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大輝 2
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「諦め悪いよね」
振動し続けるスマホは貴哉に対する執着なのか、自分に従わない紗凪に対する怒りなのかは分からないけれど、紗羅の執念深さを感じる。
だけど、紗凪に対するオレの執着だってきっと負けてない。
「紗凪が出ると思ってるのかな」
自分の想いを成就させるために人の力を使うのは悪くないけれど、選ぶ相手を間違えたのだと紗羅はいつ気付くのだろう。
そして、自分こそが利用されたのだといつ気付くのだろう。
「自分たちが突き放したのに、それなのに今更縋るとか、あの人もそうだけど、紗凪には何しても大丈夫だって、思いすぎなんじゃない?」
自分が下に見ていた相手が誰かの大切な相手だったなんて、そんなことは考えもしないだろう。
自分を虐げていた相手のせいで自分が窮地に追い込まれることになるなんて、そんなことに気付きもしないだろう。
傷付いた紗凪を癒す様に、言葉の合間合間で唇を落とし続ける。
「大丈夫って?」
オレの言葉に訝しげな顔を見せる紗凪に、言い聞かせる様に言葉を重ねていく。
「紗凪なら何言っても大丈夫って。
紗凪なら何やっても大丈夫って。
だから紗凪があの人と付き合ってたって知ってたのに、奪うために連絡してくるんだよ。
お腹の子のことを言えば紗凪が逆らわないって思ってたんじゃない?」
「やっぱりそうなのかな、」
「お母さんだって、紗凪の口から聞きたかったなんて言ってたけど、そんなふうには思えなかったよな。
オレには、紗凪に認めさせるために問いつめているようにしか思えなかった」
紗羅の思いはきっと想像通りだろう。
自分から貴哉を捨てたくせに紗凪が貴哉を奪ったのだと脳内変換し、逆恨みし、奪い返そうとしただけ。
紗羅が貴哉のことを欲しいと言えば紗凪が諦めると、紗凪に諦めさせることができると思っていたのだろう。
貴哉を呼び出すでもなく、紗凪を呼び出すでもなく、直接部屋に行ってふたりの前で妊娠を告げて紗凪を追い出すつもりだったのがしれない。
選ばれた自分をみせつけ、選ばれなかったことを自覚させる。
何でそこまで紗凪を憎むのか理解できないけれど、紗羅にとって紗凪は【弟】ではなくて憎しみの対象でしかなかったのだろう。
母はもしかしたら紗凪の口から貴哉との関係を聞き、理解しようとしたのかもしれない。紗凪の気持ちを聞き出し、紗羅との仲を取り持とうとしたのかもしれない。だけど、結局は紗羅に寄り添う言葉を繰り返したせいで紗凪が諦めてしまった。
母が紗羅と紗凪の関係を理解していればこんなことにならなかったのかもしれない。だけど、他の兄弟姉妹と比べて関係性が浅いことにすら気付いていなかったのだろう。
関係性の薄い姉弟を理解しないままその仲を取り持とうとしてもうまく行くわけがない。
紗凪と紗羅の関係も、紗凪と母の関係も、紗羅と母の関係も少しずつ歪だったのだろう。
だから、オレの送った写真が効果的だったのだろうと目の当たりにした家族関係に照らし合わせてほくそ笑む。
もしも【家族】の関係がうまくいっていれば『こんな写真が送られてきたんだけど、なんでだと思う』と相談することもできただろう。
母に相談できず、夫に相談できず、紗凪を問いただすこともできずに少しずつストレスを溜め、あの噂のせいで解放されてしまった歪な想い。
ここまでの結果を期待していたわけじゃなかった。
少しだけ波風を立て、紗凪があの部屋から出ることを願っただけで、取り戻したいわけではなくて、引き剥がしたかっただけだった。
紗羅が誰かに相談していれば、誰かが紗凪を嗜めるかもしれないと淡い期待を抱いての行動。
ふたりを離れさせるための小細工。
だけど、何度も何度も写真を送ったのに紗凪があの部屋を出ることはなかった。
