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「風音、やっと帰ってきた。ウチ、一人で心細かったよぉ」
何と、パラムシルの街には綾音がいたのだ。
「ちょっと、綾音……いつからゲームの世界にいるの?」
「それが……普通に学校で授業を受けていたら、いつの間にか目まいがして、気を失ってさ……。気づいたらゲームの世界にいたってわけ」
「はぁ? ひょっとして、アライドの声を聞いた人は皆、ゲームの世界に閉じ込められちゃったわけ? もはや、『ソードアート・オンライン』というより、漫画やアニメによくある異世界転生ものの世界だわ……」
二人は再会を喜び合うよりも、不安に駆られた。そもそも、ゲーム世界から脱出するためのクリア条件すら、全くわからないのだ。そんなとき、いきなり空が白くまばゆい光を発したかと思うと、アライドの声が聞こえ始めた。
「冒険者の諸君、先ほどは、水の妖精、ヘイロンを解放してくれて、ありがとう。おかげで、わしがこの世界で、諸君に話ができるようになった。それで、魔王のもとに行くためには、あと三人の妖精を解放せねばならぬ。すなわち、火の妖精、風の妖精、大地の妖精じゃ。彼らの精霊魔法の加護を得て、初めて諸君は魔王と対等に戦う力を得ることができる。このパラムシルの街から最も近いのは、『マカンル』の街の近くにある火山に封じられている、火の妖精じゃ。まずは、マカンルの街を目指せ。わしからは、今はこれしか言えぬ。では、健闘を祈るぞ」
そこでアライドの声はやみ、空の光もおさまって、周囲は今まで通りの青空が広がる。そこで、ルーナがプレイヤーとシスターたちを集める。
「マカンルの街は、この街から東に何日も進んだ所にあります。道中にはモンスターがいますが、今の皆さんの実力なら、充分に倒せるレベルです。むしろ、戦い方の練習と思って突破してください。あいにく、わたしはパラムシルの街を防衛する責任があるので、皆さんに同行できませんが、代わりにニーナを同行させます。ニーナの弟も、今では街を守る兵士になりましたので、ニーナも弟の戦死は覚悟しています。もう、皆さんを裏切ることはありません」
そこで、赤毛のシスター、ニーナが前に出る。
「以前、わたしは弟を人質にとられて、前のシスター長を刺してしまいました。でも、もう弟のことで思い煩ったりしません。わたしだって、光属性魔法が使えるので、必ずや皆さんのお役に立てると思います。どうか、同行をお許しいただけないでしょうか?」
プレイヤーたちからは、パラパラと拍手が起こり、「よく言った!」だの、「過去のことは気にするな!」だのといった励ましの声が起こる。拍手は徐々に大きくなり、それに応えるかのように、ニーナはニッコリ笑ってペコリとお辞儀をする。風音は改めてプレイヤーたちを部隊に編成し直すと、マカンルの街へ出発した。今回はプレイヤー全員とニーナを引き連れての行軍である。新たにゲームの世界に現れたプレイヤーも加えると、総勢百五十人を超える大所帯だった。
一日歩いた後、野営の際に、風音はクラーシン、ヨッフェ、ザスーリッチをそれぞれ副官に任命して、ほぼ五十人ずつの部隊を率いさせることにした。綾音は低レベルの戦士職なので、風音が「いろいろ教えてやって」と言って、同じ戦士職であるクラーシンの部隊に配属させる。ニーナは風音の参謀として、側近くに控えていた。そんな折、風音を始めとして、プレイヤーたちは皆、空腹を感じる。
「困ったわね。小川はどこにでもあるから、水は飲めるけど、肝心の食べ物が無いわ」
「そうですね。宿屋が近くに無い以上、モンスターを狩って食べるしかありませんね」
風音がぼやくと、とたんにニーナが目を輝かせて提案する。
「はぁ? モンスターって、食べられるの?」
「イノシシ系のモンスターは、わたしの調理スキルがあれば、料理できますよ。わたしのサブ職業は調理師ですから。さすがに虫などは料理できませんが。とにかく、イノシシ系のモンスターを狩ってきてください」
風音は早速、モンスターを狩るようにプレイヤーに命じる。もっとも、低レベルなプレイヤーもいるので、皆の連携をとるのに苦労したが、何とか人数分の食材にあたるモンスターを狩ることができた。
「空腹のところを我慢して、よくがんばりましたね。狩りは、パーティーの連携の訓練をするうえでも、重要なことです。後はわたしにお任せください」
ニーナは満足そうに笑うと、何も無かった空間から包丁や鍋などを取り出して、まだ冷めきっていないモンスターの肉を料理し始める。皮をはぎ、包丁で切り刻む技術は、目にも止まらぬほど素早かった。おそらく、調理スキルはかなり高いだろう。切った肉を鍋に入れて、魔法の火で煮込んでいると、やがて、周囲に美味そうなにおいがただよってくる。プレイヤーたちは、思わずよだれが出るのを抑えられなかった。
