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綾音は精神を妖精の心にリンクさせるために、一度気を失い、それをニーナが防御の結界で守る。肉体を離れて精神体になった綾音は、魔剣の内部に入りこもうとして、闇の中を飛んでいた。魔剣の内部は、文字通り一筋の光も差さない漆黒の闇である。目当ての妖精がどこにいるのか、見当もつかない。周囲には、無数の枯れ木があり、綾音に向かって次々に枝を伸ばしてくると、綾音を捕まえようとする。
(まずいわね。このまま捜索に時間がかかるようなら、ウチまで魔剣に取り込まれてしまう……。何か、妖精の居場所の目印になるものでもあれば良いんだけど)
実際、ゲームと現実が入り混じった未知の世界なので、何が起こるのか予想もつかない。しかも、枯れ木どもは単に枝を伸ばしてくるだけでなく、とがった枝の先端で綾音を突こうとするのだ。戦士職である綾音は、何とか枝をよけながら飛び続けるが、たび重なる攻撃に集中力がきれそうだった。
(ただでさえ精神体になっている間は、気力をものすごく消耗するんだよね。このままだと、妖精を探し当てる前に、心が折れそう……)
さすがの綾音にも、あせりが見え始めていた。そんな折、ふいに「……助けて……どうか、助けて……見知らぬ人たち……」という声が、だんだんはっきり聞こえるようになってきたのだ。声の聞こえてくる方向も、だいたい感じ取れるようになってくる。綾音は声を頼りに、気力をふりしぼって、ひたすら飛び続けた。そうこうするうちに、前方に淡く輝く白い光が見えてくる。妖精の声は、どんどん大きく響いてきた。
「妖精さん。意識があるのなら返事して。ウチはあなたを助けに来たのよ。あの女を倒して、自由の身になりましょう」
綾音の声が聞こえたのか、白い光はわずかながら強くなったように思えた。
「……わらわの声が聞こえるの……? ……あなたは、いったい誰……?」
「ウチはアヤネ。アライドの声を聞かされて、この世界を救おうとしているのよ。だから教えて。あなたを助けるには、どうすれば良いの?」
妖精の声は一瞬、途絶えた。どうやら、考えこんでいるようだ。
「……それは、わらわにもわからないんです……ただ、ここに捕らわれる前、わらわがまだ、仲間の妖精たちと自由に暮らしていた頃に、『もし妖精が捕らわれたら、外からの強く正しい心こそが、妖精を解放する力になる』と言われたことがあります……」
綾音は再び心が折れかけた。ここまで来て、こんな漠然としたことを言われても、具体的に何をして良いのか、さっぱりわからない。
それでも、周囲からの枝の攻撃は、ひっきりなしに繰り出される。綾音は無気力に、ただ枝の攻撃を防ぐだけになっていた。既に手足の感覚はなくなってきている。
(ちくしょう……ここまで来て終わりか? ウチは結局、ここで阻まれて魔剣を破壊できず、マカンルの街も魔剣で破壊されるのか?)
もう意識も薄れて、ときどき意識がなくなることがある。綾音は、戦士職としての反射神経だけで動いているだけだった。このまま闇に呑まれるのかと、綾音が死を覚悟した刹那――。
いきなり綾音の心に、直接響いてくる大声があった。一人の声ではなく、大勢の人々の声だ。これには、闇に呑まれかけていた綾音の意識も、一気に現実に引き戻された。
「アヤネ、負けるな。俺はまだまだ、戦士職として、アヤネに教えていないこともたくさんあるんだ。正直、アヤネは熱心な自慢の弟子なんだよ。今死なれたら、俺がつちかってきた戦士職の技術を、誰に伝えたら良いんだ?」
(この声はクラーシン……。いったい、どこからどうやって、声を届けているの?)