諦めきれずに送り続けた写真は、ジワジワを紗羅を蝕んでいったのだろう。
「写真って、誰が撮ったのかな」
写真のことを考えていた時に紗凪の口から【写真】という言葉が出たことに驚いたけれど、それが伝わってしまわないように平静を装う。
「お姉さんに恨みを持つ人とか」
実際は紗羅を恨んでなんかないし感謝してるくらいだったけれど、取って付けたようにもっともらしいことを言ってみる。
「でも、姉さんに恨みを持ってるならもっと直接的な何かがあるんじゃない?」
「じゃあ、あの人のことが好きな人とか」
「だったら直接ボクに嫌がらせすればいいと思うけど。
それに、姉さんと別れてから誰とも付き合ってなかったわけじゃないはずなのに、」
「長続きしなかったとか?」
「でも、」
「そんなに気にすることないんじゃないの。
紗凪に直接何かあったわけじゃないし」
予想していなかった紗凪の追求にもっともらしい言葉を返しながらも、その真意がわからず動揺を隠すように言葉を重ねる。
「直接何かあったわけじゃないって言っても知らない誰かにずっと見られてたなんて、気持ち悪いし。
だって何枚もあったってことはひと月に一枚だったとしても何ヶ月も撮られてたってことだよ?
それが何ヶ月かに一枚だったら1年以上でしょ」
下手なことを言わないようにその気持ちを慮るような、寄り添うようなふりをしながらも、不安を感じて縋る紗凪に歓喜してしまう。
もしも写真を送っていたのがオレではない誰かだったとしたら、そんな感情を紗凪に与えたその誰かを許すことはできなかっただろう。
紗凪を喜ばせることができるのも、紗凪を悲しませることができるのも、紗凪を怯えさせることができるのも、紗凪を安心させることができるのも、紗凪の感情を良い意味でも悪い意味でも乱すことができるのはオレだけでいい。
「ふたりで出かけるのだって、日にちとか、曜日とか決まってたわけじゃないからずっと見張られてたかもしれないんだよ?
いつからなのか、
何でなのか、
貴哉が見張られてたのか、
ボクが見張られてたのか、
誰が、何のために、
今だって見張られてるかもしれないし、ここがバレてまた実家に写真とか送られたらどうすればいいの?」
もしもオレのしたことがバレたら、それでも紗凪はこんなふうにオレに縋ってくれるだろうか。
そんなことを考え、紗凪が離れていくことを想像してしまい怖くなる。
もしもオレのしたことに気付き、オレから離れることを選んだら。その時は今度こそ閉じ込めることを選ぶしかない。
外との連絡手段を断ち、この部屋から出られないように閉じ込めるために拘束することも厭わない。
紗凪の願うことはなんでも叶えたいと思うけれど、オレから離れることを選ぶのなら手を縛り付け、足を縛り付け、物理的にオレがいないと生きていけないようにすることを考えてしまう。
「今度は大気にも迷惑がかかるかもしれない。
会社にも迷惑がかかるかもしれない」
オレの下心に気付かず、オレの心配をする紗凪を安心させようと言葉を重ねる。
「オレは別に何があっても迷惑だなんて思わないし、会社だって直接連絡来れば対応すればいいだけだし、取引先なんて分からないだろうし。
紗凪は心配しすぎだって」
「でも、今だってもしかしたら」
「だから、大丈夫なんだってば。
誰にも見張られてなんかないし、お姉さんのところに写真が送られるようなことだってもう無いし」
安心させたくて言った言葉が裏目に出てしまったことに気付かず、致命的な言葉を言ってしまったことに気付いていなかった。言い方はたくさんあったはずなのに、焦ってしまったのだろう。
オレの言葉の綻びに敏感に気付いた紗凪の追求は続く。
「何で見張られてないし、写真を送ることはないって大輝が言い切れるの?」
「何でって、あの部屋から出たんだから」
「何でボクがあの部屋が出たって、写真を送って人は知ってるの?