「お待たせしました。できましたわよ。イノシシ鍋です。ちゃんと人数分ありますから、たんと召し上がれ」
もちろん、腹を減らしたプレイヤーたちは、遠慮もへったくれもない。ニーナが取り出した食器に肉をよそいながら、ガツガツとかきこむように食べる。大きな鍋は、またたく間に空っぽになり、ニーナが後片付けにとりかかる頃には、プレイヤーたちは皆、疲れと満腹感のために、地面に転がって熟睡してしまっていた。ニーナは満足そうに笑い、陽気に歌を口ずさみながら、後片付けを済ませる。
「本当にニーナがいてくれて助かったわ。あたしたちはサブ職業なんて持ってないからね」
風音が安堵したようにつぶやく。
「いえいえ、お礼を言うのは、わたしのほうですよ。今までは、シスターとしての修行の連続で、『必要最低限しか会話をするな』なんていう『沈黙の行』まであったんです。修行は厳しすぎて、楽しい思い出なんか、いくらも無かったですよ。まあ、この世界で生きる以上、わたしはシスターの修行をして、光属性魔法を身につけるより他になかったんですけどね。でも、そのおかげで今は、カザネさんたちと旅をして、一緒に談笑しながら食事したりできるんです。同行を許していただいた冒険者の皆さんとルーナには、本当に感謝しかないですよ」
ニーナは本当に楽しそうに返す。
「わたしとカザネさん、お互いに違う世界に生まれていなかったら、今頃は良い友達になれたかもしれませんね」
「本当、そう思うわ。あたしとしては、魔王がいつまでも倒されなかったら、ニーナといつまでも冒険できて嬉しいんだけどな。今がいつまでも終わってほしくない感じ」
「同感です」
いろいろ話すうちに、風音は眠くなってきて、いつの間にか寝入ってしまった。
それからマカンルの街へ着くまでの数日間、低レベルのプレイヤーたちは、風音たち高レベルのプレイヤーのもとで、パーティーを組んで戦う訓練を、ひたすら積み重ねた。もっとも、たった数日でそこまで劇的に変わるわけではないが、低レベルのプレイヤーたちも、最初よりはずいぶん慣れてきた。「習うより慣れろ」という風音の方針が成功した結果であろう。
何と、パラムシルの街には綾音がいたのだ。
「ちょっと、綾音……いつからゲームの世界にいるの?」
「それが……普通に学校で授業を受けていたら、いつの間にか目まいがして、気を失ってさ……。気づいたらゲームの世界にいたってわけ」
「はぁ? ひょっとして、アライドの声を聞いた人は皆、ゲームの世界に閉じ込められちゃったわけ? もはや、『ソードアート・オンライン』というより、漫画やアニメによくある異世界転生ものの世界だわ……」
二人は再会を喜び合うよりも、不安に駆られた。そもそも、ゲーム世界から脱出するためのクリア条件すら、全くわからないのだ。そんなとき、いきなり空が白くまばゆい光を発したかと思うと、アライドの声が聞こえ始めた。
「冒険者の諸君、先ほどは、水の妖精、ヘイロンを解放してくれて、ありがとう。おかげで、わしがこの世界で、諸君に話ができるようになった。それで、魔王のもとに行くためには、あと三人の妖精を解放せねばならぬ。すなわち、火の妖精、風の妖精、大地の妖精じゃ。彼らの精霊魔法の加護を得て、初めて諸君は魔王と対等に戦う力を得ることができる。このパラムシルの街から最も近いのは、『マカンル』の街の近くにある火山に封じられている、火の妖精じゃ。まずは、マカンルの街を目指せ。わしからは、今はこれしか言えぬ。では、健闘を祈るぞ」
そこでアライドの声はやみ、空の光もおさまって、周囲は今まで通りの青空が広がる。そこで、ルーナがプレイヤーとシスターたちを集める。
「マカンルの街は、この街から東に何日も進んだ所にあります。道中にはモンスターがいますが、今の皆さんの実力なら、充分に倒せるレベルです。むしろ、戦い方の練習と思って突破してください。あいにく、わたしはパラムシルの街を防衛する責任があるので、皆さんに同行できませんが、代わりにニーナを同行させます。ニーナの弟も、今では街を守る兵士になりましたので、ニーナも弟の戦死は覚悟しています。もう、皆さんを裏切ることはありません」
そこで、赤毛のシスター、ニーナが前に出る。
「以前、わたしは弟を人質にとられて、前のシスター長を刺してしまいました。でも、もう弟のことで思い煩ったりしません。わたしだって、光属性魔法が使えるので、必ずや皆さんのお役に立てると思います。どうか、同行をお許しいただけないでしょうか?」
