理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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第1章 暗い闇と蒼い薔薇

頭のネジが2,3本 4

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 愛しい孫娘との楽しい食事のひと時。
 彼女は、日々、愛らしくなっていく。
 
 屋敷の者たちとも、ずいぶんと打ち解けてきたようだ。
 レティシアの言動に、おっかなびっくりの様子ではあるが、それはともかく。
 屋敷内は、明るくなった。
 レティシアだけではなく、他の者たちの笑う声も聞こえてくる。
 
(こんなレティを、誰が慈しまずにいられるだろうか)
 
 さっきも料理長のマルクに、とても彼女らしいやり方で感動を伝えていた。
 言葉に偽りはなく、結局、レティシアはシチューを3皿たいらげている。
 そして、食後のデザートもペロリ。
 
 腹痛を起こすのではと心配するグレイに「デザートは別腹」だと言っていた。
 なんでも、腹の中で主食とは別のところに入る、のだそうだ。
 女性陣は一様にわかったような顔をしていたので、男性にはない器官が女性にはあるのかもしれない。
 子供を体に宿せるのも女性だけなのだから、ありえない話ではないだろう。
 
「レティは、明日、なにをする予定なのかな?」
 
 考えるようにレティシアが首を少しかしげる。
 黒くて長い髪が、横に少し流れていた。
 生まれた際、この色を隠そうとしたことを覚えている。
 レティシアを寝かせた揺りかごの周りに3人で立っていた。
 
 髪色を染める塗り薬に飲み薬、いずれも効果は出ず。
 最後には、彼自身が魔術を使いさえした。
 同じく目の色も変えるつもりでいたからだ。
 
 髪や目の色を変えるのは、それほど難しくはない。
 下級魔術師程度の魔術が使えれば事足りる。
 彼が力を使うとなれば、それ以上の効果が見込めた。
 
 けれど、レティシアの髪も目も、その色を変えることはなかったのだ。
 結果、諦めざるを得なかった。
 
 そのせいで、彼女が生まれながらにジョシュア・ローエルハイドの血を受け継いでいると、周りに知らしめることになってしまった。
 さぞ嫌だったに違いない、と思う。
 
 なにかにつけ「祝い」「挨拶」と称して屋敷を訪れる貴族たちの目には、珍しい動物でも見るかのような好奇の色しか浮かんでいなかった。
 レティシアが正妃を選ぼうとした原因も、ひとつにはそうしたわずらわしさがあったのかもしれない。
 
 少なくとも王宮に入ってしまえば、会いたい者としか会わずにすむ。
 外出をせず、自室に引きこもりがちだったレティシア。
 もしかすると、王宮入りを考えてのことだったのだろうか。
 
「明日は、書斎から本を部屋に運ぶ予定。どうせ部屋ではあんまり読まないんだけど、毎回、グレイに取ってきてもらうのも悪いから。書斎より私の部屋のほうが食堂に近いし」
 
 聞くところによると、レティシアは1日の大半を食堂で過ごしているらしい。
 眠る時と着替えをする以外、部屋にはほとんどいないそうだ。
 
「そういえば、部屋の模様替えをしたのだったね。私にも見せてくれるかい?」
「えっ?!……あ~……えーと……それはナシ……」
 
 ふんわりとレティシアの頬が赤くなっている。
 なにか自分には見せたくないものがあるのだろう。
 
「グレイは入っていると聞いているのだがね」
「そ、それは、その~…」
 
 ちょっとした冗談だった。
 本気でレティシアに無理を言うつもりはない。
 反応がかわいらしいので、ついからかってしまうのだ。
 
「肉親とはいえ、大公様は男性です。年頃の女性の部屋に入りたがるのは、いささか不作法というものでは?」
「私は執事ですから、男性というカテゴリには入っておりません」
 