それにボクがいないことに気付いたら逆に探すんじゃないの?」
思っていたことが堰を切ったように溢れるのは不安の表れなのか、そんなことを考えずにただただオレに縋ればいいのにと苛立ってしまう。
何も考えずにわかりやすい事実だけに怯え、傷付き、行き場を無くし、オレだけを頼りにすればいいのにと。
「それに、姉さんは貴哉とボクがまだ一緒にいるって勘違いしてるんだから、写真はまだ送られてきてるって考える方が自然なんじゃないの?
写真はまだ送られてるかもしれないし、あの家を出た時も、大輝の家に行った時も見張られてたのかもしれない。
もしかしたらこの部屋だって見張られてるかもしれないし、見張られてなかったとしても、今も探されてるかもしれない」
紗凪の言葉を聞きながら次の言葉を探す。
紗凪を安心させながらもオレから離れたくないと思わせる言葉を探す。
写真はもう送られてこないし、この部屋を見張られてもいない。
だってそれは真実だから。
オレの元に紗凪が戻ってきた今、写真を撮る必要も送る必要も無いし、常に一緒に過ごす紗凪を見張る必要も無い。
貴哉や紗羅、紗凪の家族はこの場所を探そうとするかもしれないけれど、紗凪本人が家族との縁を切りたいと言っているのだから公的な機関が動くことはないだろう。
そのことをどう伝えようか、どう伝えれば紗凪が納得するかを考え、そして気付いてしまう。自分の決定的なミスに。
『だから、大丈夫なんだってば。
誰にも見張られてなんかないし、お姉さんのところに写真が送られるようなことだってもう無いし』
言葉の綻びは些細なことだった。
見張られていないし、写真が紗羅の元に送られることもない。
それを断言してしまえるのはその行動をとっていた自分だけなのだと今更ながらに気付き、取り繕うための言葉を探すけれど上手く言葉が見つからず、言葉に詰まってしまう。
気付くはずがないと思っていた。
貴哉に対して何かアクションを起こせば自分が疑われるかもしれないけれど、その存在は知っていても直接の関わりのないオレが写真を送るだなんて、想像すらしないはずだった。
そもそもこんなことを想像して写真を送ったわけではなかった。
貴哉と共に歩く弟を見て、紗羅か動くことを期待しただけのこと。
例えば貴哉と暮らし始めた紗凪に、姉の立場で『こんな写真が送られてきたけど、何?』とでも連絡があれば早々にあの部屋を出ることになっただろう。
紗凪に連絡をしてこないにしても、何か動きがあれば貴哉と紗凪の関係も変わっていたはずだ。
諦めたはずの相手が諦めなくて良かった相手だと知ってしまった時の絶望。
自分も恋愛対象になったかもしれないのに自分から手放してしまった絶望。
諦めることができず、だからといって今更想いを告げることもできず、遠回しにその関係を壊すための手段を講じることしかできなかった。
紗凪のスケジュールに合わせ、ふたりのクラス部屋を見張り、撮った写真を紗羅に送る。
自分のやっていることのおかしさに気付いていなかったわけじゃない。
送り続けても反応は無いけれど、それでも止めることはできなかったのはその変化から目が離せなかったからというのもある。
付き合っていることに対して戸惑っていた紗凪の表情の変化を目の当たりにして、自分の愚かさを呪う。
自分がこんなふうに思うのだから、紗凪の表情の変化に紗羅が何も感じないことはないはずだ。自分の元婚約者と弟のことなのだから、その表情で、その距離感で【何】が起こっているのかを理解するだろう。
だから送った。
ふたりの中を引き裂くために。
だから見張った。
その関係を引き裂くためにはどんな妨害よりも紗羅の、家族の存在が効果的だと思ったから。
取り繕う言葉を探し、どんな言葉も説得力がないとその言葉を飲み込む。
どんな言葉を告げるべきか。
どんな言葉なら納得させることができるのか。
「ねえ、写真を送ったのって、大輝なの?」
