俺は毛沢東!?

王太白

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 こういうことを健作の耳に入れても、パニックになるだけなので、みゆ婆は健作を文化工作隊の女の子と遊ばせておき、中南海の奥まった一室で、リン元帥やヨウ夫人と内々に対策を協議した。もちろん、文武百官を動揺させると内通者が出かねないので、閣議にもかけないままだ。
「軍の将兵の多くはポン元帥に忠誠を誓っております。声望ではワタシは太刀打ちできません。ワタシは参謀総長のルオ将軍にさえ信頼されておりませんから」
「リン元帥の言いたいことはわかる。このままではルオ将軍が、党中央の野戦軍を掌握してしまい、リン元帥を倒しかねないと言うのじゃろう。それは主席に仲裁してもらえば良い。ウチが危惧しておるのは、今の軍は主席の権威があればこそ、主席に従っておるだけだということじゃ。しかし、最近の主席の頼りなさは、リン元帥もご存じの通りじゃ。このままだと、間違いなく軍は主席を見限って、ポン元帥につく。だからこそ、リン元帥とルオ将軍には、国防相と参謀総長の地位を守るために、主席を密かにかばってほしい」
 そのとき、三人が密談している一室に、ふいに文化工作隊の里樹が現れた。
「何じゃ? ウチらは内々の会議の最中じゃ。盗み聞きするでない」
「いえ……決して会議の邪魔をするつもりはございません……。ただ、あたしが四川省に出向いて、ポン元帥に毒を盛って暗殺するぐらいはできるかもしれないと思いまして……」
 これには、みゆ婆が驚いて、目を丸くする。
「里樹、本気で言っておるのか? そんなことをすれば、毒殺がバレた時点で、ポン元帥の部下たちに殺されるぞ」
「大丈夫です。実は、あたしは戦国時代の日本に生まれて、くノ一になるべく訓練を受けてきましたが、気がついたら中南海の美女の体に入っていました。ですから、忍術の心得もありますし、毒の盛り方も知っています。逃げきれる自信はありますよ」
 そこで、里樹はニコリと愛らしく笑った。
「何より、あたしは主席のことが、戦国時代に残してきた最愛の夫みたいに思えてきちゃうんです。主席はいい年の老年なのに、あたしを抱く様子ときたら、まるで童貞のガキみたいにオドオドしていて、頼りないったらありゃしません。あの様子だと、政務や軍務もまともにこなせるわけがありませんよね。それでも、必死で虚勢を張っている姿が、体も弱いのに必死で忍者をしている夫と重なるんです。あたしがしっかり導いてやらなくちゃって、保護欲をかきたてられるんです。おおかた、主席も他の時代から来た、年端もいかない若者なんじゃないですか?」
 里樹の答えに、みゆ婆は満足げにうなずいた。
「うむ、良かろう。では、里樹に任せるから、必要な物があれば、何でも申し出るが良い」
 こうして、里樹は単身、四川省へ向かった。表向きは人民日報の記者ということにしてある。もちろん、健作が怪しまないように、里樹は病気で寝込んでいることにしてある。里樹は党中央の発行した通行証を持っているので、途中の街道沿いの宿には泊まり放題だった。里樹は街道沿いの風景を楽しみながら旅を続けた。このまま簡単に四川省に入れるとはいかないまでも、省境までは行けるだろうと、里樹は楽観視していた。
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