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可愛い人 2〈安形side〉
紬青年は光流さんの持つトートバッグに気付き話しかけたようだが、賢志さんが直ぐにそばに行ったため安心だ。
様子を伺いつつストールを見せてもらう。
正直な感想として〈素敵だ〉の一言しか出なかった。基本的に一色で染めてあるのだが、中にはグラデーションになっているものもある。淡い色もあればしっかりと色付いた物もあり見ているだけで楽しいが、手に取って見るとガーゼの柔らかさが手に優しい。
光流さんの持つトートバッグもそうだが少しくすんだ色使いが落ち着きを感じさせる。
隣でストールを見ている永井さんも夢中になっているのが伝わってくる。
紬青年はと言えば…何やら賢志さんと話し出したようで、光流さんが慌てたようにこちらに来るのを感じる。何かあったのかと心配になったが、話をしている感じは穏やかだし、光流さんも嬉しそうにストールを手に取っている。
心配は無さそうだ。
ストールを手にする光流さんは本当に嬉しそうで、その様子を見るとこちらまで嬉しくなってしまう。自分のパートナー用のストールとトートバッグに目星を付けた私は話しかけはしないものの、光流さんの様子を伺うために神経を集中させる。もちろんストールを選んでいる振りは続けたまま。
「海松色?」
その時、紬青年が光流さんに声をかけた。
光流さんは何を言われたのかわからなかったのだろうあ。驚いている様子だ。
「みるいろ。山桃の幹で染めるとそうなるんだ。基本、草木染めだからくすんだ色が多い」
そう言いながらいくつかのストールを手にしたようで、話を続ける。
「染め上げてすぐと乾いてからだと違う色もあるし。基本、色が薄くなると思った方がいい。海松色はその中でも褪色しにくいかな?これなんかは乾いてからまた染め直してる」
紬青年はやはり光流さんに興味を持ったらしい。何かきっかけを探していたのだろう。光流さんが興味を持った事に気付くと話を続けていく。
「楓色?」
赤色のストールだったのだろうか、光流さんが思わずと言った様子で聞く。きっと色から楓さんを連想したのだろう。目の前にあるストールから連想すると紅葉した楓のような色なのだろうか?そうだとすると華やかな楓さんを表すに相応しい色。
「残念。これは茜染。
根から染めるんだ。
楓で染めると萱色と言って、赤みがかったくすんだ黄色かな?」
光流さんは熱心に話を聞いている。
不思議な事に、αとΩがこんなに近距離で接しているのに2人ともお互いのバースには気付いていないようなのだ。そんなことがあるのか?!と不思議に思うけれど、考えた結果2つのの可能性に辿り着く。
ひとつはすでに番がいるためΩの匂いを感じる事はない。
もうひとつは光流さんと同様、抑制剤を服用している。
前者であれば光流さんには切ない結果になってしまうだろう。もしそうであれば私自身も切なくなってしまう。
後者であれば彼にも何か事情があるのだろう。何かあるとすれば調べさせてもらわなければならない事態となるかもしれない。
「フィールドワークって、何してるんですか?」
2人の話は続いている。光流さんがこんなに話すのは本当に珍しい。賢志さんもすぐ近くまで来ているものの様子を見ているようだ。こちらも意識だけ光流さんの方に向けてストールを見ている振りを続ける。
「山で木を切るって言えばその木をもらいに行ったり、染色工房で働かせてもらったり。
山に入る時もあるけど染料にするほどの量は勝手に持ってきたら犯罪だからね。
気になった時は山の持ち主調べる時もあるよ」
何か面白い話をしている。こんな時でなければ私も話を聞きたいと思ってしまった。話をする声色やトーンだけで判断するならなかなかの好青年である。
「明日からは?」
「染織工房。今回は糸から」
紬青年の言葉が理解できなかった…。と思ったのは光流さんも同じだったらしい。何かを取り出す気配がする。どうやら〈漢字〉を書いて説明するつもりらしい。
「こっちは布を染める方ね。ボクが学祭に出したのはこっち。既成のものを染めるのもこっちの染色。
で、こっちは糸から染める事を指すんだけど〈しょく〉が違うでしょ?
耳で聞くだけだとわかりにくいけどね」
どうやら〈しょく〉の漢字が違うらしい。機会があったら光流さんに教えてもらうのもいいかもしれない、色々と…。
「じゃあ明日からは糸を?」
「そう。
ただ、糸だと自分で加工できないからね。とりあえずは体験が目的」
2人の話が弾むのを聞いていると微笑ましい気持ちになってしまう。どちらも相手の話を聞くという行動をとても大切にしているように見えるせいだろうか。
「興味ある?」
「ですね。
僕はどちらかと言うと肌触り重視ですけど色も肌触りも好みにできたら良いですよね」
微笑ましく思っていたのも束の間、紬青年の雰囲気が少し変化した。フェロモン?
この短時間で何かあったのだろうか?
