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第2章 彼女の話は通じない
歩み寄れないものばかり2
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カサンドラが皇宮から姿を消して、1年以上が経とうとしている。
ティトーヴァも、26歳になっていた。
周囲からは、婚姻の話も、ちらほら出始めている。
皇帝の顔色を窺い、強くは言わないものの、それとなく匂わせてくるのが、逆に煩わしかった。
幸いだったのは、ロキティスがアトゥリノの国王となったことだ。
叔父がまだ生きていたら、ディオンヌの姉の誰かが送られて来たに違いない。
その点、ロキティスは静かだった。
カサンドラを皇后にと考えているティトーヴァを支持している。
もちろん、そうした政の思惑をかわすため、婚姻をしたいのではない。
急いで進めるつもりもなかった。
カサンドラの気持ちが落ち着くのを待ってからでも遅くはないのだ。
だが、その前に、することがある。
「カサンドラを離せ」
カサンドラは、見知らぬ男に、まるで荷物のごとく抱えられていた。
生きていることに安堵はしたが、同時に、猛烈な怒りに囚われている。
自分の意思で逃げ出したのなら、あんなふうに「雑」に扱われるはずがない。
やはり、カサンドラは拉致されていたのだ。
(カサンドラが望むのなら、ラーザを再興させても良かったのだ。俺なら、それができる。だが、このように強硬な手段を用いるなら、こちらも手段は選ばない)
予想通り、バレスタン伯爵家は、ラーザの民だったようだ。
ティトーヴァがジュポナに到着する直前、ゼノクルから屋敷が吹き飛んだとの連絡が入った。
街の、そこここから煙が上がっている。
ジュポナが、ラーザの民に侵食されていたのは間違いない。
当然だが、ラーザの旗印となるカサンドラを死なせるわけはないので、爆発前に逃がす。
爆発により市街地が混乱に見舞われていたが、ティトーヴァは、あえて、それを無視させた。
追跡はさせず、集結しながら壁に向かえと指示を出したのだ。
裏をかかれることも考慮し、一応、元の国境付近と、反対側のここ、デルカムの方面の2手に騎士を集めている。
そして、ようやく「愛しい女」を見つけた。
「違う! この人は、私を助けてくれたんだよ! 私を殺そうとしたのは……え? なんで……さっきまでいたのに……っ……」
カサンドラが辺りを見回している。
が、ここにいるのは、カサンドラと、彼女を抱えている男、それにティトーヴァたちだけだ。
カサンドラの言葉に、一瞬、戸惑ったが、すぐに考えを切り替える。
(あの男は、奴ではないな……であれば、どこかに潜伏して状況を見ているのかもしれん。カサンドラは、俺たちを近づけまいとしている……)
ベンジャミンを攻撃した方法を使われるかもしれない、と思う。
そうなれば、ティトーヴァとて無事ではいられないのだ。
その攻撃方法については、防ぐ手立てどころか、なにもわかっていない。
だからと言って、カサンドラを諦める気にはなれなかった。
もう2度と、奪われたくはない。
失いたくないのだ、彼女を。
ティトーヴァは、秘匿回線を開く。
そして、セウテルに指示を出した。
(俺が1人で、奴の間合いに入る)
(それは、あまりに危険でございます、陛下)
(交渉する余地があると思わせればいい)
(我々は、どう動けばよろしいでしょうか?)
