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第1章 彼女の言葉はわからない
つもりで実現できはせず 2
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大誤算もいいところだ。
面倒を避けるつもりが、厄介事を引き寄せてしまった。
皇太子は、彼女の「予測」とは違う行動を取っている。
ここにきて状況が変わりつつあるのを感じていた。
しかも、良くないほうに、だ。
「今夜にでも出立しますか?」
「できる?」
予定を繰り上げることになっても、早目に「逃亡」するほうがいい。
すでに片足を泥沼に突っ込んでいる。
時間をかければ、そのまま、底なし沼に引きずり込まれかねない状況だ。
「騒ぎを起こしても良ければ、すぐに出立可能です」
「騒ぎを起こすって、なんで? 夜に、こっそり皇宮に忍び込んで……」
言いかけてやめる。
そんなことを、フィッツが考えていないはずがないからだ。
皇宮に忍び込み、地下牢から隠し通路を抜け、皇宮の敷地を脱出する。
それが、カサンドラの立てていた計画だった。
非常に、ざっくりとしたものではあったが、カサンドラに注目する者はいなかったので、その程度で十分だと考えていたのだ。
けれど、フィッツの言いかたからすると、計画通りにはいかないらしい。
穏便な「脱出」は難しくなったのだろう。
フィッツが、サッと手を振った。
カサンドラの前の空間に、地図が現れる。
見た瞬間、体中から力が抜けた。
「この小屋を基点にして、半径5百メートル圏内に、2,3千人の兵が配置されています。監視体制も強化されたようですね」
地図上を動く赤い点の数に眩暈がする。
半径5百メートルということは、単純に考えて直径1キロの円の中で千人単位の兵たちがうごめいていることになるのだ。
きっと皇太子が手配したに違いない。
「中でも、この赤く点滅しているのは、中位から高位の騎士です。彼らは監視室に直結する装備品を持っているので、防衛レベルも引き上げられているでしょう」
誰を、なにから「防衛」する気なのか。
まったく余計なお世話にもほどがある。
毒は盛られかけたものの、ほとんど毎日は平和だった。
皇太子との「顔合わせ」やディオンヌの「虐め」以外、記憶に残るようなことはなにもない。
暗殺者に狙われたりという、命の危険を感じたことはないのだ。
「これほど大規模な警護体勢を敷くとは、皇太子の姫様に対する好感度が、かなり上昇しています」
「嫌なこと言わないでよ。上げたくて上げたんじゃないのにさぁ」
フィッツは警護と言っているし、たぶん、皇太子も「警護」のつもりだろう。
とはいえ、こんなに大掛かりなことをされると「逃亡の恐れあり」と見做され、監視されているのではないかと疑いたくなる。
「フィッツがいれば、十分だっての。ほかの警護なんかいらないよなぁ」
厳重警備、監視体制も万全とされている皇宮内を自在に歩き回れるフィッツ。
カサンドラを常に見守っており「一瞬」も目を離さないフィッツ。
これ以上の「警護」が必要だとは思えない。
というより、フィッツがいれば、安全は保証されていると思える。
「碌なことしないな、あいつは」
大きく溜め息をついた。
騒ぎを起こせば逃亡は可能らしいが、そうはしたくない。
その「騒ぎ」で、フィッツは確実に人を殺すだろうから。
自分のためにフィッツに人殺しをさせるのも嫌だし、人が殺されるのも嫌だ。
命に対する責任なんてとれやしない。
「姫様」
地図からフィッツに視線を映した。
瞬間、彼女は固まる。
ほろほろほろ。
フィッツが、いつもの平然とした表情のまま、涙をこぼしていた。
頭の中が真っ白になり、ついで、混乱する。
「え、なに、どうした? なにかあった? 私? どしたの、フィッツ」
ソファから立ち上がり、フィッツに近づいた。
薄金色の瞳からは、まだ涙があふれている。
「私を置き去りにしないでください」
「へ……?」
「置き去りにしないでください」
