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心のデトックス
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「何があったかは少しだけ静流君が教えてくれたよ。
よく頑張ったね」
頑張ったね、と言われても嬉しくはないけれど否定の言葉ではないだけマシだ。
「光流君は自分を抑えてしまうから気持ちの反動が身体に現れる傾向にあるのかな。
今までは上手に発散できてたみたいだけど、きっと君の許容範囲を超えてしまったんだね」
そう言うとまた〈頑張ったね〉と言われた。
いくら頑張ったねと言われても、頑張ってもこんな結末しか待ってないのなら頑張る必要なかったのにとネガティブな考えに引き摺られてしまう。
悔しくて、悲しくて、色々と思い出してしまい無意識のうちに涙がこぼれ落ちる。
嗚咽でも慟哭でもなく、ただただ涙がこぼれ落ちるだけ。
「泣くのは心のデトックスになるから良いんだよ」
先生の呑気な言葉に答える気力もない。
こんな時こそ眠ってしまえればいいのに今日は眠気を感じることもない。
「光流君の症例の研究を本格的に始めました。色々と言われることもあるだろうけど何を言われても大丈夫なようにするから安心してください」
返事をしていないのに先生は1人で話し続ける。
「今回のことは学校にも報告して、リハビリを含めて少し長めにお休みを認めてもらえるようにするつもりです。他にも色々と考えていることはあるんだけど、それは光流君が落ち着いたら改めて話をしようね。
今はまず、身体を元気にしよう」
先生は僕にとって心地の良い言葉ばかりをくれる。それでも僕は何も返せず涙だけがこぼれ落ちる。
どのくらいの時間が過ぎたのか、ドアがノックされ返事をする前に開けられる。
「光流」
優しい声色と白檀の香りに静流君が来たことに気付く。〈ちょっと待ってなね〉そう言って手を洗ってから僕のそばに来た兄は少し痩せたような気がした。
「静流君、痩せた?」
僕の言葉にため息をつくと隣に座る。
「弟が心配ばかりかけるから兄ちゃんは色々と頑張りました。ほら、そんなに泣かないの」
言いながら涙を拭いてくれる。
それでも流れ続ける涙を見て困ったように笑うが、無意識に流れるのだから仕方がない。静流君は僕にハンカチを渡すと言葉を続ける。
「兄ちゃんが凄い頑張ったのになかなか起きてくれないから心配し過ぎてこの有様。どう責任取らせようかずっと考えてたけど…起きてくれたならそれでいいや」
そう言って優しく笑ってくれた。
「先生、光流の状態は?」
静流君の好きな仕草、僕の頭をクシャクシャとかき混ぜるようにしながら先生に問いかける。
「ずっと眠ってたから筋力が落ちているけれど身体は問題ない。でも消化器官も使ってなかったから食事は軽いものから徐々に戻さないとね。そこは向井さんにお願いすれば問題ないけど問題はリハビリかな?体力がちゃんと戻るまでにひと月。3日位かけて少し戻したら退院かな?」
その言葉に3日も?と不満を漏らすが先生にそこは譲れないと言われてしまう。
「光流君は今はまだとても不安定な状態です。ナースから聞いたと思うけど、目覚めてすぐに衝動的な行動で腕に傷ができてます。自傷行為も無いとは言い切れない。必要ならば安定剤の処方も考えてます。
静流君が光流君のサポートをすると言うから3日間の猶予を設けました。静流君も時間の許す限り付き添って、その間に必要な話をして、その上で帰ってからの光流君を支えてほしいと思ってるんだけど…無理かな?」
そう言うと寝心地は悪いけど希望するなら補助ベッドを入れて泊まることも可能だと付け加えた。
静流君がその提案を断る訳がなく…テスト前の忙しい時期だけど大丈夫かと心配する僕に〈光流の方が大切だから。って言うか、これくらいでジタバタするような勉強の仕方はしてない〉と鼻で笑われてしまった。
