伯爵様のひつじ。

たつみ

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後編

感謝に我儘に 3

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(ミナイ、あんた、今、どこにいんの?)
 
 相変わらず、返事が遅い。
 そのことに、ジーヴァはイラっとする。
 ミナイが聞こえていないフリをしているからだ。
 居場所の特定は無理でも、呼びかけが伝わらないわけがない。
 
(ちょっと、ミナイ! 返事しなさいよ!)
 
 ミナイは、ジーヴァより若い「葉」だった。
 ほかの「葉」たちは、年上のジーヴァに素直に応じる。
 なのに、ミナイだけは違った。
 なぜか、とても「頑固」なのだ。
 
(ミナイ! 聞こえてるんでしょうが!)
(……うるさいよ、ジーヴァ。なに?)
(どこにいるのかって訊いてんの!)
 
 ようやく返事をしたミナイに食ってかかる。
 どうせ返事をしたのだって「枝」を意識してのことに違いない。
 ジーヴァの相手をする気になったからではないのだ。
 
(僕がどこにいるか、ジーヴァに関係ある?)
(知りたいから訊いてるって言ったはずだけど?)
 
 毎回このやりとりをするのも煩わしかった。
 いちいち関係の有る無しを訊いてくる意味もわからない。
 
 問いに対して答えを返す。
 
 たったそれだけのことに、反抗的な態度を取る必要があるだろうか。
 ジーヴァも、ほかの「葉」に呼びかけられることはある。
 その際、無意味だとわかっていても会話する。
 関係の有る無し、無意味か否かなど考えたことがない。
 
(……ディエゴのところ)
(また男爵領に戻ったってこと?)
(そうだよ)
(ノビリスは?)
(ナッシュがいるから)
 
 ナッシュは、ミナイと同じ茶色髪の「枝」だ。
 ただし、目の色はミナイが緑なのに対し、ナッシュは黒い目をしている。
 これは「枝」と「葉」の違いでもあった。
 髪はともかく「枝」と同じ色の瞳を持つ「葉」はいない。
 
 ジーヴァは、人で言えば20歳くらいの赤髪の女性の姿が気に入っている。
 オレンジ色の瞳の色も悪くなかった。
 それでも時々は、黒であったなら、と思わなくもない。
 自分に命を与えた闇の色に心惹かれる。
 
 けれど、その色がジーヴァに与えられることはないのだ。
 
(じゃあ、向こうで会えるかな?)
(さぁね。僕じゃなくてナッシュに訊けば?)
 
 またイラッとする。
 この会話は「枝」に筒抜け。
 口を挟むつもりがあれば、すでにナッシュが割り込んでいる。
 応える気がないからナッシュは黙っているのだ。
 
 それはミナイにもわかっているだろう。
 要するに、ミナイはジーヴァとの「些細な」会話を拒絶しているということ。
 
(私がなにしにノビリスに行ってるか気にならないわけ?)
(ならないよ。僕には関係ないだろ)
(本っ当に可愛くないわね、あんた)
(……ジーヴァ、暇なの?)
(暇じゃないわよ! でも、退屈だから、あんたに声かけたの!)
(僕は暇でも退屈でもないから、邪魔しないでくれる?)
 
 邪魔という言葉に、ぴくっと反応する。
 また「枝」に叱られるのは嫌だった。
 悔しいが、退くしかない。
 
(あっそう。じゃあ、しばらく話しかけてあげないし、あんたからも話しかけてこないでよね)
(ないから)
 
 イラっとしながらも、ジーヴァはミナイから遠ざかる。
 まともに会話をしようとしないミナイの気持ちが、ジーヴァには理解できない。
 1度くらい「普通」に会話をしてもいいのにと思うと、悔しかった。
 そのせいで、何度もミナイにちょっかいを出してしまうのだ。
 
 大きく息を吸い込み、吐き出す。
 夜の海は澄んだ空気に満ちていた。
 ジーヴァは、船の上にいる。
 甲板に立ち、空を見上げた。
 
 強弱のある光の点が溢れている。
 ひときわ輝く星を見て微笑んだ。
 
 あれは、ファニーを示す星。
 
 そう思うと、周りに散る星々が自分たちのように感じられる。
 闇から生じたにもかかわらず、闇に負けない光が愛おしかった。
 同時に、伯爵との繋がりが強くなった気もする。
 きっと伯爵のファニーに対する感情に共感しているからだ。
 
(ジーヴァ、ノビリスでの仕事を手早く終わらせたまえ)
 
 不意に呼びかけられ、ジーヴァは星空からリセリアのほうへと視線を移動させた。
 大陸は、もうすぐそこに見えている。
 
(その気取った喋りかた、どうにかならない?)
(ならないさ。私には私の役割があるのでね。きみにも役割があるように)
(まぁ、いいけど。ノビリスの仕事は、ちゃちゃっと終わらせて帰るわ)
(説明いらずで助かるよ。そういう意味で、私は、きみを高く評価している)
 
 ジーヴァは、見えないのをいいことに、思いきり顔をしかめた。
 伯爵とファニー以外の「高評価」なんて意味はない。
 とはいえ「普通」に会話できるだけ、ミナイと話すより気分は良かった。
 
(いい退屈しのぎになりそうってだけで、あんたの機嫌を取るつもりはないわよ、ファウスト)
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