理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

文字の大きさ
171 / 304
第2章 黒い風と金のいと

魔術師との契約 3

しおりを挟む
 国王とはなんぞや。
 
 小さな頃から、ユージーンの頭にあった疑問。
 父は玉座に座り、うなずくだけで、何もしない。
 採択は重臣たちが行い、まつりごとは宰相が執り行う。
 いったいなんのために国王はいるのか。
 ユージーンには、わからなかった。
 その問いに、ひとつの答えをくれたのが、サイラスだったのだ。
 
 国の平和と安寧。
 そのために国王は存在する。
 
 だからといって、政のいっさいに干渉しないのは、どうなのか。
 今も、そう思ってはいる。
 けれど、なにより大事なのは、その存在の意味なのだ。
 国の平和と安寧をないがしろにするのなら、それはもう国王ではない。
 
 ユージーンは、王位に就くためだけに生きてきた。
 自らが王位に就くことを、疑ったこともない。
 それ以外の未来など考えたこともなかった。
 国王になることを、あたり前に受け止めて生きてきた。
 22年間、自分はいずれ国王になる身だと思って生きてきたのだ。
 そこにしか、存在意義を見出せないほどに。
 
 即位していなくても、ユージーンは王だった。
 
 だから、王の判断をする。
 国の平和と安寧のために存在する王として。
 
 サイラスは夢見の術を使った。
 とても危険な魔術であることは、ユージーン自身が知っている。
 自分の目的のため、利のために動くのは悪いことではない。
 とはいえ、なにをしてもかまわない、というわけではないのだ。
 
 とくに、魔術は常に危険を伴う。
 魔術師たちが、各々おのおのに勝手をし始めたら、国が乱れるのはわかりきっている。
 だからこその、契約だった。
 縛ることで、国の乱れを防ぎ、かつ、魔術師を防衛のすべとしている。
 王族や王宮が、魔術師を利用している、とも言えた。
 が、魔術師も、そこで一定の利を得ているのだ。
 
 衣食住の保障や給金など、いわば普通の「使用人」と変わらない。
 違うのは、魔力顕現けんげんすると、王宮に否応なく連れて来られるということだ。
 が、それは、魔力暴走の被害を出さないためだった。
 生涯、王宮に閉じ込めたりはしない。
 王宮を辞することは、許されている。
 縛られるのを良しとしないのなら、王宮を辞するとの選択もできるのだ。
 単純に、王族や王宮の都合の良いように魔術師を使っているのではない。
 もちろん、契約で縛らずにいられるほうが良いのだろうけれども。
 
(俺の先祖は、正しい選択をした)
 
 己の利でもって魔術を振り回す者が、必ず出てくる。
 そう読んでいたのだろう。
 そして、実際に現れた。
 サイラスは、利のために危険な魔術でも平気で使う。
 自分の頭で考えるようになって気づいた。
 
 したいことと、できることは違う。
 できることと、すべきことも違う。
 
 もしレティシアに会わず、恋をすることがなければ、わからずにいただろう。
 考えることを人任せにして、なんの疑問もなく即位していた。
 そして、サイラスに、最も危険な力を与えていたはずだ。
 もしかすると、最悪な国王として、後世に名を刻んでいたかもしれない。
 
 国の平和と安寧のために、国王は存在する。
 
 ユージーンは王として、サイラスを魔術師長にすることはできなかった。
 サイラスが国を乱す者だからだ。
 国の平和と安寧を壊す者だと、わかっている。
 ユージーンが即位すると、自動的にサイラスは、魔術師長になってしまう。
 阻むには、王位の座から降りるしかない。
 
 ユージーンは王なのだ。
 どこまでも王であろうとする。
 
 そのように、サイラスに育てられたから。
 
 ユージーンは、サイラスに近づいた。
 今度は、自分からサイラスの手を握りたかったのだ。
 が、伸ばした手が振りはらわれる。
 
「サイラス……俺は、今まで通り、お前に、俺のそばにいてほしいのだ」
「魔術を失った私には、なんの価値もありませんよ」
「そのようなことはない。お前は、考えるのが得意だ。お前には、知恵がある。知識がある。魔術など使えずともよいではないか」
 
