28 / 159
冷えていく心
「今日は突然だったのにありがとうございます」
話の切り出し方が思いつかず、まずはお礼を述べる。
「こちらこそ。早くお話ししたかったんですが、色々と確認しながらお話ししたほうがいいのでこうしてお会いできてよかったと思っています」
笑顔で答えてくれたが、すぐに表情を引き締め言葉を続ける。
「単刀直入に言いますね。
今からお話しすることは光流さんをとても傷つける事になります。それでも安形と話をして知らせないことの方が問題だと思い今日のこの場を設けました。
安形も私も婚約者の方には嫌悪感しかないのでお兄様に同席してもらい、その処遇を決めていただければと思ったのですが…お兄様に同席をお願いするのはやはり抵抗がありますか?」
安形さんの気遣いに気持ちが揺れるも僕の決心は変わらなかった。
「大丈夫です。
お願いします」
僕の言葉に安形さんはそれでは、と話を始めた。
「これから話すことは〈常識〉ではありません。ただ真実ではあります。〈都市伝説〉だなんて言う人もいますが、Ωだけにしか感じることができないためそう言われているのだと思います。
勿体ぶった言い方になってしまうのではっきり言いますね。
光流さんが感じた柑橘系の香りはΩの挑発フェロモンだと思います」
「挑発フェロモンですか?」
聞いたことのない言葉だった。αの威嚇フェロモンは一般的に知られているが、Ωのフェロモンで挑発ができるなんて聞いたことがない。
「知らなくて当然です。全てのΩが使えるわけではないですし、もちろん私も使えません。そして、それが使えたとしても普通は使いません。
例えばですよ、光流さんはヒートの時に交わった相手を〈自分のもの〉だとアピールしたいですか?」
無言で首を横に振る僕を見て安形さんは話を続ける。
「それが普通の感覚ですよね。
αとΩじゃなくても一般的にそういった行為を人に知られるのは恥ずかしいですし、それをアピールするのははしたない事だと思うのが普通です。
それが大前提です」
僕の様子を見ながら話を進めていく。なんとなく予感はしていたが、やはりそちらの方向に話がいくのかと気持ちが沈んでいく。
これは学校でも習ったと思うのですが、とαとΩについての説明が続く。
Ωのヒートの周期や期間。
αのラットの話。
そして番う事によりフェロモンを感じなくなる事。
父と母もそうだが安形夫婦からもフェロモンを感じないのはパートナーなだけでなく番っているからだ。
「ここまでが一般的に知られている事です。
そしてここからが本題です。
もしも話の途中で聞きたくないと思ったり、気分が悪くようならすぐに言ってください。向井さんも安形もすぐにこちらに来ることができるよう待機してくれていますから」
安形さんの最終通告。今ならまだ引き返すことはできる。兄を呼ぶ事も可能だ。それでも僕は安形さんの次の言葉を待った。
「自発的にヒートを起こすことのできるΩが存在するのはご存知ですか?」
その言葉に衝撃を受ける。
「誘発剤を使うのではなくて?」
「そうです。自分の意思でヒートを起こすことができるんです。そして、挑発フェロモンを発することができます」
感情のこもらない声だった。続きを聞くなと頭の中で警鐘が鳴り響くが、僕は先を促す。
「自発的に起こしたヒートの時に交わったαからはΩの挑発フェロモンが香るようになります。そして、それが続くのは1日だけだと言われています」
心が冷えていく。
「そもそも、Ωの挑発フェロモンが知られていないのは抑制剤の存在があるからです。αもΩも自分の身を守るために抑制剤を持ち歩くことは常識です。なので自発的にヒートを起こしたところで相手が抑制剤を飲んでしまえば意味がないんです。
ヒートも光流さんのように睡眠欲が増すのは特別で、私を含め多くのΩは性欲を満たすためにパートナーに付き合ってもらうのが一般的ですが、正直心身ともに消耗します。
αとΩのであってもヒートの時以外にもスキンシップを求める事も可能ですが挑発フェロモンを発することはありません。
それなのに挑発フェロモンが香ると言うことは抑制剤を飲む事なくヒートを受け入れた事になるんです」
安形さんの言葉が胸に刺さる。
自発的に起こしたヒートで交わることでしか香ることのない挑発フェロモン。
1日しか香るはずのないそれを、僕は何度感じたのだろう。
「ただ、挑発フェロモンはΩ同士でしか感じることができないので纏っている本人は気づいていないはずです」
気遣うようにつづけられた言葉だが、僕はそこに救いを求めることができなかった。