プレイヤーたちからは、パラパラと拍手が起こり、「よく言った!」だの、「過去のことは気にするな!」だのといった励ましの声が起こる。拍手は徐々に大きくなり、それに応えるかのように、ニーナはニッコリ笑ってペコリとお辞儀をする。風音は改めてプレイヤーたちを部隊に編成し直すと、マカンルの街へ出発した。今回はプレイヤー全員とニーナを引き連れての行軍である。新たにゲームの世界に現れたプレイヤーも加えると、総勢百五十人を超える大所帯だった。
一日歩いた後、野営の際に、風音はクラーシン、ヨッフェ、ザスーリッチをそれぞれ副官に任命して、ほぼ五十人ずつの部隊を率いさせることにした。綾音は低レベルの戦士職なので、風音が「いろいろ教えてやって」と言って、同じ戦士職であるクラーシンの部隊に配属させる。ニーナは風音の参謀として、側近くに控えていた。そんな折、風音を始めとして、プレイヤーたちは皆、空腹を感じる。
「困ったわね。小川はどこにでもあるから、水は飲めるけど、肝心の食べ物が無いわ」
「そうですね。宿屋が近くに無い以上、モンスターを狩って食べるしかありませんね」
風音がぼやくと、とたんにニーナが目を輝かせて提案する。
「はぁ? モンスターって、食べられるの?」
「イノシシ系のモンスターは、わたしの調理スキルがあれば、料理できますよ。わたしのサブ職業は調理師ですから。さすがに虫などは料理できませんが。とにかく、イノシシ系のモンスターを狩ってきてください」
風音は早速、モンスターを狩るようにプレイヤーに命じる。もっとも、低レベルなプレイヤーもいるので、皆の連携をとるのに苦労したが、何とか人数分の食材にあたるモンスターを狩ることができた。
「空腹のところを我慢して、よくがんばりましたね。狩りは、パーティーの連携の訓練をするうえでも、重要なことです。後はわたしにお任せください」
ニーナは満足そうに笑うと、何も無かった空間から包丁や鍋などを取り出して、まだ冷めきっていないモンスターの肉を料理し始める。皮をはぎ、包丁で切り刻む技術は、目にも止まらぬほど素早かった。おそらく、調理スキルはかなり高いだろう。切った肉を鍋に入れて、魔法の火で煮込んでいると、やがて、周囲に美味そうなにおいがただよってくる。プレイヤーたちは、思わずよだれが出るのを抑えられなかった。
「お待たせしました。できましたわよ。イノシシ鍋です。ちゃんと人数分ありますから、たんと召し上がれ」
もちろん、腹を減らしたプレイヤーたちは、遠慮もへったくれもない。ニーナが取り出した食器に肉をよそいながら、ガツガツとかきこむように食べる。大きな鍋は、またたく間に空っぽになり、ニーナが後片付けにとりかかる頃には、プレイヤーたちは皆、疲れと満腹感のために、地面に転がって熟睡してしまっていた。ニーナは満足そうに笑い、陽気に歌を口ずさみながら、後片付けを済ませる。
「本当にニーナがいてくれて助かったわ。あたしたちはサブ職業なんて持ってないからね」
風音が安堵したようにつぶやく。
「いえいえ、お礼を言うのは、わたしのほうですよ。今までは、シスターとしての修行の連続で、『必要最低限しか会話をするな』なんていう『沈黙の行』まであったんです。修行は厳しすぎて、楽しい思い出なんか、いくらも無かったですよ。まあ、この世界で生きる以上、わたしはシスターの修行をして、光属性魔法を身につけるより他になかったんですけどね。でも、そのおかげで今は、カザネさんたちと旅をして、一緒に談笑しながら食事したりできるんです。同行を許していただいた冒険者の皆さんとルーナには、本当に感謝しかないですよ」
ニーナは本当に楽しそうに返す。
「わたしとカザネさん、お互いに違う世界に生まれていなかったら、今頃は良い友達になれたかもしれませんね」
「本当、そう思うわ。あたしとしては、魔王がいつまでも倒されなかったら、ニーナといつまでも冒険できて嬉しいんだけどな。今がいつまでも終わってほしくない感じ」
「同感です」
いろいろ話すうちに、風音は眠くなってきて、いつの間にか寝入ってしまった。
それからマカンルの街へ着くまでの数日間、低レベルのプレイヤーたちは、風音たち高レベルのプレイヤーのもとで、パーティーを組んで戦う訓練を、ひたすら積み重ねた。もっとも、たった数日でそこまで劇的に変わるわけではないが、低レベルのプレイヤーたちも、最初よりはずいぶん慣れてきた。「習うより慣れろ」という風音の方針が成功した結果であろう。
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