さらに頭の中が白くなった。
そんな話はしていない。
口に出してもいない。
どこから、そういう結論に至ったのか、まったくわからなかった。
ただ、言えるのは。
「しない。しないよ。置き去りになんてするわけないじゃん」
「ですが、私は無能です」
「いやいや、フィッツは有能、優秀。全然、無能じゃないって」
「騒ぎを起こさず脱出をという、姫様のご意思に沿うこともできず」
「それは、むしろ私が無能だからだよ。フィッツのせいじゃない」
ほろほろほろ。
フィッツの涙は止まらない。
涙を拭きたかったが、生憎、手元にハンカチを持っていなかった。
「姫様おひとりなら、簡単に逃げられることは、わかっています。それでも、私を置き去りにしないでください」
ふう…と、息をつく。
やはりフィッツの価値観は理解し難い。
だが、フィッツにとっては、カサンドラが「すべて」なのだ。
単に、フィッツが思っているだけの「真実」ではなく、事実として。
彼女は手を伸ばし、少し雑に涙をぬぐった。
フィッツの目を見つめ、真面目に言う。
「いい、フィッツ。私は、あれを使う気はない。だから、フィッツがいないと脱出はできないんだよ。ひとりじゃ無理。わかった?」
こくり。
フィッツがうなずく。
涙も、ようやく止まった。
フィッツは、少々、頭のイカレた男だが、絶対の味方だ。
それだけは信じられる。
情を移したくはなかったし、1人のほうが気は楽だった。
けれど、フィッツを置き去りにするとの考えは捨てる。
彼女は、その点において腹をくくったのだ。
「少し時間はかかってもいい。騒ぎを起こさずに脱出できる方法はある?」
フィッツは考えを巡らせているのか、しばし黙り込んだ。
情報通のフィッツなら、良い方法を思いつけるに違いない。
皇太子の相手をするのは憂鬱だが、より良い結果を得る必要があった。
そのためには、多少は我慢するしかない、と思う。
「ひと月半後、帝都の競技場で、戦車試合が行われます。その日であれば、脱出の機会も見込めるでしょう」
「戦車試合ってなに? 自粛の対象にはなってない行事?」
「昨年から計画されていましたし、帝国に属する国が、それぞれ国の威信をかけて参加するので中止にはできないのですよ。そうでなくとも、帝国も含め、各地で、自粛による経済的な打撃も受けていますから」
皇后の死により帝国全土は、向こう1年間の自粛期間に入っている。
様々な行事や祭事、祝い事が中止されていた。
それにより、景気が落ち込んでいるのだろう。
1年も前から、帝国全土で準備が進められていた行事まで中止にすれば、損失は計り知れない。
「詳しいことは、いいや。人が集まってくるから、その中に紛れて、こっそり抜け出し易い日だっていうのは、わかった」
「競技場や祝宴会場に警護も集中しますからね」
それなら「穏便に」姿をくらますのも可能だ。
彼女の望む「いつの間にかいなくなっていた」状態を作り出せる。
問題は、自分の精神が保つかどうか。
(ひと月半か……その間、あいつにつきあわされるわけだ……)
万が一にも、気取られるわけにはいかない。
カサンドラを放っておく気はないらしかったし。
我ながら、つまらないことをした、と思っている。
皇太子には無関心を貫いておけば良かったのだ。
どうせ、近々、ここからはいなくなる。
その思いから油断が生じ、好き勝手を言った。
皇太子に良く思われたいとも思っていなかったからだ。
それが、仇になっている。
「フィッツ、なんか疲れ過ぎて、お腹が減った。晩御飯にしようよ」
予定はあちこちさまよい、彼女の計画にはズレが起きている。
とはいえ、絶対に逃亡を諦めるつもりはなかった。
皇帝は、間もなく死ぬ。
このままここにいれば、嫌でも皇太子妃への道を進まなければならない。
場合によっては、皇太子妃どころか、皇后への道まっしぐらだ。
冗談ではない、と思う。
その道にだけは進みたくない。
たとえ逃亡の先に、自分の死があるとしても、そのほうがいいくらいなのだ。
(だからさ、本当は1人のほうが良かったんだけどね)
