理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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第2章 黒い風と金のいと

とても残念なこと 3

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 小ホールでのやり取りなどまったく知らず、レティシアは厨房に向かって歩いている。
 まだ、ちょっぴり、ぷんすかしていた。
 祖父の笑顔で癒されはしたが、王子様を思い返すにつけ、イラっとする。
 
(ホント、偉そうだよね! あんなことがあっても変わらないんだから、打たれ強過ぎだろ! だいたい性格が大雑把なんだよ!)
 
 王子様は、自分を中心に物事を考えてはいた。
 けれど、自分勝手とか自己中とかいうイメージとは、少し違うのだ。
 偉そうで、尊大で、傲慢な態度の割に、自分さえ良ければいい、といった感じは受けない。
 何度か、話をしているので、初対面の頃の印象も変わってきている。
 さりとて、好印象に転じているかと言えば、そんなことはなかった。
 蝶よ花よとかしずかれたいわけではないが、口の利き方というものはあるのだ。
 
「レティシア様」
 
 声に、足を止めて振り返る。
 そこには、グレイとサリーが立っていた。
 
 あのあと、グレイも疲労困憊状態だったものの、サリーほどではない。
 サリーは、しばらく体を動かせないほどだったのだ。
 最近、ようやく仕事に復帰している。
 もう少し休んでいい、と言ったのだが、働いていないと落ち着かないとのこと。
 レティシアも働いていた経験があるので、わかる。
 長く働いていないと、こんなことでいいのだろうか、と思ったりもするのだ。
 今だって、時々は、そう感じる。
 だから、サリーには、無理をしないようにと言葉を添えつつ、職場復帰を歓迎した。
 
「あの……少し、お話したいことがございまして……よろしいでしょうか?」
 
 少しだけ考え、すぐにうなずく。
 あの偉そうな王子様は、待たせておいてもかまいはしない。
 相手をしている祖父には申し訳ない気がしたけれども。
 
「私と……サリーなのですが……婚姻することになりました」
「えっ?! マジでっ?!」
「マジです」
「……ええ……そのようなことに……はい……」
 
 グレイが、わざとらしく眼鏡を押し上げる。
 照れているのだろう。
 ふわぁっと気分が高揚した。
 
「そっかあ! 良かったじゃん!」
 
 まだ、引っ掛かりはなくなっていないし、気にかかったりもする。
 自分の選択が正しかったのかはわからないが、それでも思った
 
 サリーが生きていて、本当に良かった、と。
 
 2人の嬉しそうな顔に、レティシアも嬉しくなる。
 にこにこ、もとい、にやにやしながら、言った。
 
「サリー、さすがだねー」
「なにが……でございましょう?」
「だって、サリーが求婚したんでしょ?」
 
 当然のごとく、そうとしか考えられない。
 グレイは、こと恋愛に対して「ヘタレ」なのだ。
 とてもグレイから言い出せたとは思えずにいる。
 
「いえ。私が、求婚いたしました」
「ぇえっ?!」
「……マジですよ、レティシア様……」
「そ、そっか……グレイ、言えたんだ……」
 
 小さく笑って、ごまかした。
 グレイは、なんとも微妙な顔をしている。
 グレイ自身、己のヘタレ具合を自覚しているからだろう。
 不本意ではあるのかもしれないが、言い返せもしない、という。
 
「私が、今際いまわきわになって、ようやく、ですけれど」
 
 なんとなく納得した。
 サリーを本当に失ってしまうかもしれない状況の中、グレイは自分の想いを伝えなければ、と思ったに違いない。
 
(言えなくなってからじゃ……遅いもんね……)
 
 人の命は、儚いのだ。
 さっきまで話していた相手が、急にいなくなったりもする。
 平和に暮らしていると意識せずにいられるが、実際には、明日が必ずいつも通りに来るなんて約束は、されていない。
 こちらの世界では、もっと。
 
「ですが、彼には、私を押し倒せそうにありません」
「そうなんだ?」
「サ、サリー……」
 
 サリーと2人で、グレイに「できるの?」という視線をおくった。
 秒で逸らされた。
 やっぱりと、うなずき合う。
 
「ま、しょーがないよ、グレイだもん」
「そうですね」
 
 サリーと顔を見合わせて、笑った。
 やはり笑えるのは、幸せなことなのだ。
 
「じゃあさ、式とか披露宴とか新婚旅行とか、計画しないと」
 
 グレイとサリーが、首をかしげる。
 そういう風習がないのか、単に言葉がわからないのか。
 どちらも、あり得そうだった。
 
「えーと、式っていうのは、2人が愛を誓い合う儀式で、披露宴っていうのは、婚姻したよって、みんなにお披露目する場で、新婚旅行っていうのは婚姻後に2人でする旅のことだよ」
 
 説明したとたん、2人が顔を赤くする。
 そして、お互いに目でのやりとりをしていた。
 
(そういう風習がないのかー。でも、お祝い事なんだし、盛大にやりたいよなー)
 
 一生に一度のことなのだ。
 記念に残るものにすべきではなかろうか。
 自分のことに置き換えることなく、サリーのウエディングドレス姿を想像する。
 
(お色直しは、2回くらいあってもいいよね。薄い紫とかオレンジとか……いや、派手な色も……)
 
 この際、両親にねだってしまおうか、と考えた。
 お小遣いがあるのかも未だにわからないし、働くと言うと父は猛反対だし。
 
(そうだ! サリーが新婚旅行中は、私が代理をするってことで、手を打ってもらうってのは、アリかも!)
 
 頭の中で、着々と2人の結婚式の準備が進行中。
 やはり自分のことには置き換えられないのだけれども。
 
「あの……レティシア様……?」
「どこかに行っていらっしゃいます……?」
 
 小さく訊ねてくる2人のほうに、パッと顔を向ける。
 レティシアの目には、白いドレス姿のサリーと、タキシード姿のグレイが見えていた。
 
「よし! 準備は、私がするよ! 大丈夫! 任せて!」
 
 まだ両親の親族と交流があった頃、歳の離れた従姉妹の、結婚式の手伝いをしたことがある。
 だいたいの流れは、わかっていた。
 
「あ、あの……準備というのは……」
「そりゃあ、いろいろだよ! うん、大丈夫! 2人の希望は、ちゃんと聞くからさ! 心配いらないって!」
「レ……レティシア様……あ、愛を……ち、誓い合う、ぎ、儀式……とは……」
 
 グレイは、ものすごく心配そうな顔をしている。
 が、レティシアは気づかない。
 
「誓いの言葉をお互いに言って……洋風だから、誓いの口づけだね!」
「あの!! そ、それは、ふ、2人で行うのでしょうか?!」
「いやぁ、それじゃ、ダメだよ」
 
 ちっちっと、人差し指を立て、軽く左右に振った。
 グレイは、ちょっぴり蒼褪めている。
 
「誓いなんだから、当然、証人が必要じゃん!」
「し、証人……と、ということは、ですね……ひ、人前で……」
「そうなるね」
 
 昏倒しそうになっているグレイを、サリーが支えていた。
 そんなグレイに、レティシアは、ビッと、その人差し指を突き付ける。
 
「騎士でしょ、グレイ! 腹を括りなさい!」
 
 言ってから、あ!と思った。
 すっかり忘れていたが、先に片づけなければならないことがある。
 結婚式の準備に心置きなく取り掛かるためにも。
 
「私、ジョーに用事があるから行くね! この話は、またあとで!」
 
 後ろで、サリーの「しっかりして」という声がしていたが、レティシアには聞こえておらず、2人を置いて駆け出した。
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