、風音の周囲と、水面に出るための水域は凍ってなかったので、風音はようやく浮上して陸に上がることができた。半分凍った池の向こうには、ボロボロの貫頭衣を着て、羽虫のような羽根を生やした妖精のようなNPCがいた。NPCは、ずっと目をつむったままだ。
『危ないところでしたね。たまたま、ボクが気づいたから、良かったものの……』
『助けてくれて、ありがとう。本当に命が助かったわ。ところで、あなたは誰?』
『ボクは、この洞窟に封じられた水の妖精、ヘイロンです。この洞窟は、もともとボクを祀るための場所でしたが、しばらく前から住み着いたモンスターどもは、ボクを封じて魔力を使えなくして、この洞窟に魔王を祀りました。封じられたボクにできるのは、先ほどのように一度だけ、水を凍らせることだけです。凍った水は、火属性魔法で蒸発させられますから、どうか洞窟の奥へ進み、モンスターどもを一掃してください』
一方、クラーシンのほうは、風音が火属性魔法を発令するまで行動を起こさなかったため、風音の発令と同時に火属性魔法で順調に水を蒸発させ始める。こうなると、水中でしか活動できないピラニアどもは、なす術もない。徐々に水と氷は蒸発していき、水中に潜んでいたモンスターは、次々と空気中に放り出されて攻撃魔法で倒されていく。最終的には、奥へと続く、急な下り坂の通路ができた。
『よし、進むわよ』
風音の号令のもと、部隊はさらに奥へと進んでいく。そのうち、開けた円形の広間に出た。同時に、風音は目の前がグニャリと歪む。
「……あ……あれ……?」
まるで、目まいに似た感覚だった。頭がクラクラしたかと思うと、ふいに意識が遠のいたのだ。
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