(隙を見て、カサンドラを解放させる。それと同時に、あの男を、鎖掛けにしろ。奴が、どこに潜伏しているかわからないからな。殺しては聞き出すことができん。だが、くれぐれもカサンドラを傷つけさせるなよ)
(かしこまりました)
ティトーヴァは、両手を開き、武器を持っていないことを示す。
そして、声をかけながら近づいて行った。
「カサンドラを助けてくれたそうだな。礼を言う。こちらは武器を下ろす。だから彼女をおろしてやってくれ。そのままでは窮屈だ」
「なにもしないでいいから! もう少し退いて!」
「そういうわけにはいかんさ。お前は、俺の妻となる女だからな」
「婚約は解消したはずでしょっ? とにかく、これじゃ話もできないじゃん!」
「相変わらずだな、カサンドラ。その憎まれ口が、どれほど恋しかったか」
それは、本音だ。
危機的状況にあっても、カサンドラらしさに、胸が弾む。
他愛のない言い合いが、ティトーヴァは嬉しかった。
だからこそ、諦められない。
ベンジャミンという友は戻らないが、カサンドラは取り戻す。
男は、ティトーヴァを、さして警戒していないようだ。
カサンドラを離さずにはいるが、攻撃をしてくる様子はない。
どうすればいいのかと、迷っているようにも見える。
(セウテル、準備しろ。間合いに入るぞ)
両手を軽く握り、ティトーヴァ専用の武器、ファツデを起動させた。
指に、その感覚が走る。
たんっと地面を蹴り、男との間合いを、一気に詰めた。
「やめ……っ……」
カサンドラの声が聞こえたが、すでにファツデのワイヤーが伸びている。
男の体に巻きついていた。
にもかかわらず、男はカサンドラを離さない。
力を入れ過ぎると殺してしまうと思い、手加減をする。
「カサンドラを離せ! でなければ、細切れにするぞ!」
ぎゅっと、わずかに力を込めた。
本気だとわからせるためだ。
カサンドラを抱えていた腕に、つうっと筋が入る。
そこから、血が流れ落ちた。
が、しかし。
「これは……どういう……」
ドサッと、カサンドラが地面に落ちる。
ハッとなって駆け寄った。
次の瞬間、周囲から驚嘆の声が上がる。
見れば、男の姿が変わっていた。
「魔物……魔物ではないか……」
腕から流れた血が「赤く」なかった理由を悟る。
男の正体は「魔物」だったのだ。
「奴め……魔物を使役していたのか……っ……セウテル! 捕縛せよ!!」
「は! 全員、鎖掛けをしろ!!」
魔物を取り囲み、騎士たちが「罪人用」の鎖を投げつけていく。
両手、両足、腰や首にも鎖が巻きついていた。
大きな体に、尖った爪と牙が見える。
「ちょ……っ……やめてってば!! 放してっ!!」
「カサンドラ! 落ち着け! 早く安全な場所に……」
「そうやって、あんたは、いっつも私の意思を無視するんだよね! 人の話なんか聞きもしない!! 私が、どう思ってようと関係ないんでしょっ!!」
「そうではない、違うのだ、カサンドラ!」
「やめて!! 私は、もうカサンドラじゃないっ!!」
ティトーヴァの腕の中で、カサンドラが暴れていた。
ティトーヴァは、ふと、魔物のほうに視線を向ける。
見た目から魔物だと判断したが、見るのは初めてだ。
人の服は着ていても、2本の足で立っていても、人ではない。
体には、紫の血が流れている。
自分たちとは違う生き物だ。
人を引き裂きそうな爪や、食い殺しそうな牙を持つ生き物。
人間の話を理解できない存在。
ティトーヴァには、危険な相手にしか見えなかった。
「今すぐ攻撃をやめさせてよっ! なんにもしてないのに……なんで……なんで、わかんないのっ?!」
視線をカサンドラに戻す。
恐慌している姿に、眉をひそめた。
彼は、そもそも「彼女は拉致された」と思い込んでいる。
そのため、救出されたはずのカサンドラが、暴れる理由がわからない。
(魔物を使役できるのなら、聖魔を使う手立ても、奴は持っているのかもしれん。カサンドラが精神を操られている可能性も考えなければ……)
ティトーヴァは、サッとカサンドラを抱き上げる。
早く皇宮に戻り、医師に見せなければならない。