 顔を上げようとしないサイラスに、胸が痛くなった。
 サイラスの魔術で、ユージーンは何度も助けられている。
 その恩恵を被っておきながら、その力をサイラスから取り上げるのだ。
 
(やりたくないことと、すべきこともまた……違うのだな)
 
 できるなら、サイラスを魔術師長にしてやりたかった。
 サイラスの望みを、ひとつくらいは叶えてやりたかった。
 
 『サイラスは、一緒にいてくれるのか?』
 『殿下が即位され、私が魔術師長になれば、ずっと一緒にいられますよ』
 
 サイラスが隣にいないなど、ユージーンは考えられずにいる。
 魔術師長でなくとも、魔力などなくとも、サイラスはサイラスだ。
 ユージーンにとっては、何も変わらない。
 いつも自分の手を握ってくれたサイラスだった。
 
 『あなたにも、ちゃんと大事な人いるじゃん』
 
 レティシアに、そう言われている。
 確かに、ユージーンにとって、サイラスは「大事な人」だ。
 こうなってみて、強く感じていた。
 サイラスを失いたくないと。
 
「殿下は、なにもわかっておられないようですね」
 
 サイラスが、顔を上げる。
 口元に笑みはない。
 代わりに、瞳が冷たく暗く光っていた。
 
「わかっている」
 
 だからこそ、サイラスに「魔力」を諦めてほしいのだ。
 このまま突き進めばどうなるか。
 ユージーンは、サイラス以上に、知っている。
 実際に、ふれたからだった。
 
 大公は、サイラスを殺す。
 
 救える可能性は低いかもしれない。
 すでに大公は決めているのだ。
 決定をくつがえすのは、どれほど難しいか。
 それでも、可能性があるとすれば、これしかなかった。
 
 サイラスが「ただの人」となること。
 
 サイラスの望みを叶えてやることはできない。
 が、命を救うための手立ては残されている。
 ユージーンは、サイラスを救いたかった。
 これまで通り、サイラスに頼ったり、助けられたりする暮らしを続けていきたいと思っている。
 
 サイラスの目的が何かを、ユージーンは知らなかったから。
 
 サイラスの口に笑みが浮かぶ。
 嘲笑だった。
 まとう空気が変わっている。
 
「いいえ。殿下は、なにもわかっておられませんよ」
 
 声も、冷たく蔑みの色が滲んでいた。
 ユージーンの知る、どんな表情とも違っている。
 サイラスの内側にしかなかったものなのだろう。
 ずっと隠してきたに違いない。
 
「私が手にしたかったのは、地位ではありません。力です。大公様と戦うための力が、私は欲しかったのです」
「なにを馬鹿な……」
「なぜです? 魔術師長は、国王から、その魔力を一身に与えられるでしょう? その力は、大公にも匹敵するではありませんか」
 
 ユージーンは、サイラスが大公に殺されずにすむ方法を考えていた。
 が、サイラスは、自身の命を救いたがっていない。
 
「大公とやり合って、勝てるはずがなかろう」
 
 大公の脅威にさらされてみれば、わかることだ。
 人というちっぽけな存在が、自然に勝てるはずがなかった。
 
 その大きさ、恐ろしさ、そして、理不尽さ。
 
 しかも、大公は意思を持って、力を振るう。
 魔術師であればこそ、抗うすべがないと、サイラスは知っているだろうに。
 
「殿下は、ご存知かと思っておりましたが。私は、勝算のないことはいたしません。それに……」
 
 サイラスが、穏やかに微笑む。
 見慣れた、ユージーンをなだめる時の笑みだ。
 けれど、ユージーンは察している。
 サイラスが、最後の機会を捨て去ろうとしていることに。
 
「私は国王ではありませんから。国の平和と安寧のための存在でもありません」
 
 ざぁっと、サイラスの周りの空気が吹き上がる。
 真っ黒な渦が、サイラスを取り囲んでいた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...