クラーシン以外にも、様々なプレイヤーたちの声が響いてくる。
「アヤネ、僕も回復魔法職として、さっきからアヤネの体力を回復させ続けているんだ。アヤネには何が何でも妖精を連れ帰ってもらわないと、僕のがんばりが無駄になる」
(この声はヨッフェ……)
その他、様々なプレイヤーたちの声を聞いていると、綾音は勇気が百倍になる気がして、白い光に向かって倍の速度で飛び続けた。もはや、枯れ木の枝の攻撃は、綾音にはかすりもしない。それほど、綾音は速かったのだ。白い光は、どんどん近づいてくる。いつの間にか、綾音は白い光に呑みこまれ、そのただ中を飛んでいた。周囲は真っ白で、まぶしくて目を開けていられない。そのうち、前方に繭のような物があるという情報が、頭の中に流れこんでくる。
「……その繭の中に、わらわが捕らわれています……どうか、剣を抜いて、繭を斬ってください……」
ふいに綾音は、いつの間にか自分の手に、剣が握られていることに気づいた。そのまま、繭に高速で接近し、繭を一刀両断にする。とたんに、繭は巨大な焚き火のように、音を立てて燃え上がり、あっという間に内部から焼き尽くされ、繭のあった場所には、炎をまとった人影が現れる。なぜか綾音には、それが火の妖精だとわかった。
「良かった。解放されたのね。早く魔剣の中から出よう――」
そこで綾音の意識は混濁した。そのまま、気を失ってしまう。
(まずいわね。このまま捜索に時間がかかるようなら、ウチまで魔剣に取り込まれてしまう……。何か、妖精の居場所の目印になるものでもあれば良いんだけど)
実際、ゲームと現実が入り混じった未知の世界なので、何が起こるのか予想もつかない。しかも、枯れ木どもは単に枝を伸ばしてくるだけでなく、とがった枝の先端で綾音を突こうとするのだ。戦士職である綾音は、何とか枝をよけながら飛び続けるが、たび重なる攻撃に集中力がきれそうだった。
(ただでさえ精神体になっている間は、気力をものすごく消耗するんだよね。このままだと、妖精を探し当てる前に、心が折れそう……)
さすがの綾音にも、あせりが見え始めていた。そんな折、ふいに「……助けて……どうか、助けて……見知らぬ人たち……」という声が、だんだんはっきり聞こえるようになってきたのだ。声の聞こえてくる方向も、だいたい感じ取れるようになってくる。綾音は声を頼りに、気力をふりしぼって、ひたすら飛び続けた。そうこうするうちに、前方に淡く輝く白い光が見えてくる。妖精の声は、どんどん大きく響いてきた。
「妖精さん。意識があるのなら返事して。ウチはあなたを助けに来たのよ。あの女を倒して、自由の身になりましょう」
綾音の声が聞こえたのか、白い光はわずかながら強くなったように思えた。
「……わらわの声が聞こえるの……? ……あなたは、いったい誰……?」
「ウチはアヤネ。アライドの声を聞かされて、この世界を救おうとしているのよ。だから教えて。あなたを助けるには、どうすれば良いの?」
妖精の声は一瞬、途絶えた。どうやら、考えこんでいるようだ。
「……それは、わらわにもわからないんです……ただ、ここに捕らわれる前、わらわがまだ、仲間の妖精たちと自由に暮らしていた頃に、『もし妖精が捕らわれたら、外からの強く正しい心こそが、妖精を解放する力になる』と言われたことがあります……」
綾音は再び心が折れかけた。ここまで来て、こんな漠然としたことを言われても、具体的に何をして良いのか、さっぱりわからない。
それでも、周囲からの枝の攻撃は、ひっきりなしに繰り出される。綾音は無気力に、ただ枝の攻撃を防ぐだけになっていた。既に手足の感覚はなくなってきている。
(ちくしょう……ここまで来て終わりか? ウチは結局、ここで阻まれて魔剣を破壊できず、マカンルの街も魔剣で破壊されるのか?)
もう意識も薄れて、ときどき意識がなくなることがある。綾音は、戦士職としての反射神経だけで動いているだけだった。このまま闇に呑まれるのかと、綾音が死を覚悟した刹那――。
いきなり綾音の心に、直接響いてくる大声があった。一人の声ではなく、大勢の人々の声だ。これには、闇に呑まれかけていた綾音の意識も、一気に現実に引き戻された。
「アヤネ、負けるな。俺はまだまだ、戦士職として、アヤネに教えていないこともたくさんあるんだ。正直、アヤネは熱心な自慢の弟子なんだよ。今死なれたら、俺がつちかってきた戦士職の技術を、誰に伝えたら良いんだ?」
(この声はクラーシン……。いったい、どこからどうやって、声を届けているの?)
クラーシン以外にも、様々なプレイヤーたちの声が響いてくる。
「アヤネ、僕も回復魔法職として、さっきからアヤネの体力を回復させ続けているんだ。アヤネには何が何でも妖精を連れ帰ってもらわないと、僕のがんばりが無駄になる」
(この声はヨッフェ……)
その他、様々なプレイヤーたちの声を聞いていると、綾音は勇気が百倍になる気がして、白い光に向かって倍の速度で飛び続けた。もはや、枯れ木の枝の攻撃は、綾音にはかすりもしない。それほど、綾音は速かったのだ。白い光は、どんどん近づいてくる。いつの間にか、綾音は白い光に呑みこまれ、そのただ中を飛んでいた。周囲は真っ白で、まぶしくて目を開けていられない。そのうち、前方に繭のような物があるという情報が、頭の中に流れこんでくる。
「……その繭の中に、わらわが捕らわれています……どうか、剣を抜いて、繭を斬ってください……」
ふいに綾音は、いつの間にか自分の手に、剣が握られていることに気づいた。そのまま、繭に高速で接近し、繭を一刀両断にする。とたんに、繭は巨大な焚き火のように、音を立てて燃え上がり、あっという間に内部から焼き尽くされ、繭のあった場所には、炎をまとった人影が現れる。なぜか綾音には、それが火の妖精だとわかった。
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そこで綾音の意識は混濁した。そのまま、気を失ってしまう。
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