綾音と風音

王太白

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 さて、アレクサンドラの脱獄より、時間は少しさかのぼる。神殿を攻撃している風音とクラーシンは、薬屋の方面から駆けつけた綾音の部隊と合流できたものの、飼育場の方面から撤退してきたヨッフェの部隊も、ハゲワシに騎乗したヒトカップの街の敵軍に追われて、神殿の方面まで撤退してきていた。しかも、黒い霧はひっきりなしに向かってくるので、神殿に近づけそうにない。
「まずいな。これじゃ、ヒトカップの街の部隊と神殿の部隊とが合流して、一大兵力になっちまうぞ」
 クラーシンはギリリと奥歯をかみしめる。そんなとき、ふいにセミヨノフが発言した。
「とりあえず、おれに作戦がある。まず、ヨッフェの部隊はそのまま、神殿に向かって突撃してくれ」
「はぁ? 何言ってんだ? そんなことをしたら、神殿からの毒ガスとヒトカップの部隊にはさみ撃ちされて、全滅しちまうぞ」
 クラーシンはあきれていた。
「まあ、最後まで聞いてくれよ。神殿の両側から攻撃魔法職を十人以上、ヨッフェの側面に回りこませて、ハゲワシに向かって、グランドスラムを使うんだ。敵のハゲワシは、およそ百匹だ。レイド討伐用の魔法だから、ハゲワシ百匹程度なら、全滅させられるぞ。その後で、ヨッフェの部隊は急いで神殿から離れれば良い」
 ちなみに、グランドスラムというのは、シリベシ洞窟でも使った魔法で、攻撃魔法職が十人以上いないとできないうえに、一週間に一度しか使えない攻撃魔法で、一定範囲内のモンスター全てに大打撃を与えることのできる強力な魔法だ。
「なるほど。それしかないな。それでいこう」
 クラーシンが納得して、ヨッフェにフレンドチャットで作戦を伝える。セミヨノフとイズムルードは攻撃魔法職を率いて、神殿の飼育場の方面側に回った。回り込んでみると、ちょうど、ヨッフェの部隊を、背後からハゲワシに騎乗した部隊が、前方から黒い霧が襲うところだ。同士討ちを避けるためか、確実にヨッフェのプレイヤーだけを覆うことのできる黒い霧だけが出されており、敵からの攻撃魔法や矢の攻撃はない。ただ、ハゲワシからは、ときどき筒状の物体が投下され、ヨッフェの部隊に落ちて爆発していた。
(何だろう、あの物体は? 攻撃魔法じゃないみたいだけど)
 イズムルードは気になったが、今はグランドスラムの呪文に集中することにした。
「よし、グランドスラムを使うぞ!」
 セミヨノフの号令のもと、イズムルードたち攻撃魔法職はグランドスラムの呪文の詠唱を始める。詠唱が終わるのを見計らって、セミヨノフはヨッフェに「神殿から離れろ」と号令した。その直後、グランドスラムが放たれ、あたり一面が真っ白い閃光に包まれる。あまりのまぶしさに、セミヨノフもイズムルードも思わず目を覆った。周囲では、何かが高速で石壁にぶつかる音や、大きな爆発音や、「ぎゃあああっ!」などの悲鳴が聞こえる。爆発音で大地が揺れる震動までした。
(何だ、この爆発音は? ぼくの知っている魔法じゃないですね)
 閃光はしばらく続いたので、目の前で何が起きているのか、全くわからない。しばらくして閃光がおさまったので、皆が目を開けると、案の定、ハゲワシの姿は全く見えなかった。おそらく全滅だろう。同時に、神殿の石壁に何ヵ所か、爆発でうがたれたような大きな穴があった。
「何だ、この爆発の跡は? ヒトカップの街のやつら、爆弾でも持ってきていたのか?」
 セミヨノフが言うように、周囲には爆薬の入っているであろう木箱がいくつか転がっていた。それとともに、ハゲワシがいきなり消滅したことで、空中から振り落とされたのか、勢い余って石壁に衝突したのか、敵のプレイヤーの遺体が石壁付近にゴロゴロと転がっている。生き残ったプレイヤーたちも重傷らしく、すぐに戦える状態ではない。
「よし、おれたちの役目は終わりだ。アヤネのもとに引き上げるぞ」
 セミヨノフ以下、攻撃魔法職たちは急いで味方の部隊のもとへ戻った。
 ヨッフェの部隊は、いずれも満身創痍で、薬屋にかつぎこまれ、手当てを受けている。連れて行った回復魔法職の大半が重傷である以上、薬屋の回復薬で治療するしかないのだ。
「……参ったぜ……。敵がハゲワシで空中から現れたと思えば……ひもに火のついた筒状の物体を落としていって、それが爆発するんだからよ……。敵は呪文を唱える時間がいらないのに……こっちは攻撃魔法を撃つために呪文を唱えなきゃならないから……その時間差が致命的になった……。おかげで、部隊の多くがやられてしまった……」
 そう語るヨッフェも満身創痍で、見るからに苦しそうだ。
「ウチが思うに、その筒状の物体ってのは爆弾じゃないの? どうやら、ヒトカップの街には、爆弾に詳しいやつがいるみたいね。厄介だわ」
「それでも、神殿にいる腹心だって、ヒトカップの街からの援軍を当てにしていたはずだからな。援軍に打撃を与えただけでも、腹心にとっては、かなりの痛手だろうぜ」
 セミヨノフは、あくまで楽観的だ。
「それよりも、爆発で神殿の石壁に穴が開いたのは大きいわ。今なら敵も混乱しているだろうし、そこから味方のプレイヤーを忍び込ませるしか、神殿を攻め落とす機会はなさそうね。すぐにでも部隊を編成しないと」
「そうなれば、もちろん、おれもついて行くぜ。アヤネが斬りこみ隊長なら、みすみす死なせるわけにはいかないからな」
 綾音は早速、十人の斬りこみ部隊を編成すると、フレンドチャットで作戦を伝える。
「クラーシンは、そのまま正面から攻撃を続けて、敵を引きつけておいて。風音は付与術師と攻撃魔法職を率いて穴のほうに向かい、ウチらが穴から斬りこむのを援護して」
 こうして、風音は付与術師と攻撃魔法職を率い、綾音はセミヨノフとイズムルードの他、戦士職たちを率いて、穴のほうへ向かった。
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