長く精神に干渉を受け続けると「戻れなく」なるのだ。
壁ができたあと聖魔はいなくなったが、影響を取り除くことのできなかった者が大勢いたらしい。
皇帝の私室には、皇帝のみが入れる書斎がある。
建国時の歴史は、意図的に隠されていたが、そうした隠匿文献も、その書斎には残されていた。
即位後、ティトーヴァは、それらをすべて読んでいる。
カサンドラを探すため、壁の外に出た際、必要になる知識だったからだ。
「俺は、カサンドラを連れ、皇宮に戻る。そいつは殺せ」
「かしこまりました、陛下」
「もし……騎士の中で精神に干渉を受け、叛意を示した者がいれば、その者たちも殺してしまえ。被害が大きくなる前に、始末をつけねばならんのだ」
「承知いたしました」
暴れているカサンドラを強く抱きかかえ、落とさないよう気をつける。
一刻も早く、ここから離れなければと、ホバーレに向かって走った。
「待ってよ! 嫌だってば!!」
「カサンドラ! お前は精神を操られているのだ。俺が必ず治してやる」
「なに言ってんのっ?! 操られてるのは、あんただよっ! どうかしてる!!」
カサンドラは、あまりにも正気を失い過ぎている。
言っていることが、めちゃくちゃだ。
ベンジャミンのこともあった。
あの従僕が魔物や聖魔を使役できるのなら、ベンジャミンが精神的な攻撃を受けたのも納得がいった。
「ザイードっ! ザイードッ!! 早く逃げて!! 早くっ!!」
カサンドラを抱えたまま、ティトーヴァは、ホバーレに飛び乗る。
動力を入れ、浮かせた時だ。
グラッと地面が揺れる。
ドォン…という、大きな音がした。
全身で、カサンドラを抱き込んで守る。
体に、ガツっと、なにかが当たった。
次々に、その「なにか」が降ってくる。
わずかに目を開き、地面を見た。
転がっているのは、ちぎれた鎖の欠片だ。
突如、風が吹き荒れ、ホバーレがグラグラと揺れる。
安定させるのが難しく、浮上もできない。
「陛下をお守りしろっ!!」
セウテルの声が聞こえた。
周囲に騎士たちが集まってくる足音が聞こえる。
その中で、ティトーヴァは、顔を上げた。
「なんだ……あれは……」
茫然となって、つぶやく。
空を、大きな蛇に似たものが飛んでいた。
深い緑をした長い体で威嚇するようにとぐろを巻き、長い爪のある4本の脚を、こちらに向けている。
空には黒い雲が広がり、凄まじい勢いで雨が降って来た。
その中で、カサンドラが、小さな声で、言う。
「…………龍……」
ティトーヴァも、26歳になっていた。
周囲からは、婚姻の話も、ちらほら出始めている。
皇帝の顔色を窺い、強くは言わないものの、それとなく匂わせてくるのが、逆に煩わしかった。
幸いだったのは、ロキティスがアトゥリノの国王となったことだ。
叔父がまだ生きていたら、ディオンヌの姉の誰かが送られて来たに違いない。
その点、ロキティスは静かだった。
カサンドラを皇后にと考えているティトーヴァを支持している。
もちろん、そうした政の思惑をかわすため、婚姻をしたいのではない。
急いで進めるつもりもなかった。
カサンドラの気持ちが落ち着くのを待ってからでも遅くはないのだ。
だが、その前に、することがある。
「カサンドラを離せ」
カサンドラは、見知らぬ男に、まるで荷物のごとく抱えられていた。
生きていることに安堵はしたが、同時に、猛烈な怒りに囚われている。
自分の意思で逃げ出したのなら、あんなふうに「雑」に扱われるはずがない。
やはり、カサンドラは拉致されていたのだ。
(カサンドラが望むのなら、ラーザを再興させても良かったのだ。俺なら、それができる。だが、このように強硬な手段を用いるなら、こちらも手段は選ばない)
予想通り、バレスタン伯爵家は、ラーザの民だったようだ。
ティトーヴァがジュポナに到着する直前、ゼノクルから屋敷が吹き飛んだとの連絡が入った。
街の、そこここから煙が上がっている。
ジュポナが、ラーザの民に侵食されていたのは間違いない。
当然だが、ラーザの旗印となるカサンドラを死なせるわけはないので、爆発前に逃がす。
