理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

文字の大きさ
294 / 304
最終章 黒い羽と青のそら

なんでもお見通し 2

しおりを挟む
 レティシアは、まだ、ぽ~っとしていた。
 ベッドの中、体を起こしてはいる。
 が、ぽや~っと、しているのだ。
 
(夢、じゃなかった……本当に……)
 
 自分は、プロポーズされたらしい。
 証拠の向日葵が、ある。
 さっきのことは、なにからなにまで、現実なのだ。
 
(お祖父さま……私が言った名前、ちゃんと覚えててくれたんだ……)
 
 思ったところで、ハッとなる。
 ふわっと、顔が熱くなった。
 
 祖父は、もう祖父ではない。
 
 にわかに、気恥ずかしくなってくる。
 じたじたしたくなるような気持ちだ。
 
(だってさー、私が、お祖父さまを好きっていうのは……まぁ、当然っちゃ、当然だけど、お祖父さまが私をっていうのは……)
 
 なにが? どこが?
 
 まるで見当がつかない。
 孫娘としてなら、理解できる。
 そういう意味での「可愛い」「愛しい」は、家族感情として、あり得るからだ。
 孫が、祖父にとって、そういう存在であるのは、めずらしいことではない。
 
(孫娘としてじゃなく、好かれる要素って、ある……?)
 
 自問するも、自答の部分が抜けてしまう。
 女性として好かれる要素なんて思い浮かばなかった。
 
(いっつも、足引っ張りで……迷惑かけてばっかりだったし……)
 
 祖父に、一方的に甘やかされていただけだ。
 自分からは、これといって、何もしていない。
 孫娘として好かれるのはあたり前、くらいの気分でいた。
 だから、当然、どんなアプローチもせず、過ごしてきている。
 
(ただただベッタリしてただけというか……素だったよね……)
 
 はっきり言って、あの告白の時まで、嫌われることなど考えもしなかった。
 もっと言えば「嫌われることはない」とすら思っていたのだ。
 なにしろ、レティシアは「孫娘」だったので。
 
 どんな、なにをしようが、可愛がられることはあれど、嫌われることはない。
 
 元々あったレティシアの強い家族意識から、そんなふうに感じていた。
 親も含め、家族だからといって、嫌われない保証なんかないのだけれど、それはともかく。
 
(まさか……私の我儘を、そこまで受け入れてくれてる、とか……?)
 
 ちょっぴり心配になる。
 可愛い孫の言うことだから、とんでもない我儘さえ、のんでくれているだけなのではなかろうか。
 その考えに、わずかに怯んだ。
 
(い、いや……さすがに、それはないよ……でもなぁ、でもなぁ……お祖父さま、包容力あるからなー! なんでも、いいよって言ってくれそうじゃん?!)
 
 ぐぬぬ、と頭を悩ませる。
 もし、そういうことであったなら、本当に、とんでもないことだった。
 我儘では、すまされない。
 
 自覚はないが、レティシアは、かなり混乱している。
 
 もし、単なる包容力で片づけられるのなら、そもそもフラれていない、とか。
 現状、血の繋がりはなくなっているので、すでに孫娘ではない、とか。
 もとより、祖父に自由になってほしくて血の繋がりを断ったのではなかったか、とか。
 
 そういうことを、考えられずにいるのだ。
 同じ想いを返してもらえたことに、実感がないせいもある。
 
 理想の人に振り向いてもらえるなんて、なかなかない。
 まず、理想の人に出会うこと自体が、現実では、ありえないくらいなのだから。
 
(けど……)
 
 チラっと、向日葵に視線を向けた。
 あの花が存在しているのは、現実なのだ。
 夢でも、レティシアの妄想でもない。
 
(うは~……信じらんない……お祖父さまが、あんな……)
 