兄ちゃん、弟に甘過ぎます…。
よく頑張ったね」
頑張ったね、と言われても嬉しくはないけれど否定の言葉ではないだけマシだ。
「光流君は自分を抑えてしまうから気持ちの反動が身体に現れる傾向にあるのかな。
今までは上手に発散できてたみたいだけど、きっと君の許容範囲を超えてしまったんだね」
そう言うとまた〈頑張ったね〉と言われた。
いくら頑張ったねと言われても、頑張ってもこんな結末しか待ってないのなら頑張る必要なかったのにとネガティブな考えに引き摺られてしまう。
悔しくて、悲しくて、色々と思い出してしまい無意識のうちに涙がこぼれ落ちる。
嗚咽でも慟哭でもなく、ただただ涙がこぼれ落ちるだけ。
「泣くのは心のデトックスになるから良いんだよ」
先生の呑気な言葉に答える気力もない。
こんな時こそ眠ってしまえればいいのに今日は眠気を感じることもない。
「光流君の症例の研究を本格的に始めました。色々と言われることもあるだろうけど何を言われても大丈夫なようにするから安心してください」
返事をしていないのに先生は1人で話し続ける。
「今回のことは学校にも報告して、リハビリを含めて少し長めにお休みを認めてもらえるようにするつもりです。他にも色々と考えていることはあるんだけど、それは光流君が落ち着いたら改めて話をしようね。
今はまず、身体を元気にしよう」
先生は僕にとって心地の良い言葉ばかりをくれる。それでも僕は何も返せず涙だけがこぼれ落ちる。
どのくらいの時間が過ぎたのか、ドアがノックされ返事をする前に開けられる。
「光流」
優しい声色と白檀の香りに静流君が来たことに気付く。〈ちょっと待ってなね〉そう言って手を洗ってから僕のそばに来た兄は少し痩せたような気がした。
「静流君、痩せた?」
僕の言葉にため息をつくと隣に座る。
「弟が心配ばかりかけるから兄ちゃんは色々と頑張りました。ほら、そんなに泣かないの」
言いながら涙を拭いてくれる。
それでも流れ続ける涙を見て困ったように笑うが、無意識に流れるのだから仕方がない。静流君は僕にハンカチを渡すと言葉を続ける。
「兄ちゃんが凄い頑張ったのになかなか起きてくれないから心配し過ぎてこの有様。どう責任取らせようかずっと考えてたけど…起きてくれたならそれでいいや」
そう言って優しく笑ってくれた。
「先生、光流の状態は?」
静流君の好きな仕草、僕の頭をクシャクシャとかき混ぜるようにしながら先生に問いかける。
「ずっと眠ってたから筋力が落ちているけれど身体は問題ない。でも消化器官も使ってなかったから食事は軽いものから徐々に戻さないとね。そこは向井さんにお願いすれば問題ないけど問題はリハビリかな?体力がちゃんと戻るまでにひと月。3日位かけて少し戻したら退院かな?」
その言葉に3日も?と不満を漏らすが先生にそこは譲れないと言われてしまう。
「光流君は今はまだとても不安定な状態です。ナースから聞いたと思うけど、目覚めてすぐに衝動的な行動で腕に傷ができてます。自傷行為も無いとは言い切れない。必要ならば安定剤の処方も考えてます。
静流君が光流君のサポートをすると言うから3日間の猶予を設けました。静流君も時間の許す限り付き添って、その間に必要な話をして、その上で帰ってからの光流君を支えてほしいと思ってるんだけど…無理かな?」
そう言うと寝心地は悪いけど希望するなら補助ベッドを入れて泊まることも可能だと付け加えた。
静流君がその提案を断る訳がなく…テスト前の忙しい時期だけど大丈夫かと心配する僕に〈光流の方が大切だから。って言うか、これくらいでジタバタするような勉強の仕方はしてない〉と鼻で笑われてしまった。
兄ちゃん、弟に甘過ぎます…。
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