取り繕う言葉を探していた時に告げられたその言葉に緊張が走る。
逃したくない。
抱きしめる腕に自然と力が増す。
逃げられないように、逃がさないように。
早くなる鼓動に紗凪はきっと気付いているだろう。
だから、逃げられないように強く抱きしめることしかできなかった。
振動し続けるスマホは貴哉に対する執着なのか、自分に従わない紗凪に対する怒りなのかは分からないけれど、紗羅の執念深さを感じる。
だけど、紗凪に対するオレの執着だってきっと負けてない。
「紗凪が出ると思ってるのかな」
自分の想いを成就させるために人の力を使うのは悪くないけれど、選ぶ相手を間違えたのだと紗羅はいつ気付くのだろう。
そして、自分こそが利用されたのだといつ気付くのだろう。
「自分たちが突き放したのに、それなのに今更縋るとか、あの人もそうだけど、紗凪には何しても大丈夫だって、思いすぎなんじゃない?」
自分が下に見ていた相手が誰かの大切な相手だったなんて、そんなことは考えもしないだろう。
自分を虐げていた相手のせいで自分が窮地に追い込まれることになるなんて、そんなことに気付きもしないだろう。
傷付いた紗凪を癒す様に、言葉の合間合間で唇を落とし続ける。
「大丈夫って?」
オレの言葉に訝しげな顔を見せる紗凪に、言い聞かせる様に言葉を重ねていく。
「紗凪なら何言っても大丈夫って。
紗凪なら何やっても大丈夫って。
だから紗凪があの人と付き合ってたって知ってたのに、奪うために連絡してくるんだよ。
お腹の子のことを言えば紗凪が逆らわないって思ってたんじゃない?」
「やっぱりそうなのかな、」
「お母さんだって、紗凪の口から聞きたかったなんて言ってたけど、そんなふうには思えなかったよな。
オレには、紗凪に認めさせるために問いつめているようにしか思えなかった」
紗羅の思いはきっと想像通りだろう。
自分から貴哉を捨てたくせに紗凪が貴哉を奪ったのだと脳内変換し、逆恨みし、奪い返そうとしただけ。
紗羅が貴哉のことを欲しいと言えば紗凪が諦めると、紗凪に諦めさせることができると思っていたのだろう。
貴哉を呼び出すでもなく、紗凪を呼び出すでもなく、直接部屋に行ってふたりの前で妊娠を告げて紗凪を追い出すつもりだったのがしれない。
選ばれた自分をみせつけ、選ばれなかったことを自覚させる。
何でそこまで紗凪を憎むのか理解できないけれど、紗羅にとって紗凪は【弟】ではなくて憎しみの対象でしかなかったのだろう。
母はもしかしたら紗凪の口から貴哉との関係を聞き、理解しようとしたのかもしれない。紗凪の気持ちを聞き出し、紗羅との仲を取り持とうとしたのかもしれない。だけど、結局は紗羅に寄り添う言葉を繰り返したせいで紗凪が諦めてしまった。
母が紗羅と紗凪の関係を理解していればこんなことにならなかったのかもしれない。だけど、他の兄弟姉妹と比べて関係性が浅いことにすら気付いていなかったのだろう。
関係性の薄い姉弟を理解しないままその仲を取り持とうとしてもうまく行くわけがない。
紗凪と紗羅の関係も、紗凪と母の関係も、紗羅と母の関係も少しずつ歪だったのだろう。
だから、オレの送った写真が効果的だったのだろうと目の当たりにした家族関係に照らし合わせてほくそ笑む。
もしも【家族】の関係がうまくいっていれば『こんな写真が送られてきたんだけど、なんでだと思う』と相談することもできただろう。
母に相談できず、夫に相談できず、紗凪を問いただすこともできずに少しずつストレスを溜め、あの噂のせいで解放されてしまった歪な想い。
ここまでの結果を期待していたわけじゃなかった。
少しだけ波風を立て、紗凪があの部屋から出ることを願っただけで、取り戻したいわけではなくて、引き剥がしたかっただけだった。
紗羅が誰かに相談していれば、誰かが紗凪を嗜めるかもしれないと淡い期待を抱いての行動。
ふたりを離れさせるための小細工。
だけど、何度も何度も写真を送ったのに紗凪があの部屋を出ることはなかった。