爆発により市街地が混乱に見舞われていたが、ティトーヴァは、あえて、それを無視させた。
追跡はさせず、集結しながら壁に向かえと指示を出したのだ。
裏をかかれることも考慮し、一応、元の国境付近と、反対側のここ、デルカムの方面の2手に騎士を集めている。
そして、ようやく「愛しい女」を見つけた。
「違う! この人は、私を助けてくれたんだよ! 私を殺そうとしたのは……え? なんで……さっきまでいたのに……っ……」
カサンドラが辺りを見回している。
が、ここにいるのは、カサンドラと、彼女を抱えている男、それにティトーヴァたちだけだ。
カサンドラの言葉に、一瞬、戸惑ったが、すぐに考えを切り替える。
(あの男は、奴ではないな……であれば、どこかに潜伏して状況を見ているのかもしれん。カサンドラは、俺たちを近づけまいとしている……)
ベンジャミンを攻撃した方法を使われるかもしれない、と思う。
そうなれば、ティトーヴァとて無事ではいられないのだ。
その攻撃方法については、防ぐ手立てどころか、なにもわかっていない。
だからと言って、カサンドラを諦める気にはなれなかった。
もう2度と、奪われたくはない。
失いたくないのだ、彼女を。
ティトーヴァは、秘匿回線を開く。
そして、セウテルに指示を出した。
(俺が1人で、奴の間合いに入る)
(それは、あまりに危険でございます、陛下)
(交渉する余地があると思わせればいい)
(我々は、どう動けばよろしいでしょうか?)
(隙を見て、カサンドラを解放させる。それと同時に、あの男を、鎖掛けにしろ。奴が、どこに潜伏しているかわからないからな。殺しては聞き出すことができん。だが、くれぐれもカサンドラを傷つけさせるなよ)
(かしこまりました)
ティトーヴァは、両手を開き、武器を持っていないことを示す。
そして、声をかけながら近づいて行った。
「カサンドラを助けてくれたそうだな。礼を言う。こちらは武器を下ろす。だから彼女をおろしてやってくれ。そのままでは窮屈だ」
「なにもしないでいいから! もう少し退いて!」
「そういうわけにはいかんさ。お前は、俺の妻となる女だからな」
「婚約は解消したはずでしょっ? とにかく、これじゃ話もできないじゃん!」
「相変わらずだな、カサンドラ。その憎まれ口が、どれほど恋しかったか」
それは、本音だ。
危機的状況にあっても、カサンドラらしさに、胸が弾む。
他愛のない言い合いが、ティトーヴァは嬉しかった。
だからこそ、諦められない。
ベンジャミンという友は戻らないが、カサンドラは取り戻す。
男は、ティトーヴァを、さして警戒していないようだ。
カサンドラを離さずにはいるが、攻撃をしてくる様子はない。
どうすればいいのかと、迷っているようにも見える。
(セウテル、準備しろ。間合いに入るぞ)
両手を軽く握り、ティトーヴァ専用の武器、ファツデを起動させた。
指に、その感覚が走る。
たんっと地面を蹴り、男との間合いを、一気に詰めた。
「やめ……っ……」
カサンドラの声が聞こえたが、すでにファツデのワイヤーが伸びている。
男の体に巻きついていた。
にもかかわらず、男はカサンドラを離さない。
力を入れ過ぎると殺してしまうと思い、手加減をする。
「カサンドラを離せ! でなければ、細切れにするぞ!」
ぎゅっと、わずかに力を込めた。
本気だとわからせるためだ。
カサンドラを抱えていた腕に、つうっと筋が入る。
そこから、血が流れ落ちた。
が、しかし。
「これは……どういう……」
ドサッと、カサンドラが地面に落ちる。
ハッとなって駆け寄った。
次の瞬間、周囲から驚嘆の声が上がる。
見れば、男の姿が変わっていた。
「魔物……魔物ではないか……」
腕から流れた血が「赤く」なかった理由を悟る。
男の正体は「魔物」だったのだ。
「奴め……魔物を使役していたのか……っ……セウテル! 捕縛せよ!!」
「は! 全員、鎖掛けをしろ!!」
魔物を取り囲み、騎士たちが「罪人用」の鎖を投げつけていく。
両手、両足、腰や首にも鎖が巻きついていた。