夕食の支度をしているフィッツの背を見ながら、少しだけ苦笑い。
フィッツだけは「特例」だと、彼女も認めざるを得なかった。
面倒を避けるつもりが、厄介事を引き寄せてしまった。
皇太子は、彼女の「予測」とは違う行動を取っている。
ここにきて状況が変わりつつあるのを感じていた。
しかも、良くないほうに、だ。
「今夜にでも出立しますか?」
「できる?」
予定を繰り上げることになっても、早目に「逃亡」するほうがいい。
すでに片足を泥沼に突っ込んでいる。
時間をかければ、そのまま、底なし沼に引きずり込まれかねない状況だ。
「騒ぎを起こしても良ければ、すぐに出立可能です」
「騒ぎを起こすって、なんで? 夜に、こっそり皇宮に忍び込んで……」
言いかけてやめる。
そんなことを、フィッツが考えていないはずがないからだ。
皇宮に忍び込み、地下牢から隠し通路を抜け、皇宮の敷地を脱出する。
それが、カサンドラの立てていた計画だった。
非常に、ざっくりとしたものではあったが、カサンドラに注目する者はいなかったので、その程度で十分だと考えていたのだ。
けれど、フィッツの言いかたからすると、計画通りにはいかないらしい。
穏便な「脱出」は難しくなったのだろう。
フィッツが、サッと手を振った。
カサンドラの前の空間に、地図が現れる。
見た瞬間、体中から力が抜けた。
「この小屋を基点にして、半径5百メートル圏内に、2,3千人の兵が配置されています。監視体制も強化されたようですね」
地図上を動く赤い点の数に眩暈がする。
半径5百メートルということは、単純に考えて直径1キロの円の中で千人単位の兵たちがうごめいていることになるのだ。
きっと皇太子が手配したに違いない。
「中でも、この赤く点滅しているのは、中位から高位の騎士です。彼らは監視室に直結する装備品を持っているので、防衛レベルも引き上げられているでしょう」
誰を、なにから「防衛」する気なのか。
まったく余計なお世話にもほどがある。
毒は盛られかけたものの、ほとんど毎日は平和だった。
皇太子との「顔合わせ」やディオンヌの「虐め」以外、記憶に残るようなことはなにもない。
暗殺者に狙われたりという、命の危険を感じたことはないのだ。
「これほど大規模な警護体勢を敷くとは、皇太子の姫様に対する好感度が、かなり上昇しています」
「嫌なこと言わないでよ。上げたくて上げたんじゃないのにさぁ」
フィッツは警護と言っているし、たぶん、皇太子も「警護」のつもりだろう。
とはいえ、こんなに大掛かりなことをされると「逃亡の恐れあり」と見做され、監視されているのではないかと疑いたくなる。
「フィッツがいれば、十分だっての。ほかの警護なんかいらないよなぁ」
厳重警備、監視体制も万全とされている皇宮内を自在に歩き回れるフィッツ。
カサンドラを常に見守っており「一瞬」も目を離さないフィッツ。
これ以上の「警護」が必要だとは思えない。
というより、フィッツがいれば、安全は保証されていると思える。
「碌なことしないな、あいつは」
大きく溜め息をついた。
騒ぎを起こせば逃亡は可能らしいが、そうはしたくない。
その「騒ぎ」で、フィッツは確実に人を殺すだろうから。
自分のためにフィッツに人殺しをさせるのも嫌だし、人が殺されるのも嫌だ。
命に対する責任なんてとれやしない。
「姫様」
地図からフィッツに視線を映した。
瞬間、彼女は固まる。
ほろほろほろ。
フィッツが、いつもの平然とした表情のまま、涙をこぼしていた。
頭の中が真っ白になり、ついで、混乱する。
「え、なに、どうした? なにかあった? 私? どしたの、フィッツ」
ソファから立ち上がり、フィッツに近づいた。
薄金色の瞳からは、まだ涙があふれている。
「私を置き去りにしないでください」
「へ……?」
「置き去りにしないでください」
さらに頭の中が白くなった。
そんな話はしていない。
口に出してもいない。
どこから、そういう結論に至ったのか、まったくわからなかった。
ただ、言えるのは。
「しない。しないよ。置き去りになんてするわけないじゃん」