諦めきれずに送り続けた写真は、ジワジワを紗羅を蝕んでいったのだろう。
「写真って、誰が撮ったのかな」
写真のことを考えていた時に紗凪の口から【写真】という言葉が出たことに驚いたけれど、それが伝わってしまわないように平静を装う。
「お姉さんに恨みを持つ人とか」
実際は紗羅を恨んでなんかないし感謝してるくらいだったけれど、取って付けたようにもっともらしいことを言ってみる。
「でも、姉さんに恨みを持ってるならもっと直接的な何かがあるんじゃない?」
「じゃあ、あの人のことが好きな人とか」
「だったら直接ボクに嫌がらせすればいいと思うけど。
それに、姉さんと別れてから誰とも付き合ってなかったわけじゃないはずなのに、」
「長続きしなかったとか?」
「でも、」
「そんなに気にすることないんじゃないの。
紗凪に直接何かあったわけじゃないし」
予想していなかった紗凪の追求にもっともらしい言葉を返しながらも、その真意がわからず動揺を隠すように言葉を重ねる。
「直接何かあったわけじゃないって言っても知らない誰かにずっと見られてたなんて、気持ち悪いし。
だって何枚もあったってことはひと月に一枚だったとしても何ヶ月も撮られてたってことだよ?
それが何ヶ月かに一枚だったら1年以上でしょ」
下手なことを言わないようにその気持ちを慮るような、寄り添うようなふりをしながらも、不安を感じて縋る紗凪に歓喜してしまう。
もしも写真を送っていたのがオレではない誰かだったとしたら、そんな感情を紗凪に与えたその誰かを許すことはできなかっただろう。
紗凪を喜ばせることができるのも、紗凪を悲しませることができるのも、紗凪を怯えさせることができるのも、紗凪を安心させることができるのも、紗凪の感情を良い意味でも悪い意味でも乱すことができるのはオレだけでいい。
「ふたりで出かけるのだって、日にちとか、曜日とか決まってたわけじゃないからずっと見張られてたかもしれないんだよ?
いつからなのか、
何でなのか、
貴哉が見張られてたのか、
ボクが見張られてたのか、
誰が、何のために、
今だって見張られてるかもしれないし、ここがバレてまた実家に写真とか送られたらどうすればいいの?」
もしもオレのしたことがバレたら、それでも紗凪はこんなふうにオレに縋ってくれるだろうか。
そんなことを考え、紗凪が離れていくことを想像してしまい怖くなる。
もしもオレのしたことに気付き、オレから離れることを選んだら。その時は今度こそ閉じ込めることを選ぶしかない。
外との連絡手段を断ち、この部屋から出られないように閉じ込めるために拘束することも厭わない。
紗凪の願うことはなんでも叶えたいと思うけれど、オレから離れることを選ぶのなら手を縛り付け、足を縛り付け、物理的にオレがいないと生きていけないようにすることを考えてしまう。
「今度は大気にも迷惑がかかるかもしれない。
会社にも迷惑がかかるかもしれない」
オレの下心に気付かず、オレの心配をする紗凪を安心させようと言葉を重ねる。
「オレは別に何があっても迷惑だなんて思わないし、会社だって直接連絡来れば対応すればいいだけだし、取引先なんて分からないだろうし。
紗凪は心配しすぎだって」
「でも、今だってもしかしたら」
「だから、大丈夫なんだってば。
誰にも見張られてなんかないし、お姉さんのところに写真が送られるようなことだってもう無いし」
安心させたくて言った言葉が裏目に出てしまったことに気付かず、致命的な言葉を言ってしまったことに気付いていなかった。言い方はたくさんあったはずなのに、焦ってしまったのだろう。
オレの言葉の綻びに敏感に気付いた紗凪の追求は続く。
「何で見張られてないし、写真を送ることはないって大輝が言い切れるの?」
「何でって、あの部屋から出たんだから」
「何でボクがあの部屋が出たって、写真を送って人は知ってるの?