 サリーとグレイが、すかさず盾となってくる。
 眉を、ひょこんと上げ、肩をすくめてみせた。
 
「おやおや、これは私が悪かったようだ」
「お、お祖父さまが悪いってことじゃなくって……そ、そう、サリーが言ったみたいに、年頃の女性にはいろいろあるってコト!」
 
 なにを隠したがっているのか興味はあるが、しつこく問いただす気はない。
 あわあわと焦っているレティシアに、にっこりしてみせる。
 
「あ! お祖父さま、からかってる……?」
「レティが、かわいくてね」
「も、もう! 本気で焦ったんだからね!」
 
 レティシアが立ち上がっての抗議。
 彼は、テーブルに肘をつき、両手を顔の前で組んで言った。
 
「嫌いになったかい?」
 
 まばたきひとつ。
 即座に答えが返ってくる。
 
「ううん、大好き!」
 
 言ってから、レティシアは、ハッとした様子で口を閉じた。
 そして、イスに腰を落とす。
 
「あ~、もう……お祖父さまには勝てない。勝てないなー」
 
 それもまた嫌そうな響きはなく、彼を喜ばせた。
 孫娘がかわいくて、愛しくてならない。
 この1ヶ月、毎日、夕食を共にしている。
 日に日に実感していた。
 
 無条件で信じ、頼られている。
 
 彼に裏切られるなどとは露ほども思っていない。
 それがわかるから、信じてもらえる、頼ってもらえる存在であり続けると決めていた。
 明日は彼女を庭にでも連れ出そうか、と思った時だ。
 ばたばたと足音が聞こえてくる。
 食堂にアイザックが飛び込んできた。
 
「父上、良いところに!」
 
 スッと彼の心に冷たいものが入りこんでくる。
 一緒だけ目を細め、冷淡な表情を浮かべた。
 すぐに、それを消し去る。
 レティシアには見られたくなかったからだ。
 
「王太子から夜会の申し出でもあったのかな?」
「知っておられたのですか?!」
「いや、おおかたそんなことだろうと思っただけさ」
 
 せっかくの楽しい夕食がぶち壊しだ。
 不愉快ではあれど、レティシアを不安にさせておくのは望ましくない。
 彼女は不安そうにアイザックを見つめている。
 
「すべての公爵家に出席させるようです」
「それで? 我が家以外は承諾しているとでも言ってきたかね?」
「……その通りですよ、父上」
 
 姑息なやり方だが効果的でもあった。
 彼は、自分の息子を見て思う。
 
(ザックはともかく、レティが出席しなければ、今後の社交界でフラニーが矢面に立つことになる。妻と娘、どちらかを選ばせようというわけか)
 
 フラニーは強い女性だ。
 どんなに社交界での立場が悪くなろうと、自らの裁量でもって切り抜けるに違いない。
 けれど、息子は違う。
 宰相としての能力はあっても愛には弱い。
 フラニーが心配で、居ても立っても居られない心境でいるはずだ。
 
 人は守りたい者しか守れない。
 
 アイザックの弱みにつけこむ方法を取ったことからすると、これが王太子ではなく副魔術師長の考えだとの予測がつく。
 思う彼の横でレティシアが声を上げた。
 
「そんなの卑怯じゃんか! なに、あの王子、最悪ッ! 最っ低!!」
「れ、レティ……お前に無理を言うつもりは……」
 
 アイザックの声は小さい。
 フラニーのことがあるせいで、はっきりとは断言できずにいるのだろう。
 
「無理とか無理じゃないとか関係ない! お父さまとお母さまに恥かかせるわけないでしょ! それに! そんな卑怯な奴に負けたくないよ! 私、逃げないからね! あンのハーレム王子、絶対、許すまじ!!」
 
 レティシアは、烈火のごとく怒っている。
 しかし、癇癪というのとは別物の「正当」な怒りだ。
 周囲も、そう認識している。
 ぎゅっと拳を握りしめているレティシアを、誰も冷たい目では見ていない。
 肩に腕を回すと、彼女が見上げてきた。
 
「それなら、レティのエスコートは私がしよう」
「お祖父さまが……っ?!」
「私では分不相応かな?」
「分不相応もなにも……嬉し過ぎる!! 是非、お願いしまっす!」
 
 怒っていたことを忘れてはいないだろうが、今は目をきらきらさせている。
 ふわんと頬も上気していた。
 
「お祖父さまがエスコート……お祖父さまと夜会……」
 
 なにやら上の空になっているらしきレティシアに冷静な声2つ。
 
「レティシア様、お戻りください」
「戻ってください、レティシア様」
 
 グレイとサリーの2人だった。
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