話の切り出し方が思いつかず、まずはお礼を述べる。
「こちらこそ。早くお話ししたかったんですが、色々と確認しながらお話ししたほうがいいのでこうしてお会いできてよかったと思っています」
笑顔で答えてくれたが、すぐに表情を引き締め言葉を続ける。
「単刀直入に言いますね。
今からお話しすることは光流さんをとても傷つける事になります。それでも安形と話をして知らせないことの方が問題だと思い今日のこの場を設けました。
安形も私も婚約者の方には嫌悪感しかないのでお兄様に同席してもらい、その処遇を決めていただければと思ったのですが…お兄様に同席をお願いするのはやはり抵抗がありますか?」
安形さんの気遣いに気持ちが揺れるも僕の決心は変わらなかった。
「大丈夫です。
お願いします」
僕の言葉に安形さんはそれでは、と話を始めた。
「これから話すことは〈常識〉ではありません。ただ真実ではあります。〈都市伝説〉だなんて言う人もいますが、Ωだけにしか感じることができないためそう言われているのだと思います。
勿体ぶった言い方になってしまうのではっきり言いますね。
光流さんが感じた柑橘系の香りはΩの挑発フェロモンだと思います」
「挑発フェロモンですか?」
聞いたことのない言葉だった。αの威嚇フェロモンは一般的に知られているが、Ωのフェロモンで挑発ができるなんて聞いたことがない。
「知らなくて当然です。全てのΩが使えるわけではないですし、もちろん私も使えません。そして、それが使えたとしても普通は使いません。
例えばですよ、光流さんはヒートの時に交わった相手を〈自分のもの〉だとアピールしたいですか?」
無言で首を横に振る僕を見て安形さんは話を続ける。
「それが普通の感覚ですよね。
αとΩじゃなくても一般的にそういった行為を人に知られるのは恥ずかしいですし、それをアピールするのははしたない事だと思うのが普通です。
それが大前提です」
僕の様子を見ながら話を進めていく。なんとなく予感はしていたが、やはりそちらの方向に話がいくのかと気持ちが沈んでいく。
これは学校でも習ったと思うのですが、とαとΩについての説明が続く。
Ωのヒートの周期や期間。
αのラットの話。
そして番う事によりフェロモンを感じなくなる事。
父と母もそうだが安形夫婦からもフェロモンを感じないのはパートナーなだけでなく番っているからだ。
「ここまでが一般的に知られている事です。
そしてここからが本題です。
もしも話の途中で聞きたくないと思ったり、気分が悪くようならすぐに言ってください。向井さんも安形もすぐにこちらに来ることができるよう待機してくれていますから」
安形さんの最終通告。今ならまだ引き返すことはできる。兄を呼ぶ事も可能だ。それでも僕は安形さんの次の言葉を待った。
「自発的にヒートを起こすことのできるΩが存在するのはご存知ですか?」
その言葉に衝撃を受ける。
「誘発剤を使うのではなくて?」
「そうです。自分の意思でヒートを起こすことができるんです。そして、挑発フェロモンを発することができます」
感情のこもらない声だった。続きを聞くなと頭の中で警鐘が鳴り響くが、僕は先を促す。
「自発的に起こしたヒートの時に交わったαからはΩの挑発フェロモンが香るようになります。そして、それが続くのは1日だけだと言われています」
心が冷えていく。
「そもそも、Ωの挑発フェロモンが知られていないのは抑制剤の存在があるからです。αもΩも自分の身を守るために抑制剤を持ち歩くことは常識です。なので自発的にヒートを起こしたところで相手が抑制剤を飲んでしまえば意味がないんです。
ヒートも光流さんのように睡眠欲が増すのは特別で、私を含め多くのΩは性欲を満たすためにパートナーに付き合ってもらうのが一般的ですが、正直心身ともに消耗します。
αとΩのであってもヒートの時以外にもスキンシップを求める事も可能ですが挑発フェロモンを発することはありません。
それなのに挑発フェロモンが香ると言うことは抑制剤を飲む事なくヒートを受け入れた事になるんです」
安形さんの言葉が胸に刺さる。
自発的に起こしたヒートで交わることでしか香ることのない挑発フェロモン。
1日しか香るはずのないそれを、僕は何度感じたのだろう。
「ただ、挑発フェロモンはΩ同士でしか感じることができないので纏っている本人は気づいていないはずです」
気遣うようにつづけられた言葉だが、僕はそこに救いを求めることができなかった。
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。