それにボクがいないことに気付いたら逆に探すんじゃないの?」
思っていたことが堰を切ったように溢れるのは不安の表れなのか、そんなことを考えずにただただオレに縋ればいいのにと苛立ってしまう。
何も考えずにわかりやすい事実だけに怯え、傷付き、行き場を無くし、オレだけを頼りにすればいいのにと。
「それに、姉さんは貴哉とボクがまだ一緒にいるって勘違いしてるんだから、写真はまだ送られてきてるって考える方が自然なんじゃないの?
写真はまだ送られてるかもしれないし、あの家を出た時も、大輝の家に行った時も見張られてたのかもしれない。
もしかしたらこの部屋だって見張られてるかもしれないし、見張られてなかったとしても、今も探されてるかもしれない」
紗凪の言葉を聞きながら次の言葉を探す。
紗凪を安心させながらもオレから離れたくないと思わせる言葉を探す。
写真はもう送られてこないし、この部屋を見張られてもいない。
だってそれは真実だから。
オレの元に紗凪が戻ってきた今、写真を撮る必要も送る必要も無いし、常に一緒に過ごす紗凪を見張る必要も無い。
貴哉や紗羅、紗凪の家族はこの場所を探そうとするかもしれないけれど、紗凪本人が家族との縁を切りたいと言っているのだから公的な機関が動くことはないだろう。
そのことをどう伝えようか、どう伝えれば紗凪が納得するかを考え、そして気付いてしまう。自分の決定的なミスに。
『だから、大丈夫なんだってば。
誰にも見張られてなんかないし、お姉さんのところに写真が送られるようなことだってもう無いし』
言葉の綻びは些細なことだった。
見張られていないし、写真が紗羅の元に送られることもない。
それを断言してしまえるのはその行動をとっていた自分だけなのだと今更ながらに気付き、取り繕うための言葉を探すけれど上手く言葉が見つからず、言葉に詰まってしまう。
気付くはずがないと思っていた。
貴哉に対して何かアクションを起こせば自分が疑われるかもしれないけれど、その存在は知っていても直接の関わりのないオレが写真を送るだなんて、想像すらしないはずだった。
そもそもこんなことを想像して写真を送ったわけではなかった。
貴哉と共に歩く弟を見て、紗羅か動くことを期待しただけのこと。
例えば貴哉と暮らし始めた紗凪に、姉の立場で『こんな写真が送られてきたけど、何?』とでも連絡があれば早々にあの部屋を出ることになっただろう。
紗凪に連絡をしてこないにしても、何か動きがあれば貴哉と紗凪の関係も変わっていたはずだ。
諦めたはずの相手が諦めなくて良かった相手だと知ってしまった時の絶望。
自分も恋愛対象になったかもしれないのに自分から手放してしまった絶望。
諦めることができず、だからといって今更想いを告げることもできず、遠回しにその関係を壊すための手段を講じることしかできなかった。
紗凪のスケジュールに合わせ、ふたりのクラス部屋を見張り、撮った写真を紗羅に送る。
自分のやっていることのおかしさに気付いていなかったわけじゃない。
送り続けても反応は無いけれど、それでも止めることはできなかったのはその変化から目が離せなかったからというのもある。
付き合っていることに対して戸惑っていた紗凪の表情の変化を目の当たりにして、自分の愚かさを呪う。
自分がこんなふうに思うのだから、紗凪の表情の変化に紗羅が何も感じないことはないはずだ。自分の元婚約者と弟のことなのだから、その表情で、その距離感で【何】が起こっているのかを理解するだろう。
だから送った。
ふたりの中を引き裂くために。
だから見張った。
その関係を引き裂くためにはどんな妨害よりも紗羅の、家族の存在が効果的だと思ったから。
取り繕う言葉を探し、どんな言葉も説得力がないとその言葉を飲み込む。
どんな言葉を告げるべきか。
どんな言葉なら納得させることができるのか。
「ねえ、写真を送ったのって、大輝なの?」
取り繕う言葉を探していた時に告げられたその言葉に緊張が走る。
逃したくない。
抱きしめる腕に自然と力が増す。
逃げられないように、逃がさないように。
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