話を聞いていただけでは分からない何かがあったとしても、後方には賢志さんもいる。
賢志さんが何も動かないと言うことは光流さんには何も変化がないのだろう。
紬青年が何かをする気配は感じる。
「これ、ボクの連絡先。
今日は時間ないけどよかったらまた話がしたい。気が向いたらで良いから」
そう光流さんに告げるとこちらに来る気配がした。急いであちらから意識を離し、ストールに集中していた風を装う。
しばらくして光流さんと賢志さんもこちらに来ると、譲ってもらう作品の交渉を始めるつもりが〈学祭の時と同じでいいよ〉との一言であっさりと話が終わってしまった。
安過ぎないかと永井さんが心配するが〈むしろこっちがお礼を言いたい〉と言い出す始末だ。これは…もしかしたらもしかするかも?!と期待が膨らんでしまう。
「またね」
光流さんにだけそう言ったのを楽しそうに見ていたのは賢志さんも同じだったようだ。
様子を伺いつつストールを見せてもらう。
正直な感想として〈素敵だ〉の一言しか出なかった。基本的に一色で染めてあるのだが、中にはグラデーションになっているものもある。淡い色もあればしっかりと色付いた物もあり見ているだけで楽しいが、手に取って見るとガーゼの柔らかさが手に優しい。
光流さんの持つトートバッグもそうだが少しくすんだ色使いが落ち着きを感じさせる。
隣でストールを見ている永井さんも夢中になっているのが伝わってくる。
紬青年はと言えば…何やら賢志さんと話し出したようで、光流さんが慌てたようにこちらに来るのを感じる。何かあったのかと心配になったが、話をしている感じは穏やかだし、光流さんも嬉しそうにストールを手に取っている。
心配は無さそうだ。
ストールを手にする光流さんは本当に嬉しそうで、その様子を見るとこちらまで嬉しくなってしまう。自分のパートナー用のストールとトートバッグに目星を付けた私は話しかけはしないものの、光流さんの様子を伺うために神経を集中させる。もちろんストールを選んでいる振りは続けたまま。
「海松色?」
その時、紬青年が光流さんに声をかけた。
光流さんは何を言われたのかわからなかったのだろうあ。驚いている様子だ。
「みるいろ。山桃の幹で染めるとそうなるんだ。基本、草木染めだからくすんだ色が多い」
そう言いながらいくつかのストールを手にしたようで、話を続ける。
「染め上げてすぐと乾いてからだと違う色もあるし。基本、色が薄くなると思った方がいい。海松色はその中でも褪色しにくいかな?これなんかは乾いてからまた染め直してる」
紬青年はやはり光流さんに興味を持ったらしい。何かきっかけを探していたのだろう。光流さんが興味を持った事に気付くと話を続けていく。
「楓色?」
赤色のストールだったのだろうか、光流さんが思わずと言った様子で聞く。きっと色から楓さんを連想したのだろう。目の前にあるストールから連想すると紅葉した楓のような色なのだろうか?そうだとすると華やかな楓さんを表すに相応しい色。
「残念。これは茜染。
根から染めるんだ。
楓で染めると萱色と言って、赤みがかったくすんだ黄色かな?」
光流さんは熱心に話を聞いている。
不思議な事に、αとΩがこんなに近距離で接しているのに2人ともお互いのバースには気付いていないようなのだ。そんなことがあるのか?!と不思議に思うけれど、考えた結果2つのの可能性に辿り着く。
ひとつはすでに番がいるためΩの匂いを感じる事はない。
もうひとつは光流さんと同様、抑制剤を服用している。
前者であれば光流さんには切ない結果になってしまうだろう。もしそうであれば私自身も切なくなってしまう。
後者であれば彼にも何か事情があるのだろう。何かあるとすれば調べさせてもらわなければならない事態となるかもしれない。
「フィールドワークって、何してるんですか?」
2人の話は続いている。光流さんがこんなに話すのは本当に珍しい。賢志さんもすぐ近くまで来ているものの様子を見ているようだ。こちらも意識だけ光流さんの方に向けてストールを見ている振りを続ける。
「山で木を切るって言えばその木をもらいに行ったり、染色工房で働かせてもらったり。
山に入る時もあるけど染料にするほどの量は勝手に持ってきたら犯罪だからね。
気になった時は山の持ち主調べる時もあるよ」
何か面白い話をしている。こんな時でなければ私も話を聞きたいと思ってしまった。話をする声色やトーンだけで判断するならなかなかの好青年である。
「明日からは?」
「染織工房。今回は糸から」
紬青年の言葉が理解できなかった…。と思ったのは光流さんも同じだったらしい。何かを取り出す気配がする。どうやら〈漢字〉を書いて説明するつもりらしい。
「こっちは布を染める方ね。ボクが学祭に出したのはこっち。既成のものを染めるのもこっちの染色。
で、こっちは糸から染める事を指すんだけど〈しょく〉が違うでしょ?
耳で聞くだけだとわかりにくいけどね」
どうやら〈しょく〉の漢字が違うらしい。機会があったら光流さんに教えてもらうのもいいかもしれない、色々と…。
「じゃあ明日からは糸を?」
「そう。
ただ、糸だと自分で加工できないからね。とりあえずは体験が目的」
2人の話が弾むのを聞いていると微笑ましい気持ちになってしまう。どちらも相手の話を聞くという行動をとても大切にしているように見えるせいだろうか。
「興味ある?」
「ですね。
僕はどちらかと言うと肌触り重視ですけど色も肌触りも好みにできたら良いですよね」
微笑ましく思っていたのも束の間、紬青年の雰囲気が少し変化した。フェロモン?
この短時間で何かあったのだろうか?
話を聞いていただけでは分からない何かがあったとしても、後方には賢志さんもいる。
賢志さんが何も動かないと言うことは光流さんには何も変化がないのだろう。
紬青年が何かをする気配は感じる。
「これ、ボクの連絡先。
今日は時間ないけどよかったらまた話がしたい。気が向いたらで良いから」
そう光流さんに告げるとこちらに来る気配がした。急いであちらから意識を離し、ストールに集中していた風を装う。
しばらくして光流さんと賢志さんもこちらに来ると、譲ってもらう作品の交渉を始めるつもりが〈学祭の時と同じでいいよ〉との一言であっさりと話が終わってしまった。
安過ぎないかと永井さんが心配するが〈むしろこっちがお礼を言いたい〉と言い出す始末だ。これは…もしかしたらもしかするかも?!と期待が膨らんでしまう。
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