 たは~と、思わず、照れる。
 さっきの祖父の表情が、頭に浮かんできたからだ。
 とても真剣なまなざしで、レティシアを見ていた。
 そして、言ったのだ。
 
 『レティシア、愛している』
 
 ぶわわわっと、首まで真っ赤になる。
 レティシアには見えないが、そこにある熱さでわかった。
 照れるどころか、また、じたじたしたくなる。
 
 照れたり、心配になったり、じたじたしたりと、レティシアの心は忙しい。
 
 夢ではないが、まさに夢見心地。
 ついつい、ぽや~となってしまう。
 そこに、扉の叩かれる音がした。
 その音で、ハッと正気に戻る。
 
「あ、ど、どうぞ」
 
 食事の準備ができたら呼びに来る、と、祖父は言っていた。
 少し早い気もしたが、祖父が戻ってきたのかもしれない。
 レティシアは、ガチガチに緊張している。
 
「レティシア様、お加減はいかがでしょうか?」
 
 入ってきたのは、サリーだった。
 全身から、緊張がほどける。
 まだ、まともに祖父の顔が見られる気がしない。
 
(あ……お祖父さまが、すぐに部屋を出てったのって……)
 
 ジークの言っていた通り「照れて」いたからだと、納得した。
 あの祖父が照れるなんて、と思いはするけれども。
 
「大公様が、マルクに食事の準備をするように仰っておられましたが」
「あ……うん……」
「なにか、おありでしたか……?」
 
 ありました。
 心で、照れながら、うなずく。
 
 サリーは、悪い事が起きたのではと、心配しているようだが、むしろ、起こったのは、良い事だ。
 
「えっと……あの……お、お祖父さまがね……」
「はい……」
「お、お祖父さまじゃなくなったんだよ!」
「………はい?」
 
 どう説明すればいいのか、わからない。
 おそらくだが、ジークは、ジークの存在を隠している。
 どこまで血について話していいのか、判断しかねた。
 そこは、祖父と相談して決めるべきことだろう。
 とはいえ、今の説明では、サリーが「はい?」となるのも、わかる。
 
「……グレイと、サリーっぽくなった、って感じ……」
「グレイと私、ですか?」
「うん……と、特別な……その……」
 
 幸い、サリーは、それで察してくれたらしい。
 パッと、表情を明るくする。
 
「それは、喜ばしいことにございますね」
 
 はは…と、レティシアは曖昧に笑った。
 明るく振る舞っていたつもりでも、落ち込んでいるのはバレバレだっただろう。
 きっと心配してくれていたに違いない。
 
「さきほど、大公様とユージーンが剣の鍛錬をしていたのですけれど……そういうことでしたか」
「なに?」
 
 サリーが、フフと笑った。
 レティシアは、きょとんと首をかしげる。
 
「大公様、少々、動揺しておられたのか、ユージーンに押されていましたよ」
「えっ?! お祖父さまがっ?!」
 
 ちょっと信じられない。
 魔術なしでも、祖父は強いのだ。
 ユージーンだって強いが、祖父の相手になるとは思えなかった。
 
「ん? 動揺?」
「レティシア様をユージーンに取られると、焦っておられたのでは?」
「ぇえ~……そんなことあるかなぁ……」
「大公様にも、弱みがおありだということでしょう」
 
 ふわわわん…と、レティシアの気持ちが浮き立つ。
 
「レティシア様、お戻りください」
「あ……」
 
 サリーまで、秒でカウンターを入れてくるようになった。
 が、2人で顔を見合わせ、笑う。
 
「ところで、レティシア様。大公様を、どうお呼びになられるのですか? もう、お祖父さま、とは、お呼びになれないでしょう? 愛称ですか?」
「ぅえっ?!」
 
 そうだった、と思い出す。
 もう祖父ではなくなっているが、祖父の声が蘇ってきた。
 
 『きみが、私を名で呼べるようになったら、私のところに嫁いでおいで』
 
 これはなんとも。
 レティシアは、真っ赤になった顔を両手で押さえた。
 
(お祖父さま……それ、めちゃくちゃハードル高いんデスけど……)
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...