お兄ちゃんのことが好きすぎて困ってしまう件

王太白

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 儒教だとネタが尽きてしまうので、優菜は仏教の漫画も読んでみた。インターネットでは、入門書としては、手塚治虫『ブッダ』がわかりやすいと書き込まれていたので、『ブッダ』を復刻版で買って読んでみる。旅人を餓死させないために自分の肉を焼いて食べさせたウサギ、「トラは満腹なら他の動物を食べないのに、人間は満腹でも他の動物を殺す」と言ったオオカミなどの擬人化された動物たちに、優菜はひかれていった。
(人間は食欲以外にも、多かれ少なかれ私欲があるのに、動物はただ食欲を満たせば良いのか。人間より動物のほうが高尚な生き物なのかな?)
 そう考えてみると、人間は食欲以外にも、名誉や地位や金を無制限に欲しがるし、他人をねたんだり、うらやましがったりするあまり、いじめたりする生き物だ。憧れている人物のようになりたがるあまり、どうしても自分はそうなれないとわかると、他人を攻撃することもあるものだ。『ブッダ』には、ブッダを殺そうとした僧、ダイバダッタが、
「わたしはブッダになりたかった。でも、なれなかった。だからブッダが憎かった」
と言うのに対し、ブッダが、
「おまえの敵はおまえ自身なのだよ」
と返す場面がある。
(……って、よく考えたら、これ、お兄ちゃんと私の関係にそっくりじゃん。私も、いずれ、お兄ちゃんをねたんで殺してしまいたくなるのかな?)
 もちろん、優菜の考えは杞憂である。まだ自我の芽生えていない優菜に、ねたみなどの感情は育っていないものだ。
 それでも、優菜は一応、優斗に相談してみる。
「難しい問題だな。ねたみなどを感じなくなろうと思ったら、世俗の欲を捨て去るしかないからな。でも、欲を捨てるなんて、俺だってできそうにない。それができたから、ブッダや一休さんは名僧と呼ばれてるんだけどさ」
「考えてみれば、ねたむのは人の本能だし、それを克服しようとするほうが無理かもね。私だって、勉強や運動のできる同級生をねたんで、『こいつ不幸になれ』って思うことがあるもん。感情なんて、理性で制御できるものじゃないもんね。単に罰が怖いから、いじめたりできないだけで」
「そうだな。優菜の言うことは、だいたいの人が大なり小なり思っていることだ。別に恥ずかしいことじゃない。何なら、これを小説にすることで、発散してみたらどうかな?」
 そして、優菜は今回も机に向かって、どんな話にするか考えてみた。もっとも、今回は難航した。主人公が同級生をねたむことは最初にもってこられるが、最後にどうやって終わらせれば良いか、見当がつかないのだ。何時間も悩んだ末に、書くきっかけが掴めないので、再び優斗に相談に行く。
「確かに、こればかりは小学生には難しいな。そこで、俺から一つ、ヒントをあげよう。どこかの国の神話だ」
 優斗はもったいぶって言う。
「あるところに、とてもねたみ深い人がいた。彼は自分より優れた人をねたむあまり、神様に『わしの片目をささげるから、あいつの両目をつぶしてくれ』と祈った。結局、神様は彼を罰してしまうんだけどさ。人間のねたみって、こういうものだっていう一例だろう」
 聞いていた優菜は、わりとイメージを浮かべやすくなったように感じた。
「まあ、同じことは、日本で勲章を廃止しろなんて言っている言論人にも言えることだ。あいつらは、自分が勲章をもらえないから、廃止しろなんて言っているに過ぎない。もし勲章をもらえる立場になれば、喜んでもらうだろうけどな」
 優斗は言論人を見下すような笑みを浮かべる。
「まあ、これだけ念頭に置いて書けば、それなりのものは書けるよ」
 その日、夕食を終えると、優菜は書き始めた。
「あるところに、莉奈という、とてもねたみ深い女の子がいました。莉奈は、自分より勉強のできる女の子や、金持ちの女の子をいじめてばかりいました。しかも頭脳派の莉奈は、先生の目をうまく盗んでいじめていました。そのため、普通なら徒党を組んで復讐されそうですが、莉奈は同級生にあることないこと吹き込んで、反目させるのに長けており、巧みに味方を増やして仲間を作っていたので、常にクラス内では女王様みたいに君臨していました。でも、最初は心の渇きを潤そうとしていじめ始めたのに、どれだけ他人をいじめても、一向に心が潤うことはありませんでした。おまけに、自分に自信ももてず、いつもグループで徒党を組んでしか行動できませんでした。一人で行動する度胸がなかったのです。あるとき、夢の中で『ねえ、どうして、ワタシは自分に自信がもてないの?』と叫ぶと、『自分も、いじめられっ子たちと同じだからよ』と誰かの声が聞こえ、怖くなって目が覚めました。莉奈は『いや、ワタシはあんなゴミみたいなやつらと同じじゃない』と泣き出しました。こうなると、自信をもっている同級生に、ますます敵意をもつようになり、いじめ方もどんどんひどくなっていきました。でも、どれだけいじめても、心が渇くだけで、満たされませんでした。かといって、あまりやりすぎると、学校側にバレて処罰されかねません。そこで夢の中で、『ワタシの片目をささげるから、同級生皆の両目をつぶしてくれ』と悪魔に祈りました。欲深い悪魔は喜んで了承し、黒魔術で願いをかなえようとしました。しかし、そのとき、白い光がほとばしり、神が現れました。莉奈は、『きゃっ、何? まぶしくて直視できない』と叫んで、目を手で覆いました。神の隣には、莉奈にいじめられていた遼子がいました。遼子は、『莉奈は自分に自信をもてるようにならなきゃダメ。このまま、いくら同級生を傷つけても、幸せにはなれない』と言い残して去りました。悪魔のほうは、神が魔界まで連れ戻しました。それ以来、莉奈は夢の中に閉じ込められ、目覚めなくなりました。理由は遼子だけが知っています。遼子によれば、莉奈は神に再教育され、自分に自信をもてるようになるまで、夢から目覚めることはないそうです」
 今回も一日では仕上がらず、三日かかった。三日目に書き上げると、優菜は「う~ん」と伸びをして、優斗に見せに行った。
「なるほど。書き始めた頃に較べると、ずいぶん上手くなったな。最後に、いじめっ子が他人をいじめるのは、自分に自信がもてないからだという着想も良い」
「まあ、これはインターネットで、偶然見つけた知識の受け売りだけどね。インターネットって、心理学的な知識も載っているから、便利だわ」
「それでも、いじめっ子をただ悪の権化のようにしか書かず、最後にいじめっ子を殺して終わりにするような話しか書けないやつもいるからな。相手を殺す話しか書けないやつには、伸びしろは無い。優菜はそう書かなかっただけ、将来性はあるほうだ」
 優斗はニカッと笑った。優菜もつられて嬉しくなる。
「とはいえ、これで文学修行が終わったわけじゃない。まだまだビシバシ書かせるから、気を抜くなよ」
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