大きな体に、尖った爪と牙が見える。
「ちょ……っ……やめてってば!! 放してっ!!」
「カサンドラ! 落ち着け! 早く安全な場所に……」
「そうやって、あんたは、いっつも私の意思を無視するんだよね! 人の話なんか聞きもしない!! 私が、どう思ってようと関係ないんでしょっ!!」
「そうではない、違うのだ、カサンドラ!」
「やめて!! 私は、もうカサンドラじゃないっ!!」
ティトーヴァの腕の中で、カサンドラが暴れていた。
ティトーヴァは、ふと、魔物のほうに視線を向ける。
見た目から魔物だと判断したが、見るのは初めてだ。
人の服は着ていても、2本の足で立っていても、人ではない。
体には、紫の血が流れている。
自分たちとは違う生き物だ。
人を引き裂きそうな爪や、食い殺しそうな牙を持つ生き物。
人間の話を理解できない存在。
ティトーヴァには、危険な相手にしか見えなかった。
「今すぐ攻撃をやめさせてよっ! なんにもしてないのに……なんで……なんで、わかんないのっ?!」
視線をカサンドラに戻す。
恐慌している姿に、眉をひそめた。
彼は、そもそも「彼女は拉致された」と思い込んでいる。
そのため、救出されたはずのカサンドラが、暴れる理由がわからない。
(魔物を使役できるのなら、聖魔を使う手立ても、奴は持っているのかもしれん。カサンドラが精神を操られている可能性も考えなければ……)
ティトーヴァは、サッとカサンドラを抱き上げる。
早く皇宮に戻り、医師に見せなければならない。
長く精神に干渉を受け続けると「戻れなく」なるのだ。
壁ができたあと聖魔はいなくなったが、影響を取り除くことのできなかった者が大勢いたらしい。
皇帝の私室には、皇帝のみが入れる書斎がある。
建国時の歴史は、意図的に隠されていたが、そうした隠匿文献も、その書斎には残されていた。
即位後、ティトーヴァは、それらをすべて読んでいる。
カサンドラを探すため、壁の外に出た際、必要になる知識だったからだ。
「俺は、カサンドラを連れ、皇宮に戻る。そいつは殺せ」
「かしこまりました、陛下」
「もし……騎士の中で精神に干渉を受け、叛意を示した者がいれば、その者たちも殺してしまえ。被害が大きくなる前に、始末をつけねばならんのだ」
「承知いたしました」
暴れているカサンドラを強く抱きかかえ、落とさないよう気をつける。
一刻も早く、ここから離れなければと、ホバーレに向かって走った。
「待ってよ! 嫌だってば!!」
「カサンドラ! お前は精神を操られているのだ。俺が必ず治してやる」
「なに言ってんのっ?! 操られてるのは、あんただよっ! どうかしてる!!」
カサンドラは、あまりにも正気を失い過ぎている。
言っていることが、めちゃくちゃだ。
ベンジャミンのこともあった。
あの従僕が魔物や聖魔を使役できるのなら、ベンジャミンが精神的な攻撃を受けたのも納得がいった。
「ザイードっ! ザイードッ!! 早く逃げて!! 早くっ!!」
カサンドラを抱えたまま、ティトーヴァは、ホバーレに飛び乗る。
動力を入れ、浮かせた時だ。
グラッと地面が揺れる。
ドォン…という、大きな音がした。
全身で、カサンドラを抱き込んで守る。
体に、ガツっと、なにかが当たった。
次々に、その「なにか」が降ってくる。
わずかに目を開き、地面を見た。
転がっているのは、ちぎれた鎖の欠片だ。
突如、風が吹き荒れ、ホバーレがグラグラと揺れる。
安定させるのが難しく、浮上もできない。
「陛下をお守りしろっ!!」
セウテルの声が聞こえた。
周囲に騎士たちが集まってくる足音が聞こえる。
その中で、ティトーヴァは、顔を上げた。
「なんだ……あれは……」
茫然となって、つぶやく。
空を、大きな蛇に似たものが飛んでいた。
深い緑をした長い体で威嚇するようにとぐろを巻き、長い爪のある4本の脚を、こちらに向けている。
空には黒い雲が広がり、凄まじい勢いで雨が降って来た。
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