「ですが、私は無能です」
「いやいや、フィッツは有能、優秀。全然、無能じゃないって」
「騒ぎを起こさず脱出をという、姫様のご意思に沿うこともできず」
「それは、むしろ私が無能だからだよ。フィッツのせいじゃない」
ほろほろほろ。
フィッツの涙は止まらない。
涙を拭きたかったが、生憎、手元にハンカチを持っていなかった。
「姫様おひとりなら、簡単に逃げられることは、わかっています。それでも、私を置き去りにしないでください」
ふう…と、息をつく。
やはりフィッツの価値観は理解し難い。
だが、フィッツにとっては、カサンドラが「すべて」なのだ。
単に、フィッツが思っているだけの「真実」ではなく、事実として。
彼女は手を伸ばし、少し雑に涙をぬぐった。
フィッツの目を見つめ、真面目に言う。
「いい、フィッツ。私は、あれを使う気はない。だから、フィッツがいないと脱出はできないんだよ。ひとりじゃ無理。わかった?」
こくり。
フィッツがうなずく。
涙も、ようやく止まった。
フィッツは、少々、頭のイカレた男だが、絶対の味方だ。
それだけは信じられる。
情を移したくはなかったし、1人のほうが気は楽だった。
けれど、フィッツを置き去りにするとの考えは捨てる。
彼女は、その点において腹をくくったのだ。
「少し時間はかかってもいい。騒ぎを起こさずに脱出できる方法はある?」
フィッツは考えを巡らせているのか、しばし黙り込んだ。
情報通のフィッツなら、良い方法を思いつけるに違いない。
皇太子の相手をするのは憂鬱だが、より良い結果を得る必要があった。
そのためには、多少は我慢するしかない、と思う。
「ひと月半後、帝都の競技場で、戦車試合が行われます。その日であれば、脱出の機会も見込めるでしょう」
「戦車試合ってなに? 自粛の対象にはなってない行事?」
「昨年から計画されていましたし、帝国に属する国が、それぞれ国の威信をかけて参加するので中止にはできないのですよ。そうでなくとも、帝国も含め、各地で、自粛による経済的な打撃も受けていますから」
皇后の死により帝国全土は、向こう1年間の自粛期間に入っている。
様々な行事や祭事、祝い事が中止されていた。
それにより、景気が落ち込んでいるのだろう。
1年も前から、帝国全土で準備が進められていた行事まで中止にすれば、損失は計り知れない。
「詳しいことは、いいや。人が集まってくるから、その中に紛れて、こっそり抜け出し易い日だっていうのは、わかった」
「競技場や祝宴会場に警護も集中しますからね」
それなら「穏便に」姿をくらますのも可能だ。
彼女の望む「いつの間にかいなくなっていた」状態を作り出せる。
問題は、自分の精神が保つかどうか。
(ひと月半か……その間、あいつにつきあわされるわけだ……)
万が一にも、気取られるわけにはいかない。
カサンドラを放っておく気はないらしかったし。
我ながら、つまらないことをした、と思っている。
皇太子には無関心を貫いておけば良かったのだ。
どうせ、近々、ここからはいなくなる。
その思いから油断が生じ、好き勝手を言った。
皇太子に良く思われたいとも思っていなかったからだ。
それが、仇になっている。
「フィッツ、なんか疲れ過ぎて、お腹が減った。晩御飯にしようよ」
予定はあちこちさまよい、彼女の計画にはズレが起きている。
とはいえ、絶対に逃亡を諦めるつもりはなかった。
皇帝は、間もなく死ぬ。
このままここにいれば、嫌でも皇太子妃への道を進まなければならない。
場合によっては、皇太子妃どころか、皇后への道まっしぐらだ。
冗談ではない、と思う。
その道にだけは進みたくない。
たとえ逃亡の先に、自分の死があるとしても、そのほうがいいくらいなのだ。
(だからさ、本当は1人のほうが良かったんだけどね)
夕食の支度をしているフィッツの背を見ながら、少しだけ苦笑い。
フィッツだけは「特例」だと、彼女も認めざるを得なかった。
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